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HOMEコラム 『日本型雇用システム改革』の指針~組織の人事権と個人のキャリア権の関係変化に対し、組織・個人はどう対応すべきか~

執筆者:コンサルティング事業本部 ディレクター 長谷川 直紀

近年、ジョブ型人事導入の相談が再び増加している。個人の長寿化や組織の短命化などマクロ環境が構造的に変化し、その環境変化が「組織の人事権」と「個人のキャリア権」の従来の力関係に変化を及ぼしている。こうした構造変化が、多くの企業にジョブ型人事への改定を含む日本型雇用システム改革を迫っているためだ。このような状況の中、今後、組織と個人はどのように対応していけばよいのだろうか。
組織・人事コンサルタントと事業会社の人事の経験を併せ持ち、これまで20年以上にわたり「人と組織」に専門的に関わってきたコンサルタントが解説する。

  1. 人事制度改革アングルの変化
  2. 組織における人事権と個人のキャリア権の関係変化が迫る根本的改革
  3. 日本型雇用システム改革のために組織がチャレンジすべきこと

人事制度改革アングルの変化

筆者は1990年代後半から10年強、組織・人事コンサルタント、その後直近まで日系企業の人事という経歴をもつ。コンサルタントに復帰し、さまざまなお客様とお話をさせていただく中で、ジョブ型人事への改定ニーズが多く聞かれたが、実は当初、「またか」という強い既視感を覚えた。以前コンサルタントだった際、ジョブ型人事への改定は数多く手がけたテーマのひとつだったからだ。

しかし、お話をよく聞くと背景が大きく変わったことに気がついた。以前は、いびつな人員構成の是正や成果主義の導入等に伴う話だったが、今は個別企業のパフォーマンスという次元を超え、より構造的なマクロ環境変化―個人の長寿化と組織の短命化―への対応というアングルに変化していたのである。

組織における人事権と個人のキャリア権の関係変化が迫る根本的改革

個人の長寿化と組織の短命化が、なぜジョブ型人事への改定を含む、日本型雇用システムの改革を余儀なくさせるのか。それは、そうした構造変化が、組織の人事権と個人のキャリア権(※)の関係を反転させるからだ。戦後の高度成長期から発展し、確立された日本型雇用システムの本質は、「組織の人事権 >個人のキャリア権」という構図にあった。

組織は、新卒一括採用した個人を年功序列的に処遇し、定年までの雇用を保障する代わりに個人のキャリア権を預かり、異動配置や働き方に関し、強い人事権を行使する。一方、個人は、組織にキャリア権を預ける代わりに、将来にわたる処遇・雇用の保障を得る。経済が成長し続けた時代は、このシステムにより、双方がメリットを享受した。また、90年代後半以降の低成長時代においても、多くの個人にとって「悪くはない」システムだった。この時期にジョブ型人事制度が導入されはじめたが、人事異動を阻害しない前提で設計されるケース(ブロードバンド&重複型報酬レンジ)が多く、強い人事権は温存された。

ところが現在、「人生100年時代」を迎え、グローバル化・デジタル化が組織の短命化を促すトレンドにある。個人がひとつの組織に居続ける可能性はゼロに近づき、組織間を動くのが当たり前になったのである。こうなると、個人は組織に預けていたキャリア権を取り戻し、自ら行使する一方、組織は人事権が弱まり、個人に選ばれるか(=キャリア権行使の対象になるか)が課題になる。

こうした状況の中、今後、個人と組織はどう対応していけばよいのか。まず個人には、自分らしくあり続ける上で譲れない軸、例えば仕事に求める意義、スタンス等を定め、学習・学習棄却を繰り返しながら探求し続けるようなキャリア構築が求められるだろう。自分を生かす/活かすキャリアは、キャリアを構築する権利・義務を持つ自分自身で見い出すしかない。

※ 諏訪康雄法政大学名誉教授が提唱。「働く人が自分の意欲と能力に応じて希望する仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利」という意味合いで使用される。

日本型雇用システム改革のために組織がチャレンジすべきこと

一方、組織には、大きく3つの対応が求められる。

第一に、組織ミッション・人事方針といった、揺るぎないポリシーの明確化と、それに基づく個人との継続的対話である。個人に働く場として選ばれるためには、ハイコンテクストを改め、組織が個人に何を期待し、どのように報いる用意があるかを分かりやすく明文化し、絶えず進化させていく必要がある。『Netflix Culture Deck』が分かりやすい例だが、そこまででなくとも、多くの日本企業が、組織ミッションや人事方針の明文化・ブラッシュアップに心を砕いている。それがあってはじめて、組織と個人の期待のズレを確認し、すり合わせるという意味での「対話」が可能となる。またこの対話は、愚直に繰り返す必要がある。組織と個人の間に生じたちょっとした隙間を放置した場合、それが大きな誤解・曲解を招き、最終的には入社拒否やフリーライダー化、離職等、個人が組織から離れたり、弱者保護の法令等を背景に、訴訟に発展したりするリスクも想定すべきだろう。

第二に、ジョブ型人事の導入と、組織内外の個人を視野に入れた適所適材の徹底である。ジョブ型人事制度の設計にあたっては、デジタルビジネス変革がもたらす組織の柔構造化をどう取り込むか等が課題となる。 ただ、設計以上に重要なのは、その運用だ。組織が、社内外の人材に常にアンテナを張り巡らし、その時々の見極めとタイムリーな適所適材を徹底できるかが成否を分ける。

過去、本来下方硬直を意図していなかった職能資格制度を、惰性の年功的運用により年功序列的制度の代名詞にしてしまった経緯を踏まえても、運用徹底の重要性は、強調してもしすぎることはない。

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第三に、個人のキャリア権行使に対する支援である。これは、日本型雇用システムに長く身を委ね、それを常識化してきた個人(ミドル・シニア世代等)に対し、よりその重要性を増す。組織はそうした個人に対し、自分らしさを追求すること、及びそれが積極的に受容されるべきこと(心理的安全性)に対する理解を醸成し、その実践を強く後押しするのである。これまで長年積み上げてきた組織と個人の関係を反転させざるを得ない組織にとって、こうした支援を行うことは「責務」といえるのではないだろうか。また、その延長線上に組織内労働市場の活性化、企業グループ内等の中間労働市場の創設、副業・兼業のさらなる奨励、リカレント教育を含む自己啓発支援等が、ソフトランディングに向けた課題として浮上する。

以上の課題はいずれも挑戦的な内容であり、実行にあたっては、大きな抵抗が予想されるものばかりである。しかし、そこで佇んでいては、組織も個人も、構造的な変化の波に飲み込まれてしまう。自らの未来を切り拓く意志と行動が、組織・個人の双方に問われている。

※本記事は、HITO 第15号『開国、ニッポン!~試される日本企業、外国人材に選ばれるにはどうするか~』からの抜粋です。からの転載です。


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執筆者紹介

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ディレクター

長谷川 直紀

Naoki Hasegawa

マーサージャパン株式会社においてプリンシパルを歴任、人事戦略策定・制度設計・人材開発、再生・M&Aに伴う組織・人事変革等、多数のプロジェクトをリード。
その後、日系企業2社の人事部長として、人事全般の立ち上げ・変革、労務、役員指名・報酬関係等を担当。2019年9月より現職。

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