育児期テレワークのニーズはどのくらいか

公開日 2023/11/27

執筆者:シンクタンク本部 研究員 今井 昭仁

テレワークコラムイメージ画像

パーソル総合研究所は、2023年7月に全国の20歳から59歳の就業者、約3万人を対象とする「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」を実施した。その結果、テレワークの実施率は低下傾向にあるものの、それでもなお20%超であることが示された。職種や業種による差はあるが、「仕事は会社に行ってするもの」との認識はかつてほど強くなくなり、自宅やカフェ、コワーキングスペース、さらには旅先からのテレワークが定着しつつある。

こうした背景とともに、育児期の働き方としてもテレワークが注目されている。そこで本コラムでは、まず厚生労働省が公表した報告書の内容を簡単に整理した上で、育児中の就業者のテレワークについて考えてみたい。

  1. 3歳未満の子を持つ就業者のテレワークが努力義務へ
  2. 3歳未満の子と同居する就業者とテレワークニーズ
  3. 3歳未満の子と同居する就業者のテレワークニーズは高いか
  4. 子育て支援施策のターゲットは女性のみなのか
  5. まとめ

3歳未満の子を持つ就業者のテレワークが努力義務へ

子育て支援において各種政策や個社単位での施策などさまざまな取り組みがなされてきたが、これまでの支援策には次のような問題が生じていた。まず、時短勤務によって育児との両立を目指していた就業者は、その後フルタイムに戻りにくいことがある。また、男性の育児休業取得率が高まり、その取得期間が長期化するに伴い、育児休業後の両立支援策へのニーズも高まっていることがある。端的に表現するならば、共働き家庭に対応した子育て支援策がより強く求められるようになってきている。

こうした問題を背景に、厚生労働省は2023年6月、「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」を公表した[注1]。その中で同報告書は3歳になるまでの子を持つ就業者が仕事と育児を両立するための支援策を検討している。そして最終的に同報告書は、仕事と育児の両立支援策としてテレワークを企業の努力義務とするよう提言している。同報告書の提言に基づいた関連法令の改正は、2024年中とみられている[注2]

3歳未満の子と同居する就業者とテレワークニーズ

上記のように、同報告書はテレワークを支援策として位置付ける基準を3歳未満としている。それでは、現在、3歳未満の子と同居している就業者はどのくらいいるのだろうか。今回のテレワーク調査の回答者30,914人から、確認してみよう。回答結果を見てみると、3歳未満の子と同居している就業者は1,719人で、これは5.6%にあたる。

この5.6%はあくまでも3歳未満の子と同居している就業者の割合であって、そのすべてがテレワークを行いたいと考えているわけではない。育児期のテレワークについて考える上では、こうした3歳未満の子と同居している就業者のうち、どのくらいがテレワークを希望しているのかが重要である。

そこで、テレワークを希望する就業者を探ってみよう。今回の調査では、3歳未満の子と同居している就業者のうち、「テレワークしたいと思っているが、できていない」と回答した者の割合は36.6%だった(図1)。およそ3人に1人が希望しているものの、テレワークできない状況にあることが分かる。この数値は「テレワークしたいと思っているし、できている」の23.4%よりも高い。もちろん、すべての業務がテレワークに切り替え可能なわけではないが、テレワークに対する大きなニーズがあると考えてよいだろう。

図1:3歳未満の子と同居している就業者のテレワーク希望・実施状況

図1:3歳未満の子と同居している就業者のテレワーク希望・実施状況

出所:パーソル総合研究所作成

3歳未満の子と同居する就業者のテレワークニーズは高いか

上記の報告書[注1]は、3歳未満の子と同居する就業者に焦点をあて、その支援策として短時間勤務制度とあわせてテレワークが挙げている。ここで疑問となるのが、テレワークニーズがあるのは3歳未満の子と同居する就業者に特有なことかという点である。

この点を考えるために、図2に目を移してみよう。図2は、テレワークを希望しながらできていない就業者を、同居の子の年齢層別に整理したものだ。これを見てみると、36.6%を記録した「3歳未満」の子と同居する就業者のテレワークニーズが、最も高くなっていることが分かる。次に「3歳以上6歳未満」が31.8%、「小中学生」が27.4%と続き、同居する子の成長に伴って、テレワークニーズは徐々に低下していることが理解できる。

図2:同居する子の年齢層別テレワークニーズ

図2:同居する子の年齢層別テレワークニーズ

出所:パーソル総合研究所作成


このように、確かに3歳未満の子と同居する就業者のテレワークニーズは高いことが理解できる。このことが、政策的な提言につながっていることは想像に難くない。その一方で、同居の子が「3歳以上6歳未満」や「小中学生」となっても、依然4人に1人以上の就業者はテレワークを希望しながらもできていないことにも留意する必要がある。実際、コラム「“小1以降の壁”を企業はどう考えるべきか?」でも取り上げたように、子が3歳となった後も、小学校の入学や学童保育の受け入れなどに伴い「小1の壁」や「小4の壁」に直面することが知られている。そのため、政策的には3歳未満の子と同居する就業者が対象としても、実務的にはもう少し視点を広げて、人事制度を構築することが望ましいと考えられる。こうした切れ目のない支援は、育休後や就学前後など子の学齢に伴う退職率の改善にも寄与すると考えられる。

子育て支援施策のターゲットは女性のみなのか

こうした育児期の就業者を念頭に置いた人事施策を考える際、しばしば争点となるのがターゲットは女性か、という点である。そこで次に、図2を男女別で整理し直した図3を見てみよう。これを見ると、確かに女性のテレワークニーズは、男性と比べて全般に高いことが分かる。例えば、同居の子が「3歳未満」では、女性で43.7%、男性で29.6%がテレワークを希望しながらも、実際にはできていない。この女性のニーズが男性を上回る傾向は、「3歳以上6歳未満」や「小中学生」などでも同様である。

図3:同居する子の年齢層別テレワークニーズ(男女別)

図3:同居する子の年齢層別テレワークニーズ(男女別)

出所:パーソル総合研究所作成


しかし、この女性就業者のほうが男性就業者よりも高いニーズを記録しているという結果を基に、テレワーク施策のターゲットとして女性を据えることは、少々早計かもしれない。というのも、女性が育児を主に担い、それにあわせた働き方をしている現状が、女性のテレワークニーズを高め、この結果を導いている可能性があるからだ。この推論が正しいとするならば、男性による育児が広がるほどに、男性就業者のテレワークニーズも今後高まっていくと考えられる。このニーズは、男性の育児休業取得が推し進められている現在、想像以上に早く高まっていく可能性がある。この点を念頭に置くと、テレワーク制度を検討する際に、育児期の女性をターゲットにするのでは不十分となり得る。

つまり、男性従業員と比べて、女性従業員が育児期のテレワークにより強いニーズをもっていることに着目して制度設計を行うと、育児期の責任や負担を女性のものとする価値観を強化しかねない。それは、男性の育児休業取得を推進する昨今の動向や、より広くはDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の考え方と相反しかねない。こうしたことを避けようと考えるならば、制度設計の際には、現在のニーズがどのような価値観から形成されているのか、そしてそれを所与とすることによって生じる問題はないかといった点まで考慮する必要があるのではないだろうか。

まとめ

本コラムでは、まず育児期のテレワークについての政策的な動向を確認した上で、「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」のデータをもとに育児期のテレワークニーズについて考えてきた。その結果として、まず3歳未満の子と同居する就業者のテレワークニーズは最も高いが、子が3歳となってからも一定のニーズが確認できた。また、男性にもテレワークを希望しながら、実際にはできていない就業者が一定割合で存在していること、そしてそのニーズは今後さらに高まる可能性があることに注意が必要だ。

2024年中に見込まれる関連法令の改正によって、3歳未満の子と同居する就業者のテレワークは努力義務となるだろう。これを契機にテレワーク制度を見直す企業もあるのではないだろうか。その際に求められることは、現時点でのテレワークニーズだけでなく、広い視点から、一歩先を見据えながら制度設計を行うことだ。


[注1]厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」(https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/001108929.pdf)(2023年10月16日アクセス)

[注2]日経新聞「子供3歳まで在宅勤務、企業の努力義務に 厚労省」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA050250V00C23A4000000/)(2023年10月16日アクセス)

執筆者紹介

今井 昭仁

シンクタンク本部
研究員

今井 昭仁

Akihito Imai

London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。


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