公開日 2024/06/13
昨今、現場の従業員から意見や要望、不満などを聴いて経営に生かすことの重要性に注目が集まっている。世界で先駆けてその価値を認識し、指標を築いてきたGallup社のHeather Barrett氏に、関心が高まっている背景や組織戦略への活用について伺った。
Gallup ディレクター Heather Barrett 氏
ジェームズマディソン大学でコミュニケーションの文学士(メディアアート&デザイン・コミュニケーション)を、ジョージタウン大学マクドノー経営大学院で経営学修士(MBA)を取得。複数の企業で人事のリーダーとして人材戦略や組織開発、タレントマネジメントなどに携わった後、アメリカの調査会社Gallupに入社。現在はディレクターとして、クライアントの課題解決や組織変革を支援している。
Gallup社では1969年から、企業が従業員の声に耳を傾け、その声に基づいて行動することがいかに有意義であるかに注目し、世界中の企業を対象に調査を行ってきました。調査からは、従業員の声を聴き、適切な対応をしている企業では従業員のエンゲージメントが向上し、結果としてビジネスの成果や業績が改善され、顧客の満足度も上がることが分かっています。
近年、職場環境が激しく変化している中で、従業員の声に対する関心が高まっている理由は、従業員から優れた洞察やアイデアを得られると期待されているからでしょう。また、収集した膨大なデータをAIで容易に要約するなど、さまざまなツールを活用できるようになったことも関係していると思います。
一方で、実際に従業員調査を実施している企業は多くありません。「年に一度、従業員調査を実施している」と回答した企業は52%にとどまり、「年に一度も実施していない」企業も20%ほどでした。従業員調査の回数を増やすことはもちろんですが、機械的な調査だけでなく対面で深掘りする機会を設け、複数人のチームで聴き取りをするなど、より高いレベルを目指す必要があります。
従業員の声が有効に活用されているかを測る指標のひとつである従業員エンゲージメント(積極的に仕事に取り組んでいる)について、私たちは世界各国を対象に調査していますが、直近の調査結果で、日本のエンゲージメントの割合はわずか5%でした。世界平均の23%を大きく下回っており、4年連続で過去最低を更新しています。女性は男性に比べてさらに意欲が低い傾向にあるようです。また、ストレスに関する調査では、日本の従業員は42%がストレスを抱えていると回答しており、これは他の先進国と同様ではありますが、調査国全体からするとかなり高い数値です。
その一方、雇用市場に関する意識調査では、日本人の転職意向は33%と、世界平均の51%よりも低い結果が出ています。仕事への意欲は低くストレスフルであるにもかかわらず、転職意向は低い│要望や不満などの声を上げず、今の会社でひたすら仕事を続けるのは、日本人の会社への忠誠心の表れでしょうか、それとも職場は稼ぐ場だと割り切っているだけなのでしょうか。「離職意向が低い=仕事の満足度が高い」とは必ずしもいえなくなっている現在、日本人のキャリアに対する考え方や流動性が今後どのように変化していくのかは、非常に興味深いです。
従業員が声を上げないのは日本に限った話ではありません。私たちの調査では、従業員の59%は仕事に対して意欲がない状態(静かな退職)にあることが分かっています。必要最低限の仕事をすればよいという受動的な状態のため、声を上げることはありません。では、自ら声を上げようとしない従業員に対しては、どのように対応すればよいでしょうか。
同じチーム内でも人によってエンゲージメントに差が生じてしまう原因の70%はマネジャーに起因するというデ―タがあります。このことから、従業員と上司の継続的な会話、中でも気軽に話し合えるオープンな場を設けることが鍵であると考えます。互いに本音で対話することで、従業員の意欲や直面している問題、退職につながる要因を明らかにする。それにより、従業員の仕事に対するモチベーションを高め、ストレスを軽減する道を模索していくのです。週に15分でも30分でも話す時間を設けて、仕事の進捗などを確認することで、従業員は話を聴いてもらえるという安心感が得られ、深刻な課題に対してもリアルタイムに対処することができます。
上司は、プロジェクトに関することから組織の取り組みに対する感想まで、具体的な質問を投げかけフィードバックを引き出すようにしてください。従業員側は評価が下がることを恐れて正直に話しにくいかもしれないので、自由な意見を歓迎し、期待や感謝を示すことが大切です。ポジティブな意見、ネガティブな意見、どちらも有益なインサイトを得られると考え、回答が偏らないように質問の仕方を工夫することも必要です。
また、階級を超えて上層部と行う「スキップレベルミーティング」や、上司・同僚・部下など複数の視点で評価を受ける「360度フィードバック」なども有効でしょう。フィードバックを、単なる苦情処理ではなく、経営効率を高めることを目的とした建設的なプロセスとして機能させることが肝要です。
さらに、1対1の対話だけでなく、匿名で意見を言える場を提供することで、従業員は上司に対して懸念や提案を表明しやすくなります。最終的にはオープンに双方向の対話ができるようになり、こうした環境づくりが従業員の声を引き出す第一歩となります。
今後の人事施策では、組織戦略と密に連携しながら従業員の声というデータを活用し、行動計画に反映していくことが一層求められます。人事担当者は、従業員の声を単なる定期的なデータ収集ではなく、自社の継続的な成長戦略として捉えるという点に留意すべきでしょう。調査の意図を明確に伝え、継続的に傾聴してください。そして、業績につながるように構造化されたガバナンスアプローチに基づいて、データを分析し、どう活用していくかを考えて実行することです。
私たちの調査によると、従業員の声が行動計画に反映、実行されたとき、エンゲージメントが向上することが分かっています。一つひとつの声に対する真なフォローが重要なのです。そのためには、従業員が安心して意見を述べることができ、組織のコミットメントを確信できるような文化を醸成することが不可欠です。
従業員の声は、新しいアイデアとイノベーションの源泉です。業務の現場や顧客に近い立場で働いている従業員こそ、インサイトに満ちた考察や組織改善に貢献するアイデアを持っています。この視点は企業にとって代え難い資源であることを認識し、思慮深く活用することを目指してほしいと思います。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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