第1回:長引くコロナ禍でビジネスモデルが大きく変化。長期的な競争力を維持するために改めて注目したい店舗の顧客満足度を生む構造とフロー

新型コロナウイルスの流行により、日本の消費者行動は大きく変わりました。それに合わせて現場を取り巻く環境は激変し、絶えずコロナ対策を求められるようになりました。
感染対策を徹底しながらの業績の安定や顧客サービスはより難しく、どの現場も試行錯誤を繰り返しながら模索が続いています。

そこで今回は、20224月に実施した『パート・アルバイトのフィールドマネジメントに関する定量調査』から、現場の現状を踏まえ、現場品質と顧客満足度の関係性を整理します。

  1. 業績達成と顧客満足度の二兎を追う未だかつてない困難を抱える現場
  2. 今回の調査で明らかになった顧客満足度に影響を与える現場品質とは
  3. 顧客満足度が上がらない理由と従業員の+αのサービス
  4. まとめ

1. 業績達成と顧客満足度の二兎を追う未だかつてない困難を抱える現場

 いま現場では、コロナ対策のために、さまざまな取り組みが行われています。飲食店では座席間隔の確保による席数の減少や時間短縮、メニューの見直しなどビジネスの縮小が求められました。
厳しい縛りの中で、安定的にビジネスを行いながら業績を達成する必要があり、苦しい状況の現場が多いことも現状です。

 一方で、利益を上げるため新たな取り組みも始まっています。身近なところを見まわしても、セルフレジをはじめとするセルフサービスの増加、飲食店におけるテイクアウトやデリバリーサービス、最近ではファミリーレストランなどで配膳ロボットを見かけることも増えました。

 しかし、コロナ禍の中で業績を伸ばす突破口として新しいサービスを取り入れ、さまざまな工夫を凝らしながら一通りやってきたものの、顧客満足度がなかなか改善しないといった問題に悩まされる現場も少なくありません。
実は、絶えず変化する感染対策に翻弄されながら闇雲に実施してきた新サービスの導入が、顧客満足度の低下につながり、サービスが悪化している場合も多いのです。

 分かりやすい例を挙げると、テイクアウトやデリバリーを始めてなんとか業績向上につなげていても、その準備や慣れない作業に従業員が時間を取られ、店舗に足を運んだ顧客への提供スピードの遅れや待たされる機会の増加につながっています。そうした店内の混雑した状況は、現場品質の低下を招いてしまっているのです。

 小売や流通の現場も同様です。顕著なのはスーパーのセルフレジでしょう。
利便性や非接触性のメリットもありますが、本来なら店舗スタッフの仕事であるはずのレジ作業を顧客である自分たちでやらなければならないことに不満を覚えたり、会計待ちの時間短縮になるはずがセルフレジにも列ができていてイライラさせられたりするなど、顧客流出を招く原因になっていることさえあります。

 また私自身、実際に配膳ロボットを利用している店舗を訪れたことがありますが、ロボットが客席まで適切なルートで配膳する技術に驚いた一方で、見回すと手の空いている従業員が近くにいて、そもそもロボットが配膳しなければいけないのはなぜだろうとモヤモヤした気分になりました。
コロナ対策として改革した部分が大きいほど、さらには売上が上がれば上がるほど、現場品質が落ちている現状が生まれているのです。

 コロナ禍という状況下で業績達成と顧客満足度を同時に進めなければならない難しい局面ではありますが、そろそろアフターコロナも見据え、顧客満足度の視点から改めて対策を進めなければいけない時期にあるのかもしれません。 

2. 今回の調査で明らかになった顧客満足度に影響を与える現場品質とは

「店舗状態・サービス状態」と「消費者の購買行動・印象」のつながりを特定する今回の調査を読み解くと 、はっきりと現場品質が顧客満足度に大きな影響を与えていることが分かりました。
その現場品質を支えているのが従業員であることを考えれば、従業員の行動品質こそが重要なポイントであり、従業員の行動品質を高めるには上司のマネジメント品質が関係していることを、今回の調査で体系的にまとめることができました。

 つまり、顧客満足度を上げるためには現場品質を高めることが重要で、現場品質を支えるのは従業員の行動品質であるという流れを今一度、意識する必要があるのです。

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 特に「空間品質」「接客品質」「設備品質」の影響は大きく、これらの現場品質が高いほど顧客満足度やNPS、顧客ロイヤリティが高い傾向にありました。
もちろん、これらのキーワードはこれまでの顧客満足度調査でも必ずキーワードとして挙がるものです。
ですから、これまで「店舗に清潔感がなかった」「接客態度が悪かった」「トイレが汚かった」など顧客からのクレームとして上ってくる課題を一つひとつ解決してきた現場も多いでしょう。
それが本当に顧客満足度につながっているのか半信半疑であった部分も、今回の調査で根拠を示すことができました。

 ここでのポイントは、従業員の行動品質の影響を意識することで、これまでのように改善点やクレームを受けてから個別に対策するだけでは強化策にはならないことです。
例えば、「空間品質」にはBGMや照明、設備内の清潔感などの項目がありますが、機材を買い替える、改装をするなど、目に見えるものへの投資を考える現場もあるかもしれません。

 しかし重要なのは、「人が関与する」ことを意識することです。どれだけきれいな店舗でも、ソファーや机に食べ残しが落ちていれば清潔感は失われますし、BGMの心地よい音量を調整するには従業員の気づきが必要です。
日差しがまぶしいようであればブラインドを降ろす、子連れのお客様が多いときはBGMの音量を少し下げる、設備を清潔に保つのも従業員の配慮によって、はじめて空間品質が保たれるのです。

3. 顧客満足度が上がらない理由と従業員の+αのサービス

 「設備品質」には感染症対策も含まれます。コロナ対策に力を入れているかどうかは、顧客にとって大事な事実です。
最近では、飲食店などでマスク入れを準備している店舗や、感染症対策として使用済みペーパーナプキンなどを入れるビニール袋を準備している店舗もあります。ビニール袋を渡される時に従業員から感染症対策として説明を受けた顧客はより安心感を高めるはずで、顧客満足度向上に直結します。

 そう考えると、現場品質につなげるには従業員の+αのサービスが欠かせないことが分かります。
はじめに紹介したセルフレジや配膳ロボット導入の問題点についても同じです。ただセルフレジを置くだけではサービス低下につながる恐れがあり、顧客満足度は下がる一方ですが、戸惑っている人がいればすぐに駆け寄って説明したり、バーコードのついていない野菜の入力方法を伝えたり等、対応できる従業員を配属することで導入メリットを強めることができます。
従業員の+αのサービスが加わることでスムーズな会計につながり、列に並ぶストレスも緩和され、セルフレジを導入した「進化した店舗」である強いメッセージになりえます。
配膳ロボットについても、ロボットから商品をセルフで受け取る時に従業員からひと言説明があるだけで、お客様のストレスが減るはずです。

 顧客満足度を高める3つの現場品質に加えて、さらに飲食店では味の安定性や提供スピードなどの「提供品質」、小売業では商品の探しやすさなどの「陳列品質」もプラスの影響を与えていることが今回の調査で分かりました。
いずれも、従業員の行動品質に左右される項目です。なかなか顧客満足度が改善しない現場は、構造とフローを見直す必要があるかもしれません。

4.まとめ

 最近では、従業員と一切関わらずに注文から会計まで完了できる非接触型店舗を押し出した飲食店もあります。
海外では既に『Amazon Go』のように無人店舗で完全にDX化に振り切った店舗も出てきています。消費者側もストレスなく使えるのであれば、それは新たな素晴らしいサービスですが、接客サービスを削り落とすことで、今後、他店舗との差別化をどのように打ち出すのかが気になります。

 実際に、非接触型店舗を利用した方も多いと思いますが、便利である反面、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と従業員からの挨拶もなく店舗を後にすることへ違和感を覚えた人もいるかもしれません。
コロナ禍を理由にセルフサービスや非接触型を納得していた顧客側も、アフターコロナを過ごす頃には大きな不満となって、さらに顧客満足度の低下を生み出す可能性もあります。
顧客の期待値が戻った時に、現場は即対応できるのか考えておく必要があるでしょう。その時、改めて今回の調査が標本になりそうです。

※本コラムで参照した調査はこちら
『パート・アルバイトのフィールドマネジメントに関する定量調査』

執筆者紹介

日比谷 勉

コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者

日比谷 勉

Tsutomu Hibiya

日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。

  • 2004年より、"採用の見える化"をゴールとしたHR TECHツールの自社開発をスタート。システム導入により蓄積されたデータは、その後の変化の激しいアルバイト・パート採用市場において、時代を先取りした施策の実施に貢献した。

  • 2008年からの"e-Recruiting戦略"の一環で開発した自社運営のアルバイト求人サイト「マックdeバイト」と一括応募を可能としたコールセンター設立による功績は、全世界でトップ1%の優秀な業績を残した従業員に贈られる「プレジデントアワード」を受賞。また2008年からは、日本マクドナルドのフランチャイズ店舗の比率70%化というビジネスモデルの転換期において、フランチャイズ法人のビジネスパートナーとして、採用・育成・処遇・福利厚生・労務の人事コンサルティングに従事。

  • 2014年、採用部門に復帰後、2015年からのマクドナルドの「V字回復」の成果に関して、年間7万人規模の人材確保の側面から大きく貢献した。

2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。

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