公開日 2020/03/10
執筆者: 総合営業本部 執行役員 元木 幹雄
これからの組織には、従業員の働き甲斐がある魅力的な組織であることがより一層求められます。それをひと言で表しているのが、昨今注目を集めている「エンゲージメント」です。当社ではこのたび、「業績の向上とリテンション」をキーワードに、自社のエンゲージメントの現状を把握し、課題解決につなげていくための調査&ワークショップ『エンゲージメントナビ』をリリースしました。それに合わせ、『エンゲージメントナビ』の活かし方についてお客様と当社OBの三名に忌憚なく話をしてもらいました。
話し手:
山本 淳祥氏…富士ゼロックス株式会社 CP&RM部長
小串 記代氏…エグゼクティブコーチ
大脇 正紀氏…Vivace Consultants 代表
聞き手:
元木 幹雄
元木 業績やリテンションは現在、お客様の大きな関心事となっています。『エンゲージメントナビ』は「エンゲージメントの部分に焦点をあてて課題を抽出し、その課題に対して対策を打っていきましょう」ということを目的にしています。とはいえ、お客様からは「調査をやって本当に業績が上がるのか?」といった声もチラホラ聞こえています。そこで今回の座談会では、調査を単なる現状把握で終わらせず、業績までつなげていくために何が必要かを元経営者、元リーダーシップのコンサルタント、現場の現役マネジャーのそれぞれの立場から率直にお話いただきたいと考えています。
山本 そもそもエンゲージメントに焦点をあてた背景は何ですか?
元木 「調査の結果と業績に因果関係はないのではないか」「不満を解消しても業績はあがらないよ」といった疑問がお客様の中にあるようなんですね。それならば業績に直結する調査ができないかと考えたのが開発の背景です。
大脇 こうした調査は他にもありますから、重要なのは調査後をどうするか。会社によって理想的な状態は違うはずですし、会社の風土などもあります。エンゲージメントという言葉を聞いて思い浮かべるものも千差万別ですし、期待もお客様ごとで異なってくる。調査の結果を業績につなげるということなら、その会社にとっての理想の状態は何かをスタート時点で話し合っておく必要がありますね。
小串 経営のリーダーシップは、日本の企業ではこれまで上位に上がってこなかった要素です。それを『エンゲージメントナビ』の調査項目に入れて評価しましょうというのはいいことだと思います。働き方改革が進んでいる今は、会社が考えていることと働く人の価値観のバランスも変化しています。社員の質やレベル、それから個々の仕事の価値観や個性によって、調査で出てくる結果はかなり変わりますから、結果に基づいた丁寧なHOWやソリューションを提供することが大事になってくるでしょう。経営マネジメントの立場からすると、こちら側の意図が下まで伝わらないもどかしさというものがあります。その原因がどこにあるのか。「経営層のリーダーシップ」が足りないのか、期待役割が明確じゃないから伝わらないのかなど、要因は会社によっていろいろなので、丁寧なサポートまで組み込んだ調査にしていかないと経営層の心をつかむことは難しいかもしれません。
山本 会社の置かれた状況は昔と現在ではかなり違ってきていますし、若手がかなり辞めている現状もあります。経営層は辞めてほしくなくても、若い人からすると「転職しながらキャリアを実現していくことは当り前」という感覚ですから、モチベーションが下がってくると割と安易に辞めていくんですよ。一方中間のベテラン層の場合は、働き方改革によって会社が変わろうとするなかで、会社が期待するようには変われない自分がいて、そこがモチベーションの低下につながっていく傾向がある。そうした層ごとの違いが明確に出てくる調査内容であることも重要だと思います。
小串 リテンションに影響するのは周りとの関係性。承認が少ない会社だと、やっぱりつらくなるんです。若い人には承認はとくに大事ですよね。それも上司からというより、周りからの承認がほしいと思っている人が増えているのではないでしょうか。「同僚や部下からの承認」が少ないと「自分は求められていない」と感じてしまいますから。
大脇 社員の「ワーク・エンゲージメント」が高い会社は多いと思うんです。仕事をさぼろうと思っている人はそもそも少ないでしょうし、多くは「よし、がんばるぞ!」と思っている。なのに成果が上がらないとしたら他の外的要因しか考えられない。
山本 そうですね。要因は承認であったり、周りとのつながりであったりなのだろうと思います。
元木 マネジャーとしては「調査の結果から自部門の承認機会を増やせと言われても困る」、あるいは「上からやれと言われたから調査はやったものの、スコアだけフィードバックされても何をどうしろというんだ」という本音もあるのではないかと思うのですが。
山本 ある意味あぶり出されることになりますから(笑)、それを嫌がる人もいるかもしれないですね。ただ私自身はスコアの良し悪しをオープンにすることは必要だと思っています。スコアが悪かった場合、そこから改善策を議論していくことは必要なので。ただ会社組織が大きくなるとマネジャーのタイプもさまざまですから、なかには見向きもしなかったり、そのままにしたり、結果を活かさない人もいるかもしれない。そこは人事から、「何のためにやるのか、どう活かしてほしいか」を各現場にしっかり説明すべきだと思います。
大脇 調査の結果を活かすも殺すもプロジェクトオーナーの本気度次第です。中小企業であれば社長、大企業であれば人事や経営企画の部門長ですね。もし話を聞いて「使えない調査だ」と思ったら、無理して導入しなくていい。断ってもいいんです(笑)。一方、導入するのであれば、リーダーシップを発揮して「なぜこうしたスコアになっているかを現場で話し合う」というところまで経営が本気でやれるかどうか。データを見て考えさせるだけでなく、「なぜそうなっているのか」「自分たちはどうありたいのか」「どこから手をつけるのか」まで現場でしっかり話し合いをさせて、半年後にチェックする。それぐらいまで使いこなせると調査をやる意義が出てくると思います。
元木 当社としても、会社の健康診断のようなイメージで調査を捉え、スコアを現場での議論のきっかけにしてもらえればと考えています。
山本 議論を促すだけでなく、経営層から社員に対して「こういう課題がある」「こういう傾向はまずい」「経営の期待からすると現状はかけ離れている」といった、ある意味厳しいメッセージを届けることも調査を活かすことになるんじゃないでしょうか。
小串 将来の会社の成長のために経営側が求めていること、どのような行動をとってほしいか、もっとこうしてほしいと考えていることを結果を介してピンポイントで伝えられるという意味では、『エンゲージメントナビ』はいい材料になると思います。社員にとっても自分の今後のキャリアを考えるきっかけになると思いますし、それが「組織コミットメント」にもつながっていくでしょう。
大脇 ただそれには、経営者が「5年後、10年後にこうありたい」というビジョンなり、方向性なりをしっかりもっていないと。5年後にこういう会社にしたいから、こういう人材がほしいというストーリーをもっていることが大切で、それがないとメッセージも出てきません。ストーリーをもっていないと、調査をやっても結局はやりっぱなしになってしまう。現場を変えるには「経営層のリーダーシップ」が大事で、それを発揮するには前述したように本気度が不可欠なんです。上の層が本気で変えると思っていなければ、調査をいくらやっても現場は変わらないんですよね。
山本 同時に下の立場にいる人も、調査の結果をもとに「ここはこうだ」と上層部に進言していけることが大切だと思います。立場が上になればなるほど、組織の問題点を言ってもらえる場面が少なくなりがちですから。言いにくいことも言うことで上下の信頼関係が生まれることもありますので。
小串 せっかくエンゲージメントに焦点をあてているのですから、エンゲージメントの本質が問えるような調査であること、またお客様個々の課題解決につながるソリューションも提供できることが結局は大事。調査を提供する当社のほうも「調査をやります」「結果はこうでした」で終わらせるのではなく、エンゲージメントをどう考えるかも合わせてお客様と深く話し合い、お客様の成果につなげていくことを大事にしてもらいたいと思います。
元木 世の中にエンゲージメント調査ツールは数々ありますが、お客様が私たち当社の真価としてご評価くださっているポイントはやはり、お客様のお困りごとに寄り添い、現場組織が納得できる解決策を自ら発見して実行していくための旅をナビゲートできるところだと思っています。今日は三名それぞれの視点によるご意見から、サーベイの本質や活用の在り方について改めて確認ができ、とてもよい気づきを得ることができました。どうもありがとうございました。
富士ゼロックス株式会社 コンプライアンス&リスクマネジメント部長
1994年、富士ゼロックス株式会社に企業・官公庁等の法人営業として入社。2003年に(株)富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)へ出向し、企業変革支援事業の営業、研修企画・講師に従事。2010年に富士ゼロックス株式会社 人事部へ異動し、基幹人材マネジメント、人事管理・役員人事業務を担当。2019年10月よりコンプライアンス&リスクマネジメント部長として、全社員へのコンプライアンス徹底や情報セキュリティ対策を推進している。
エグゼクティブコーチ
大手エンジニアリング会社、人事人材開発コンサルティング会社を経て、1996年富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。商品開発、調査、組織変革・リーダーシップ開発等のコンサルタント、役員を経て、同社代表取締役社長、2019年退任、エグゼクティブアドバイザー。
現在はエグゼクティブコーチとして、自身の経営者、管理職としての経験を活かした女性リーダー開発、アセスメントツールを活用したリーダーの最適な行動変容への支援を実施。国際コーチ連盟認定プロフェッショナルコーチ(PCC)、ホーガンアセスメントマスタートレーナー、AACSBインフルエンシャルリーダー受賞。
津田塾大学国際関係学科卒業、国際大学大学院国際経営学研究科(MBA)修了。
Vivace Consultants 代表、一般社団法人 こどものためのキャリアクエスト 代表理事
1978年富士ゼロックス株式会社入社、千葉県・千代田区・中央区担当の営業マネジャーを歴任。1998年富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に出向。富士ゼロックス向けマネジメント教育の企画・開発・研修運営を担当。
2000年から同企業変革コンサルティング部にて人事/人材開発制度など、各種制度定着支援コンサルティング、マネジメント教育・組織開発・キャリア開発などの研修企画開発を担当。ヒューマンキャピタルコンサルティング部長、組織力強化コンサルティング部長を歴任し、2016年退職し現在に至る。
AI(Appreciative Inquiry)ファシリテーター/プラクティショナー
Positive Psychology Practitioner (Japan Positive Psychology Institute)
当社の調査ソリューションは、現場での課題解決に向けた活用・定着支援を最重視しています。エンゲージメントの状態と影響を及ぼしている要因を可視化する調査と現場の実際の課題に沿ったワークショップの組み合わせで、より効果の高い組織変革のご支援を提供しています。詳しい内容は“エンゲージメントナビ”をご覧ください。
総合営業本部 執行役員
元木 幹雄
Mikio Motoki
人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。
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