【セミナーレポート】トランジション支援で新任管理職を強化・育成する

公開日 2024/10/21

経済の長期停滞や人手不足の深刻化といった中長期にわたる経営環境の変化を受け、人や組織に関するHRM(ヒューマンリソースマネジメント)の動向も、職場環境もさまざまに変化している。ミドルマネジャーが果たすべき役割も複雑化し、それに伴ってマネジメントの難易度はより一層高くなってきているのが現状だ。そのような流れの中、新たなマネジャーをどのように育成していけばよいのか、新任管理職を強化・育成するにはどのような支援が必要となるのか? 人材開発・組織開発を専門とする立教大学経営学部の中原淳教授とのセッションから支援策を考える際のヒントをご紹介しよう。

  1. マネジャーは戦略実行の要。育成には管理職になる前からの教育投資が必須
  2. 旧来型の育成支援では間に合わない。新任が行き詰りやすい3つの挑戦課題を踏まえた支援がカギ
  3. マネジャー育成にはプロセスでの支援が大事。長期スパンで育成していく環境と仕組みの整備を

マネジャーは戦略実行の要。育成には管理職になる前からの教育投資が必須

セミナーの冒頭では、ミドルマネジャーをめぐるトレンド変化について概略が紹介された。1990年代以降の長期トレンド、2000年代以降の中期トレンドを見ていくと、マネジャーを取り巻く環境がどんどんシビアになってきていることがわかる。

図1.中間管理職をめぐるトレンド

中間管理職をめぐるトレンド

なかでも「働き方改革」の中間管理職への影響は大きい。パーソル総合研究所が実施した調査では、働き方改革が推進されるほど管理職の業務量が増加していることが明らかとなった。また働き方改革が進む中で部下育成に自信がもてない管理職も7割以上にのぼっている。コロナ禍を経てリモートワークという新たな働き方が加わったことや、部下のキャリア自律支援といった新たな役割も付加され、ミドルマネジャーをめぐる環境はますますシビアさを増している一方、役割としての重要度はより大きくなっている。

図2.働き方改革の中間管理職への影響 調査結果

働き方改革の中間管理職への影響 調査結果

では、この先ミドルマネジャーとして新たな人材を育成していくには何が重要となってくるのだろうか。

中原淳教授とのセッションはまず、「なぜマネジャー育成は重要なのか?」との根本的な問いからスタートした。この問いに中原教授は「企業の戦略を実行する要であるから」と答える。

「とくに現代は企業を取り巻く環境が刻々と変化をしていますから、企業戦略も昔より速いスピードで変わっていきます。自社がどんな方向に行こうとしているのか、経営層がどのようなことを考えているのか、企業としての戦略をわかりやすく、しかも納得感をもってメンバーに伝えられる存在がメンバーの近くにいるマネジャーです。マネジャーは企業経営の浮き沈みを担っている存在。だからマネジャーの育成は重要なのです」

ただし、「グッドマネジャーを育成するには、やはり時間がかかる。したがって管理職になる前から、マネジャーになるための教育投資をしていくことが非常に大事だ」と指摘する。

旧来型の育成支援では間に合わない。新任が行き詰りやすい3つの挑戦課題を踏まえた支援がカギ

続けて、マネジャーをめぐる状況の変化とマネジャー初心者が行き詰まる可能性がある難易度の高い課題についても尋ねた。

中原教授は2014年に上梓した著書(『駆け出しマネジャーの成長論』)で、プレイヤーからマネジャーへ移行するプロセスにおいて、駆け出しマネジャーを襲う5つの環境変化「突然化」「二重化」「多様化」「煩雑化」「若年化」をあげている。それから10年が経った現在、状況は10年前よりもさらに厳しく、難しくなってきていると話し、「旧来型の管理職向けの育成支援では間に合わないし、マイナーチェンジをするだけでは足りない。支援のあり方を根本から見直していく必要がある」と話す。

さらに、マネジャーになった際に多くの人が直面する共通課題には、図のような7つの項目があり、この中でもとくにマネジャーになったばかりの新任の段階だと難易度が高く、行き詰まる可能性があるのが「部下育成」「目標咀嚼」「プレマネバランス」の3つと説く。この3つはつながっており、目標を噛み砕いてメンバーに下ろすことができないと、メンバーの育成すべき点も明確にならず部下育成が進まなくなり、結果として自身がプレイヤーにならざるを得ず、プレイングとマネジメントのバランスが崩れて時間をうまく使えなくなることで、目標を咀嚼する時間がますます持てなくなるといった負のスパイラルにもつながっていきやすい。

図3.7つの挑戦課題

7つの挑戦課題

マネジャー育成にはプロセスでの支援が大事。長期スパンで育成していく環境と仕組みの整備を

では、こうした3つの課題がある中で、新任マネジャーへの支援策はどのように行っていけばよいのか。支援策として取り入れたほうがよいこと、反対にやめたほうがよいことを含めて教えてもらった。

「マネジャーになる=実務担当者から生まれ変わること。ですから学び直しが必要になりますし、マネジャーとして成果を発揮できるまで1~2年ぐらいのスパンは必要です。長期スパンでしっかりフォローアップしていきながら、成果を発揮できる環境ならびに仕組みを整えていく。新任マネジャーへの支援では、ここが一番のキーポイントです。

たとえばマネジャー候補の人材には、はやくから意識づけを行っていき、マネジャーになった数か月後に一度振り返りの機会を設けて、これから何をしていくかをコーチングやフィードバックを通して整理する。前段階として、20代後半~30代ぐらいから自分の将来キャリアについて考える機会があるといいですね。

そして研修を行ったら、その後に実践期間を設けて、そこで溜まったものをまた次の研修で振り返る。そこで新たな武器を渡して、また実践してもらう。こうしたサンドイッチ型でやっていくのがよいと思います。時間はかかりますが、このようにプロセスで支援していくことがマネジャー育成には大事です。

あとはマネジャー同士が集まって、それぞれが抱えている課題や現場で困っていることを共有し合える場をつくるのも支援策としては有効だと思います」

反対に、半日~1日程度の階層別研修をイベント的に1回やって終わらせるということはやめたほうがよいと指摘する。

また「マネジャーになりたくない人が結構多い」との言説についても伺った。メディアのアンケートなどで、このようなネガティブな結果が出てくることに対して中原教授は、「マネジャーになりたくない人が増えています、マネジャーになりたくない人はこれだけいますというほうがメディアは注目を集めやすい。けれども実際にはマネジャーになってよかったという声は結構多い」と話す。

たとえば「チームで大きなことを成し遂げられる」「自分の裁量で仕事を組み立てられる」「スケジュールがフレキシブルになる」「 転職市場においての付加価値が上がる」といったポジティブな声がマネジャー職の人たちから多く聞かれると言い、ネガティブなイメージを払拭するためにも、「若いうちからキャリアについて話し合い、考えてもらう場をつくることが大事」と説く。

ビジネス環境が大きく変わるなか、戦略遂行の要であるマネジャー育成はビジネスで勝つための不可欠な教育投資だ。「本日のまとめ」を参考に、自社の新任管理職、新任マネジャーの育成施策を見直し、手厚く、丁寧なマネジャー育成をぜひ考えていきたい。

登壇者紹介

立教大学 経営学部 教授 中原 淳氏

立教大学 経営学部 教授
中原 淳氏

Jun Nakahara

東京大学卒業、大阪大学大学院、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。専門分野は人材開発・組織開発。単著(専門書)に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)、人材開発研究大全(東京大学出版会)。一般書に『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』『働くみんなの必修講義 転職学』『チームワーキング』など、その他共編著多数。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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