採用しては辞める「負のスパイラル」からの脱却。現場ならではのアルバイト・パートの定着強化策

アルバイト・パートの採用戦略がうまくいったとしても、次から次へと辞めてしまったのでは、人手不足が深刻化する中、現場の人材マネジメントの根本的な問題解決にはなりません。今回は、人材マネジメントにおける「フィールドHRサイクル」の「定着」部分に焦点を当て、採用した人材に長く働き続けてもらうために、どのような工夫が必要なのかを見ていきます。

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  1. なぜ、アルバイト・パートの定着促進を強化すべきなのか
  2. 働き続けたくなる職場作り、定着強化3つのポイント
  3. まとめ)定着は長期的課題。まずは現場が「働き続けたいと思える職場」であるか振り返りを

1. なぜ、アルバイト・パートの定着促進を強化すべきなのか

人手不足の今、特にサービス業や運輸業の店舗・営業所では、常にアルバイト・パートが足りず、絶え間なく採用活動を繰り返しているケースが多く見られます。これは、アルバイト・パートが足りず募集をかけるものの、うまく採用が進まないためにどんどん離職者が増える、もしくは採用できたとしても辞められてしまうといった「負のスパイラル」に陥っているためです。離職される理由を早急に見つけて対処しなければ、ひたすら採用活動を続けるしかありません。「負のスパイラル」からの脱却を目指す定着強化が、根本的な人手不足解消のカギとなるのです。

では、どのようにすればアルバイト・パートの定着を促進することができるのでしょうか。ひとつの解を挙げるとすれば、「アルバイト・パートとして働くスタッフが働き続けたくなる職場を作ること」だと思います。アルバイト・パートの定着率は、店舗・営業所の雰囲気に左右されるものです。店舗・営業所の雰囲気とは、職場の環境そのものであり、店舗・営業所で働くスタッフが作り出すものでもあります。そのため、それぞれの現場が、それぞれの課題に対策する必要があるのです。

2. 働き続けたくなる職場作り、定着強化3つのポイント

ここからは、具体的にどのような施策を行うべきなのか、職場作りの3つのポイントを説明していきます。

(1)職場におけるバックヤードの環境整備

ひとつ目のポイントは、「バックヤードの環境整備」です。商業スペースはお客様の目につく場所ですから、どの企業も環境整備に力を入れていることと思います。しかし、アルバイト・パートが利用するバックヤード(休憩室)の環境整備はどうでしょうか。蔑ろにしていませんか。バックヤードの環境整備はアルバイト・パートの働きやすさに直結すると考えられます。そのため、「いわゆる事務所スペースとは別に、ゆっくりと休憩できるスペースが確保されているか」「空調設備は整っているか」「アルバイト・パート同士の会話が弾むような環境であるか」など、厳しくチェックすることをおすすめしています。バックヤードの状況は、店舗側がアルバイト・パートとして働くスタッフをいかに大事に考えているかを物語っており、そのバックヤードに立ち入った瞬間、アルバイト・パートの方も現場の姿勢を必ず感じ取ります。ですから、着手が後回しになりがちなバックヤードの整備こそ、優先順位を高めるべきです。リフォームなど大掛かりなことをすぐにしようとする必要はありません。まずは綺麗に片付けて掃除するなど、実際にできることから取り組んでみることが大切です。これまで電源コンセントや店舗のWi-Fiサービスの利用を禁止していたのであれば、それを解禁するだけでも、アルバイト・パートの方の満足度は高まるはずです。

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(2)スキルアップの仕組みと評価制度の見直し

アルバイト・パート向けには評価制度を充実させている企業はまだ多くありません。しかし、アルバイト・パートの方も、一人ひとりのスキルや姿勢が適正に評価される環境であれば、その店舗で長く働き、成長したいという思いが芽生えてきます。ある流通系の企業では、オペレーションスキルの高い人材を海外研修へ招待したり、社内コンテストの出場を促したりするなど、上へ上へとランクアップを目指せる仕組み、働く興味とモチベーションを維持できる現場の仕組みを構築しています。

一方で、『定着の鍵はベテランスタッフにあり!ベテランマネジメントの要点』にもあるように勤続年数が長いベテランスタッフとの人間関係が原因で、他のアルバイト・パートが辞めてしまうケースは尽きません。こうした課題に対して、評価の見直しという視点からメスを入れている企業事例もあります。ある飲食系の企業では、リーダーの評価条件を「できる人材」ではなく、「教えることができる人材」に変更したといいます。通常、ベテランスタッフを評価する対象は、オペレーションスキルのみとなっているケースがほとんどですが、新人の面倒を見ることができること、丁寧に教育できることも評価の対象に加えたのです。現場における役割を明確にし、制度に落とし込み、さらに「教えられる人材」を適正に評価できるリーダーたちを育成していく。そういったサイクルが回るようになると定着を促す上で理想的といえます。

(3)多様な働き手のニーズに合わせた制度の整備

高校生、大学生、主婦、シニア、外国人と、働く側の多様化はますます進んでいます。それぞれの特性とニーズを理解し、そのニーズに応えられる職場でなければ、人材の定着は望めないでしょう。例えば、時間帯によって、働くスタッフの属性を変えている飲食店もあります。午前中の仕込みは主婦やシニアの方、昼間・夜間の営業時間は大学生や外国人の方といった具合に、ぞれぞれの人材が働きやすい時間帯に働けるようシフトの組み方を工夫することで定着を図っているのです。また、この飲食店では、結婚・出産を経て、職場復帰を目指す女性に向けて「準社員制度」を設けています。準社員という雇用形態で働きながら、必要に応じて、正社員を目指すことも、アルバイト・パートに戻ることもできる制度です。一人ひとりが、自分自身のライフスタイルに合わせて、働き方が選べるのも現場の定着促進に役立ちます。今後は、こうした個人のニーズに応える制度がより一層求められていきます。

まとめ)定着は長期的課題。まずは現場が「働き続けたいと思える職場」であるか振り返りを

定着を促進するための3つのポイント「職場におけるバックヤードの環境整備」「スキルアップの仕組みと評価制度の見直し」「多様な働き手のニーズに合わせた制度の整備」をお話しました。ここで改めてお伝えしておきたいことは、環境や仕組み、制度を整備したとしても、定着強化は短期間では行えないということです。腰を据えて、長期的課題として取り組む必要があるのです。とりあえず従業員が喜びそうな福利厚生を増やす、とりあえずまかないを充実させる......、といったような場当たり的な対策では本当の意味での定着にはつながりません。「フィールドHRサイクル」(図1参照)にあるように、採用から受け入れ・教育、定着、輩出までをしっかり見据えた上で取り組んでこそ、真の定着となります。

【図1】フィールドHRサイクル

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定着には、結果が出てくるまでに時間がかかります。しかし、できることから地道に続けていくことで必ず、採用しては辞める「負のサイクル」から、採用した人が長く働き続け、さらに働きたいという人が自然に集まってくる「正のサイクル」へと変わっていきます。そうなれば、採用活動も今ほど必要なくなるかもしれません。「負のサイクル」を断ち切るために、まずはご自身の店舗や営業所が「働き続けたいと思える職場」になっているか、振り返ってみてはいかがでしょうか。

執筆者紹介

日比谷 勉

コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者

日比谷 勉

Tsutomu Hibiya

日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。

  • 2004年より、"採用の見える化"をゴールとしたHR TECHツールの自社開発をスタート。システム導入により蓄積されたデータは、その後の変化の激しいアルバイト・パート採用市場において、時代を先取りした施策の実施に貢献した。

  • 2008年からの"e-Recruiting戦略"の一環で開発した自社運営のアルバイト求人サイト「マックdeバイト」と一括応募を可能としたコールセンター設立による功績は、全世界でトップ1%の優秀な業績を残した従業員に贈られる「プレジデントアワード」を受賞。また2008年からは、日本マクドナルドのフランチャイズ店舗の比率70%化というビジネスモデルの転換期において、フランチャイズ法人のビジネスパートナーとして、採用・育成・処遇・福利厚生・労務の人事コンサルティングに従事。

  • 2014年、採用部門に復帰後、2015年からのマクドナルドの「V字回復」の成果に関して、年間7万人規模の人材確保の側面から大きく貢献した。

2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。

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