グローバル人材マネジメントの未来

公開日 2014/06/17

疲弊するグローバル人事

人口減少下にある日本の国内マーケットに高成長が望めない中で、新興国市場の拡大、経済のグローバル化のさらなる進展を背景に、日本企業も本気でグローバル化に取り組んでいる。人事部門を取り巻く最近の動きとして、人事部門の名称を改め、新たにグローバル人事部などという形で設置を行う企業が増えてきた。海外事業部や経営企画部にグローバル人事機能の移管を行ったり、社長直轄室としてグローバル人事機能を取り上げる動きがある。また、人事責任者クラスに海外事業や海外勤務経験者を置いたり、マネジャークラスにも事業部や他のコーポレート機能から異動してくるなどの動きが見られる。そうした中、どこの人事部門もチェンジ・エージェントとして、グローバル人事を必死に取り組んでいる。

しかし、経営からはグローバル人事の進みが遅いといわれ、人事部、人事パーソンへの経営からの信頼は揺らぎ始めている。ではどうすればいいのか。キーワードは「チェンジ」から「チャレンジ」である。

高度成長期時代において、某食品メーカーではアフリカの狩猟民族と狩猟に同行し、狩りをした生肉に調味料を振りかけて味を広めたという話や某商社ではアフリカ大陸の半裸状態の民族にシルクの良さを広めたとか、ゼロからのスタートで並大抵な努力ではできない奇跡を起こしている。それらは、まさしく「チャレンジ」である。

また、今も日本を代表する有名企業の多くは、高度成長期時代に本業とは関係ない新規ビジネスを行い、コングロマリット経営化し、本業が危機を迎えても乗り切ってきた。グローバルで躍進するサムスンもそういった日本企業の手法を倣ったと同社元取締役の日本人の方がおっしゃっていた。その元取締役は新規ビジネスの成否の鍵は人材マネジメントにあるという。40歳前に定年を迎えるが、新規ビジネスへの取り組みを成功した者はプロモーションされ、定年を迎えても会社に留まれる仕組みになっているとのことだった。つまり、チャレンジした者が評価されるシステムを構築することで、企業の成長につなげているのだ。

原点回帰が求められる人事

現在の日本企業の多くの経営者はビジネスが軌道に乗ってきたときに入社して、すでに立ち上がっているビジネスをうまくマネジメントすることで出世してきた。

だから、ビジネスをすることの重要性より、マネジメントを重視する。短期成果主義、マネジメント重視の経営者のもとでは、立ち上がるまで年月のかかる新規ビジネスの重要性は軽視されてきた。そして、それに従事する優秀な人材は報酬を減らされるばかりか、出世コースの道も閉ざされ、組織を退出するという選択をせざるを得なかった。それを目の当たりにした多くの若手や中堅社員は、マネジメントをする立場になることがすべてと思い込み、顧客よりも組織を重視する傾向が強まった。そうした内向き志向が、今日の日本企業の低迷を招いたといえよう。新興国は経済成長率が高く、魅力的な市場がたくさん存在している。しかし、そうした国々における市場シェアで日本企業が上位を占める国や産業は少ない。シェアが高く、それを守る、維持するのであれば「チェンジ」でいいが、どう参入してシェアを伸ばしていくかは「チャレンジ」に他ならない。また、そういった意味では日本企業は高度成長期時代の新規ビジネスを立ち上げる、新しい取り組みを行うなど、今日の豊かな日本を創ったことに原点回帰すべきではないか?そのためには「自社内でマネジメントを行う人材」重視から、「新規ビジネスを立ち上げる起業家人材」重視になる風土を構築する必要があり、それこそが『グローバル人材マネジメントの未来』ではないのだろうか?

あるグローバル企業の本社取締役だった方がおっしゃっていた。CEOから「○○といった新規ビジネスを○カ月後に行いたい。そのビジネスを担う人材は誰か?いないのであれば、○カ月後までに育成可能か? それが不可能であれば、外部からそういったビジネスを担う人材を採ってくれ」。その要望に常に応えること、これこそが人事だと。ビジネスを知っていること、人を知っていること、外部機関を知っていること、そしてそのようなことを予兆して様々な人事施策を企画し、運用することこそ人事の原点であり、今、日本企業がその原点回帰を求められているかもしれない。

※本記事は、機関誌「HITO」vol.01 『グローバル人材マネジメントの未来』からの転載記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。


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