実は明確でない? 自社の営業プロセス徹底検証
~The Model(ザ・モデル)だけでは、なぜうまくいかないのか? ③~

前回のコラムでは、ターゲットとする市場・顧客についての「案件・受注につながる情報」をいかに効果的に把握していくか、顧客の組織における購買の意思決定の構造を中心に考察しました。

さて、新規顧客の開拓や既存顧客の取引拡大に向かって、話を次の段階へと進めていきましょう。マーケティングと営業の連携によって得られた情報をもとに、「見込み有」と判断した顧客に対し、営業担当者はアプローチをしていきます。ただし、その後の営業の進め方を、個々の担当者のやり方に任せきりにしてしまうと、以下のような状況に陥りがちです。

  • 営業担当者が準備不足のまま面談に臨んでしまい、話が進まない
  • 商談の進捗状況を見誤り、要所で必要なマネジメント支援が得られない
  • 営業活動に関する認識が根本的にズレていて、有効な指導ができない

このような状況を防ぐためには、営業の進め方、いわゆる「プロセス」が可視化・共有されていること、かつそのプロセスが適切であることが検証されていることが重要です。今回は、The Modelをきっかけに自社にとって最適な営業フォーメーションを確立する、その大前提となる「営業プロセスの可視化」について考えます。

  1. 同じ会社・同じ商材で「提案」といっても、人によって認識はバラバラ
  2. そのプロセス、「この会社・この営業となら前に進めてみたい」と思わせているか?
  3. 「弊社の考えに違和感はないですか?」――顧客に率直に問いかけながら、プロセスに磨きをかける

同じ会社・同じ商材で「提案」といっても、人によって認識はバラバラ

皆さんは「営業プロセス」と聞いて、どのようなものをイメージしますか?イメージしやすいところでは、「ヒアリング」「提案」「クロージング」といったことでしょうか。確かにこのような「おおまかな段階(フェーズ)」は、営業プロセスを可視化する枠組みとなりますが、ひと口に「提案」といっても、それが具体的に何を示すのか、営業担当者によって捉え方は様々です。(図1)

図1:営業担当者の認識のばらつき(例)

図1:営業担当者の認識のばらつき(例)

このように営業プロセスが共有されていない場合、あるいは共有されていてもその内容が大雑把過ぎる場合、営業担当者間で認識にばらつきが生じます。そしてそのばらつきが、冒頭でお伝えしたような好ましくない状況につながります。だからこそ、まずは「自社にとって、自社のこの商材にとって、適切な提案の進め方とは何か?」(パーソル総合研究所では、これを「基軸営業プロセス」と呼んでいます)を具体的にし、明文化し、営業担当者間で共有し、実践することが重要なのです。もちろん、このような営業プロセスは、リード獲得やナーチャリングを行うマーケティングやインサイドセールス、既存顧客のあらたな課題やニーズにも対応するカスタマーサクセスなど、 一連の流れに関わる組織全体で共有されていることも必要です。

そのプロセス、「この会社・この営業となら前に進めてみたい」と思わせているか?

では、この「基軸営業プロセス」を策定するには、どのようにしたらよいでしょうか。

「営業プロセスを策定する」というのは、たとえば「アプローチ」「ニーズの共有」「提案」…といったように、文字通り営業(売り手、販売する側)の視点による言葉によって、営業の進め方を明文化することです。一方で、前回のコラムでお伝えしたように、顧客(買い手、購買する側)には、「購買における組織的な意思決定構造」を背景に、情報収集、検討、稟議、決裁…といったいわゆる「購買プロセス」というものがあります。つまり、営業プロセスを考えるには、購買プロセスもふまえることが必要です。よって今回は、基軸営業プロセスの策定について、まずは販売側の視点でプロセスを考え、そのうえで顧客の視点で購買プロセスに対する仮説を立て、購買プロセスの中でその販売プロセスが効果的に機能するかを検証していく…という方法を解説したいと思います。

まずは、販売側の視点による各プロセスについて、「それはどのようなフェーズなのか」「ゴールはなにか」「なにをもってそのフェーズが終わったとみなすのか」といったことを、具体的ことばで明文化していきます。(図2)

図2:基軸営業プロセスの策定(例)

図2:基軸営業プロセスの策定(例)

販売側の視点でプロセスを考えたら、次は顧客の購買プロセスをふまえて自社の販売プロセスを検証していきます。その際の重要なキーワード、それは「顧客の期待」です。ここでいう「顧客の期待」とは、「○○を購買して、□□□を解決したい」といった最終的な期待ではなく、購買プロセスの各フェーズで想定される期待を意味します。たとえば「ニーズを多角的にもっと分析して欲しい」「成功事例や失敗事例を教えて欲しい」といったことです。

このような「顧客の期待」は、「それが満たされないことには、購買プロセスの次のフェーズには進みたいと思わないであろう、重要なポイント」と言い替えることができるのではないでしょうか。どのようにすれば「この会社、この営業担当者となら、話を前に進めてみたい」と顧客に思わせることができるのか、顧客の期待を軸に自社の販売プロセスを設定していきます 。また、顧客の期待が満たされた状態であるかどうか、販売プロセスの次のフェーズに移行してもよいかどうか、それを営業側が判断するには、顧客が示す具体的な行動にもとづく、客観的な基準が必要です(図3)。基軸営業プロセスの策定は、このような客観的な基準を明文化するところまで行います。

図3:「購買プロセス」と「顧客の期待」をもとに、基軸営業プロセスを検証

図3:「購買プロセス」と「顧客の期待」をもとに、基軸営業プロセスを検証

「弊社の考えに違和感はないですか?」――顧客に率直に問いかけながら、プロセスに磨きをかける

このような方法で自社の基軸営業プロセスをいったん策定したら、是非実践していただきたいことがあります。それは、基軸営業プロセスの策定の中で仮説を立てた、「販売プロセス」とその各フェーズにおける「顧客の期待」を、実際の顧客に提示し、顧客の意見を伺うことです。つまり、自社が考えた仮説を伝えることで、仮説と実際に顧客が期待していることとの間にギャップがないかどうかを検証していくのです。

このように顧客に率直に問いかけるような方法は、これまでそのような発想がなかった人には、少々抵抗感があるかもしれません。しかし、特にBtoBの営業にとっては、顧客の購買に関わる複数の関係者との複雑な合意形成が必要であり、「自分(売り手側)が何をしたか」ではなく、「顧客が何を受け入れてくれたか」がポイントになります。そのためにも、このような期待値のマネジメントをすることが特に重要であり、顧客に問いかけながら仮説を検証していくという、一歩踏み込んだ取り組みが必要です。

パーソル総合研究所では、このような実際の顧客とのコミュニケーションもプログラムに含む、基軸営業プロセス策定のためのワークショップを提供しています。マーケティング部門との連携によって得られた「見込みのあるアプローチ先のリスト」を無駄にしないためにも、 まずはマーケティングプロセスとのシームレスな連動を意識しながら、自社の基軸営業プロセスを見直し、より精度を高めることが急務ではないでしょうか。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

執筆者紹介

河村 亨

株式会社パーソル総合研究所 シニアコンサルタント

河村 亨

Toru Kawamura

1990年、機械商社を経て(株)富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に入社。営業・営業マネジメントを経て、SFAの現場定着や戦略実行をテーマとした営業マネジメント力強化コンサルティングに従事。「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」、「Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化」などを執筆。セールスフォース社との「訪問しない時代の営業力強化の教科書」を共著。

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