【セミナーレポート】NTTドコモが取り組む、管理職の学びと現場実践 
~承認、対話、ビジョン発信!これからの時代に対応したマネジメントをめざして~

公開日 2024/11/11

現在、人事における大きな課題となっているのが「キャリア自律」「ダイバーシティ推進」「働き方改革」の3項目だ。これらに関連する取り組みの推進には、現場で社員をマネジメントする管理職、中でも課長の存在価値や責任が大きくなってきている。その一方、課長を支援する研修施策については、「研修は任用時だけ」なおかつ「評価者研修やハラスメント研修などの座学が中心」といった内容の企業も少なくない。しかしさまざまな課題に対して現場で奔走する課長を支援するには、従来の研修のアップデートを考えていくことも必要ではないだろうか。そこで今後の課長支援を考えていく際の参考事例として、株式会社NTTドコモが進める「既任課長研修」のポイントを総務人事部の村田 麻衣子氏にご紹介いただいた。

  1. 課長層は経営と現場をつなぐハブ。研修で既任課長層のスキルとマインドのアップデートを目指す
  2. マネジメントのポイントを学び、実践で経験。翌年度の組織運営にもつなげていく効果的な研修をデザイン
  3. 【対話セッションから】

課長層は経営と現場をつなぐハブ。研修で既任課長層のスキルとマインドのアップデートを目指す

NTTドコモでは「あなたと世界を変えていく。」をブランドスローガンとして、イノベーションにより社会を大きく変えていこうとの挑戦を始めている。挑戦に向けた組織づくりの要は、経営と現場をつなぐハブであり、会社事業の中核を担う存在でもある課長層。会社の持続的な成長を支える重要な役割としてこの層を位置づけ、課長層に特化してアプローチを強化しているという。

そのため任用1年目に受講する「新任課長研修」のみだったところに、新たに2019年度から任用3年目に受講する「既任課長研修」を追加。すでに2年前より課長職にある層に対して、スキル・マインドのアップデートを図りたいと考えてのことである。

その導入背景には「環境の変化」と「社員意識調査による課題感」の2つがあった。

予測不能で成功パターンが効かない時代に変わったことで、今はメンバー全員が実践知を出し合いながら価値を生み出していくことが必要だ。マネジャーには、これまでのやり方をアップデートし、対話をより重視したチーム作りが求められるようになっている。

さらに、年に一度実施している社員意識調査(現:エンゲージメント調査)の結果から見えてきたのは、社員の働きがいに最も影響を与えるのが「貢献・承認・成長」の実感であること。ここへの社員の期待が高い一方で現状とギャップがあり、ギャップ解消の必要性を感じたことだった。

「既任課長研修」の最終目標は課長層の行動変容。そこにつなげるべく、研修では図にあるような達成目標を据えた。

図1.既任課長研修 達成目標

既任課長研修 達成目標

マネジメントのポイントを学び、実践で経験。翌年度の組織運営にもつなげていく効果的な研修をデザイン

研修の形式は「本研修(Day1)」「OJT実践期間」「フォロー研修(Day2)」の3部構成で、約半年にわたり集合とオンラインを交えて伴走するような形式を採用した。「それにより確実な行動変容につなげていくことができたと感じます」と村田氏は話す。

また同社の「既任課長研修」には2つの大きな特徴がある。ひとつは社員の行動を促すポイントを整理したこと、もうひとつは学びのタイミングを工夫したことだ。

「社員の行動を促すポイントとして、行動科学の原則に基づき、組織マネジメントの基本を6つに整理して学べるようにしました。また学びのタイミングでは3つの工夫点があります。まずはDay1とDay2の間にOJT実践期間を配置し、行動計画書の作成やグループメンバーとの対話、上司との対話などを通してDay1での学びを実際に実践し、さらにDay2のフォロー研修で、実践してみての気づきを自身のスキルとして身につけられるように全体をデザインしました。

2点目は6つの整理ポイントを学びのテーマに合わせて振り分けて配置したこと。Day1では、OJT期間で経験を積めるように、日々の部下とのコミュニケーションに関するテーマを配置し、Day2では理念やビジョンの共有など翌年度の組織運営に役立つ内容を配置しました」

図2.特徴. 意図した学びのタイミング①②

特徴2. 意図した学びのタイミング①②

3点目が上長とのコミュニケーションの強化だ。研修内容に合わせ、適切なタイミングで課長と上長にあたる部長との面談の機会を用意。研修の中では計4回、上長と対話する機会を設定している。

学びを現場の実践につなげ、学んだ内容がスキルとしてしっかり身につくよう工夫された研修は受講者からも好評だ。たとえば「OJT期間があることでメンバーと何でも相談できる関係が構築できた」「上長の育成に関する考え方、自分への期待を知ってモチベーションが上がった」「学んだことを徐々に実践に移して少しずつ成長している実感を得ることができた」「より多くの管理者の悩みや良い取り組みを学ぶ機会ができた」「課長同士のネットワーキングができていろいろな経験や悩みの相談に役立った」などの声が寄せられているという。

事例紹介の最後では、この先の展望についても話していただいた。

「マネージャー・ジャーニーのような流れをつくって、組織の要である課長が成長、挑戦し続けられるよう全面的にサポートしていく環境を整えたいと考えています。また日々の中で、課長同士の自発的な対話や交流を促進していくような仕掛けづくりも必要と考え、23年度からは『Manager Meetup』という参加自由のゆるやかな勉強会も開始しました。こういう企画を待っていたといった声をたくさんいただきまして、マネジャー同士の横のつながりとか日々の交流を皆さん求めていたんだと実感しています。今後も仕事のワクワク感や成長への手応えを感じられるような企画を考えていきたいと思っています」

【対話セッションから】

  • 「課長3年目」という時期の研修はタイミングとしてどう感じていますか?

3年目はマネジャーとして2年間の経験を積んでいます。マネジャーとしての自分の型のようなものができてくる時期でもあり、悩みなどもたまってくる時期ですので、現場から一度離れて自分のマネジメントを振り返り、見つめ直して次の段階に進化していっていただくにはよいタイミングではないかと感じています。

  • 「6つのポイント」の中で、特に受講者に響いているものはどれでしたか?

響いているポイントは複数あると思うのですが、受講者からの反響が大変大きかったのはコーチングのロープレです。自分が実際に面談でどう話しているのかを確認することができて、伝え方についてさまざまな気づきを得られていたようでした。

  • 人事として「6つのポイント」の中で、特に受講者に学んでほしいと思っているものはありますか?

自分の言葉でビジョンを語るという部分です。会社のビジョンや組織の目標などを自分の言葉で語ることは、頭の中ではできていても、実際にやってみるとなかなかできません。最近はリモートワークがメインの働き方になってきていることもあり、意図してしっかりコミュニケーションをとっていくことが必要です。ビジョンや目標も、ただ「こと」として伝えるのではなく、ナラティブな要素を入れて伝え、メンバーとしっかり共有していくことが重要になってくると思っています。

登壇者紹介

株式会社NTTドコモ 村田 麻衣子氏

株式会社NTTドコモ
総務人事部 採用育成 育成担当

村田 麻衣子氏

Maiko Murata

2005年株式会社NTTドコモ入社。以降13年にわたりモバイル通信事業の企画業務に従事し、代理店戦略やオンラインチャネルの顧客基盤拡大、顧客接点の創出を担当。人材育成への興味から2018年に人事部門にキャリアチェンジを決行。現在は、主にマネージャー層向けの研修と、全社企業文化変革プロジェクトの企画・設計を担当。二児の母。国家資格キャリアコンサルタント。

※文中の内容・肩書等は2023年マネジメントセミナー開催当時のものです。

  • 「日本の人事部」HRワード2024 書籍部門 優秀賞受賞

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