それって営業の仕事ですか?――アカウント型ソリューション営業のための業務仕分け
~The Model(ザ・モデル)だけでは、なぜうまくいかないのか? ④~

前回のコラムでは、営業活動の進め方、いわゆる「営業プロセス」の策定に必要な考え方と方法について考察しました。また営業プロセスを効果的なものにするためには、各フェーズにおける「顧客の期待」を明確にし、その期待に応えるために必要な活動項目を具体化していくことが重要である、とお伝えしました。

では、入念な仮説と検証によって策定された営業プロセスと活動項目さえあれば、今よりもっと成果が出せるのか?…というと、残念ながらそうではありません。策定した営業プロセスの実行に際し、営業部門は以下のような問題に直面するのではないでしょうか。

  • 営業担当者は、顧客との直接のコミュニケーションの他に、従来から様々な付帯的な業務を行っているため、常に多忙である
  • 営業担当者の負担を軽減するために、他のメンバーに業務を任せようとしても、属人的な業務も多く、移管が進まない
  • そのため、策定したプロセスや個々の活動項目を実行に移すことが難しい

効果的な営業プロセスや活動として策定される項目の中には、従来から行ってきたこともあれば、より成果を出すために必要なこととして新たに追加されることもあります。後者の要素が多いほど、営業担当者の負担感は増大していきます。そのため、従来の業務も含めて洗い出して整理する、優先順位を付ける、役割分担を見直す…といった解決策を取らないことには、せっかく熟慮を重ねて策定したプロセスが「絵に描いた餅」になってしまいます。

そこで今回は、営業担当者の負担となっている業務をどのよう整理するか、そして新たに加わったプロセスや活動も含めて着実に実行していくための体制をどのように作っていくかについて考察します。

  1. その業務から解放されたら、もっと成果が出せる? 業務仕分けは「省力化」ではなく「増力化」
  2. 分業体制だからこそ、もっとできることはないか? 営業部門全体としての提供価値の再定義
  3. The Modelの効果を最大化したいなら、避けては通れない議論

その業務から解放されたら、もっと成果が出せる? 業務仕分けは「省力化」ではなく「増力化」

最初に、顧客へのヒアリング、提案、交渉など、営業担当者としてのコアな業務の他に、どのような業務が発生していのるか、その中でどのような業務が負担となっているのか、どのような業務が目標達成やさらなる成果創出の障害となっているのか、という観点での業務仕分について考えます。そのような類の業務を、ここでは「付帯業務/負担業務」と呼ぶことにします。

まずは前回のコラムでお伝えした営業プロセスごとに、どのような付帯業務・負担業務があるかを洗い出します。洗い出した後は、以下の軸で設定した4象限をつかって、各業務をマッピングしながら整理をしていきます。(図1)

<4象限の軸>

  • 縦軸:その業務は、お客様ごとに個別の事情を知る必要があるか?/多くのお客様に共通することを知っておけばよいものか?
  • 横軸:その業務は、専門的な知識が必要か?/一般的な知識で対応が可能か?

図1:付帯業務・負担業務の整理(例)

図1:付帯業務・負担業務の整理(例)

また、洗い出した付帯業務・負担業務を4象限でマッピングして整理する際は、あわせて以下の観点で業務を評価しましょう。

  • 「心理的スイッチングコストが高そうなもの」

・営業担当者でなくても対応できそうな業務ではあるが、顧客が「営業担当者でないと」「○○さんでないと」と思っているか?
・丁寧な説明により顧客の理解を得ながら、他のメンバーに移管できるか?

  • 「特に価値が高いと考えらえるもの」

・営業担当者ではなく、より専門性の高い人に任せることは可能か?
・単体のサービスとして顧客から対価をいただくことは可能か?

このように付帯業務・負担業務を整理すると、たとえば「共通かつ一般的」である業務は、営業担当者が担う必要がないので、たとえば事務センターを立ち上げて業務代行をしてもらう。「共通かつ専門的」である業務は、営業とは別に専門部隊を立ち上げて、提案書のひな型や業界向けの専門的な資料を作ってもらう、といった対応が考えられます。「個別かつ一般的」である業務の場合はどうでしょうか。たとえば地方の営業所などでは、特定のお客様を長い間担当してきた営業アシスタントの方が、2~3年で異動していく営業担当者よりも頼りになる、といったことが往々にしてあります。そして「個別かつ専門的」であるものは、やはり営業担当者が対応することを基本に、その業務の実施方法を検討していきます。

この拡大業務・負担業務について仕分けを検討する前提としては、前回のコラムで解説した「基軸営業プロセス」が策定されていることが必要です。これは、営業プロセスの各フェーズで達成されるべき状態が明確であり、営業部門内で共通認識があり、そのうえで「必要・不要」「誰がやる・やらない」の議論をしないと、業務仕分けの判断の軸がブレてしまうからです。

また、特に「負担業務」の仕分けは、営業担当者の「省力化」よりも「増力化」を図るものであると考えてください。とういうのも、単に現場の営業担当者の意見を吸い上げて対応するだけでは、「あれもこれも負担が大きい」「あれもこれも他の人にやって欲しい」となってしまいがちで、収拾がつかなくなってしまうからです。業務自体をなくす、あるいは他の人(インサイドセールスやカスタマーサクセスなど)に移管するとしても、「その業務がなくなったら、その代わりにこの活動項目を実行できるよね?」「移管できたら、より業績目標にコミットできるよね?」…といったように、緊張感のある議論であることが重要です。

分業体制だからこそ、もっとできることはないか? 営業部門全体としての提供価値の再定義

次は、営業プロセスの各フェーズで到達すべきことのために、「あった方がよいもの」「これがあればもっと○○できる」といった業務について考えていきましょう。このような類の業務を、ここでは「拡大業務」と呼ぶことにします。

この拡大業務について検討する際は、まずは以下のような観点で今後必要となる業務を洗い出すことからはじめてみましょう。

  • 従来はやってこなかった業務
  • やりたかったけど、できていなかった業務
  • 「やれば成果は出るかも」と思いながら、自分の役割とは考えていなかった業務

先に述べた「付帯業務・負担業務」を仕分けして軽減するこができれば、その代わりにどのようなことができるのか? あるいは「付帯業務・負担業務」はいったん脇に置くとして、どのような業務ができたらより成果がでるのか? まずは思いつくまま挙げていきましょう。そのうえで、「付帯業務・負担業務」と同じ軸による4象限で整理し(図2)、「それらの業務を実際に行うかどうか」「実行可能かどうか」「案件獲得・案件進捗・受注のために効果があるかどうか」「それらの業務を誰がになうのか」を、できるだけ客観的に判断していきます。

図2:拡大業務の整理(例)

図2:拡大業務の整理(例)

この拡大業務は、「営業担当者の業務を拡大するためのもの」ではなく、他のメンバーも含めて「営業部門全体の生産性を今よりも高めるにはどのような業務が必要か?」について、営業担当者の立場から明確にしていくための議論です。第一回のコラムでお伝えしたように、IS(インサイドセールス)はマーケティング部門が管轄している場合も多いですが、マーケティングの側では想像し得ないことを、FS(フィールドセールス)は考えているかもしれません。ISからトスアップされた企業を引き受けるFSから見たら、「もっとこうすれば、これをしてくれる人がいれば、受注に向けた精度がより高まるのでは?」と考える行為があるかもしれません。あるいは、The Modelのように分業化が進んだために、「(案件化するためにやったほうが良いであろうが)それは自分の役割ではない」と認識している行為があるかもしれません。そこには「誰も拾わない”三遊間”」が存在してしまいます。特にアカウント型のソリューション営業を行っている部門では、このコラムのシリーズで繰り返しお伝えしている「アカウント型インサイドセールス」「アカウント型カスタマーサクセス」としての役割を再定義する絶好の機会として、この議論を有効活用したいところです。

ちなみに今回のコラムでは、「付帯業務・負担業務」⇒「拡大業務」の順でお伝えしましたが、実際に営業部門の中で議論をする際はその逆の順、つまり「拡大業務」⇒「付帯業務・負担業務」の順で考えた方がよい場合もあります。これは、「現状より成果を出すために、どんなことができればよいか?」という「ストレッチ要素」をまず先に考えたうえで、そのストレッチを実現するために従来の付帯業務について見直すべき点はないか?どのような業務が負担になっているか?という順で検討した方が、成果創出をより意識した議論が可能になるからです。

The Modelの効果を最大化したいなら、避けては通れない議論

特にアカウント型ソリューション営業を行う部門の場合、営業担当者は既存顧客からの様々な相談ごとへの対応と並行して、取引拡大や新規顧客の開拓のための活動も必要なため、常に忙しく、様々な業務に追われています。これらの業務を通して顧客との信頼関係が構築されていくという面もあり、それゆえ多くの業務が属人的で移管が難しいと思われがちです。一方で、そのような状況から脱して、顧客に効率的・効果的に対応し、営業部門全体としての生産性や顧客価値を高めるために、The Modelのような分業体制があるともいえます。これまでの慣習に囚われず、本当に必要な業務を明確にし、それを誰が担うのかを検討・議論していくことは、昨今の営業部門にとって避けては通れないことではないでしょうか。

パーソル総合研究所は、営業部門における付帯業務・負担業務や拡大業務を整理し、FS、IS、CSの役割を再定義するためのワークショップを提供しています。「営業担当者の業務負荷や固定観念が目標達成への足かせになっている」「新規開拓や取引拡大に必要なコアな業務に注力できる環境を整備したい」とお考えの方は、是非ご相談ください。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

執筆者紹介

河村 亨

株式会社パーソル総合研究所 シニアコンサルタント

河村 亨

Toru Kawamura

1990年、機械商社を経て(株)富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に入社。営業・営業マネジメントを経て、SFAの現場定着や戦略実行をテーマとした営業マネジメント力強化コンサルティングに従事。「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」、「Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化」などを執筆。セールスフォース社との「訪問しない時代の営業力強化の教科書」を共著。

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