高度専門技術を持つスペシャリスト人材の活躍推進と、マネジメント人材の育成輩出を両立させるジョブ型人事制度改定の取り組み支援

当クライアント企業で人事制度改定を検討した背景と目的は、グループ会社全体で導入する定年延長への対応と、元々グループ本体の制度を踏襲して設計された人事制度をプロパー社員向けに新たに制定し直すことにありました。
しかし、定年延長を実施しながら現行の職能資格にもとづく年功的人事制度を維持した場合、人件費の増加や労働分配率上昇を招く恐れがありました。

また、グループ会社からの出向者が減る中で将来的にはプロパー人材からマネジメント職候補を育成・輩出する必要があったことや、高度な専門性を持つペシャリスト人材が活躍している一方で、評価に対する納得感が得られておらず、評価・処遇の見直しも求められているなど、現行制度の課題も多くありました。
そこで、中長期的な視点から求める人材と組織を見直し、スペシャリスト人材の活躍推進、マネジメント人材の育成・輩出を両立させる人事制度構築のプロジェクトがスタートしました。

CONTENTS

  1. 定年延長を踏まえた賃金カーブの見直し
  2. 複線型職務等級制度と職務を基軸とした制度の導入
  3. マネジメント人材の安定的な育成と輩出に向けた取り組み

定年延長を踏まえた賃金カーブの見直し

高度専門技術を有する人材が多く在籍する同社において、定年延長はスペシャリスト人材の確保・活躍といった点でもメリットが大きいものでした。長期で活躍してもらうという観点から、定年延長前後で処遇を一律で急激に下げるのではなく、緩やかに減少する方針(図表1左図)を採用したこともあり、60歳以降の定年延長者の増加による人件費上昇が見込まれました。その回避のためにも、従業員全体の賃金カーブの見直しが必要不可欠でした。

まずは、外部水準との比較と細かく行いながら、報酬を引き上げるべき対象と見直す対象を明確にして、総人件費のバランスの中で全体の報酬を設計しました。さらに、役職定年制度の導入や退職金設定なども踏まえて支援し、全体像を意識した設計を考えました。それにより、定年延長による単純な人件費の増加を回避しながら、必要な対象に再分配させることが可能となりました。

図表1 定年延長時カーブの方向性

複線型職務等級制度と職務を基軸とした制度の導入

当クライアント企業では、高度な専門性を有する技術人材と製造業における技能職人材など、経験値やスキルの異なる人材がいるにも関わらず単線型のキャリアパスを採用していました。適切な人事配置が行われていないだけでなく、それぞれの役割に適した評価がなされていないことで従業員のモチベーション低下を引き起こしていました。

そこで、コースを分けて複線化することで、キャリアパスに応じた処遇を実現することを目指しました。その実現に向けては、多くの社員へのインタビューを通じて業務のレベルを細かく分析、役割に求められる能力レベルと責任の大きさに基づいて重みづけを行うことで役割算定を行いました。
その結果を踏まえ、これまでの年功的な基軸に代わるものとして、職務を基軸とした制度を導入しました。さらに、管理職層はスペシャリスト職とマネジメント職で職群を分けるとともに、非管理職層でも技術職と技能職で職群を分けることで、それぞれの役割やキャリアパスに合った評価・育成がなされる仕組みを整えました。

図表2 役割の重さの検討軸イメージ

マネジメント人材の安定的な育成と輩出に向けた取り組み

これまでマネジメントの多くを担っていたグループ会社からの出向者が減少する中、プロパー社員でマネジメントを担える人材候補が育っておらず、抜擢の難しい年功的人事制度が維持された場合、マネジメント人材が不足し、組織運営に支障をきたしかねないという問題を抱えていました。
さらには、専門職が多く活躍する組織であるが故に、マネジメントを志向しない社員も少なくなく、マネジメント人材不足に拍車をかける要因となっていました。

そこで、高度な技術を持つスペシャリスト人材が活躍できる道は確保しながらも、その中から適性のある人材をマネジメント人材として育成していく必要がありました。
そのため、職群の設計としても、マネジメント職には報酬面でのメリットも設けながら、マネジメント職とスペシャリスト職の柔軟な行き来も可能な仕組みとし、スペシャリスト職からマネジメント職への転換を行いやすくしました。

また、年功的制度に代わり職務軸を取り入れたことにより、抜擢や早期の昇格を可能とし、若手のモチベーションアップにもつなげました。さらに、役割の変化が大きな節目の等級への昇格は、研修なども行うことで、重要な役割を担う人材の早期育成を後押ししました。

まとめ

クライアントの要望をくみ取りながら、人事制度構築にとどまらず、付随してシニア活躍の施策、若手スペシャリスト人材活躍のための新陳代謝の促進など、それらの制度のフローを支える仕組みまでクライアントとともに検討して整えたのが、このプロジェクトの特徴です。
全体像を見直すために、細分化したシミュレーションや報酬の分析など中長期を見据えた構築が必要不可欠な中で、情報を集めて解決策を深掘りする課題解決プロセスに従って支援を行いました。

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