「営業が欲しい案件」はどこからやってくる?
~The Model(ザ・モデル)だけでは、なぜうまくいかないのか? ②~

The Modelを導入・実践しているが、うまくいかない…。そのようなお悩みに応えるべく、前回のコラムでは昨今の営業部門の現状と課題について、以下の2点をお伝えしました。

① アカウント型のソリューション営業が必要な企業、特にメーカーなどある程度の歴史がある日本企業においては、取引の深い重要顧客や新規顧客が混在している場合が多い。

② その場合、一定の営業プロセスを一律に当てはめて効率化することには限界があり、「市場・顧客の層別」をしたうえで、セグメント毎に営業フォーメーションを最適化していく必要がある。

市場・顧客を層別してセグメント毎に必要な営業フォーメーションが整理できると、おそらく営業の皆さんは早速、「このセグメントで新規顧客を開拓したい!」「このセグメントの既存顧客との取引を拡大したい!」と考えるはずです。またそのようなとき、どの企業にアプローチすべきか、つまり「このセグメントの中で、案件・受注につながる見込みがあるのはどの企業か?」…という情報を、見込み客の獲得を担うマーケティングの側から提供して欲しい、と思うのではないでしょうか。
そこで今回のコラムでは、営業が欲しい案件・受注につながる情報を効果的に把握していくにはどのようなことが必要か、マーケティングと営業の両面から考えていきたいと思います。

  1. 「BtoBマーケ、実は“toC的”になってる」問題
  2. 組織ペルソナ=案件が生まれる構造を推察する
  3. お互いの“当たり前”を超えて ―― 効果的なマーケティング骨子の策定に、営業の積極的参画はマスト

「BtoBマーケ、実は“toC的”になってる」問題

「どの企業にアプローチすべきか」という情報を得るために、現在多くの企業がMA(マーケティング・オートメーション)を導入しています。MAには様々な機能がありますが、たとえば自社のWEBサイトやメール配信などで情報発信を行いながら、「どの会社の、誰が、どんな情報を、どのくらい閲覧している」といったことを把握することができます。そうすることで、マーケティングは自社の情報発信やソリューションに興味関心を持っている企業・人を特定しリストアップすることができ、どの企業・人にアプローチすべきか、ある程度絞りこんだうえで営業に情報を提供することができます。MAというものが存在しなかった頃と比べると、こうしたツールの登場は、マーケティングと営業の効率性を各段に向上させたといえるでしょう。

一方、マーケティングから提供された「興味関心の度合いが高そうな人」のリストをもとに、営業がアプローチをしてみると、たとえば以下のようなことが往々にして起こります。

  • その人は、そもそも購買を検討する役割を持っていない
  • その人は、購買を検討する役割は持っているが、購買を決裁する役割は持っていない
  • 購買を決裁する人は、今のところ関心度合いが低い

このようなことが起こるのは、BtoBマーケティングにおけるMAの活用が、「企業の中の一個人が、一方通行で検討をしている」という発想に基づいていることに起因します(図1)。

図1:BtoBマーケティングの“toC的“な顧客育成とニーズ把握の視点

図1:BtoBマーケティングの“toC的“な顧客育成とニーズ把握の視点

MAから得られる情報は、あくまで特定の情報の閲覧履歴の「有無」や「頻度」といったことであり、「情報を閲覧している人」や「閲覧頻度の高い人」が必ずしも「アプローチすべき人」とは限りません。そこでマーケティング側としては、関心・検討度合いの見極めの精度を高めるために、「まずは関心を持ってもらうための情報」「自社のソリューションを検討してもらうための情報」といったように、意図をもってコンテンツを制作します。しかし、それでもなお、MAから得られる情報だけでは、その人が組織においてどのような役割を担っているか、その人の閲覧履歴、あるいは部署名・役職名から推察することはできても、断定することはできません。

BtoBの営業は、当然のことながら購買を検討する人、あるいは購買を決裁する人にアプローチする必要があります。その一方で、見込み客を発掘して営業にトスアップするマーケティングが、MAによって読み取れる個人の情報にのみフォーカスしているとすれば、それは「BtoC」とあまり変わらず、BtoBのマーケティングとして十分に機能していない、ということになってしまいます。

組織ペルソナ=案件が生まれる構造を推察する

では、BtoBマーケティングが本当の意味で機能するには、どのようなことが必要でしょうか。まずは営業の側面から考えてみましょう。

実際の企業の組織の中には、「なんらかの役割を担った個人」が複数・多数いて、それぞれの役割において日々何かに問題とその解決の必要性を感じています。また、その解決に寄与する需要・テーマは、時により浮上(明確化)したり、沈下(曖昧化)したりを繰り返します(図2)。さらに、組織としての購買における役割については、「起案(稟議)⇒決裁」という、組織のオフィシャルな手続きに関わる人の他にも、「起案や決裁に影響を及ぼすであろう人たち」の存在も忘れてはいけません。

このようにして、営業はそれらの人々が果たす「マーケティング視点での意思決定における役割」、つまり「課題提起者=組織的な課題解決の検討を指示する人」、「検討者=課題提起者の指示を受けて、実際の情報収集や解決方法の検討を行う人」、「影響者=決裁の過程で何らかの影響を及ぼす人」を、提案する商材・領域ごとに考慮し想定する必要があります。

図2:BtoB営業における需要・テーマの発生構造(製造業を例に)

図2:BtoB営業における需要・テーマの発生構造(製造業を例に)

ここまでの論点をまめると、今回のコラムの主題である「営業が欲しい案件・受注につながる情報を効果的に把握していくには、どのようなことが必要か?」という問いに対する答えは、以下の2点に集約されます。(それぞれのポイントの詳細は、別途お役立ち資料で解説していますのでご参照ください)

① 「組織ペルソナ」を想定する……「課題提起者・影響者・検討者」「起案者・中間決裁者・最終決裁者」といった購買の意思決定にかかわる人々が誰なのか、情報収集あるいは推察をする。

② 「対象別ナーチャリングマップ」を作成する……上記①のそれぞれの人がどのような状態(組織的検討役割における状態)にあるのかを把握し、誰に対して何をすべきかを検討する。

したがって、BtoBのマーケティングでは、このような「組織ペルソナ」や「対象別ナーチャリングマップ」の考え方を理解したうえで、ターゲットとするセグメントの企業について上記の①②をモニタリングすること、そしてそのモニタリングの土台となる情報、つまり各関係者の関心事・関心度合いに応じた情報の戦略的な発信が必要となるわけです。

お互いの“当たり前”を超えて ―― 効果的なマーケティング骨子の策定に、営業の積極的参画はマスト

ここまでお伝えしたことについて、「マーケティングはともかく、営業にとってはそんなの当たり前。いつもやっていることだよ」と思われた方もいるのではないでしょうか。

そうなんです。このような「組織的な検討状況」を細かく丁寧に把握しながらの営業活動は、BtoB営業に携わる皆さんであれば、程度の差はあれ経験的に学んで実践していることだと思います。そしておそらく、みなさんの会社のマーケティングやインサイドセールスの方々も、この「当たり前」を理解していないわけではないでしょう。しかし問題は、営業が求める情報を掴むためのマーケティング活動が、この「当たり前」を明確に意識して、具体的に設計されていない場合が多いこと。そしてそうなっていない場合、この問題はマーケティングの側だけでは解決するのが難しい、ということです。

マーケティング部門の活動は、リードを獲得し、獲得したリードに対して継続的に情報を提供し、関心が高まってきたところを見極め、営業にトスアップしていきます。そのためには、セミナーの企画やWEBサイトのコンテンツ制作など、まずはマーケティングや営業にとって必要な母数としての「リード数」を確保する活動に、多くの時間を割く必要があります。いわばこれは、マーケティングにとっての「当たり前」です。それゆえに、営業が注力したいセグメントに属する個々の企業について、営業と同じレベルで組織ペルソナを細かく把握しながらマーケティング活動をする…というやり方に変えていくのは、最初はなかなか難しいかもしれません。

しかし、BtoBのマーケティングや営業は、この顧客組織の複雑性をどれだけ精緻にマネジメントできるかが鍵です。両者がそれぞれの「当たり前」を超えて連携し、営業にとって効果的なマーケティングの仕組みを再構築するには、マーケティング側だけではなく、やはり営業側もマーケティング活動の仕組みづくりに積極的に参画することが必要不可欠である、と私は考えます。

また、マーケティングと営業の間に位置するインサイドセールスの役割は、今後増々重要になっていくと思います。前回のコラムでも少し触れましたが、アカウント型のソリューション営業を行う組織のインサイドセールスは、営業(フィールドセールス)とともにアカウントプランを立案する、あるいはマーケティングとともにターゲットとする企業の関係者の興味・関心度合いをモニターし、しかるべきタイミングで営業へフィードバックするなど、営業やマーケティングの連携を強化する役割、両者がケアできない部分をフォローする役割など、従来の枠にとらわれない役割の強化を検討する価値はあると思います(図3)。

図3:「アカウント型インサイドセールス」の役割イメージ

図3:「アカウント型インサイドセールス」の役割イメージ

今回のコラムでは、営業が欲しい案件・受注につながる情報を効果的に把握していくにはどのようなことが必要か、マーケティングと営業の両面から考察しました。顧客の組織ペルソナ、組織的な意思決定の構造に応じたマーケティングと営業の連携は、とても細かい動きが求められる仕事です。そのような活動を支援するために、パーソル総合研究所では、「意思決定構造の可視化」、「組織ペルソナの想定」、「対象別ナーチャリングマップの作成」を効率的に行うためのフレームワーク、そしてそのフレームワークに則り、実際の顧客を分析する実践的なワークショップ「マーケティング骨子策定 」などを提供しています。もし皆さんが、「このままのマーケティング活動で本当によいのか?」「営業と連動していないマーケティング活動を見直したい」とお考えでしたら、課題検討のプロセスを我々と共に前に進めてみて下さい。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

執筆者紹介

河村 亨

株式会社パーソル総合研究所 シニアコンサルタント

河村 亨

Toru Kawamura

1990年、機械商社を経て(株)富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に入社。営業・営業マネジメントを経て、SFAの現場定着や戦略実行をテーマとした営業マネジメント力強化コンサルティングに従事。「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」、「Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化」などを執筆。セールスフォース社との「訪問しない時代の営業力強化の教科書」を共著。

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