当クライアント企業は、大手通信系企業の戦略子会社として創業から5年目、全国展開も経て事業は大きく成長し、中期経営計画ではさらに売上の倍増を目指す計画でした。しかし、人員数を大きく増やさない方針であったため、現状の人員をベースに中計の実現をしていくには人材マネジメントプロセス(採用から、入社後の戦略的な異動・配置や育成まで)を一気通貫でつなげるためにデータを活用し、このプロセスを綿密に管理することで、効率的に優秀人材の輩出を行うことが課題だと考えられました。
そこで、「人材・組織の可視化プロジェクト」として、人材・組織の現状の実力値の可視化、職種・レベル別に求められる経験の具体化などを行うこととしました。
社内の業績データ、評価データなどの各種既存情報に加えて、全社員に対して新たにアセスメントを実施。これらのデータを多角的に活用することで、同社で活躍が期待できる人材のコンピテンシーモデルを策定し、適材適所の実現や成長を促進できる異動配置、次世代リーダー育成など能力開発、採用基準の策定による採用パイプラインの強化等の様々な施策につなげました。
プロジェクトの大きな柱となったのが、同社の主要職種である営業の管理職クラスの能力要件の抽出です。営業実績等のデータと、個人のコンピテンシーと動機を測るアセスメント(Saville)、インタビューなどからハイパフォーマー分析を行い、成果を挙げる人材のコンピテンシーを特定し、モデル化しました。
さらに、大手企業担当営業や代理店担当営業などの営業スタイルごとに期待される人材のコンピテンシーを細かく整理し、営業管理職として必要となる経験のモデルパターンも策定しました。
アセスメントにより個々人のコンピテンシーが可視化されたことに加えて、営業職のコンピテンシーモデルと経験モデルが策定されたことで、次世代リーダー候補の特定のみならず、その人に必要な経験、伸ばすべき能力を明確にすることができました。
それにより、成長に効果的な経験が蓄積できる異動・配置、育成施策につなげることができました。
図表1 コンピテンシーモデルの象限分類と営業経験モデルイメージ
コンピテンシーモデルとEQアセスメント※を踏まえ、成長が見込める営業人材に対しての育成施策を実施しました。
具体的には、業績、知的コンピテンシーともに一定水準を超えているものの、特定の感情コンピテンシー項目に課題がある社員を抽出し、「感情コンピテンシー開発プログラム」を行いました。
感情コンピテンシーは、業績を形作る要素のうち比較的短期間で開発できるものであり誰でも高めていけるという考えのもと、数回に渡り研修を行いました。結果として、プログラム終了時に9割近い受講者で行動変容が確認できたとともに、受注件数や訪問件数など具体的な業績の好転につながりました。
図表2 感情コンピテンシーの変容プロセス
コンピテンシーモデルを採用面接時の評価基準としても活用しました。ハイパフォーマーに必要な要件と入社時の評価データなどを突き合わせ、入社後に活躍が期待できる人材要件を特定し、採用基準の見直しを行いました。
それを踏まえ、面接時に適切に判断・評価ができるよう、面接担当者に向けた採用面接強化のための研修を実施するなど、運用面からも支援し、採用パイプラインを強化。これにより、入り口となる採用から基準を統一し、入社後の戦略的な異動・配置や育成までを一気通貫させることが可能となりました。
これまで一般的にも、人事の場面では上司や人事の経験を踏まえた評価・異動などが多く行われてきましたが、科学的にデータを活用することで、異動や育成に根拠を持たせることができました。
徹底したコンピテンシーモデルに基づいて活躍できる可能性がある高い人材を明確に抽出し、具体的な育成施策につなげられたことは、個人のみならず組織を強化し、企業の成長拡大に貢献できたと考えています。