「他者」との交流を通じて介護職の成長をサポートする
~「日常」そして「非日常」における交流の創出方法とは~

公開日 2019/07/09

「他者」との交流を通じて介護職の成長をサポートする

これまで介護職の成長とキャリアについて論じてくるなかで、介護職の成長には、職場内外の「他者」の存在が重要であることが示唆されてきました。

介護職にとっての職場内における「他者」は、同僚の介護職や看護師などの他職種、そして上長などがそれに当たるでしょう。特に上長は、介護職と積極的にコミュニケーションを取り、相談する機会や日ごろの仕事に対するフィードバックの機会を設けることで、成長実感を持たせる役割を担っていると考えられます。

一方で、介護職が職場外の「他者」と接し、異なる視点からのフィードバックや賞賛・励ましを得ることも、自己の経験を内省し、更なる成長へつなげるための重要なファクターとなります。介護事業者には、介護職が職場外の「他者」と出会い、交流する機会を得られるようサポートすることが求められていると言えるでしょう。 それでは、介護事業者にとって、介護職にそのような職場外の他者と接する機会を提供するためには、どのような方法があるのでしょうか。

本コラムでは、介護職が「他者」と交流する場面を「日常」と、「非日常」に分けて、それぞれの場面における「他者」との交流にはどのようなものが考えられるか、また、それを実現するためにはどうすれば良いのかについて論じていきます。

  1. 「日常」のなかでの「他者」との交流① 複数ホームの協働を通したホーム見学と短期・長期交換留職
  2. 「日常」のなかでの「他者」との交流② 介護以外の仕事への挑戦
  3. 「日常」のなかでの「他者」との交流③ 地域社会とのつながりづくり
  4. 「非日常」での「他者」との交流① 事例の共有会・発表会の開催
  5. 「非日常」での「他者」との交流② 学会発表
  6. 社内外の「他者」と交流することの効果とは
  7. まとめ

「日常」のなかでの「他者」との交流①
複数ホームの協働を通したホーム見学と短期・長期交換留職

複数の老人ホームを運営している介護事業者に属するホームの場合、職場外で最も交流しやすい「他者」として、同事業者内の他のホームが挙げられます。同じ事業者内であっても、ご入居者が違い、働くスタッフが違えばケア(注1)の内容も違ってくるため、交流することでさまざまな共通点や相違点が見えてくると思われます。すぐに思いつく交流方法として、ホームの介護職がお互いのホームを見学し合うことが挙げられますが、実際には日々のケアのための人員も限られており、他ホームを見学するためだけに時間を取ることが難しいケースもあります。

そこで考えられるのが、複数ホームが合同でプロジェクトやイベントを運営し、そのなかにホーム見学を組み込む方法です。例えば、「事故防止のためのマニュアル作りと研修実施」「合同の夏祭りを開催」といった目標を立てて、各参加ホームから実行委員を募ります。実行委員の 定期的な打ち合わせの会場を毎回別のホームにし、そのホームの見学会も併せて実施します。こうすることで、最小限の時間で他のホームを見学することが可能になります。実行委員になった介護職は、他ホームの介護職と一緒に一つの目標に向かって仕事を進めるなかで、情報交換や交流が促進されるだけでなく、普段なかなか訪れることのできない他ホームの様子を知ることもできて、大いに刺激を受けられるでしょう。その経験を元に、自分のホームに帰ってから新たなケアの取り組みを促進することにもつながりそうです。

また、見学をさらに発展させた交流の方法として、「ホーム間の交換留職」が考えられます。これは期間を決めて、ホームAとホームBの介護職を1~数名ずつ交換して働いてもらうことです。他のホームに「留職」する介護職にとっては、見学にとどまらず、実際にケアに携わることで、より自分や自分のホームを俯瞰することができ、自分のホームの「当たり前」は当たり前ではないことや、同じ課題に対しても様々なアプローチ方法があることなどを学ぶことができるでしょう。他ホームの介護職を受け入れたホームにとっても、自分のホームに対する客観的な意見をもらうことはケアを見直す上で有意義でしょうし、「そういう考え方があったのか!」という新たな気づきに繋がる可能性もあります。実際、単発で他のホームのヘルプに行った介護職がこのような発見をするケースも聞かれますので、「短期留職」であっても効果が期待できます。

「日常」のなかでの「他者」との交流② 介護以外の仕事への挑戦

介護職が活躍できるフィールドは、介護の現場に限られません。介護の経験や知識があるからこそ活躍できる仕事も多くありますし、介護職として働きながらそれらの仕事を「兼務」することも可能です。例えば月に1回からでも、リクルーターや面接官として新卒・中途の介護職の採用活動に関わったり、ホームの魅力を外部に伝えるための営業活動に携わったりと、「介護から派生した仕事」に挑戦する機会を作ることが挙げられます。

これらの仕事には介護職としての成長を促す要素も多く含まれているため、視野を広げ、成長するためのチャンスになりえます。具体的には、採用活動であれば、「なぜ自分は介護の仕事をしているのか」「自分が目指す介護とは何か」「介護のやりがい・魅力・専門性とは何か」といったことを改めて考え、応募者に伝える必要があります。また営業であれば、ホームの魅力を入居を検討している方や、関係機関の方に伝えるために、「ホームが目指す介護はどのようなものか」「どんな取り組みをしていて、入居者の方からはどのような反応をいただいているのか」といったことを考えなければなりません。

また、このような仕事を通じて出会う様々な人から受ける質問やフィードバックからも、新たな視座を得たり、学んだりすることが多く、応募者や入居検討中の方にとっても、実際に介護職として働いている人から情報を得られることは、大きなメリットとなります。

「日常」のなかでの「他者」との交流③ 地域社会とのつながりづくり

社会全体で地域包括ケアシステムの構築を目指すなか、介護離職や老老介護などの問題が顕在化し、地域社会と介護サービス事業者との日ごろからのつながり作りの重要性がよりいっそう増しています。また近年、高齢者も積極的に社会参画し、生きがいを持って日々を送ることの重要性が叫ばれており、それはもちろん、介護サービスを利用する高齢者にも当てはまります。

このような社会的背景もあり、町会などの自治会活動への参加や、認知症カフェの開催、近隣の保育園や学校などとの交流を通じ、多くの介護事業者がご入居者とともに、積極的に地域社会と関わりを持とうとしています。このような活動は、ご入居者がいつまでも地域社会の一員として役割を持って生きることに寄与するだけでなく、そのご入居者をサポートする介護職が「地域社会の一員」として認知される機会にもなりえます。

例えば、自治体の活動や認知症カフェを通じて知り合った住民から、介護に関する様々な質問・相談を受け、それに答えることは、介護職が専門性を活かして地域に貢献していることの表れでしょう。また、小・中・高校生に介護や高齢者に関わる知識を伝えることや、介護職を目指す実習生を受け入れることも、次世代の育成という意味での社会貢献になります。このような活動を通じて介護の仕事について情報を発信し、社会から認められることは、介護職が「自分の専門性が社会の役に立っている」という実感を得ることにつながるだけではなく、「もっと自分を成長させたい」という意欲の向上にも寄与すると考えられます。

ここまで、「日常」の仕事のなかで「他者」と関わる機会にはどのようなものがあるか、どのようにその機会を創出すれば良いかについて述べてきました。次に、「日常」からは離れた「非日常」を設定することで、介護職がスポットライトを浴び、「他者」とのつながりを持つなかで成長していくための方法について論じていきます。

「非日常」での「他者」との交流① 事例の共有会・発表会の開催

事業者内で作ることができる「非日常」の一例として、介護職による、事例の共有会・発表会があります。介護職が日々のケアの取り組みに焦点を当て、「なぜその取り組みを行ったのか(背景・目的)」「どのような方法で行ったのか(方法)」「取り組みを行った結果、どうなったのか(結果)」「取り組みを通じて考えたことは何か(考察)」などについてまとめて、発表を行います。

発表方法は口頭発表も良いですが、より「他者」との交流を促すのであればポスター発表が効果的です。これは、発表内容をまとめた大判の「ポスター」の前に立って説明を行う発表形式であり、発表者と参加者の距離が近いことが最大の特徴です。ポスターだけでなく、必要に応じて、取り組みで実際に使用した記録様式などのツールや、取り組み中のご入居者のご様子を写したアルバムを持参して参加者に回覧するなど、少人数だからこそできる工夫をこらして発表することができます。参加者にとっては具体的な質問がしやすく、より議論を深めやすい、というメリットがあります。

複数のホームを運営している介護事業者であれば、各ホームから「発表者」を募り、社内外から発表を聞く「参加者」を集めて開催すると良いでしょう。運営しているのが1ホームのみという事業者は、ホーム内で事例発表会を行い、フロアやユニットごとに発表することもできます。

より多くの介護職とのつながりを持ちたいということであれば、同業他社との合同事例発表会を開催したり、全国介護付きホーム協会などの業界団体が主催する事例発表会に参加したりすることもできるでしょう。エントリー時に審査があるケースもあり、発信スキルのレベルアップにもつながります。事業者は違えど、同じように「介護」という分野で奮闘している他社の介護職の前で発表したり、ケアの取り組みについての発表を聞くことは、新たな発見につながるはずです。

「非日常」での「他者」との交流② 学会発表

また、更に大きな「非日常」として、介護関連の学会が挙げられます。日本認知症ケア学会などには、文字通り全国から介護や医療の関係者が集まります。学会で発表する際の抄録作成や発表準備は、なじみのない学術的なルールに則る大変さもありますが、自分のホームでの取り組みを自分の言葉で、全国の介護関係者に向けて発信し、専門的なフィードバックを受けられること、また、全国の介護事業者の取り組みを勉強できることは、必ず介護職としての視野の広がりや成長につながるはずです。実際に発表した介護職からは、「来場者から『この発表を聞きに来ました』と言われたことが心に響いた。今後もっとレベルアップしたい。」「たくさん質問が来て、自分達の取り組みが他事業者からも注目されていることがわかった。次は他の介護職にも発表を経験してもらいたい。」といった声が寄せられています。

介護職にとって、日々のケアにおける主役は「ご入居者」であり、自身が注目を浴びることはなかなかありません。また、改めて自分の経験を振り返る時間を取ることも難しく、経験からの学びや気づき、ノウハウなどが、忙しい日常に埋もれてしまいがちです。マネジメント側が、戦略的にこのような「非日常」を設定し、介護職が自分の経験を振り返り、人に伝えることで主役になれる機会を作ることは、介護職の成長やモチベーションの維持・向上にとって非常に大切なことだと思われます。

社内外の「他者」と交流することの効果とは

これまで、社内外の「他者」と交流する機会をどのように作っていけば良いかについて、「日常」と「非日常」に分けて論じてきました。そのような交流が介護職に与えるプラスの影響として、以下の3点が考えられます。

1点目は、「他者」との交流を通じて自分たちが行っているケアを振り返ることで、介護職としての成長が期待できることです。
介護職として「他者」と接する際に、自分のことや介護のことを相手に伝えるためには、普段のケアの経験を内省し、言語化し、「なぜそうしようと考えたのか」「なぜ上手くいったのか、なぜ失敗したのか」を自らに問いかけ、考察し、一般化・概念化する必要があります。加えて、「他者」から質問されたり、コメントやアドバイスをもらったりするなかで、更に取り組みへの「内省」が深まることが考えられます。「他者」からの客観的な意見を自分のホームに持ち帰り、実践へとつなげることで、また新たな経験を得ることになるでしょう。この過程は、まさにデヴィッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」にあてはまっており(図1)、プロセスも含めた「他者」との交流が、介護職の成長を促していると考えられます。

図 1「経験学習モデル」における「「他者」との交流」の経験の位置づけ
出典:中原(2013) p.6(注2)より引用・加筆
<図 1>「経験学習モデル」における「他者」との交流」の経験の位置づけ

2点目は、「他者」との交流を通じて、介護職として成長するために必要な支援を受けることができる、という効果です。 中原(2010)は、職場で受ける支援には「業務支援」「内省支援」「精神支援」の3要素があることを指摘しています(図2)。

図 2職場における「他者」からの3つの支援
出典:中原(2010:70) (注3)より作成
<図 2>職場における「他者」からの3つの支援

特に同じ介護職や、介護に関わる他職種などの「他者」と交流するなかで、ケアに関する情報をやりとりしたり、共通の課題を議論したり、悩みに対してアドバイスし合ったりすることが、「業務支援」「内省支援」につながることは、これまでに述べてきたことからも明白でしょう。

加えて「他者」との関わりは、介護職にとって「精神支援」にもなるはずです。日々、それぞれのホームで懸命にケアに取り組んでいる介護職は、仕事に行き詰まったときや悩んだときも「自分たちで頑張らなければ」「ホーム内で解決しなければ」と抱え込んでしまいがちで、ともすれば孤独感に苛まれてしまうことにもなりかねません。しかし、事例発表会で自分たちと同じ課題をテーマにした発表を聞いたり、ホーム見学で出会った介護職と悩みを共有したりすることで、「悩んでいるのは自分たちだけではなかった」といった安心感や、「このような工夫をすれば、突破口が見つけられるかもしれない」といった希望を得ることができるのではないでしょうか。また、地域に住む「他者」から感謝やねぎらいの言葉をもらうことが自信につながり、次の日から仕事をする上での心の支えになることもあるでしょう。

3点目は、その人にとってのロールモデルに出会える可能性があることです。介護職として働く上で、「こうなりたい」と思えるロールモデルは大切な存在ですが、個々の職場の規模は決して大きくはないため、必ずしも、同じ職場内でロールモデルに出会えるとは限りません。いつも同じ人たちと接していては、視野も狭くなってしまいがちです。しかし、職場外の「他者」と積極的に知り合うことで、「こんなケアができる人がいるんだ」という発見をしたり、「この人のような介護職になりたい」と思える人に出会えたりする可能性は大きく上がります。そしてこのような発見や出会いは、仕事をする上でのモチベーションとなり、成長意欲の向上に繋がるはずです。

まとめにかえて

本コラムでは、介護職が職場外の「他者」とのつながりを持ち、前向きに成長していくための機会を創出する方法とその効果について論じてきました。

パーソル総合研究所の「働く1万人の就業・成長定点調査2018」(注4)では、介護職が「より広い視野で仕事ができるようになったこと」を成長イメージとして捉えていることが明らかになっています。様々な「他者」と関わりを持つことで多くの知識や自分とは異なる視点を得られる機会を作ることは、介護職の成長意欲を満たすことにも寄与できるはずです。

「悩んでいるのは、自分だけではなかった」
「こんな方法があったのか」
「この人みたいになりたい」
「自分は社会の役に立っている」

「他者」との交流を通じてこのような実感を持つことが、「明日はもっと、こうしてみよう」というモチベーションにつながり、介護職の成長をを促していくのではないでしょうか。

また、ケアを行うなかで「上手くいったこと」「失敗してしまったこと」などの経験を、一つのホーム内に留めてしまうのは大変もったいないことです。ひとりとして同じ存在はいない「人」に向き合う介護職こそ、社内外の「他者」とのやりとりを活発に行い、ケアの知見を情報交換し実践につなげていくことで、業界全体でレベルアップしていく必要があります。そしてそのような切磋琢磨を通じてこそ、介護職の「専門性」が確立されていくのだと考えています。

注:
注1)文中に登場する『ケア』は日常的に提供している具体的なサービスとしての『介護』のことを、『介護』は個々の『ケア』の上位概念で、介護業界全体のことなど広い範囲を表すものとします。
注2)中原淳(2013)「経験学習の理論的系譜と研究動向」『日本労働研究雑誌』No.639 pp.4-14
注3)中原淳(2010)『職場学習論 仕事の学びを科学する』東京大学出版会
注4)パーソル総合研究所「働く1万人の就業・成長定点調査2018」

調査概要


株式会社パーソル総合研究所/ベネッセ シニア・介護研究所「介護人材の離職実態調査2017」
調査方法 個人に対するインターネット調査
調査対象者 介護業界の現場職を過去10年以内に離職した20~65歳:1,600名
※離職理由の1位・2位がともに不可避退職(転居・事業閉鎖、出産など)の者は除外
※施設形態(訪問介護・通所介護・有料老人ホーム等)/企業/雇用形態/勤務時間 すべて条件不問
調査日程 2017年12月~2018年1月

※データの引用・転載にあたっては、事前にご連絡をいただく必要はありませんが、必ず以下の【出典記載例】に則って、出典をご明記ください。
【出典記載例】 出典:パーソル総合研究所/ベネッセ シニア・介護研究所「介護人材の離職実態調査 2017」

 

執筆者紹介

林 奈実

介護人材の成長とキャリアに関する研究プロジェクト

林 奈実

2013年(株)ベネッセスタイルケアに新卒入社し、介護職として有料老人ホームに勤務。2016年より株式会社ベネッセスタイルケア ベネッセ シニア・介護研究所 研究員 。介護福祉士。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。


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