「ヒトの見える化、そのカギを握る人材アセスメントとは?」

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日本的雇用慣行が変化していく中で、人材価値を市場という観点で把握し、将来予測を可能とする科学的なアプローチが求められている。アセスメントツールが進化し、ピープルアナリティクスによってその実現が可能な段階まできている。本稿では人材アセスメントの歴史的変遷をたどりながら、最新の動向を考察し、タレントマネジメントのあるべき姿を探っていきたい。

  1. 人事における人材アセスメントとは
  2. 人材アセスメント4.0に至る時代背景
  3. 進化を続ける人材アセスメント
  4. 人材アセスメントの活用における成功の秘訣
  5. 人材アセスメントをピープルアナリティクスの中で位置づける
  6. 効果が期待できる人材アセスメント
  7. まとめ

1.人事における人材アセスメントとは

アセスメント4.0の時代と称される現在、人材価値を客観的に測る技術は時代とともに、変化している。日本は歴史的、地理的な影響により、同質性の高い民族としてハイコンテクストな文化を通じてヒトを見てきた。米国など欧米諸国と比べて、人材を客観的な指標で測ることなく、主観的な感覚でとらえたとしても見立てが大きく外れることはなく、ある程度の納得性をもって評価できていた。

2.人材アセスメント4.0に至る時代背景

時代は大きく変化し、新卒一括採用という日本的雇用慣行も変わりつつあり、中途採用や派遣、兼業・副業、業務委託というように雇用や就業形態が多様化し、女性やミドル・シニアの活躍も期待されるようになった。いい意味でも悪い意味でもこれまで強かった同質性が弱まり、ダイバーシティが加速されていく上で、人材を客観的に見て、データを蓄積し、傾向を知るといった科学的なアプローチ、すなわちピープルアナリティクスが重要となってきた。しかしデータによる客観的な分析は、従来培ってきた経験や記憶、勘といった、主観的なアプローチを否定することではなく、両面のアプローチをもって多角的にとらえていくことが、人材のポテンシャルを最大に活かすことにつながっていくと考えるべきである。

ピープルアナリティクスを推進していく上で、人材アセスメントは何を、何のために、どうやって測るのかが重要となってくる。三種の神器といわれる年功序列、終身雇用、企業内組合が効を奏していた高度成長時代は、新卒で会社に入社して以降、その会社の基準にそって人材価値の評価がなされ、決められた階段を上がっていくことが一般的であった。つくれば売れた時代には成功の方程式が存在し、若手よりも経験を重ねていく熟練者の方が能力が高いため、年功序列には妥当性があった。あくまでも人材価値の評価軸は「社内基準」であり、それゆえに「過去基準」であったともいえる。積み重ねた能力を社内基準に照らし合わせて評価さえしておけば、将来もその延長線で能力発揮につながるものとされていた。

ところが、時代は低成長経済となり、つくっても売れなければ、過去の成功体験も通用しない、方程式がない、あるいは複雑な連立方程式の時代において、社内に正解もなく、社内基準だけではマーケットニーズを正確にとらえること自体が困難となっている。商品やサービスはもちろん、人材においても同様に「市場基準」で測らなければ見誤ってしまうことになる。したがって過去の実績をもとに将来の成果を予測することに意味はなく、人材の評価も過去の基準ではなく、将来の成果をあげる能力をもっているかどうかを推測する「将来基準」による人材アセスメントを通じて、「競争力のある優秀な人材を社内外で発掘すること」が要諦となってくる。

しかし、この「市場基準」と「将来基準」というインデックスは、海外の職務主義に見られる「人材マーケットという市場の中で、人材価値の評価を客観的に把握できる」こととは対象的に、多くの日本企業は社内基準による主観的な能力主義で人材価値を評価してきたために、市場基準で能力を測ることは限定的と言わざるを得ない。そこで重要となってくるのが、外部基準をもった人材アセスメントを有効に活用することである。

3.進化を続ける人材アセスメント

その前に、人材アセスメントの歴史的変遷を整理しておきたい。現在はアセスメント4.0の時代といえるであろう。人材アセスメント4.0は人材価値を人間の潜在的能力で測るべきであるという考え方に基づく。潜在的能力を把握するには、測定方法の難易度が高く、専用の外部アセスメントを効果的に活用することが不可欠であり、アセスメント1.0〜3.0の時代とは大きく異なる。

ちなみに人材アセスメント1.0の時代は19世紀以前にまで遡る。それは体力で仕事をする時代であり、元気で健康な体力が人材価値の基準であった。古代ではピラミッドや運河をつくる体力、戦いや紛争時に生き残る体力、穀物を収穫する体力といったまずは生命維持のための能力をもつ人材が優秀であった。実は現代の「フォーチュン500」に入っている企業のCEO平均身長は、米国全人口の平均より6.75cm高いというデータがあり、あながち現代においても、リーダーの体格はいまだに重要な要素といえるのかもしれない。

人材アセスメント2.0は、環境変化が少なく、仕事内容が変わるといったことが考えにくい20世紀中期の時代であり、人材価値は、知性、経験、過去実績で測ることが中心であった。IQ検査(言語・分析・計算・理論)、学歴、筆記試験などが評価ツールであり、過去の実績からその後の成果を予測することが可能な時代であった。1980年以降になると、技術革新、業界の垣根が消滅した複雑な時代となり、成果を発揮できる行動特性が基準とされ、発揮能力を示すコンピテンシーや、心の知能指数といわれるEQなどがその評価ツールとなり、仕事内容が複雑で前職での経験による予測が困難な、人材アセスメント3.0の時代へと移行していく。

人材アセスメント4.0は、まさに現在のことであり、激しく変動し、不確実で、複雑で、不明瞭なVUCA時代(※)にある今日、そのような環境に適応し、自ら成長する能力、学ぶ能力、あるいは好奇心や洞察力、愛着心、意志力などが、人材価値として重要視されるようになってきた。人材アセスメント3.0の時代はそのときに求められる能力さえ身につけておけばよかったが、人材アセスメント4.0の時代は、技術の日進月歩により先進技術もあっという間に陳腐化し、顕在能力ともいえる高度なアプリケーションをいくら身につけたとしても、使いものにならなくなっていく。アプリケーションを積み上げる土台となるOSともいうべき各々の「潜在能力」を正しく見極めて、その能力を発揮させることが人材マネジメントにおける最優先課題となってきたのである。

日本企業は欧米諸国と比して、客観性や精度の高い外部機関による人材アセスメントを用いた潜在能力の把握、活用に遅れをとってきた。しかし近年、ダイバーシティや、イノベーション人材の早期発掘や育成といったタレントマネジメントを推進するようになり、潜在能力や固有のコンピテンシーを測るツールを積極的に活用する動きが散見されるようになってきた。

従来の社内基準にとどまらず、外部のアセスメントツール、外部アセッサーを活用して、市場価値の観点で企業の将来を担う次世代リーダーを選抜していく動きや、適材適所を目的とした異動配置の適正化を外部アセスメントによってモデル化し、実際に人事異動を実施している事例、あるいは新しい事業を開発できるイノベーション人材の発掘や育成に関して、社内の基準では限界があるために外部の人材アセスメントを活用する事例も出現し始めている。

4.人材アセスメントの活用における成功の秘訣

日本企業はバブル崩壊後「迅速な意思決定を可能にする組織」「変化に柔軟に対応できる組織」を求めて、あらゆる権限を中央から現場にシフトさせてきた。採用権限や評価権限など、これまで人事にあった機能が各事業部へ移行したことにより、人と組織に関する情報は、事業部に蓄積されていくのである。

しかし、混迷の時代にある現在、組織の複雑化、人材の多様化に加えて、人材不足による一人当たり負荷の増大で、管理の目が細部まで行き届かず、また人材配置のミスマッチによる退職者も増え始めてきた。採用、育成、異動・配置、離職にまつわる課題を、事業部単位で解決することに限界が見え始め、人事の働きが改めて評価され、人事部門の役割機能や人事部門のあり方そのものが変革を問われるようになってきている。

近年の人事機能は、多くを占めていたオペレーション機能から、企業全体の理念や哲学、行動規範を決定し、組織に根付かせるための「コンサルティング機能」と、人事マネジメントの観点から各事業の成功と発展のために戦略を考え実践していく「事業戦略機能」、この2つの機能を強化する必要性が顕著になってきている。過去の経験、記憶、勘のみに頼る人事ではなく、客観性、記録、傾向値にもとづく人事が求められている。

そのためには、社内の人と組織にまつわるあらゆるデータを人事に集結させるということが重要となる。アナログかつ属人的な情報を、データ化して社内で共有できる体制の構築が必要であるが、データを人事や専門チームにすべて集めるだけではなく、事業部サイドの協力のもと、データを流通させることが必要不可欠となる。組織間の壁に苛まれることがなく、各事業部に協力を仰ぎながら、少しずつでも対策を進めていきたい。

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5.人材アセスメントをピープルアナリティクスの中で位置づける

人材アセスメントを単なる人事ツールとして位置づけるだけでは、人事を戦略的に推進することは困難である。最も重要なことは、人材戦略というグランドデザインをどう描いていくのか、というピープルアナリティクスの全体設計にある。全体設計とは、どんな課題を解決するために<目標>、どんなデータを使って<ツール>、どのように分析するか<手段>を組み立てることであり、このうちのどれかひとつでも要素が欠けていては、思うような成果は得られない。どのような課題を解決したいのかという最初の目標が曖昧では、どれだけ優秀なアナリストとデータサイエンストが社内にいたとしても、またはどんなに優れたシステムを活用したとしても、有益な結果には結びつかないだろう。

そしてこの目標を設定することによる課題解決こそが、他ならぬ人事の役割である。目標は経営戦略と事業戦略に基づいて設定されるものでなければ意味がなく、ピープルアナリティクスを駆使するために、人事は経営と現場、そして目標とアナリストやデータサイエンティストのツールと手段をつなぐブリッジになる必要がある。自社の現状と照らし合わせながら一つひとつ解消し、人材アセスメントを有効に機能させる人事を目指していきたいところである。

6.効果が期待できる人材アセスメント

前述のように、社内人材価値を「市場基準」と「将来基準」で客観的に把握するためには、有効なアセスメントツールを選択することが重要である。市場基準と比較できるツールとは、そのアセスメントがこれまでに大量のデータベースを蓄積し、市場の人材と比較ができるものを指す。将来基準によって、社内人材が将来において発揮できるであろうポテンシャルを、精度高く把握できるツールとは、人材アセスメント4.0で触れたように、環境変化に左右されない、アプリケーションを積み上げる土台となるOSともいうべき潜在能力を正しく見極められるものである。

市場基準と将来基準、いずれをも満たすアセスメントツールの代表として、国内ではSPIが有効である。SPIはこれまで日本的雇用慣行によって、おもに新卒採用の見極めの際に活用されていたが、入社後の最適配置、育成、将来の経営人材の発掘など、用途はもっと広いにも関わらずその機能が充分に活かされていない実態がある。優れたツールをいかに有効にピープルアナリティクスとして活用していくのかは、人事の腕の見せ所である。

一方、海外では優れたアセスメントツールが数多く存在し、活用も進んでいる。弊社でも扱っているSavilleというアセスメントツールは、品質基準が厳しいとされるイギリスの公的機関によって、その妥当性(パフォーマンス結果と相関)がグローバルで最も高いツールであると認定されている。世界80か国、64万人以上のデータベースを有し、グローバル基準での比較ができる。また、潜在能力が測定できるため、将来のポテンシャル発揮の予測が可能となる。

このSavilleを活用した弊社のコンサルティング実績として、人材異動配置の最適化を目的とした事例がある。対象とするクライアントはこれまで、人事異動に関しては人事や事業部門の幹部クラスによる経験と勘といった主観、あるいは同じ職場に3年以上いるので異動のタイミングだといった条件、または新人が入社してきたので他部署に人員を回す、といった玉突き人事の様な状況対応を繰り返していた。

目が行き届く範囲においては人間の主観の方が正しい場合もあるが、規模の拡大にともなって組織も複雑化し、雇用形態や採用する人材像も多様化してきたことに加えて、現場のマネジャーがプレイヤーを兼ね、スパン・オブ・コントロールが利かなくなり、経験や勘といった主観では充分な機能を果たせなくなってきた。人材配置のミスマッチが目立つようになり、たとえば法人営業でパフォーマンスが思わしくなかった人材を個人営業に異動させたところ、想定していなかった高いパフォーマンスを突如発揮する事例なども出てきた。こういった現象はこれに留まることなく、その逆ともいえるミスマッチによる退職者が出るという事例も増え始めてきている。

人事部門としてはこの問題を重く受け止め、まずは人の見える化が必要との認識のもと、人材アセスメントとしてもっとも精度が優れていると評価されていたSavilleを1,000名単位で受験し、ハイパフォーマー分析など統計手法をもちいて適所適材の方程式をつくりだした。そして一人ひとりのSavilleによるアセスメント結果の数値を、その方程式に入力することで、対象となる人材が、どこの部署の、どんな職種の、どういったタイプの上司のもとに異動配置させればよいのか、デジタルで明示できるようにした。その効果性も検証され、これまでの人事の主観による異動配置のケースと、Savilleを活用して客観的に異動配置をさせたケースとを比較した場合、後者の人材アセスメントを用いて客観的に異動配置をさせたケースの方が異動後のパフォーマンスが高くなったという結論を見い出している。

まとめ

以上の様に、人材アセスメントを最大限活用することで人材価値を客観的に測り、将来予測を可能にする科学的なアプローチを戦略的なタレントマネジメントに活かしていく取り組みは、まだ緒についたばかりである。日本的雇用慣行が変わりつつある中で、試行錯誤しながらも日本企業が新たな潮流を世界につくりだしていくことが期待される。

※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧性)

 

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過去基準や顕在化している能力だけで人材価値を測ることには、限界が見えつつあります。パーソル総合研究所では、人材価値を社外基準、あるいは将来基準によって可視化を目指すアセスメントを提供します。

執筆者紹介

佐々木 聡

シンクタンク本部
上席主任研究員

佐々木 聡

Satoshi Sasaki

株式会社リクルート入社後、人事考課制度、マネジメント強化、組織変革に関するコンサルテーション、HCMに関する新規事業に携わった後、株式会社ヘイ コンサルティング グループ(現:コーン・フェリー)において次世代リーダー選抜、育成やメソッド開発を中心に人材開発領域ビジネスの事業責任者を経て、2013年7月より、パーソル総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部 本部長を務める。2020年4月より現職。また立教大学大学院 客員教授としても活動。

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