当クライアント企業は、創業から急成長に至る中で社員数が300名を超え、これまで経営者自らが牽引して作り上げてきた組織・企業風土から、仮に経営者が交代しても変わらないような企業風土を醸成する方法について検討されていました。
また、成長期における課題として組織の目指す方向や経営理念の浸透、組織のまとまり強化に取り組む一方で、組織改革を牽引する人事部の手が回らないという実情も抱えていました。
中長期戦略の実現のためにも、十分に時間をかけて組織風土を根付かせる必要があったことから、その取り組みの第一歩として、社員に求める人材像や行動の定義、その行動を促す企業風土の仮設定を行いました。その上でワークショップや全社員アンケート実施による現状を整理し、浸透施策に落とし込む検討プロジェクトを実施しました。
最終ゴールである企業風土の浸透に当たり、まずは長期ビジョンや事業戦略を実現するために必要な人材とはどのような人材像かをブレイクダウンしながら、事務局内部で検討を重ね、現実的なビジョンを描いた上で、業務で重視することの違いを切り口に4つの人材像を設定しました。
次に求める人材像に近づくためにはどのような行動をとってもらう必要があるのかについて、全社員共通で求める行動と人材タイプ別に求める行動の要素を特定しながらまとめました。それをもとに、会社としてその行動を促すためにはどのような企業風土を整えれば良いのか、具体的な行動計画を立てながら仮設定を行いました(図表1)。
これらの設定に向けては、事務局案と経営層との認識のずれを失くすため、早々に経営層とディスカッションを行うことで、共通認識を醸成し、スムーズな遂行を目指しました。
図表1 プロジェクトの鳥観図
仮設定した3つのテーマ「求める人材像」「求める行動」「行動を促す企業風土」について、ラインマネージャー層に向けたワークショップを実施しました。
ワークショップは、ラインマネージャー層から現場視点の意見を収集することがメインの目的でしたが、経営層と同じ視座に立って部下をリードする立場であることから、本プロジェクトに早期から巻き込み、企業風土醸成のリード役として動機付けることも目的に含んでいました。
前者の目的においては、事務局で仮設定した人材像に対して、”求める行動やそれを促す風土とは何か”、”それに対して必要なことは何か”をメインテーマとして、今できている部分や課題に感じている部分をディスカッションしてもらうことで、現場視点の課題を洗い出し、仮案をブラッシュアップして体系化を行いました。
参加した社員側も、ワークショップを通して自分たちのなりたい姿や現時点で不足している行動などを主体的に考え、会社の考え方に沿っているかを振り返るなど、企業理念や仮設定した人材像・求める行動に対して当事者意識を高め、チームごとにバラツキのあった認識の統一化を図ることができました。
企業風土の浸透施策のポイントとして、方針を定めるだけでなく社員の行動に反映させ、肚落ちしてもらう過程を丁寧に行うことが重要だと考えました。
そこでワークショップで磨き上げた内容をもとに、求める行動や行動を促す企業風土についてのアンケートを全社員に実施しました。
同アンケート結果の分析とフリーコメント欄のボトムアップの意見を通じて、求める行動や行動を促す企業風土の実態を明らかにし、定量的に判断できるものをベースに実施すべき施策案を複数立案しました。浸透施策に当たっては、ひとつの施策や制度を作り上げるだけでなく、人事制度改革からスキル開発、キャリア形成支援、働きやすさを実現する制度・規則の検討、社員間コミュニケーションの活性化など多岐に渡って検討しました。
企業風土の浸透は、何か1つを変えるのではなく、様々な施策を講じ、その施策それぞれが複合的に機能することで、実現が可能になるものです。そのため諸施策の実施タイミングや関係性を全体的な視点で整理し、複数の施策案に対して優先度をつけ、具体的なアクションへと繋げました(図表2)。
図表2 本プロジェクトのアプローチ
明文化されていない人材像や行動規範の設定は企業風土に大きな影響を及ぼすとともに、可視化が難しいソフト面であるため、時間をかけながら言語化することに注力しました。
その過程で行ったワークショップや全社員アンケートについては、社員を巻き込みながら、ともに課題設定をしたり、施策を考えたりなど社員の肚落ちを意識したことが重要なポイントだったと考えます。最終的に施策案に優先度を設定し、取り組みやすい環境を整えたとはいえ、企業風土を根付かせるまでには長い時間が必要です。
そのためには、組織への働きかけやチェックを継続し、中長期的な視点で取り組むことが必要不可欠です。