「エンゲージメントナビ」リリースにあたって

公開日 2020/03/10

執筆者: 総合営業本部 執行役員 元木 幹雄

目次

1. 業績とリテンションの向上を目指して

「人事白書2019(日本の人事部)」によると、エンゲージメントの重要性を9割の企業が認識しているものの、従業員のエンゲージメントが高い企業は約3割しかないという現状があります。

エンゲージメントとは何か。新英和大辞典で調べるとEngagementとは「1)約束・予約・取決め・契約 2)婚約 3)合戦・交戦 4)(契約による一定期間の)雇用・任務・仕事 5)(歯車などの)かみ合い」と解説されています。形容詞”engaging”だと、人を引きつける、魅力のある、という意味になります。人事の世界において語られるエンゲージメントとは、従業員の会社に対する愛着心や思い入れを表すものと解釈できそうです。

一方、当社では、単なる愛着心や思い入れだけではなく、エンゲージメントとは業績やリテンションの向上に貢献するものという考えを強く打ち出しています。そこで、サーベイでは、業績を上げ続け、従業員を惹きつけ離さない組織を目指すための課題発見を目指し、課題に対してのソリューションを提案します。

エンゲージメントとは 【仕事】・興味が持てる・意欲が掻き立てられる・つい夢中になってしまう・やりがいのある 【組織】・誇らしく感じる・入社を勧める・成長のために貢献したい・所属しているという強い感覚がある →エンゲージメントとは、業績向上とリテンションを高める

2. ESサーベイと「エンゲージメントナビ」の位置づけ

従来のESサーベイでも、目指すところは業績やリテンションと謳っていました。しかし、多くの場合は従業員の不満の解消が目的となってしまい、業績やリテンションとの因果関係が不明瞭だったことが課題でした。

こう言ってしまうと、従来のESサーベイを否定しているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。業績やリテンションの向上を目指すためには、従業員の不満の解消も必要です。しかし、それだけでは実現できない、との考えです。その足りない要素を発見するのが「エンゲージメントナビ」と位置付けています。

もう少し説明を加えると、従業員の不満の解消に努めていない会社では、「エンゲージメントナビ」を実施しても効果は薄いと考えます。例えば、従業員の不満の代表格として、人事制度や上司のマネジメントが挙げられますが、こうした不満があるのであれば、もちろん解決に努めるべきです。完璧とは言えないまでも、不満の解消に努めてからエンゲージメントに関心を向けることが第一歩となります。

3. 開発背景と「エンゲージメントナビ」の概要

「エンゲージメントナビ」を開発するにあたり、企業のESやエンゲージメントの向上を担当する方へのインタビューや先行文献を読み漁りました。そして、これまでESサーベイで問うていた設問も含め、エンゲージメントに影響しそうな設問を300以上用意し、約2,000名を対象としたパネル調査注1にて、業績とリテンションに影響する因子をそれぞれ抽出しました。

その結果、業績を上げるため注2には、「自発的な行動注3」と「組織への貢献行動注4」といった仕事や企業に対する従業員の積極的な行動が必要で、その原動力となるのが「ワーク・エンゲージメント注5」という従業員の心の状態であることがわかりました。少し意外だったのは、組織への貢献行動に影響を与える因子が、「組織コミットメント注6」よりも「ワーク・エンゲージメント」だったことです。ちょっとした驚きでした。

そして、リテンションの向上のため注7には、「組織コミットメント」という従業員の心の状態が必要だということがわかりました。

因子について混同しないよう補足すると、「自発的」「組織への貢献」は行動であり、「ワーク・エンゲージメント」「組織コミットメント」は心理状態です。

ここまでは先行研究で明らかにされていることも多かったのですが、「ワーク・エンゲージメント」と「組織コミットメント」に影響する因子には、事前に想定していなかった結果も見られました。それが当社の「エンゲージメントナビ」の特徴になっています。

【⇒強い関係がある →関係がある】【要因(状況): 【仕事】挑戦と学び・同僚・部下からの承認・自己決定 【組織】事業の存在価値・経営層のリーダーシップ・職場の相互支援】→【心の状態: ワーク・エンゲージメント 組織コミットメント】【行動: 自発的行動・組織貢献行動】→【業績・リテンション】

  • 注12019年6月28日~2019年6月29日まで、マクロミルのパネルを活用し、大手企業に勤務する2,020名に調査した。回答者は管理職378名、一般職1,634名、その他8名である。
  • 注2業績については以下の設問の回答をポイント化し、上位25%を業績が上がっていると定義した。
    業績
    • 私の職場は、以前より高い成果をあげられるようになっている。
    • 私の職場は、他の部署や課に比べて高い成果をあげている。
    • 私の職場は、生産性の高い仕事をしている。
    • 私の職場は、同業他社より高い業績をあげている。
  • 注3自発的な行動とは、「目標達成のための自主的な行動、積極チャレンジ、与えられた仕事以外でも新たな課題を設定、自主的な能力開発」と定義している。
  • 注4組織への貢献行動とは、「職場の人たちへのサポートやフィードバック、自分の仕事以外でも必要な場合は積極的な引き受け、他部門のサポート」と定義している。
  • 注5ワーク・エンゲージメントとは、一般的には、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度が有名であり、3要素(活力/vigor、熱意/dedication、没頭/absorption)で評価されるが、当社では「興味が持てる、意欲が掻き立てられる、夢中になっている、やりがいのある仕事をしている状態」と定義している。
    出典:Wilmar Schaufeli & Arnold Bakker (2004).Utrecht work engagement scale preliminary manual [Version 1.1]
  • 注6組織コミットメントとは、「会社への誇り、家族・親戚や親しい友人に入社への勧め、所属しているという強い感覚、会社の成長のための貢献」と定義している。
  • 注7リテンションについては以下の設問で職場や自身の勤続意向をポイント化した。
    リテンション
    • 私の職場では、ここ数年、社員の離職が少ない。
    • 職場の人から「会社を辞めたい」と聞いたら、不思議に思う。
    • チャンスがあったとしても、すぐに転職しようと思わない。
    • 今の会社や職場でずっと働き続けることが幸せだ。
    • 今の会社で働き続けることを希望している。

4. エンゲージメントを向上するためのポイント

まず、ワーク・エンゲージメントを高めるために重要な因子として抽出されたのは「挑戦と学び」「同僚・部下からの承認」でした。ここで注目したいのは「上司」ではなく「同僚・部下」からの承認だったことです。

そして、組織コミットメントを高めるために重要な因子として「経営層のリーダーシップ」が抽出されました。ここで注目したいのは「人事制度」は抽出されなかったことです。人事制度と言えば、ESサーベイでは必須で問い、多くの会社において低スコアが定番の因子です。

ESサーベイにおいて抽出される課題は「上司のマネジメントや人事制度」であり、見直しや強化がこれまでの多くの対策でした。しかし、エンゲージメント向上のためには、そのアプローチだけでは不十分であることが明らかになりました。誤解のないよう補足すれば、上司の存在に意味がないという訳ではありません。上司による直接的影響(部下に直接関与する)よりも間接的影響(組織作り、挑戦できる環境づくりや相互に承認しあう関係づくり)が重要だということです。これは「人材開発白書2009(当社)」でも同じ結果であり、上司がメンバーに直接かかわるよりも、場づくりや関係性づくりに力を入れている方が、若手の成長感が高かったのです。また、環境づくりは上司だけでなく経営層の役割でもあります。ここから、「上司は組織をまとめることはできても、部下の意識を変えることまではできない。上司だけに頼らず、会社全体として取り組むべき」ということが見えてきます。

5. 当社からのご提案

当社では、「エンゲージメントナビ」の分析や分析を通じた対策の立案は、コンサルタントや担当者がするのではなく、現場にて実施すべきと考えます。それが、現場の当事者意識の醸成と問題解決力の向上につながるからです。そして何より、コンサルタントや担当者から提案される対策を実行するのではなく、自ら考え、対策を立案することが、ワーク・エンゲージメントや組織コミットメントを高めることにつながるためです。自ら考え、立案する場を提供すること、それがコンサルタントや担当者の重要な役割なのです。

ワーク・エンゲージメントを高めるための重要な因子に「挑戦と学び」がありますが、ここに課題があれば、弊社は、挑戦と学びのための場を提供します。

組織コミットメントを高めるために「経営層のリーダーシップ」に課題があれば、弊社は、気づきのためのアセスメントやエグゼクティブコーチングの機会を提供します。次世代の経営層育成や、戦略展開のための仕掛けもあるかもしれません。現場においてやり切れないことは、外部のコンサルタントに委託することが効果的です。

もちろん、上記の他に課題を発見できるかもしれません。サーベイは課題発見だけが目的ではなく、エンゲージメントの向上が最終目的です。弊社は、「エンゲージメントナビ」を通じ、何が課題か仮説を立て、検証し、その課題に適した具体的な施策を提案します。エンゲージメント向上のための取り組みに共に着手しませんか。

ご興味、ご関心をお持ちいただけるようであれば、具体的なご提案を差し上げます。ぜひお問い合わせ願います。

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執筆者紹介

元木 幹雄

総合営業本部 執行役員

元木 幹雄

Mikio Motoki

人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。

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