“サテライトオフィス2.0”による135万人の人手不足解消効果

公開日 2018/11/26

サテライトオフィス2.0による135万人の人手不足解消効果

「働く場所」と「住む場所」の関係が今、変わろうとしている。情報通信技術の発展と働き手不足を背景に、在宅ワーク/モバイルワーク/サテライトオフィス勤務といったテレワークの取り組みが、多くの企業で着手されている。政府は働き方改革の一環として、2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍にすると同時に、週1日以上の在宅ワーカーを全労働者数の10%以上とする目標を設定し、テレワークの普及を推進している。米国では2015年ですでに85%の企業がなんらかのテレワークによる勤務を導入しているが、日本での導入率は2016年でまだ13.3%に過ぎない。

全国的に都市圏に労働人口が集中する中、先進国の中でも突出している通勤時間の長さ、そして通勤ラッシュ時の混雑度は、多くの人々の就業機会を喪失させている。私たちの調査では、未就学児の母親が、現在働けていない理由として「育児・家事との両立が難しい」を選ぶ割合が55%に達している。もし、彼女たちがテレワークで働ければ、1日数時間からでも働き始められる女性は増えるだろう。これは、就学児の母親や60歳以上のシニア層においても同様である。さらにテレワークの中でも託児施設を持つサテライトオフィスであれば、業務への集中を保ちやすいほか、オフィス機器の整った環境で周囲の人と関わり合いながら働けるため、学びや楽しさを感じながら生産性高く働けるメリットが期待できる。

そこで私たちは、こうしたメリットがあり、かつ新規雇用を創出する可能性が高いと考えられるサテライトオフィスに注目し、その人手不足解消効果はどの程度あるのか、また、これから真に有効なサテライトオフィスとはどういったものかを検証した。まずはその結果を報告したい。

最大で130万人以上の人手不足の解消可能性

潜在労働力の推計は、次のような前提で実施した。まず、2015年時点でサテライトオフィスでの就業が多い4職種(営業職、企画・経理・事務職、専門的・技術的職業、管理的職業)に絞った。また、対象者は、「未就学児の母親」「就学児の母親」「介護者」「60歳以上のシニア層」で現在働いていない人口の4セグメントに限定した。この4セグメントに対して、マクロ統計分析とアンケート調査を通じて、「4セグメントで働いていない人」のうち「働く意思がある人」で、「時間や場所が合えば働ける」「4職種を遂行するスキルがあれば働ける」「時間と場所、スキルの両方があれば働ける」とする人数を算出した。なお、対象地域は2010年時点で人口100万人以上の「都市雇用圏」である。

この推計の結果、働く意思があり、勤務地の広さ・必要なスキルの習得が実現できれば働ける可能性のある「潜在労働者人口」は、2025年時点で135.9万人に及ぶことがわかった(図1)。

図1_アンケートとマクロ統計に基づく潜在労働力の推計


その内訳は、未就学児の母親が78.9万人、就学児の母親が14.1万人、介護者が10.5万人、60歳以上のシニア層が32.3万人である(図2)。

図2_サテライト機関誌_潜在労働力人口の内訳.JPG

図2_潜在労働力人口の内訳

また、推計した潜在労働力人口のうち、すぐに就業可能なスキルを既に持ち、「時間・場所の条件が合う仕事」があればサテライトオフィスで働ける層が58.9万人であった。その職種の内訳は、企画・経理・事務職が45.3万人、専門的・技術的職業が8.6万人、管理的職業が2.0万人である。

研修・教育機能とキャリア支援機能の必要性

一方で、現在働いていない4セグメントの人のうち、3~4割がこれまでパソコンを業務に使う仕事についた経験がないこともわかっている(図3)。

図3_サテライト機関誌_業務上のパソコン利用経験の有無.JPG
図3_業務上のパソコン利用経験の有無

また、OAスキル・ビジネスマナーといった基本的なスキル習得を希望する潜在労働者も多い(図4)。

図4_サテライト機関誌_就職にあたって身につけたいスキル.JPG

図4_就職にあたって身につけたいスキル

こうした人々がサテライトオフィスで働くには、「スキル習得」もしくは「スキル習得」と「時間・場所の条件が合う仕事」の両方が必要となる。本推計では、前者が27.3万人、後者が49.7万人と推定された。すなわち、サテライトオフィスが人手不足を解消する上で最大のポテンシャルを発揮するには、単なる職住近接機能(労働者の自宅に近い勤務場所を確保する機能)だけでは十分でなく、合わせてスキル向上の機能をジョブサーチやキャリアカウンセリングといった人と職とのマッチング機能が必要だということだ。また、育児中の女性が潜在労働力の多くを占めることから、託児サービスのニーズも大きい。託児所機能が付加された場合、育児中の女性においては、同じ距離のオフィスであっても働ける可能性のある人数が約40%増加するという調査結果も出ている。スキル不足に懸念のある女性が、比較的習得しやすいOAスキルやビジネスマナーを学ぶことができ、その上で時間の融通が利きやすく不足規模の大きい事務職に就けるサテライトオフィスが増えてくると、新たに仕事に就ける人口は大幅に増えることが見込まれるのだ。

そこでパーソル総合研究所では、コ・ワーキングスペースを提供する従来のサテライトオフィスを1.0とし、その進化系としてサテライトオフィス2.0を提案する。サテライトオフィス2.0には、従来のサテライトオフィス機能に、労働者のスキルを向上させる「スキル習得支援サービス」とジョブサーチやキャリアカウンセリングを軸にした「キャリア支援サービス」、さらに育児中女性のニーズに対応する「託児サービス」が付加される。

サテライトオフィス2.0

私たちが考える“サテライトオフィス2.0”とは、現在のコ・ワーキングスペースが一般的に備えている「業務スペース」「各種オフィスファシリティ」などの機能に、「託児サービス」「スキル習得支援サービス」「キャリア支援サービス」が加わったものである。そこでは、単にデスクワークや会議ができるだけでなく、子どもを近くに預けて働けたり、新たな仕事の面接やキャリアカウンセリングを受けたり、オンラインでスキルアップ講座を受講したりできる。また、必要な事務や受付業務におけるロボットやAIの活躍、フリースペースのコミュニケーションで、利用者同士の新たなつながりを作ることなども期待される。

先述の3つの付加サービス機能は、今回の推計や独自調査の結果から導き出されたものである。各機能のイメージは次の通りだ。たとえば、これまで接客サービス業の経験しかなかった人の場合、家から近いサテライトオフィスで働く機会を与えられたとしても、OAスキルが必要とされる業務が主であるサテライトオフィスでの仕事をすぐに遂行することは難しい。だが、そこにOAスキルの習得を支援してくれるサービスが付加されていれば、スキルを習得した上で、サテライトオフィスで働くことが可能となる。また、家から近い場所にサテライトオフィスがあるような職に出会うことも簡単ではない。こうした職とのマッチングを支援するサービスがあれば、適した場所での適した職に出会えれば働けるという人々を就業へとつなげられるだろう。また、M字カーブを描く日本における女性の就業率にも見られるように育児のために働けていない女性はまだまだ多く、家から近いサテライトオフィスに子どもを預けられる機能が備わっていれば働けるという潜在労働力人口は多いはずだ。

このように働き方の多様化と労働力の減少が進んでいく中で、働く「場」に求められるものも大きく変化しており、これまでのオフィスとは異なる場の創出が求められている。サテライトオフィス2.0は、その大きな時代の潮流の中であるべき場の形として、雇用創出効果を軸にした一つの提案である。

※本記事は、機関誌『HITO REPORT』vol.02 「“サテライトオフィス2.0”の提言」からの抜粋です。
※文中の内容・肩書等はすべて発刊当時のものになります。


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