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2014.06.10

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ミドルの職業能力開発をめぐる支援のあり方 法政大学大学院 諏訪康雄 名誉教授 インタビュー

ミドル・シニア

職業人生の長期化が進み、いよいよ70歳現役社会が現実味を帯びてきた。そうした中、豊かな職業人生を歩んでいくには何が求められているのだろうか。ミドルの職業能力開発における支援のあり方について、「自助」「共助」「公助」の観点から法政大学大学院 諏訪康雄名誉教授にお話をお伺いした。

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法政大学大学院 諏訪 康雄 名誉教授

―2012年6月、厚生労働省が発表した調査(※)によると、男性の健康寿命は70.42歳、女性が73.62歳という結果でした。就労人口が高齢化の一途を辿る中、いよいよ70歳現役社会の到来が現実味を帯びてきたという見方もできます。諏訪先生は、長期化する職業人生において、「ミドル期」をどのように位置づけていらっしゃいますか?

※)健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。平成22年厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」にて算定。
平成24年6月、厚労省は国民の健康づくり計画案に「健康寿命の延伸」を目標として盛り込むことを発表している。

同一年齢男性の過半が仕事を離れる年齢が68~69歳に達した現在、「70歳まで企業で働く社会」が現実のものになろうとしています。これを前提に考えると、平均20歳からスタートする職業人生はちょうど45歳で折り返し点を迎えることになります。長期化する職業人生においては、45歳をキャリアの節目として、前後の10年間をそれぞれミドル前期(35歳~44歳)、ミドル後期(45歳~54歳)と定義することが望ましいのではないかと考えます。55歳定年制が一般的だった高度経済成長期の職業人生と比較すると、これからの職業人生における「ミドル期」の意味合いは大きく変わります。つまり、55歳で職業人生を引退する時代には、45歳~54歳とは職業人生を締めくくる最後の10年であり、まさにキャリアの集大成にあたる時期だったと言えます。

しかし、70歳まで職業生活が続くことを考えれば、45歳~54歳とはまだ職業人生の折り返し地点を過ぎたばかりの時期です。これまで培った能力やスキルだけを頼りに残りの職業人生を歩むにはあまりにも長いと言えます。長距離を泳ぐのに「息継ぎ」が必要なのと同じように、長期化する職業人生においては適切な「息継ぎ」こそが必要です。ミドル後期とはまさに後半の職業人生を見通した上で「息継ぎ」(キャリアデザインや学び直し)をする重要な時期だと言えます。

―グローバル化や知識社会化などの社会経済的な構造変化の影響も受け、個人の職業人生は今まで以上に不確実性の高いものとなりました。先の見えない中で長期化する職業人生において、キャリアデザインするためには何が必要になるのでしょうか?

長く、険しく、見通しの悪い職業人生を充実させるには、何よりも「変化対応力」が必要不可欠です。変化対応力とは、変化の激しい職業人生を生き抜くためのマインドセットとスキルであり、生涯にわたって学び続けることで養われるものです。つまり、変化対応力を高めるためには弛まぬ職業能力開発が必要ということです。ここでいう職業能力開発には二つの方向性が考えられます。それは、関係ある職種における専門知識とスキルを深く追求していくことと、外部環境の変化に応じてキャリアチェンジするために必要な汎用的知識・スキルを高めることです。

―それでは、ミドル期における職業能力開発とは具体的にどのようなことでしょうか。

能力開発の主体を「自助」「共助」「公助」の観点から整理して考えてみましょう。まず「自助」についてです。そもそも教育訓練を行う側と学習する側の両者がいて能力開発が円滑に進むという事実に基づけば、いかなる個人も自身の能力開発について「自助」の役割を放棄することはできません。自身の職業生活を維持・発展させていくためには、断片化しがちなキャリアを自分なりに統合し、エンプロイアビリティを高める工夫が要請されます。しかし、職業能力開発を個人の自助努力だけに委ねることはできません。特に、ミドル期のように組織の中核メンバーとして多忙な毎日を過ごす時期には、自律的に中長期的なキャリアデザインや職業能力開発について考えることが疎かになるものです。ミドルの職業能力開発においては、あくまで「自助」を前提としながらも、同時に「共助」や「公助」のあり方を検討することが必要だと思います。

―なるほど。「共助」「公助」の役割についてはいかがでしょうか。

「共助」「公助」の役割については、ミドル前期・後期で異なります。ミドル前期における職業能力開発には、「共助」の果たす役割が大きいと言えます。35歳~44歳という時期は、組織の中での役割を自覚し、仕事における専門性への意識が萌芽・確立する時期です。この時期における「共助」の例として、キャリアカウンセリングやメンタリングなどが挙げられます。一方、ミドル後期の職業能力開発には「共助」以上に「公助」の果たす役割が求められます。なぜなら、ミドル後期の職業能力開発には、「共助」が機能しづらい事情があるためです。例えば、「共助」の一例として企業主導のキャリア教育研修が挙げられますが、ミドル後期を対象に行うケースは稀でしょう。それは、キャリア教育研修によって、最も生産性の高いミドル後期人材が他社でも通用する一般技能を磨き、転職してしまうリスクがあるためです。実際、多くの企業で行われているキャリア教育研修はミドル後期を過ぎた55歳以上を対象に早期希望退職を促す目的として行われているのが実情です。

このように企業にとってはもっともな合理的経営判断からミドル後期の職業能力開発に「共助」としての支援が機能しない実情を鑑みると、この世代に対して求められるのは「公助」としての職業能力開発支援です。ミドル後期は起業してもよく成功すると言われるように、キャリアチェンジするには絶好のタイミングです。キャリアチェンジを支援する「公助」として失業時の職業訓練や転職向け訓練が挙げられますが、その機能は決して十分とは言えません。日本ではそもそも「失業なき労働移動」と言われるように、キャリアチェンジに間隙が生まれないことを善しとする文化があります。私は、加えて失業期間をキャリアチェンジのために必要な意義のある準備期間として位置づけ、「公助」として職業能力開発を支援する仕組みを整備すべきだと考えます。

―海外に目を向ければ、特に北欧などで「共助」や「公助」が機能している印象があります。日本でも転用可能な参考事例はありますでしょうか?

北欧には、「共助」「公助」が仕組みとして定着している事例を多く見つけることができます。まず「共助」については、地域のいたるところで催されている大人の勉強会が良い例です。仕事終わりのビジネスパーソンが家族と夕食を済ませた後に、近所の勉強会などに参加するようにです。また、ミドルのキャリアチェンジにも企業による支援策があります。北欧系ではありませんが、某外資系ホテル企業の社内インターン制はよく知られています。同社では、キャリアチェンジを希望する社員に対して希望職種を一定期間インターン生として経験する機会を提供し、職種と人材のマッチングを図っています。同プログラムは就業時間外に行われるため、個人側は無償で時間と労働力を提供することになりますが、失敗による雇用リスクの低い環境下でキャリアの幅を広げることができる絶好の機会と言えるでしょう。

「公助」については、先ほど例に挙げた、勉強会の場所として地域の小学校や中学校などを放課後、無償で開放する取り組みが挙げられます。また、大学・大学院の低廉な授業料や中高年向け奨学金制度などもそうですが、注目すべきは職業能力を高めた人材が社会の中で活躍できる場の確保を「公助」として支援しようという試みです。具体的な例として、税制も含めた外資系企業の積極誘致施策が挙げられます。ある程度の規模のある外資系企業が参入することによって、参入地域にはミドル層を含めた多くの雇用が創出されます。こうした「公助」としてのキャリアチェンジ支援策は北欧以外にも見られます。例えば、アメリカ・ジョージア州のクイックスタートプログラムでは、参入企業が現地で期待通りの水準の労働力を素早く調達できるよう、州が複数の大学・専門学校などと提携し、参入企業のニーズに見合った職業能力開発プログラムを実施しています。

―職業能力開発に意欲的なミドルが社会で活躍できる場の確保を「公助」として支援しているのですね。ミドル世代の人材流動化が思うように進まない我が国にとって、そういった取り組み事例は大変参考になりますね。

外資系企業の参入によるメリットは、参入地域の経済活性化やミドルの雇用需要効果だけではありません。変化対応力を高める上で重要な学習棄却を促す効果があります。学習棄却とは、時代遅れになったり、妥当性を欠くようになったりした知識・考えを捨て去り、それをより妥当性の高い新たなものへと置き換えていくことを意味しますが、ミドル期における学習棄却とは決して簡単なものではありません。なぜなら、新たな変化への柔軟な対応を阻害する「過去の経験」を多く蓄積しているためです。経験によって形成・強化された物の見方や考え方は、時に新たな変化に対応する際の足かせとなります。変化に柔軟に対応するためには、まず暗黙的に有している物の見方や考え方に気づく必要があります。そのために最も効果的なのは異質な他者とふれあう機会を持つことです。異質な他者とのコミュニケーションを通じて、はじめて自分自身が暗黙的に持っている物の見方や考え方の特性や限界に気づくことができます。そういった意味で、外資系企業は学習棄却を促す「異質な他者」としての役割を果たす効果があり、職業能力開発における「自助」を促す働きがあると言えます。

※本記事は、機関誌「HITO」vol.03 『ミドルの未来』からの転載記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。

機関誌「HITO」vol.03 『ミドルの未来』
cover03.jpg機関誌「HITO」vol.03 『ミドルの未来』では、本記事をはじめ、識者インタビューや企業事例などを通して、学び直しや継続的な職業能力開発の必要性についてお伝えしています。ぜひご覧ください。


>>機関誌「HITO」vol.03 『ミドルの未来』

諏訪 康雄 氏

法政大学大学院 名誉教授

一橋大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。ボローニャ大学(イタリア)客員教授などを経て現職。「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」(厚生労働省)、「社会人基礎力に関する研究会」(経済産業省)などの座長を歴任。専門は労働法・雇用政策。主な著書に『雇用と法』(放送大学教育振興会)、『労使コミュニケーションと法』(日本労使関係研究協会)など。

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