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コラム

2019.04.12

介護職が長く働き続けられる職場をつくるために ~中途入社者の定着を促す上で効果的な採用・受け入れのあり方~

リテンション 介護 人材 採用

以前のコラム(「介護職の離職とキャリア」)で、介護職離職者のうち約3割が入社1年未満、約6割が入社3年未満で離職している実態についてお伝えしました。それでは、介護職として働く人が長く働き続ける場を提供するためにどのような施策が求められているのでしょうか。

これまで人の育成やキャリアを専門に扱う人材マネジメントの研究領域では、入社後に生じる離職や定着の問題は、主に入社「以降」の何らかの要因によって引き起こされるものと考えられてきました。しかし、入社1年足らずで会社を去る早期離職のようなケースでは、入社以降の問題だけでなく入社以前の採用段階からミスマッチにつながる要因が考えられます。そこで、今回のコラムでは入社経緯(新卒・中途など)や入社理由など主に「入社以前」の採用問題を扱い、採用と定着の関連について考えてみたいと思います。

  1. 人手不足解消に向けた鍵は「中途入社者の定着」
  2. 新規オープン募集が「中途入社者の定着」に効果的
  3. 業界未経験の中途入社者にサポーティブな環境を
  4. まとめ

人手不足解消に向けた鍵は「中途入社者の定着」

まず、入社経緯と長期就業との関連についてです。図1からもわかるように、新卒入社者の長期就業率(5年以上在籍者の割合)は30%であるのに対して、中途入社者の長期就業率は約2割程度であることが明らかになりました。さらに中途入社者の内訳別に長期就業率を見てみると、社会人経験なしが18%、他業界出身者(業界未経験)が19%、業界経験者が20%とほとんど差がないことが読み取れます。社会人としての経験や介護業界で働いた経験が入社時のリアリティショックを抑制し、長期就業に対してプラスの効果をもたらすのではないかという予想に反し、新卒の定着率の方が高いという興味深い結果となりました。

介護職の約9割が中途入社者によって支えられている現状を考えると、中途入社者の長期就業率をいかに高めていけるかが業界全体の定着率向上に向けた大きな課題と言えるでしょう。


グラフ_入社経緯別に見た入社の割合と定着率

図1:入社経緯別に見た入社の割合と定着率

新規オープン募集が「中途入社者の定着」に効果的

それでは、長期就業者と早期離職者の間には一体どのような違いがあるのでしょうか。まず入社理由について見てみましょう。図2は、長期就業者(在籍5年以上)と早期離職者(在籍1年未満)の入社理由を比較し、特に長期就業者に特徴的な(「長期就業者があてはまると回答した割合」が「早期離職者があてはまると回答した割合」より高い)項目上位3つを抜粋して示したグラフです。

図2によれば、新卒入社の場合、「友人・知人の推薦」「正社員募集」「見学時の印象」が上位を占めています。特に、「友人・知人の推薦」と「正社員募集」は、中途入社(業界未経験)においても長期就業者に多く見られる項目であることから、新卒・中途という入社経緯によらず、入社後の定着に関連がある入社動機であると考えられます。一方、「見学時の印象」は新卒入社においてのみ上位に挙がる項目です。就業経験のない新卒学生にとって働く環境をイメージできる数少ない機会が施設見学です。施設見学時に受けた第一印象は、入社を決める理由だけでなく、その後の定着にも影響を与えうる重要な要因であることが読みとれます。

また、業界経験のある中途入社者の中でも長期就業者に特徴的な入社理由が「新規オープン施設・事務所の募集」であったことも興味深い結果です。既に出来上がった人間関係の輪に入ることよりも、新規オープンされる職場でゼロから人間関係を構築することの方が人間関係に対するストレスが少なく、職場に適応しやすい環境にあると考えられます。

グラフ_長期就業者に多くみられる入社理由
図2:長期就業者に多くみられる入社理由


それでは、早期離職者に特徴的な入社理由とはどのようなものでしょうか。早期離職者に特徴的な(「早期離職者があてはまると回答した割合」が「長期就業者があてはまると回答した割合」より高い)項目上位3つを抜粋して示したのが図3です。

まず、早期離職者の入社理由に共通してみられた全体傾向として、「職場がきれいそうだった」「自分の介護技術・スキルが活かせそうだった」「頑張った分だけ昇給や昇格ができそうだった」など「〜そうだった」「〜そうな会社だった」という推定の内容が多いことが挙げられます。長期就業者が入社理由として「正社員募集」「職場が近い」「新規オープン」など客観的な事実を挙げていること(図2参照)と比較すると、その傾向は顕著です。

また、新卒入社で早期離職した人の場合、「自分の生活時間に合わせて働けそうだった」の回答が長期就業者と早期離職者の間に21ポイントという大きなギャップがあります。つまり、働き方の実態を正しく把握できていない人ほど、事前のイメージと入社後の現実のギャップにジレンマを抱え、早期離職する傾向にあることが想定できます。「自分に合った働き方ができるか」を重視して就職活動を行う新卒学生の割合は近年、増加傾向にあります。企業説明会や面接・施設見学などの際に、採用企業側としても働き方の実態を正しく伝える努力を怠らないことが必要と言えるでしょう。

また、業界未経験で中途入社する人の場合、見学した際の印象が良いことや就職しやすい会社という単純で直感的な入社動機が早期離職に繋がりやすいことが示唆されます。「〜そうな会社(仕事)」という主観的で曖昧なイメージではなく、客観的な事実に基づいた情報を手掛かりに転職を意思決定することが長期就業する上で重要です。また、採用する側は、どのような入社動機を持って応募しているのかを面接時に丁寧にヒアリングするとともに、できるだけ客観的で、事実に基づく情報を提供する必要があると言えるでしょう。

さらに、業界経験のある中途入社の場合、両者のギャップは相対的に小さく、入社理由が定着に及ぼす影響は限定的と考えられます。ただ、他にはない特徴として「頑張った分だけ昇給や昇格ができそうだった」という項目が上位に上がっていることから、特に業界経験者に対しては、どのような基準で人事評価や報酬査定が行われるのかについて採用時に明示することが有効と言えるでしょう。



グラフ_早期離職者に多くみられる入社理由

図3:早期離職者に多くみられる入社理由

業界未経験の中途入社者にサポーティブな環境を

先にご紹介した図3で、早期離職した業界経験者の入社理由についてもう一つ特徴的な点があります。それが「働いている人たちの雰囲気がよさそうだった」という項目です。実際に入社するとよくなかったために離職をするのか、それともそれ以外の要因が強く影響して離職をするのか、この結果だけで判断することはできません。しかし、以前のコラム(介護職の成長とキャリアをサポートする「職場の人間関係」)でお伝えしたように、職場の人間関係が早期離職に与える影響は決して少なくありません。

そこで、ここからは入社経緯によって人間関係による早期離職の具体的な内容がどのように異なるのかを詳しく見てみましょう。図4は、人間関係に関する離職理由を入社経緯別に比較したグラフです。以前のコラムでお伝えしたように、「態度が高圧的なベテランスタッフ」の影響は入社経緯に関係なく離職の大きな原因になっていることがわかります。業界未経験で入社する早期離職者の場合、「困った時の相談相手不在」「職場内でのいじめ・嫌がらせ」を理由に離職している傾向が見てとれます。実際、社会人経験があるというだけで"一人前扱い"されてしまい、必要な教育的支援やサポートを十分に得られないまま、介護の現場に立たされるケースも少なくないようです。

一方、業界経験者が挙げる早期離職の理由として特徴的なのは、「直属上司の高圧的な態度」であることが分かりました。介護職員へのヒアリングでは「これまでの施設や事業所と仕事の進め方や介護に対する考え方が違い、コミュニケーションがうまくいかない」という業界経験者ならではの悩みをよく耳にします。また受け入れ側からは「新人は教えやすいが、経験者には逆に教えにくい」などの声もヒアリングで挙がっており、指導する側の遠慮からくるミスコミュニケーションが転職したばかりの業界経験者にとって高圧的な態度として受け止められている可能性も否定できません。指導する側にしてみれば「遠慮」の気持ちからくるミスコミュニケーションが、転職したばかりの業界経験者には「言葉が足りない」と感じられ、「相談しにくい」「自分は放置されている」という気持ちから、「高圧的」と受け取られてしまうことが往々にしてあるようです。図2で見たように、オープニングメンバーとして入社する場合には、そのような職場独自の慣習やルールがまだ定まっていない状況にあるので、長期就業しやすい環境にあるとも言えます。

中途入社者に対してはどうしても「一人前」「即戦力」という見方で関わってしまうものですが、業界未経験の中途入社者に対しては新卒と同様に丁寧なサポートを心がける必要があるでしょう。また、業界経験者の場合にも、性急に現場へ送り出すのではなく、これまでの介護経験を通じて身についた仕事の進め方やケアに対する考え方を振り返る機会を持ち、転職先の環境でもそのまま活かせることは何か、また新たに学び直す必要があることは何かについて、個人と企業の双方で確認し合うことから始める必要があるかもしれません。

グラフ_入社経緯と人間関係による早期離職理由の詳細
図4:入社経緯と人間関係による早期離職理由の詳細

まとめ

今回のコラムでは入社経緯(新卒・中途など)や入社理由など主に「入社以前」の問題を扱い、それらが早期離職や長期就業にどのような影響を与えうるのかについて考えてきました。

介護現場の多くは中途入社者によって支えられています。深刻な人手不足に悩まされている職場にとって「中途入社者」は頼みの綱であることは言うまでもありません。面接もほどほどに、一刻も早く介護現場に立ってほしいというのが受け入れ側の本音かもしれません。ただし、今回のコラムで最もお伝えしたいことは、そのような「性急さがもたらすリスク」についてです。

今回お伝えした「単純で直感的な入社動機は早期離職に繋がりやすいので慎重に」、「業界未経験者の受け入れには教育サポートの強化を」、「業界経験者の受け入れにはまず仕事の進め方や介護の考え方のアンラーン(学び直し)を」などは、スピーディかつ効率的な採用・現場受け入れを志向する企業にとっては少々まどろっこしい話に聞こえるかもしれません。しかし、「急がば回れ」であることはデータが示しています。入社後のミスマッチを未然に防ぐために入社動機を丁寧にヒアリングすること、また中途入社者についても新卒同様に手厚いサポート体制で迎え入れることなど、一見遠回りで手間のかかる打ち手を地道に徹底し続けることが、中途入社者の早期離職を防ぎ、長期にわたって活躍し続ける職場環境をつくる上で有効なのではないでしょうか。

執筆者紹介

田中 聡

株式会社パーソル総合研究所 フェロー

田中 聡

Satoshi Tanaka

2006年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。事業部門を経て、2010年にHITO総合研究所(現パーソル総合研究所)の設立に参画。シンクタンク本部主任研究員を経て、2018年より現職。専門は、経営学習論・人的資源開発論。立教大学経営学部 助教。一般社団法人経営学習研究所 理事。

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