第2回:従業員調査から明らかになる現場品質を左右するフォロワーシップ行動。質の高い現場を作る4つの行動とは

1回のコラムでは、現場品質が顧客満足度を生む構造とフローを整理してお伝えしました。続く第2回では、従業員の行動がどのような現場に導いているのかを従業員調査の結果を使って明らかにします。

※第1回のコラムを読む
第1回:長引くコロナ禍でビジネスモデルが大きく変化。長期的な競争力を維持するために改めて注目したい店舗の顧客満足度を生む構造とフロー

顧客の視点に立つと分かるように、従業員の立ち振る舞いは店舗やサービスのイメージを印象づけるものです。現場を動かす従業員の一人ひとりの行動が顧客満足度に大きく影響することを踏まえ、顧客満足度にプラスの影響を与える4つの行動から従業員の行動実態を考察します。

  1. 現場品質の土台となる【堅実行動】
  2. 従業員の自主性を尊重することで生まれる【顧客行動】
  3. 現場環境に左右されがちな【習熟行動】。サービス業態においては【柔軟行動】も重要
  4. 現場品質を下げる従業員の行動とギグワーカー
  5. まとめ

1. 現場品質の土台となる【堅実行動】

 従業員調査において有意に影響が認められた行動を重回帰分析によって抽出しました。その結果、現場品質に大きくプラスの影響を与えていた4つの行動が見えてきました。

 ひとつ目が、決められた仕事をきちんとこなす【堅実行動】です。

「マニュアル通りにやるべきことはマニュアルに沿って行う」など、与えられた仕事に対して堅実に取り組む姿勢や、遅刻・無断欠席をしないなどの守るべき社会規範を順守するといった、自らへの高い倫理観を持って行動している従業員が多いほど、働きやすく働き甲斐のある現場が生まれています。

 特に「無断欠席しない」(90.6%)、「遅刻しない」(88.8%)の高い実施率が特徴です。当然ですが、正当な理由がないままに遅刻や無断欠席があると一緒に働く従業員に悪影響が及ぶだけでなく、人的不足からサービスが低下するなどの顧客満足度を下げる一因にもなります。そのため、現場品質において従業員が時間通りに決められた仕事をきちんと行う堅実行動が徹底していることは何よりも重要です。 

 私の経験として、堅実行動を高めるための施策はさまざまあるのですが、入口である採用基準自体を間違えている場合は対応が難しいと感じます。適性や能力が面接や入社前に見極められていなかったり、正確な業務内容やルールが伝わっていなかったりすると、堅実行動に響いてしまうことが多いためです。

 例えば、飲食店などの顧客と直接接する仕事であるのに、ぶっきらぼうな態度や雑な所作が目立つ従業員は、求める能力や人材像と噛み合っていない可能性があります。髪型や服装の身だしなみについても、面接時にヘアカラーのルールや爪を短く切る必要があることなどに対する了承を得ていないことに原因がある場合も多いものです。「面接時に聞いていなかった」「思っていた仕事内容と違う」などの不満を持ちながら仕事をしていれば、勤続意欲の低下によって遅刻や無断欠勤につながります。

 人手不足を理由に採用基準を下げてしまう現場も多くありますが、採用の時点で従業員と齟齬があると、堅実行動の実施が難しくなることを意識したほうがよいでしょう。

2. 従業員の自主性を尊重することで生まれる【顧客行動】

 次に注目したいのが【顧客行動】です。

 具体的には、お客様への対応を常に考えて動いているかどうかになります。実施率の高い行動として、「お客様の要望には素早く対応している」(68.2%)、「笑顔で接客することを心がけている」(67.1%)、「お客様への対応を第一に考えている」(66.1%)が挙がりました。いずれも実施率が65%を超えています。

 顧客行動のポイントは、指示されて行動するものではなく、経営理念に沿って自らの意思で動かなければならない点です。そのため、会社の方針や理念が現場にまで浸透していなければ、なかなか行動に現れない部分でもあります。言い換えれば、実施行動の高い現場は理念教育がしっかりなされている証拠でもあるのです。

 例えば飲食業であれば、飲み物をこぼしてしまったお客様に対し、すぐに拭くものを持っていった後さらに新しい飲み物を用意したり、清潔な場所への移動を提案したりするなど早急な判断が必要とされる場面で、上司の判断を仰ぐことなくお客様第一の行動をとるには、会社からどのような働きを求められているのかを理解し、普段の行動に落とし込んでいなければ、いざという時に自主的に動くことができません。

 さらに、新しい飲み物を出す時に上司の確認が必要である、などのルールがある場合は、お客様をお待たせしたり、新しい飲み物を用意できなかったりなど、ルール自体が顧客行動を妨げる場合もあります。そのため、顧客行動の実施率を高めるには、ある程度従業員の自主性を尊重させる必要がありますし、そのためのルールの見直しが必要かもしれません。

 もうひとつ具体例を紹介します。私の前職である日本マクドナルドでは笑顔を提供する「スマイル0円」が有名です。とはいえ「笑いましょう」と指示をして笑顔を作ってもらう、というわけではありません。「どんなときであっても、お客様を最高の笑顔でおもてなしする」という理念を掲げ、お客様から「ありがとう」と言われるような現場作りをすることで、クルー(アルバイトスタッフ)が自然と笑顔になれる環境を整えているのです。過去には、お客様第一で行動してもらうため、上司への報告は事後でも良いとルールを変えたこともあります。

 このように、従業員の顧客行動は経営理念の浸透率に影響されます、理念教育の徹底、さらには経営理念を学ぶ機会を設けるなどの施策がある現場では、自主的な行動につながりやすく顧客満足度に直結していると考えられます。

3. 現場環境に左右されがちな【習熟行動】。サービス業態においては【柔軟行動】も重要

 現場を動かす上で、さまざまな問題に対処したり、導入された新しいシステムを使いこなし滞りなくサービスを遂行したりするためには、従業員の常に学び続ける姿勢や新しいことを素早く吸収しようとする意思が重要です。

 そのため、積極的に業務を覚えようとする【習熟行動】も、現場品質を支える大きな柱となります。これにはもちろん個人のやる気や資質に左右されることもありそうです。しかし、高い実施率であった「業務の内容をすぐに覚えようとする」(79.4%)や「わからない点を周囲に積極的に質問する」(74.3%)という行動においては、現場環境も影響していると考えます。

 なぜなら、継続的に学ぶ環境があるかどうかでモチベーションの高さが変わるためです。分からない作業が出てきたときに質問しやすい環境があること、教材やマニュアルが常に確認できる状態になっていること、働く上での目標を11人に設定すること、などのモチベーションを上げるための取り組みがあることは重要です。上司やマネージャーが「褒める」「評価する」だけでもモチベーションは上がりやすくなるでしょう。

 さらに、サービス業態においては、マニュアルに縛られない対応ができる【柔軟行動】も現場品質にプラスの影響を与えていました。具体的な行動としては、「お客様への声掛けのタイミングは、状況を観察しながら柔軟に判断している」(65.2%)、「マニュアルにないことが起きても、自ら最善の対処法を考えて行動するようにしている」(64.6%)といったものです。

 この結果を見て「難しい」と感じる現場があるかもしれません。確かに個人の提案行動である故に難易度は高いと思います。実際に「無断欠勤しない(90.6%)」「遅刻しない(88.8%)」の堅実行動と比べて、「お客様それぞれに合わせた提案をしている(51.2%)」などの柔軟行動はやや低めの実施率です。

 顧客行動でも説明したように、マニュアルやルールに縛られている場合は行動が制限されてしまいますし、どこまでお客様のニーズに応えるかどうかが個人任せになってしまうと、サービスに不公平さが出る恐れもあります。

 とはいえ、結果的に柔軟行動が顧客満足度を高めていると考えれば、ルールを守ることに縛られるより、お客様のニーズに対して柔軟に行動できる「ゆとり」を持ったほうが良いと言えます。ゆとりの幅は現場によって調整が必要ですが、臨機応変なサービスを求められやすい現場においてはある程度従業員の自主性に任せた方がうまくいくのです。

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4. 現場品質を下げる従業員の行動とギグワーカー

 興味深いのは、従業員の時給の高低と従業員の行動の間には、飲食業・小売業・サービス業、どの業態においても明確な相関関係が認められなかったことです。

 つまり、時給が高いから行動品質が高いとは限らず、時給が向上すればモラルのある行動につながるわけでもありません。顧客行動や習熟行動で触れたとおり、理念教育の徹底や学ぶ環境を整える、褒めてモチベーションを上げるほうが行動品質は向上します。

 一方で、どのような行動が現場品質を下げていたかというと、従業員による「なわばり行動」や「不正行為」「職場内いじめ」が原因でした。なわばり行動とは「自分のシフトや仕事を奪われないようにする、囲い込む傾向がある」「自分の役割以外のことをしようとしない傾向がある」「自分がやりたい仕事を真っ先に確保するようにしている」といった行動を指します。

 ひとりでもなわばり行動をする従業員が現れると、その悪影響は他の従業員の勤務意欲の低下や不満と連動し、サービス低下に直結するため、自分本位の行動をしてしまう従業員の行動をいかに管理するかは、きわめて重要です。また「職場でパワハラ、セクハラを見聞きしたことがある(23.3%)」「職場で盗難行為を見聞きしたことがある(20.1%)」など、深刻な事象が20%を超えていることも危惧するべきでしょう。

 また、最近では「ギグワーカー」という新しい働き方が生まれました。インターネット上のプラットフォームを介して、就業する会社とは雇用される関係でなく、自分の都合の時間で労働を提供するという働き方です。「働きたい時間と働いて欲しい時間をマッチングする」とうたったアルバイト募集サービスをテレビCMでも見かけるようになりました。

 会社は働いて欲しい時間や求めるスキルを指定するだけで、条件にあった働き手がやってきます。履歴書も面接も必要なく、時間をつなぐだけの働き方になります。

 常に人手が足りずに悩んでいる現場も多く、そういった現場はギグワーカーに頼りたいと考えているかもしれません。しかし従業員の行動品質が現場品質を高めるという流れは、ギグワーカーでシフトを繋いでいる現場では実現できません。ギグワークを否定するわけではありませんが、人材を“モノ”や“パーツ”のように扱っている現場では、行動品質を追求できません。

 工場での作業のように、直接顧客に接しない現場であれば、現場品質が顧客満足度と関連しないため問題はないのですが、同じように従業員を「労働提供」だと考えてしまうと、問題が起こりやすくなるため注意が必要です。

 顧客満足度を向上させるためには、従業員の行動品質も並行して考える必要があるのです。

5. まとめ

 現場品質を高める従業員の行動は以下の4つにまとめられました。

堅実行動:「無断欠席しない」「遅刻しない」「決められた仕事をきちんとさぼらずにやる」「マニュアル通りにやるべきことは、マニュアルに沿っておこなっている」 

顧客行動:「お客様への対応を第一に考えている」「笑顔で接客することを心掛けている」「お客様の要望には素早く対応している」

習熟行動:「新しい仕事を積極的に教えてもらおうとしている」「わからない点を周囲に積極的に質問する」「業務の内容をすぐに覚えようとする」

柔軟行動:「お客様それぞれに合わせた提案をしている」「お客様への声掛けのタイミングは、状況を観察しながら柔軟に判断している」「マニュアルにないことが起きても、自ら最善の対処法を考え行動するようにしている」

 一方で、現場品質を下げる行動に時給の高低の相関関係は認められませんでしたが、自分がやりたい仕事を真っ先に確保するような「なわばり行動」や「不正行為」「職場内いじめ」がある現場は悪影響を及ぼしていました。

 また従業員の行動品質が現場品質を高めるという結果から、ギグワーカーに頼る現場では現場品質を高めるのは難しくなるケースも多く存在します。

 顧客満足度に直結する従業員の行動品質の重要性を理解し、改善に結びつけば顧客満足度は自然と高まっていくでしょう。

※本コラムで参照した調査はこちら
『パート・アルバイトのフィールドマネジメントに関する定量調査』

連載コラムを見る

これからのパート・アルバイトへのマネジメントのあり方(全3回)

第1回:長引くコロナ禍でビジネスモデルが大きく変化。長期的な競争力を維持するために改めて注目したい店舗の顧客満足度を生む構造とフロー

執筆者紹介

日比谷 勉

コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者

日比谷 勉

Tsutomu Hibiya

日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。

  • 2004年より、"採用の見える化"をゴールとしたHR TECHツールの自社開発をスタート。システム導入により蓄積されたデータは、その後の変化の激しいアルバイト・パート採用市場において、時代を先取りした施策の実施に貢献した。

  • 2008年からの"e-Recruiting戦略"の一環で開発した自社運営のアルバイト求人サイト「マックdeバイト」と一括応募を可能としたコールセンター設立による功績は、全世界でトップ1%の優秀な業績を残した従業員に贈られる「プレジデントアワード」を受賞。また2008年からは、日本マクドナルドのフランチャイズ店舗の比率70%化というビジネスモデルの転換期において、フランチャイズ法人のビジネスパートナーとして、採用・育成・処遇・福利厚生・労務の人事コンサルティングに従事。

  • 2014年、採用部門に復帰後、2015年からのマクドナルドの「V字回復」の成果に関して、年間7万人規模の人材確保の側面から大きく貢献した。

2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。

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