昨年の定量調査に引き続き、今年も「他者との“かかわり”が個人を成長させる」というテーマで調査研究を実施した。今年は、より具体的な施策を検討すべく、昨年の調査協力企業の中で若手・中堅社員が高い成長を実感している企業2社の事例を研究した。
社会人は仕事経験を通じて成長する。そして、そのために必要なものは、「他者」という触媒である。昨年は28歳から35歳までの若手・中堅社員2,304名に対する定量調査を実施し、以下のような提言を行った。
これら提言にて視点と方向性は示せたものの、具体策までは言及することができていない。
そこでより具体的な提言を行うべく、今回は、前回の調査協力企業の中から若手・中堅社員の成長感が高かったパナソニックとカネボウ化粧品を取り上げ、事例研究を進めた。
デバイス営業を担当する某営業総括部を調査した。
同総括部では、ピラミッド型の人員構成がくずれ、組織の機能分化、フラット化も進んでいった。また、市場環境が急変し、市場構造と組織構造との不整合が進 みつつあった。このような中で組織改革に取り組んだ。その結果、良質で多様な“かかわり”を提供できる組織になり、若手・中堅社員の成長感につながっている。
上司、先輩、同期、後輩という360度の“かかわり”がセットされた職場が少なくなり、また事業成果をあげるために職場以外の人との“かかわり”が必要に なっている企業も少なくないだろう。パナソニックの事例からは、そのような環境状況の中で組織やマネージャーが講じるべき具体策のヒントが得られると考える。
大都市圏のドラッグストアを担当している某販売部を調査した。
同販売部には、小売店への営業活動をするエリアマネージャーと、小売店の店頭で推奨接客をする美容部員がいる。この機能がまったく異なるメンバー同士が 様々なことで協力し合い、またお互いに助け合っている。2005年より産業再生機構による再建が進められた後でも、この関係は崩れることはなく、むしろ発 展・強化していった。さらに興味深いことは、同社では協力・助け合いを促すための組織的な取り組みがなされているわけではないということである。日常業務 の中に埋め込まれている何かが、相互の協力や助け合いの風土を築いている。
厳しい環境への対応過程の中で、人間関係にひびが入り、個人主義の傾向が強まる企業もある中で、カネボウ化粧品の事例からは、相互の協力や助け合いを促すための組織運営方法についてのヒントが得られると考える。
他者との“かかわり”が大切だということは誰もが認めるところであるが、かかわらせることは容易ではない。単に「かかわれ」と号令を発しても、表面的で一過性のもので終わってしまうことが多い。なぜならば、メンバーはかかわることの意味を見出せないからである。
メンバーは組織の一員として、組織目標に貢献すべく業務を遂行している。組織目標からひもとくことにより、組織にとってだけでなく、メンバーにとっても意味のある“かかわり”を作り出すことができるといえよう。
必要な人と、必要なときに接しても、“かかわり”の土壌がなければ効果的な“かかわり”にはなりにくい。組織目標を達成するための“かかわり”を二階部分だとすれば、一階部分はその“かかわり”を推進するための人間関係や組織風土、規範だといえる。
当然のことながら、二階部分だけをつくってもうまくいかない。日頃から一階部分に気を配っておく必要がある。
行き過ぎた役割分担は協力・助け合いの気持ちを閉じ込めさせてしまい、ともすれば個人主義を助長してしまう。役割分担の曖昧さや重複、業務や目標の相互依存などによって、協力せざるを得ない状況を作り出すことも一つの方法である。
さらには、「役割にとらわれない手助け」を奨励し続けることで、境界線上の業務を相互に補完し合うような風土を醸成することも大切である。
30歳前後の若手・中堅社員が次のステージにステップアップするためには、現在の業務範囲にとどまらない幅広い経験や、これまでは見えなかったことが見えるような経験を積ませなければならない。
すると、自ずとかかわるべき人が増えてくる。このとき、上司一人だけによる指導・支援では限界にぶつかることになる。上司は、部下が必要とするようなかかわり先を見つけ、その人と連携をとりながら、また役割を分担しながら育成することが望まれる。
以上の4つの提言は単独で取り組まれるのではなく、連動されるべきである。
仕事を通じて若手・中堅社員を成長させるためには、誰と誰を引き合わせるかという狭義の“かかわり”に加え、職務のあり方、経験の提供、振り返りの支援、そしてそれを下支えする人間関係の構築や組織風土の醸成、規範の構築を、統合的にデザインすることが大切である。
2009年12月
坂本 雅明
【経営者・人事部向け】
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