公開日 2018/10/16
アルバイト・パートに、最終的にはどのようなスキルや思いをもっていてほしいかという視点を持ち、その姿に近づくように育成して、社員登用したり、それぞれの人生の次のステージに向けて送り出したりする。それが現場からの「登用(一部は輩出ともいえる)」という、「フィールドHRサイクル」4つ目のポイントです。人材マネジメントにおいて一般的にあまり語られてこなかった「登用(輩出)」こそが、人材の採用・育成・定着すべてに影響を及ぼす、アルバイト・パートの人材マネジメントにおける最も重要な視点です。
「採用」「育成」「定着」。アルバイト・パートの人材マネジメントに関して、この3つの要素を重要とする考え方が一般的です。しかし、パーソル総合研究所は「登用(輩出)」という要素を加えた4つの要素を、アルバイト・パートの人材マネジメントに欠かせないものと位置づけ、「採用」「育成」「定着」「登用(輩出)」の4要素で構成される「フィールドHRサイクル」を提唱しています。
登用(輩出)とは、節目となる時期までに、アルバイト・パートにどのような状態になっていてほしいかを考えて育成し、その姿に近づけることです。登用の具体的なイメージとしては、育成したアルバイト・パートをそのまま社員として登用するケースや、大学生であれば次の新卒採用の対象になるケースがあります。また、全国展開している企業においてアルバイト・パートが引っ越す場合であれば、引越先の街にある店舗・営業所で再就職ポジションを用意し登用するケースもあります。また、自社での登用に直接結びつかない場合でも、アルバイト・パートの経験を活かして活力溢れる人生を歩み、広く社会で活躍する人材を育成するという視点に立てば、優秀な人材の「輩出」であるといえます。
節目の時期は、高校や大学の1年生でアルバイトを始めた学生なら学校を卒業するまで、転勤が多い夫を持つ主婦であれば3年後の転勤まで、または無期転換までの5年後といった具合に、多くは採用時におおよその想定ができます。採用した時点でアルバイト・パートの意見をヒアリングし、節目の時期におけるアルバイト・パートの成長イメージを持つようにします。晴れて節目の日を迎えたアルバイト・パートに対しては、壮行会や送別会を開催したり、最終日に少し早く業務を切り上げて全員で労いの言葉をかけたりするなど、盛大にお祝いしてあげたいものです。
先述の通り、アルバイト・パートの人材マネジメントは一般的に採用・育成・定着の3観点から語られ、定着をゴールとしがちですが、定着をゴールとすべきではありません。なぜなら、定着をゴールとした場合、人材を《辞めさせないこと》に躍起になり、本質的ではない制度を場当たり的に設けてしまうことが多いからです。例えば「まかない制度」「自社サービスの割引制度」「表彰制度」などは、アルバイト・パートの満足度を上げたり成長を促したりする良い制度ですが、一日でも長くアルバイト・パートに辞めずにいてもらうための目先の手段として導入した場合、本来意図した効果は期待できません。さらに効果を求めて次々と新たな制度を設けるものの、どれも失敗に終わり、運用の手間や費用だけが増えるという悪循環に陥りかねません。アルバイト・パートを様々な制度で引き止めている状態は、本当の意味での定着ではありません。アルバイト・パートが自発的にその職場で働くことを楽しみ、続けたいと思って前向きに働いている状態が、本来目指すべき定着の状態といえます。
登用や輩出をゴールとして設定すると、アルバイト・パートを引き止めておくためではなく、節目の時期までに、「どのような思いで、どのような姿になっていてほしいか」「職場で経験したことをどのように人生で役立ててもらいたいか」「そのために雇用主として何ができるのか」といった視点が持てるようになります。つまり、アルバイト・パート一人ひとりの仕事以外の時間の人生についても考えを巡らせるようになるのです。この登用(輩出)の視点こそが「フィールドHRサイクル」の特徴といえるでしょう。登用(輩出)の視点をもって作られた制度は、アルバイト・パートの満足度向上や育成において確実に効果を生む制度になっていきます。
では、登用や輩出を意識できている店舗・営業所では、どのような考えが基盤にあるのでしょうか。共通のする3つの心得をご紹介します。
アルバイト・パートに対しては、「辞めれば代替を雇えばよい」「社員のように手をかけて育成する必要はない」と考えている企業もまだまだ少なくありません。もし、そんな風に考えていたとしたら、今すぐ考えを改めるべきです。
なぜなら、アルバイト・パートの仕事は、サービスやビジネスの最前線であることがほとんどであり、アルバイト・パートのふるまいはブランドイメージに大きく影響するからです。また多くの場合、一歩仕事を離れればひとりの大事なお客様でもあるため、店舗で働いたイメージはブランドへのイメージに直結します。また、アルバイト・パートが働いた経験から抱くブランドへのイメージは、次の採用にも大きく影響します。学生が卒業時に後輩を紹介してくれることがあったり、今働いているアルバイト・パートのお子さんが数年~数十年先に店舗で働いてくれる人材になったりすることがあります。また「●●で働いた経験者は良い人材だ」と世の中に認知してもらえるレベルにまで育成の成果が出せれば、業界や社会への人材輩出会社としてのイメージも高くなり、さらにブランドに磨きがかかります。ブランドのイメージが高まれば、アルバイト・パートや新卒など採用力も向上します。このように、登用(輩出)は『フィールドHRサイクル』の終点であり起点にもなるのです。この現場ならではの『フィールドHRサイクル』を十分理解している店舗や営業所は、アルバイト・パート一人ひとりを大事にし、人材不足時代においても人材確保に困ることはないでしょう。
今でこそ、「働き方改革」や「ダイバーシティ」が盛んに謳われていますが、アルバイト・パートの現場では20年前から既に、高校生、大学生、主婦、外国人、高齢者といった多様な人材が働いています。一人ひとりの人生に寄り添い、働き手それぞれにとって幸せな人生につながる働き方が提供できれば、アルバイト・パートも自然に定着していきます。例えば、主婦の中には、家事で磨かれたスキルや過去の社会経験で培った能力など、多才な人が多くいます。それぞれが持つ強みを活かせるポジションに配置することで、しばらく社会から離れていた主婦に再び社会貢献を意識しながら生き生き働いてもらうことが期待できます。高校生など未成年者に対しては、労働時間の管理はもちろん、飲酒や喫煙といった法の遵守に関しても、雇用主として必要な範囲内は責任を持って指導すべきです。一方、仕事に関しては半人前扱いをせず、任せるところはしっかり任せ、お客様や仲間、社会への貢献を感じられる仕事を与えることで、将来社会に出て行くための基礎的な良い準備期間となるでしょう。仕事の先にある一人ひとりの人生について、少しでも豊かにするために雇用主として何ができるのか。このような視点を持って育成に取り組んでいる企業は、登用や輩出を意識した人材マネジメントが機能しているといえます。
(1)(2)で示したようなアルバイト・パート一人ひとりに寄り添った人材マネジメントは、アルバイト・パートと日々、直に接している現場のリーダー(店長や支店長など)でなければできないことです。現場において最も影響力があるのは現場のリーダーであり、いくら全社的に啓蒙したとしても、現場のリーダーが行動しなければ何も変わらないからです。そのため現場のリーダーが現場の人材マネジメントに注力できるように、現場と本部で担うべき役割を明確にし、分担することが重要です。例えば、本部は採用ブランドの構築や出稿管理、カリキュラムやマニュアルの策定など、全社的な戦略が必要な部分を担い、現場は面接やカリキュラムの説明、仕事を通した人生のビジョンに関するヒアリングなど、アルバイト・パートと顔と顔を突き合わせたコミュニケーションが必要となるような役割を担うといった具合です。現場と本部の役割分担のあり方は、企業によって異なるため、現場と本部が蜜にコミュニケーションをとって最適なあり方を見出していくべきです。そのためにも、現場と本部の間は風通しを良くし、コミュニケーションが図りやすい体制を構築する必要があるでしょう。
登用(輩出)について熟慮の上、考えてアルバイト・パートの人材マネジメントを行っている企業は、働く人の人生について考え抜いている企業といえます。結婚して仕事を辞め主婦になった女性が再び社会で活躍するきっかけを提供したり、定年後のシニアに新たな活躍・貢献の場を提供したり、外国人が日本での生活基盤を築くきっかけを作ったり、地元で働ける機会を提供したり......。登用や輩出までを視野に入れて、アルバイト・パート一人ひとりに寄り添った人材マネジメントをすることは、働く人それぞれの人生を豊かにします。そして、このような雇用のあり方が広がっていけば、人手不足問題の解決にもつながっていきます。アルバイト・パートの雇用を担う現場は、社会的な意義も深く、重要な責務を担っています。今後も真摯にアルバイト・パートの人材マネジメントに向き合っていっていただき、その取り組みの中で、フィールドHRラボ発信の情報が少しでも役立つことを願っています。
コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者
日比谷 勉
Tsutomu Hibiya
日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。
2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。
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