公開日 2016/11/22
前回は、HRテックに関する動向や、適所適材を実現するためにアセスメントを活用したHRテックのあり方に関して触れた。その取り組みの一例として、従来の統計的手法がベースではあるが、適所適材のロジックを構築して、実際の人事異動に反映させる構想をもった事例をご紹介していきたい。
適所適材ロジック構築プロジェクトの概要
適所適材のロジックを構築するために、第1段階としてまず「適所」と「適材」それぞれの定義づけからスタートした。適所では3つの職種特性を、適材では3職種に求められる能力特性を、インタビューやアンケート調査、そしてアセスメントを実施し、明らかにしていった。
今回はとくにアセスメントツールの選択には最大の注力を図り、人が本来保有している潜在能力に着目した。なぜなら、どんな環境にあっても普遍で、いつでも不変である個々の潜在的な能力の把握があってはじめて、正確な適所適材が実現できるのであって、顕在的な能力の把握では、安定した本来の特性が見いだせないと考えられるからである。
世界的に利用されている、信頼係数の高い、パーソル総合研究所と提携しているSaville社のアセスメントを活用し、対象者に実施した。アンケート調査に関しては3職種に求められる行動特性をプレインタビューを通じて明らかにし、その特性を定量的なデータが得られるように設計し、対象者に向けて実施した。
これらの定量・定性情報をもとに、重回帰分析などの統計的な手法をもちいてさまざまな観点から分析し、ロジックを構築していった。ロジックを構築する方程式は様々に考えられるが、今回は統計学でいうところの目的変数:y(求める結果、アウトカム)を「理論値から導き出された人事評価点」とし、説明変数:x(結果を引き起こす要因)を「各人のアセスメント結果点」とし、y=ax+bという式を組み立てた。
たとえば最近業績が振るわない法人営業職のAさんの潜在的な能力を、異動によって発揮させたいと考えた場合、Aさんのアセスメント結果◯点を方程式のx1、x2、x3・・・に挿入し、その結果yがもっとも大きい職種に異動させるということになる。
項目のうち、この職種のパフォーマンスに影響を与える項目x1、x2、x3は◯点で、その結果yは◯点となるため、現在の職種に比べて潜在的な能力が発揮しやすい職種である、ということが言えるわけである。
この様にして、現在身を置いている職種における人事評価結果と、その人のアセスメント数値を方程式に挿入して得られた理論数値とのギャップがもっとも大きい人を、異動対象候補としてあぶり出していく。
異動配置ロジックの活用パターンをまとめると、以下となる。
①異動候補者の抽出
②異動候補先の抽出
③理論評価数値との差異比較
この事例のここまでの取り組みは、「職種と人」との関係であった。しかし、適所という意味合いには職種という要素以外にも大きな影響を与える「人」との関係も含んでいる。いわゆる相性である。上司との相性や組織文化、環境、チームバランスや役割といった要因も、個々のパフォーマンスに大きな影響を与えていることを想定している。
そこで次のフェーズでは、この要素を解明し、同じようなロジックを構築し、最終的には「職種と人」、「人と人」との組み合わせとなる「場所と人」で適正配置を行なっていくこととなる。
「人と人」の適所適材
このように、人事施策にHRテックの考え方を活用できる方法は開発されつつあるが、HRテックがビジネス上で効果的に機能するために重要なことは、何を実現するために、何のデータをつかって、どのようにシミュレーションを設計するのか、という見立てにあると考えている。単にこれまで蓄積されたデータを、単に統計学を駆使して分析するだけでなく、それを活用するためのデザイン力が問われてくる。ビジネスや組織が複雑化し、先の予測が立てにくい環境下で、より精度の高い、筋のいい方程式を、いかにして立てていくのかが重要である。そのひとつの方法に先行指標の活用がある。
先行指標とは、経済活動の動向を探り、景況などの予測を計るためにもちいられる数値で、鉱工業生産財在庫指数、実質機械受注数、消費者態度指数、長短金利差、日経商品指数など、あげればキリがないほどの種類が活用されている。このような経済指標同様に人事領域においても人事指標を見出し、HRテックを通じてさらに人や組織の施策に活用していく可能性を追及していくべきである。
ただし、先行指標をもって結果を予測することが本命ではなく、実現させたいことに導くための因果関係を科学的に把握して、もっとも有効な方法でアプローチする、といった一連の解決方法を見立てていくことが、何よりも重要である。次回、具体的に取り上げていきたいと思う。
シンクタンク本部
上席主任研究員
佐々木 聡
Satoshi Sasaki
株式会社リクルート入社後、人事考課制度、マネジメント強化、組織変革に関するコンサルテーション、HCMに関する新規事業に携わった後、株式会社ヘイ コンサルティング グループ(現:コーン・フェリー)において次世代リーダー選抜、育成やメソッド開発を中心に人材開発領域ビジネスの事業責任者を経て、2013年7月より、パーソル総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部 本部長を務める。2020年4月より現職。また立教大学大学院 客員教授としても活動。
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