公開日 2024/11/18
アステラス製薬株式会社
コマーシャルケイパビリティ CL&D
フィールドエクセレンス
金子 統氏
2009年に千葉大学大学院、修士課程を修了後、アステラス製薬に入社。研究者として約10年間創薬研究に従事した後、アステラス製薬労働組合の専従を担う。現在は日本コマーシャル部門において労組専従時の経験やキャリアコンサルタントとしての専門性も活かし、グローバルメンバーと協働して人材開発やセールスケイパビリティの開発支援等を通じた組織課題の解決に取り組む。
営業研修の企画立案や実際の運営を行うなかで、研修の効果測定や参加者のニーズを正確に把握する方法について悩んでいました。そんなときにWebで情報検索をしていたときに、『ATDニーズアセスメント認定コース』を見つけ、能力開発支援施策とビジネス成果を結びつける手法や考え方として「ニーズアセスメント」が活用されていることを知り、参加を決めました。
いかに自分自身が「学習(ラーニング)」の観点でしか考えていなかったかに気づかされました。
本コースの冒頭にあった「なぜニーズアセスメントが必要か」という話の中で、「本当にその課題に対して研修が適切な打ち手になっているか」を考えなければならないとアドバイスがありました。その質問が私には刺さりました。
実際、何が必要かを一生懸命に考え、効果的な学習デザインに取り組んでいますが、それはあくまでソフト面の一つの切り口に過ぎないということです。課題解決には、ソフト面だけでなくハード面を含むさまざまな問題を考慮する必要があります。
特に、組織課題に対する解決策をラーニングの視点から考えることが多かった私にとって、網羅的に考えるためのプロセスを理解できたことは大きな収穫でした。このような全体的な視点を持てるようになったことは、非常に意義深い経験となりました。また、HPI(Human Performance Improvement)の考え方に触れられたことも、私にとって重要な学びでした。
特に印象に残っているものは、2つあります。
1つは、組織のニーズ、つまり組織の目標を達成するために、どのようなパフォーマンスや行動が求められるかを明確にするということです。
もちろんニーズを考えずに企画することはほとんどないと思いますが、ニーズが抽象的であったり、十分に定義されずにスタートすると、目的や目標に対する打ち手がずれてしまう可能性があります。この場合、良い結果につながりにくかったり、効果測定も難しくなると気が付けたことは、非常に重要な学びでした。
2つ目は、明確化したニーズを踏まえ、「学習形式」に注目して学習設計をすることです。学習形式には、フォーマル、インフォーマル、ソーシャルの3つがあり、ニーズに応じて学習形式を選択し、バランスよくデザインしていくことがとても重要だと説明を受けました。
私自身、研修を設計する立場として、出来る限り良い学習機会を提供したいとの思いから、フォーマルラーニングの部分を綿密に設計して提供しがちですが、本当にそれが良いのか悶々としていました。
綿密に作れば作るほど、学習者の主体的な学習機会を奪うことにもなりかねないですし、その影響が組織課題を生み出す一つの要因になり得ると感じていました。それぞれの学習形式には意味があり、特徴を踏まえてデザインすることで、学習者の主体性を損なわずに取り組む形をつくれると理解できたことは、とても価値のある学びでした。
ニーズアセスメントに関しては、「ニーズアセスメントサイクル(図1)」に基づいて、組織課題を明確にしたり、どのような目標を自分たちが達成したいのかを整理し、考えたりする際に使っています。
組織課題が生じる要因は、スキルや知識不足、仕組みの問題、モチベーションの問題、または人間関係の影響などが考えられます。人々が適切なスキルや知識を有していたとしても、他の影響により、結果として望ましい行動が取られないケースもあるため、課題解決に向けて阻害要因を網羅的に探るようになりました。
図1:ニーズアセスメントサイクル
私自身の変化としては、以前であればラーニングの専門家として、良い研修やラーニングコースをつくることに意識を傾けていましたが、ニーズアセスメントに取り組むことで、より多くの人の意見を求め、実際の課題についての話し合いにより時間を割くようになりました。
その結果、ラーニングと他の打ち手を連動させながら課題解決に向けた道筋を構築するなど、全体的な視点を持ったアプローチをより意識するようになりました。これは私にとって大きな変化だと認識しています。
実際に、それぞれの部門が講じる打ち手をいかに連動させるかについて、話し合う機会がこれまで以上に増えています。すべてが順調に進んでいるわけではありませんが、目標達成に向け、課題を網羅的に探り、多面的に課題解決の打ち手を検討し、取り組む流れができたことに手応えを感じています。
私が主に担当しているラーニングに焦点を当てますと、何らかの取り組みの結果として、組織課題解決に必要となる適切な行動が実際に行われるようになったかが、成果を考える上での一つのポイントになります。行動の変化は確認できることも多いのですが、一方で、行動が変わった結果、本当にビジネスインパクトを与えたかという点についても、しっかりと考える必要があると感じています。
これは短期的にはわかりにくいため、時間をかけて見ていく必要があると思っています。また、何をビジネス上での変化の指標として見ていくかは難しい課題であり、どのようなKPIを設定するかを関係者と検討しながら、取り組みを推進しています。
率直に、ラーニングに携わる皆さんにお薦めしたいです。これは、私自身が『ATDニーズアセスメント認定コース』を受講したきっかけでもあるのですが、研修を企画提案する際に「本当にそれは必要なのか?」、「その研修は役に立つのか?」、「その研修で結果は出るのか?」、「研修後の結果はどうだったのか?」といった質問を受けた経験を皆さんもお持ちではないでしょうか?
これまでは、「ラーニングは『そういうもの』だから、数字に現れない部分が多くても必要なのです」と、あまり論理的でない回答をしていました。
ただ、私自身はその状況を変えたいと強く思っています。単に「この研修が必要だ」ではなく、「これができるから、こう変わるので必要だ」と具体的な主張ができた方が、より良い形で実行もできるので、そこから逃げてはいけないという想いもあります。
また、効果測定のデザインにおいても、このニーズアセスメントという手法がとても役に立つため、企業内で同じような立場で研修の企画立案や運営に携わっている方に強くお薦めしたいです。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
※発言は個人の見解に基づくものであり、所属組織を代表するものではありません。
【経営者・人事部向け】
パーソル総合研究所メルマガ
雇用や労働市場、人材マネジメント、キャリアなど 日々取り組んでいる調査・研究内容のレポートに加えて、研究員やコンサルタントのコラム、役立つセミナー・研修情報などをお届けします。