公開日 2018/11/26
“サテライトオフィス2.0”が普及する際、社会的にはどのような影響を及ぼすのだろうか。サテライトオフィス導入は、人々の働き方を変えるだけではなく、暮らし全体にポジティブな効果をもたらすことが期待されている。その具体的効果を、データを参照しながら紹介する。
サテライトオフィス2.0が普及すれば、私たちは「働き方の多様性」を確保することができる。その働き方の多様性が端的に何をもたらすかといえば、サテライトオフィスを使う労働者の「自由時間の増加」だ。通勤時間などが減る分、個人の自由時間が増えるのだ。
図1は、現在の統計結果を基に、2025年時点での労働者の自由時間量を推定したものだ。この試算によれば、サテライトオフィスを利用する最大770万人の労働者の自由時間が、平均して週に3.46時間増加すると考えられる。つまり、サテライトオフィスを利用すると、多くの労働者は週に3〜4時間ほど、自由時間が増えるのだ。私たちは、この自由時間の増加が、さまざまな面で社会に良い影響を与えると考えている。
図1_週あたり自由時間の増加量
では、なぜ自由時間が増えると、社会に良い影響があるのだろうか。
それは、終日在宅勤務をした方が、通勤時間が減った分だけできた自由時間をどのように活用したかを調査した図2のデータを見ればわかる。この図でまず目立つのは、41.9%を占める「趣味、娯楽、遊びなど」である。多くの趣味、娯楽、遊びにはそれなりのお金が使われる。また、24.1%の「買物」は消費活動そのものだ。この2つの項目から推測できるのは、自由時間が消費活動に使われるケースがかなり多いということだ。つまり、自由時間の増加には、ある程度の「経済効果」があると言える。これが、1つ目の社会的な影響である。QOL向上や地方人口の増加にも一役買う可能性経済効果以外にも、いくつかの良い影響が考えられる。2つ目に挙げられるメリットは、「QOL(Quality of life)の向上」だ。睡眠時間が増え(31.0%)、食事・入浴・家事・身の回りの用事に使う時間が増えれば(26.5%)、生活にゆとりができるだろう。家族との時間が増えたり(26.3%)、育児・子育ての時間が増える(13.0%)ことも見逃せない。生活の余裕と家庭で過ごす時間が増すことは、高いストレス度、低い幸福度、少子化問題など、日本社会が抱えている数多くの課題について、根本的な解決へと進む一歩になり得る。
図2_終日在宅勤務実施により削減できた通勤時間の活用状況
3つ目に期待できるのが、「地方人口の増加」である。サテライトオフィス2.0が創り出すのは、都市部に出勤しなくても働ける環境だ。QOLだけを考えれば、自分が生まれ育った地域で暮らしたい、あるいは自然豊かな環境で暮らしたいといったニーズは多い。そのことを踏まえると、どこでも働けるようになれば、都市部から郊外や地方に移り住む労働者が増えても何ら不思議ではない。サテライトオフィス2.0は、地方回帰のムーブメントを起こし、都市人口の一極集中を打開する一助になるかもしれない。
自治体が「余剰施設・余剰用地の活用」を行える点にも注目したい。周知の通り、今、地方では空き家や空き地が増え続けている。こうした空き家・空き地をサテライトオフィスにするのは、施設・土地活用の有効な手段だ。たとえば、廃校となった学校の校舎をサテライトオフィスにする、あるいは、再開発地域の施設の一部分をサテライトオフィスにするといったことが、今後増えてくる可能性が十分にある。
このように、サテライトオフィスの拡大は、個人に働く機会を提供するのみならず、働き方・暮らし方の変革をもたらし、質的/量的側面から社会にポジティブな影響を与え得る。
※本記事は、機関誌『HITO REPORT』vol.02 「“サテライトオフィス2.0”の提言」からの抜粋です。
※文中の内容・肩書等はすべて発刊当時のものになります。
本記事はお役に立ちましたか?
follow us
メルマガ登録&SNSフォローで最新情報をチェック!