自律的なキャリア形成と成長サイクルを促進する人材マネジメント改革支援

当クライアント企業は業態変化をしながら急成長を遂げており、さらなる進化を求めていました。従来の小売業の概念を超えた新しいビジネスモデルの構築を志向しており、それに応じて、組織・人事面で制度・育成・風土改革の必要性が高まっていました。

特に、人事制度や人材マネジメントの仕組みを通じて、一人ひとりが変革を起こし、成長と自己実現を達成することが期待されていました。こうした背景から、成長と自己実現をキャリアの面から支援するために、人材マネジメントの改革に着手しました。

CONTENTS

  1. 人材マネジメント改革が目指す方向性の設定
  2. 複線型キャリアパスとキャリア選択・成長モデルの構築
  3. メンバーの自律的なキャリア形成・成長サイクルを支援する諸制度の整備

人材マネジメント改革が目指す方向性の設定

人材マネジメント改革の目的を明確にするために、まず会社が目指す方向性(会社軸)と個人の成長とキャリアの方向性(個人軸)を整理しました。

具体的には、会社軸では、ビジネスモデルの進化により、デジタル領域などを中心とした専門人材や全社を横断してマネジメントする人材など「事業成長を牽引する多様な人材の育成」、個人軸では、個人のキャリア観や働き方が変化する中で、「キャリア展望を持ち、成長を実感している」状態を目指す方向性としました(図表1

図表1 人材マネジメント改革が目指す方向性(会社とメンバーの関係性)

目指す方向性の実現に向けて、鍵となったのが「キャリアの複線化」です。会社は事業成長に必要な人材の枠組みを提示し、個人がその中で最終目標やキャリアプランを描きながら、複数の道を選択できる仕組みを整えることを本プロジェクトの第1ステップとしました(図表2)。

図表2 目指す方向性の実現に向けて創りたい世界観

複線型キャリアパスとキャリア選択・成長モデルの構築

これまで同社では、「全員がマネジメントを目指す」単線型のキャリアパスを採用していましたが、このプロジェクトではビジネスモデルの進化に伴い、事業を牽引する4つの人材タイプを定め、キャリアパスの複線化を行いました。従来のアプローチから一転し、全員がマネジメントを目指すのではなく、専門職として“深める”、“極める”選択肢を提供することは、同社にとって大きな変化となりました。

しかしながら、これまで自律的にキャリアを考える機会がなかった個人がいきなりキャリアを選択することは非常にハードルが高いことです。そこで、各人材タイプを目指すにあたって、どのような経験を蓄積すべきかといった「経験」の推奨例も作成しました。
この推奨例を作成するには「経験」の可視化が重要であり、現在マネジャーとして活躍している方々にインタビューを行い、必要なスキルや経験を洗い出しながら体系化を行いました。

一方で、個人のキャリアパスには多様な可能性があり、会社が示すキャリアパスを細分化し過ぎると、自身のキャリアプランを自律的に設計することが難しくなります。そのため、推奨例は、個人が選択できるようにあくまでイメージを提示するものとし、バランス感を意識したものになっています。

メンバーの自律的なキャリア形成・成長サイクルを支援する諸制度の整備

諸制度を整備するにあたり、「メンバーがキャリアを考え、上司との対話から気づきを得て、キャリアの意思表示をし、挑戦機会を獲得する」というメンバー視点で成長サイクルが回っている状態を目指す姿として設定しました(図表3)。

このサイクルの起点となるのが、「①キャリアを考える」です。その支援としてメンバーが自身のライフプランやライフイベントを踏まえてキャリアプランを立てるための「キャリアプランシート」を設計しました。

次に、このキャリアプランシートをもとに、②上司との対話から気づきを得る機会として、キャリア面談(1on1)を導入しました。この面談では、将来的に目指すキャリアについて話し合いながらメンバーに気づきを与え、中長期的な成長支援を目的としています。そして、その内容を会社に意思表示する機会として③自己申告制度の実施、さらに目指すキャリアへと挑戦する機会として④社内公募制度を導入しました。

また、自律的なキャリア形成・成長サイクルを促進するために、⑤「仕事に関する情報提供」「育成プログラム」を基盤として整備しました。研修を通じて次の成長機会に挑戦するために学び、学んだことが次の成長機会の獲得につながるように設計しています。

図表3 メンバーの自律的なキャリア形成・成長サイクル

まとめ

「キャリア自律」を促進するためには、単に人事制度を変えるだけではなく、メンバーのキャリア自律を促す組織風土を徹底的に整える必要があると考えます。当プロジェクトでは、諸制度の整備だけでなく、求められるスキル・経験の整理や成長サイクルのまわし方など、目に見えないソフト面も重視しました。

さらに、実際に運用されるためには、クライアント自身が主体性を持つことが必要不可欠です。私たちが単に制度を設計・提示するだけでなく、何度もミーティングを重ね、一緒に考える機会を設けました。
また、設計段階かから人事部だけでなく、販売部や現場を巻き込むことで運用上の懸念点や制度のフィードバックも反映していきました。このような取り組みを3年継続して行った結果、成し遂げたプロジェクトです。

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