【イベントレポート】企業事例紹介 双日株式会社
『動的KPI』を活用した「双日らしい人的資本経営」を実践

公開日 2022/10/18

【イベントレポート】企業事例紹介 双日株式会社『動的KPI』を活用した「双日らしい人的資本経営」を実践

自動車やプラント、エネルギーや金属資源、化学品、食料資源など、全世界で幅広くビジネスを展開する大手総合商社「双日株式会社」。2004年に日商岩井株式会社とニチメン株式会社が統合して発足した同社では、合併後の財務基盤立て直しを優先し、足元の収益を支える「稼ぐ」事業への投資に注力してきた結果、多くの日本企業同様、人的資本を含む無形資産への投資の遅れが課題になっていた。その課題を改善すべく「2030年における目指す姿」をゴールとした「中期経営計画2023~Start of the Next Decade~」を策定。無形資産の根幹である人材戦略に関しても、経営戦略ならびに事業戦略と連動させ、「双日らしい人的資本経営」の実践に着手し、その取り組み内容は「人材版伊藤レポート2.0」でも好事例として紹介されている。同社が実践する「双日らしい人的資本経営」とはどのようなものか、常務執行役員 人事、総務・IT業務担当本部長の橋本 政和(はしもと まさかず)氏に伺った。

双日株式会社 橋本 政和氏

双日株式会社 常務執行役員 人事、総務・IT業務担当本部長
橋本 政和氏

1990年日商岩井株式会社(現 双日株式会社)入社。愛知県出身。入社後は物流部隊に配属、以降、ロシアCIS関連事業、5年半の米国デトロイト駐在を含め自動車関連事業を担当。2011年にインフラ事業へ転身、鉄道、再生可能エネルギー、ガス事業、社会インフラ、ヘルスケア事業の開発に取り組む。2017年執行役員 環境・産業インフラ本部長、執行役員 エネルギー・社会インフラ本部長、常務執行役員 インフラ・ヘルスケア本部長を経て、2022年4月より現職。2030年のありたい姿、「事業や人材を創造し続ける総合商社」を体現すべく、多様性と自律性を備える「個」の集団の形成に向けて、人的資本経営の推進と企業価値向上に取り組む。

  1. 双日の人材戦略における3つの柱
  2. 多様性・挑戦・成長実感をベースとした多彩なキャリア支援・働き方支援
  3. サーベイデータと動的KPIを施策や情報発信に効果的に活用
  4. 2030年を見据えたジョブの効率化を目指す

双日の人材戦略における3つの柱

2021年度からスタートした同社の「中期経営計画2023~Start of the Next Decade~」では、2030年のありたい姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げている。そのための経営戦略と、事業戦略・人材戦略とを連動させ、自社の成長と社会への還元という2つの価値の実現につなげていくことを目指している。(図1)

図1.人材戦略における経営戦略・事業戦略との連動
図1.人材戦略における経営戦略・事業戦略との連動

なかでも人材戦略は、無形資産の根幹を成すもの。これまでトレーニー制度や研修の実施に留まって、必ずしも十分とは言えなかった人材への投資についても、戦略的な人的資本投資を加速的に本格化させている段階にある。

柱としているのは、多様性を「活かす」、挑戦を「促す」、成長を「実感できる」の3つ。これら3本柱を支えに、「多様性と自律性を備える『個』の集団」を創り上げていくのが人材戦略の全体像だ。

多様性・挑戦・成長実感をベースとした多彩なキャリア支援・働き方支援

3本柱それぞれにおいて、現在は次のような取り組みを展開している。

まず「多様性」の分野では、女性活躍推進はもちろんのこと、事業戦略の要諦であるビジネスモデルの変革や事業トランスフォーメーションを実現するためのデジタル人材の育成、海外マーケットインを効果的に進めるための外国人人材の活躍支援などがある。

「挑戦」の分野では、新規事業創出に向けた「Hassojitz プロジェクト」(組織横断型の新規事業創出プロジェクト)や独立起業支援制度、双日退職後に現役で活躍しているOB・OGと現役社員とをつなぐ人的ネットワーク「双日アルムナイ」などを用意している。「成長実感」に関しては、年代に関わらず成長を実感できる機会を提供。若手人材にはトレーニー制度やメンター制度、ジョブローテーション、手挙げ型の選抜研修や早期登用といったプログラムを用意し、シニア層にも自主的な学び直しを行うことができるリカレント教育の場を提供している。

「早期の段階から、自らのキャリアを自分ごととして捉える教育を行い、キャリア形成のステージごとに、自律的な成長を支援するさまざまな制度を設けています」

また仕事に対する価値観や働き方へのニーズが多様化していることを受け、ジョブ型で働くことが可能な「双日プロフェッショナルシェア(SPS)」というジョブ型雇用の会社もある。ジョブ型を希望する社員は、SPSに移籍したうえで本社業務を継続する、他部署からの業務を受託する、あるいは介護や育児、家業との兼業など、多様な働き方が可能だ。(図2)

図2.人材戦略を支える3つの柱
図2.人材戦略を支える3つの柱

サーベイデータと動的KPIを施策や情報発信に効果的に活用

このような多様で多彩な人事施策を展開できる背景には、全社員を対象に2020年から実施している同社独自のエンゲージメントサーベイ(それまでは外部サーベイを活用)がある。これは経営目標の達成に資す要素をあぶりだして設問とし、データ化しているものだ。

サーベイデータは、社員の声として捉えて現場に即した施策の導入につなげたり、人事施策の効果検証や改善に活かしたり、モニタリング結果をもとに経営会議・取締役会で議論して新たな施策の策定につなげたり、文化浸透度を把握したり、さまざまに活用されている。

また、人事施策において特に注力すべき6つのカテゴリについて、KPIとして定量目標を定め、進捗をモニタリングしている。

同社がデータ活用の一例として紹介するのが女性社員のキャリア育成だ。

「以前実施したエンゲージメントサーベイにおいて、女性の海外勤務に対する意欲が年齢を重ねるにつれて徐々に低下していくというデータが出てきました。結婚や出産といったライフイベントを迎える30歳付近を超えると、その意欲が急に低下する傾向にあることがわかり、女性については20代のタイミングで海外出向や国内出向を経験してもらう“キャリアの早回し”施策を導入しました」

重点施策と位置づけ、その進捗を見える化するため、女性総合職の海外国内出向経験割合をKPIとして設定。“キャリアの早回し”施策を実行した結果、19%だったKPI数値は2021年度には34%に上昇した。(図3)

図3.人材KPIの設定とモニタリング体制整備
図3.人材KPIの設定とモニタリング体制整備

同社のKPI設定で特徴的なのは、KPIを“動的KPI”と位置付け、外部環境や経営目標などの変化に応じて柔軟に見直しと修正ができるようにしている点だ。それによりKPIの達成そのものが目的化することを避けられ、実効性の高い施策の策定につなげられると言う。

またエンゲージメントサーベイのデータ活用ならびに動的KPIでのモニタリングによって、経営現場との会話が増え、より経営戦略・事業戦略と連動した人事戦略が可能になる、施策が正しく浸透しているか確認できる、現場課題に沿った人事施策が導入できるなどの効果も得られる。情報開示の観点でも有用だ。

「人材KPIで可視化されたデータや、それに基づく施策内容などを統合報告書やウェブサイトを通じて対外発信することで、人的資本経営に関する弊社の取り組みを適切に理解していただくことができていると実感しています」

2030年を見据えたジョブの効率化を目指す

では、この先についてはどのように考えているのだろうか。

「2030年の社会ではAIテクノロジーの進化や人材の流動化、少子高齢化による労働力不足、価値観や働き方の多様化がより一層進んでいるであろうことを踏まえ、それに向けての仕組みづくりが必要になります。なかでも人材確保が難しくなるため、社内外のリソースを機動的に活用し、人材のレバレッジを上げていくなどして、時間当たりの生産性を高めていく必要性があると考えています」

具体的なイメージとして描いているのがジョブ効率の向上だ。

「商社の場合、事業部門が縦割りで属人性が高く、メンバーシップ型の仕事が多い。効率の面からは無駄が生まれやすい現状です。そこから脱却するためにジョブを見える化し、さらに切り分けを行って、機動的な人材配置やデジタルへの置き換えなど、それぞれに対応していくことで労働力のレバレッジを上げ、ひいては生産性を上げていくことができると考えています」(図4)

図4.生産性向上に向けたジョブの可視化
図4.生産性向上に向けたジョブの可視化

ジョブの切り出しの後、適切な人材を適切に配置するためには、人の情報を集め、データドリブンのタレントマネジメントを加速していく必要がある。(図5)

図5.業務の見える化+ヒト情報の充実→適所適材・適材適所の実現
図5.業務の見える化+ヒト情報の充実→適所適材・適材適所の実現

同社ではすでにパーソルの『HITO-Talent(ヒトタレント)』を活用し、データベースを蓄積している。今後は、それをより広範に活用できるよう、データをさらに広く厚く収集して、ヒト情報の拡充を目指している。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

関連コラム 《人的資本経営》多様な個を尊重し、挑戦を促すことで企業発展につなげたい
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/interview/i-202206100002.html

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