公開日 2023/05/11
これまで2回にわたり、顧客満足度と現場品質の関係を消費者調査で、マネジメント行動と従業員行動の関係を従業員調査で、因果関係を含めて明確にしてきました。しかし、おそらく多くの現場で「なぜうまくいかないのか」を考えたとき、最終的にマネジメントの課題に行き着くのではないでしょうか。
そこで、まとめとなる今回のコラムでは、フィールドマネージャーのマネジメント行動の傾向を5つのタイプに分け、その行動が従業員にどのような影響を与え、行動品質や従業員満足度(ES)に導いているのかを明らかにします。さらに課題解決のための施策として、従業員の行動品質を育てる4つの効果的なマネジメントを紹介します。
※前回コラムを読む
第1回:長引くコロナ禍でビジネスモデルが大きく変化。長期的な競争力を維持するために改めて注目したい店舗の顧客満足度を生む構造とフロー
第2回:従業員調査から明らかになる現場品質を左右するフォロワーシップ行動。質の高い現場を作る4つの行動とは
今回の『パート・アルバイトのフィールドマネジメントに関する定量調査』で最も興味深い点は、フィールドマネージャーをクラスター分析によって、5つのタイプに分類できたことです。
調査の中で特に傾向が強くみられた「メンバーの育成に関心が強い」、「メンバーからの提案を歓迎する」、「メンバーとプライベートでも交流を持つ」、「自分一人で仕事を抱え込む」、「特定のメンバーをひいきする」、「メンバーに仕事を振った後も細かく口を出す」という6つの要素を元に、『絶対君主タイプ』、『友達タイプ』、『職人タイプ』、『積極関与タイプ』、『バランスタイプ』に分類しました。
グラフ:フィールドマネージャーの5つのタイプの割合(全体)
それぞれの特徴は次のようにまとめられました。
『絶対君主タイプ』は、メンバーの育成に対する関心が低いため、従業員の仕事に細かく口を出し、何よりも自分が出す成果にこだわりを持ち、仕事を抱え込む傾向がある。
『友達タイプ』は、従業員と仲良くなりメンバーの育成に関心を持つ一方で、特定の人をひいきする傾向がある。
『職人タイプ』は、方向性や目的に基づいて全体を見渡す能力に欠け、従業員との交流を避けて自分一人で仕事を抱え込む傾向がある
『積極関与タイプ』は、メンバーの育成に対する関心が高く、メンバーからの提案を重視して、メンバーをフォローするような働きかけを行う。
『バランスタイプ』は、自分の役割を意識し、方向性や目的に基づいて全体を見渡しながら従業員が気持ちよく働けるように潤滑油的な役割を果たす。
これらの特徴で分かるように、『絶対君主タイプ』、『友達タイプ』、『職人タイプ』は、現場で深刻な課題を抱えていることが分かりました。
これらのタイプのマネージャーがいる現場は、いずれも従業員の就業満足度が低く、転職意向が平均よりも高くなっています。また、現場品質も低い傾向です。さらに、『絶対君主タイプ』、『友達タイプ』が管理している現場では、職場内いじめと不正行為の発生数が平均よりも多いことが明らかになりました。
では、課題を抱える3タイプのマネージャーがどのように現場に影響を与えているのでしょうか。
従業員の仕事に細かく口を出す『絶対君主タイプ』は、自分の思いどおりにしたいという欲求が強く、従業員の声を聴き、現場の状況を把握した上で仕事をうまく分担するのが苦手です。
また、現場のルールより自分の考えを重視するという傾向もあります。自分とは異なる意見には聞く耳を持たず、賛同する人を厚遇したりひいきしたりするため、ハラスメントや差別発言などのトラブルも多くなります。
これが職場内いじめの起こる要因になっているようです。人によっては感情的な発言が多く、忙しいときや仕事がうまく回らないときほど、イライラした態度を出して現場の雰囲気を壊す傾向にあります。自分の言動や立ち振る舞いが従業員に影響を与えているという自覚がないのも問題です。
業態別に見ると、『絶対君主タイプ』はホテルや物流の現場で多いことが分かりました。おそらく、細かく決められた仕事が多いため、トップダウン的になりがちなのでしょう。当たり前ですが、『絶対君主タイプ』がいる現場は、従業員満足度も継続就業意向も5つのタイプ分類で比較すると一番低いです。
さらにマネジメント行動を分析したところ、機嫌が悪いことが多く、言葉遣いが汚かったり、業務中の雑談やさぼりが多くなったり、だらしのない勤務態度や、多くのメンバーがいる前で怒るなどの恐怖政治、えこひいきや出勤強要といったネガティブ行動が平均より高くなっていました。
『友達タイプ』は従業員とプライベートでも仲が良く、一見、一体感をもって成果をあげられるようにも感じます。しかし実際には現場品質が保たれておらず、「早く辞めたい」と感じているパート・アルバイトが多いことが調査結果で分かりました。
これは、マネジメントが緩く、必要な指示や指摘を行わないために現場品質の低下や従業員のモラル低下を招いていると考えられます。
確かにパート・アルバイトにはさまざまな年齢層が働いているため、従業員と仲良くしておくことは風通しのよい現場作りにプラスの影響を与えます。しかし、距離が近すぎることで公私混同してしまうと、友達感覚でなりゆきまかせの言動が多くなり、ルールが徹底されない、一貫性がなくえこひいきが起きる、模範的な行動を示せない、など多くの弊害を生みます。
実のところ、『友達タイプ』は『絶対君主タイプ』の次にハラスメント・えこひいき・だらしなさ、怠業・恐怖政治・出勤強要の行動が高く、職場の課題を増長させるマネジメントになっているのです。特に、経験の浅いマネージャーは、『友達タイプ』のマネジメントを行いやすいという落とし穴にハマりがちです。
近年、問題となっている「バイトテロ」のような従業員の不適切な行為も、マネジメントが行き届いていない現場で起こっていると考えられます。また、バイトテロだけではなく、事故や飲食店であれば食中毒が起こるリスクも潜在しています。
このタイプが多い業態は、倉庫軽作業です。短期間で働くパート・アルバイトの人も多く、接点が少ないため、その場限りのやり取りをしてしまう傾向があるのかもしれません。また、行動品質が顧客満足につながらない環境下にあるのも、マネジメントが緩くなりがちな『友達タイプ』を生む一因だと考えられます。
一人で仕事を抱え込む『職人タイプ』もまた、従業員の就業満足度が低く、転職意向が非常に高い結果になりました。『職人タイプ』の特徴として、仕事に対する実直さを持ち合わせているものの、チームワークやグループで協力して仕事をすることを重要視しておらず、仕事を自分一人で抱え込みがちです。
豊富な知識を持っている一方で、従業員との交流を避け、メンバーの育成にも無関心のため、実は従業員の行動品質に影響しているのです。マネージャーとしての仕事を放置し、興味のない仕事は他の従業員に投げっぱなしとなれば、まとまりのないギスギスした現場になるのは当然でしょう。最もマネージャーに向いていないタイプでもあり、一方的で高圧的な態度をとりがちな人もいます。
業態別では専門小売に最も多く、次にアパレル・雑貨販売や、専門技術が必要なスーパーマーケットの鮮魚売り場などの現場に多い傾向にあります。
こういった現場では、専門の知識や技術を習得するのに時間がかかり、失敗すると商品が出せない、ノルマが達成しにくいなどのコスト面に響きやすいことから、なかなか現場教育が進まず、従業員の不満の高さや離職率を押し上げていると考えられます。
では、行動品質を育てるにはどのようなマネジメント行動が良いのでしょうか。今回の調査結果をもとに4つのマネジメントが行動品質に効果的だと結論付けました。
①従業員の顧客行動力を育てたい ⇒「鼓舞」のマネジメント
現場を活気づけ、感謝を伝える声掛けを行う。率先してロールモデルとして行動し、「頑張れ」「よくやっているね」などメンバーへの声掛けや褒める行動を積極的に行う。大変な時こそ声を出すなど元気に振る舞う。
②従業員の習熟行動力を育てたい ⇒「傾聴」のマネジメント
従業員の声を聞き、現場の状況を把握した上で仕事を上手く分担する。メンバーの話を最後まで聴く。傾聴しながら現場で起きていることを把握する。「何かあれば伝えて」などの事前の声掛け、従業員の疲労度や集中力に応じて「大丈夫?」などの声掛けを行い、気軽に話しかけやすい雰囲気づくりを行う。
③従業員の堅実行動力を育てたい ⇒「伝える」マネジメント
明確にわかりやすい指示を出し、根気よく伝える。曖昧さをなくし、伝えるべきことは言葉で明確に伝える。
④従業員の柔軟行動力を育てたい ⇒「褒める」マネジメント
一歩先の目標を見せ、出来た時にはポジティブなフィードバックをする。メンバーを人前で褒める。日常的に感謝やねぎらいの言葉をかける。
この4つのマネジメントは行動品質を高めるために不可欠で、顧客満足度を高めるためにも意識して取り組んでいく必要があります。
追記しておくと、これらに共通するのは、フィールドマネージャーが自発的に意識して行う必要があることです。
例えば、「傾聴」のマネジメントは「聞く」ではなく「聴く(意識を傾けて聴く)」という意味ですから、意図をもって聴く必要があります。
「伝える」マネジメントにしても、分かりやすく明確な指示を出すにはスキルが必要で、忙しい現場で端的に分かりやすく話すのは、簡単にできることではありません。1度伝えるだけでなく、根気よく伝え続けることが必要になります。
また、「褒める」マネジメントも具体的な行動を示しながら褒める必要があるため、日頃から従業員を注意深く観察する必要があります。
つまり、これらの4つのマネジメントは一朝一夕では出来ませんが、意識して取り組むことで誰もが使えるテクニックでもあるのです。
今回は、消費者調査や従業員調査による「継続的なマネジメント」を中心に明らかにしてきました。しかしながら、多くの現場を視察する中で、もう一つの問題点が浮き彫りになってきました。それが、店舗の営業当日の従業員の行動品質を高め、顧客満足度を向上させる「当日のマネジメント」です。
今回のメインテーマである「継続的なマネジメント」は、いわゆる現場の基礎体力です。継続することで、従業員満足度が店舗や現場を作り上げる総合力となり、それらの良い習慣が現場全体を底上げするものです。第2回で説明したように、遅刻をする人が少ない店舗というのは、1日、2日で改善されるものではなく、継続したマネジメントによるものです。
一方で、「当日のマネジメント」は、営業当日の実行力になります。分かりやすく「店舗の戦闘力」と言葉を置き換えるなら、営業当日をどう戦うか、つまり1日の戦略が考えられているかどうかによって、運営状態が決まります。
しかし、最近「継続的なマネジメント」にばかり力が入り、肝心の「当日のマネジメント」が手薄になっていると感じるのです。
とくに、マネージャーのいない時間帯の責任者が誰なのか曖昧になっているケースがあります。営業当日の現場監督を決めていないために起こる課題や問題は多く、現場の乱れにつながっています。「継続的なマネジメント」で積み重ねてきたことが「当日のマネジメント」で上手く発揮されず、結果的に顧客満足度を低下させるという、もったいない場面を往々にして見かけるのです。
人件費などの問題で、時間帯責任者をシフトに組み込めないケースもあるでしょう。しかし、現場監督が営業当日に不足する限り、現場品質の向上は見込めません。
「当日のマネジメント」が上手くいかない原因は3つ考えられます。
原因の1つとして、セルフレジや配膳ロボットなどの新しい機械や、デリバリーやテイクアウトなど新しいソリューションを導入したものの、現場においてベストな運用を浸透させるレベルまでフォローできていないことがあげられます。
近年、コロナ禍で店舗のレイアウトが変わったり、新しい設備や什器が導入されたりと現場も大きく変容しました。しかし、どれだけ新しい機械やサービスを取り入れても、現場で使いこなせなければ意味がないのです。
2つ目は、マネージャーや現場監督の運用スキルがバージョンアップしていないことです。新しいソリューションを使えないまま放置したり、他に丸投げしたりしている状態の場合です。これまでのような顧客満足度を高めるやり方で突破しようとしても太刀打ちできないケースや、もしかすると太刀打ち出来ていないことに気付いていないケースは多々あります。今後はマネージャーにもリスキングが必要であり、学び続けることが必須なのです。
そして3つ目は、そもそも現場監督を配置していないことが原因になっているケースです。前述のように、能力差や忙しい時間帯に応じた人員配置やサービスの切り替えが行えていなかったり、臨機応変な対応ができなかったりと現場が混乱しやすく、顧客満足度を低下させる一因になります。
「継続的なマネジメント」だけでなく「当日のマネジメント」についても、今後とも引き続き観察していく予定です。
フィールドマネージャーのマネジメント行動の傾向から、5つのタイプに分類しました。
『絶対君主タイプ』『友達タイプ』『職人タイプ』『積極関与タイプ』『バランスタイプ』
そのうち『絶対君主タイプ』『友達タイプ』『職人タイプ』のいる現場は現場品質が低く、深刻な課題を抱えていました。
これらのトラブルを回避する効果的なマネジメントを以下の4つに結論付けました。
「鼓舞」現場を活気づけ、感謝を伝える声掛けを行う
「傾聴」従業員の声を聴き、現場の状況を把握した上で仕事を上手く分担する
「伝える」明確にわかりやすい指示を出し根気よく伝える
「褒める」一歩先の目標を見せ、出来た時にはポジティブなフィードバックをする
また、近年のコロナ禍などにおける現場の変容から、「店舗の戦闘力」ともいえる「当日のマネジメント」も重要性が増しています。
現場の悩みの種になりがちなマネジメントの課題解決の対策として、これらの調査結果をぜひ活用していただき、顧客満足度向上につなげてください。
※本コラムで参照した調査はこちら
『パート・アルバイトのフィールドマネジメントに関する定量調査』
第1回:長引くコロナ禍でビジネスモデルが大きく変化。長期的な競争力を維持するために改めて注目したい店舗の顧客満足度を生む構造とフロー
コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者
日比谷 勉
Tsutomu Hibiya
日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。
2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。
【経営者・人事部向け】
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