公開日 2014/05/13
2020年、日本の労働者の2人に1人が「45歳以上」になるといわれている。明治大学の野田稔教授は著書『中堅崩壊』の中で、ミドルを35歳~47歳の層として定義し、さらにこの層を二等分して35歳~41歳をミドル前期、42歳~47歳をミドル後期としている。本誌対談において法政大学大学院の諏訪康雄教授は、70歳まで企業で働く社会が現実のものになろうとしている昨今において45歳が人生の折り返し地点である、とおっしゃっていた。45歳をキャリアの節目とするならば、これからはミドル前期を35歳~44歳、ミドル後期を45歳~54歳と定義することが望ましいとのことであった。
【図表1】45歳をキャリアの節目としたときのミドル期
キャリア理論で高名な学者達は、このミドル期を体力面では少しずつ下り坂に入る一方、知識・経験・人脈といった面では上り調子で、人生全体において最も力を発揮しやすい時期であると主張している。つまり仕事スキルの習得もさることながら、会社での自分の立ち位置や組織、人事制度などを理解・活用し価値を創出している頃合である。またこの時期に自分の今までの経験をどう統合するか、一緒に仕事をしている人達とどう過ごすかで、人生後半のキャリアに大きく影響するとしている。
それでは、実際にミドルのキャリア成果(パフォーマンス、専門性、仕事充実感)に対して、キャリア志向やキャリア行動、そしてキャリア支援はどう影響しているのだろうか。こうした問題意識の下、筆者が全国の民間企業に勤務する正社員(35歳~55歳の正社員)1,698名を対象に行ったWeb調査(2011年3月実施)の結果をご紹介したい。
まずキャリア成果を上げている人の傾向は男性で役職が高く、小規模な社員数(100~300名未満)の組織に所属していることが分かった。役職が上がるにつれ、ダイナミックな仕事経験や様々な人との出会い、また部下の成長などを通じて自身のキャリア成果が高まると考えられる。従来の日本型雇用論では年齢が上がるにつれ能力も高まり、キャリア的に充実すると考えられてきたが、必ずしも年齢の高まりはキャリア成果に影響していないことが分かった。35歳を越えると年齢ではなく、役職がキャリア成果に強く影響する。日本は男性管理職比率が高いためこのような結果となったが、昨今の女性管理職比率を高める動きはキャリア成果を上げられる人材が質量ともに高まっていくことを示唆するものだと言える。
また、キャリア成果には、「適切なキャリア行動」が影響していることが分かった。専門性を高める「適切なキャリア行動」として、特に興味深いのは「社外の専門家等との交流」であるという結果だ。一方で、社内人脈からの学習はキャリア成果の向上と統計上有意な差がない(効果がない)という結果であった。最近、ワークプレイスラーニングや学び直しなど盛んに行われているが、それらはキャリア成果を上げるためには非常に有効である。
【図表2】キャリア成果に影響を与えているキャリア行動
※色がついているものが影響が強いもの
また、キャリア成果を高めるためのキャリア支援については、上司や職場との関係、そして自主裁量の容認が効果的であるという結果が明らかになった。具体的には、パフォーマンス(会社への貢献)や専門性を高めるためには仕事上の高い要求が必要であった(しかし仕事充実感には有意ではなく、むしろマイナスに作用する)。さらに、興味深いのは専門志向の高い人に公正人事がなされると仕事充実感が下がるという結果である。職場を思い浮かべてもらえば一人くらいいるのではないか? 経営環境が激しく変わる昨今、会社で評価されるのは変化に対応できる人材だと言われる。一方で、ひとつのことを深く掘り下げて有形化していく専門志向社員にとっては時間に関係なくいいものを創りたいという傾向がある。そう考えれば、公正人事が専門志向社員の仕事充実感を下げるという結果は、短期成果主義的な機運が高まる中、評価のあり方や人材の登用要件などに不満を抱えている結果ではないかと推測できる。専門志向社員の評価や処遇の在り方、仕事への取り組み方などにはまだまだ改善の余地がありそうだ。
また、キャリア成果を高めるための支援として人事制度がほとんど影響していないという結果にも着目したい。人事部門はモチベーション施策や能力開発、そして成果主義人事制度など様々な取り組みをしているにも関わらず、なぜそれらがキャリア成果に影響しないという結果になるのだろうか? グローバル企業では、社員の仕事満足度の把握と向上施策、ミッション・ビジョンの浸透、人材マネジメントを担うマネジャーの教育などに非常に力を入れている。一方、日本企業の場合、適性配置、公平な評価と報酬、権限委譲が中心であり、人事・HRMを行う上でのインフラ整備に力を入れており、現場にその取り組みが伝わりづらいのではないかと推測できる。
【図表3】キャリア成果に影響を与えているキャリア支援
※色がついているものが影響が強いもの
以上の調査結果を踏まえ、人事部門がミドル層に対して行うことを整理すると、以下の通りである。まず、100〜300名未満という組織規模がキャリア成果を高める上で最も効果的であることから、この規模感を念頭に置いた組織設計を行う必要があるということだ。また、キャリア成果を上げる人材の質量を高めていくためには女性管理職比率を高めていくべきだろう。さらに、キャリア成果を高めるのが年功ではなく役職であるという結果を考慮すると、積極的に役職登用を推し進めることも重要だと言える(役職に応じた職務をうまく遂行できなければ降格も厭わないというスタンスが重要である。ただその際に重要なのが、降格を人格否定的に扱うのではなく、あくまで役割の遂行がうまくいかなかっただけという風土を創ることである。また、いつでも役職に就ける機会を用意することも同様に重要である)。
専門志向社員に対するHRM(特に評価・処遇)の設計・運用のあり方についても検討が必要になるだろう。現場でHRMを実際に運用する現場マネジャーに武器(MBO、コーチング、組織開発手法など)を持たせ、それを使いこなせるように教育していく(HRMに関心やできそうな人材を現場マネジャーに抜擢していく。「名選手名監督にあらず」ではないが、過去のプレイヤー時代における実績だけでマネジャーへ登用するという慣習は考え直すべきである)。そして社外の専門家等との交流が行えるような仕掛け・仕組みを創る(できれば強制的にでも交流させる手段を講じるべきである)。
人事制度についても今までモチベーション(仕事充実感)を高めるためのインフラ創りとして有効だと思われてきた。しかし、本調査の結果、仕事充実感を高める上で仕事上の高い要求はむしろマイナス傾向に出ていた(有意ではないが)。仕事上の高い要求に対して応えることができた経験、失敗した経験は個人の能力やその後のキャリア成果に大きく影響する。したがって、人事部門も仕事上の高い要求に取り組む人材にフォーカスを当てた制度設計・運用を行っていかなければならない。
【図表4】ミドル躍進のために人事部門が行うべきこと
以上の点を解決していくことが、ミドル層がイキイキ働く、また若手・中堅社員がこれからイキイキ働くミドルになっていくために非常に重要だと考える。言い換えれば、人事部門が躍進するミドルを創出するためのKeyであると言える。
※本記事は、機関誌「HITO」vol.03 『ミドルの未来』からの転載記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。
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