公開日 2025/03/24
パナソニック インダストリー株式会社は、2022年の事業会社化以降、人と組織が共に成長する会社を目指して抜本的な改革を始めている。キャリア自律に関しては、パナソニックグループ一律だったプログラムを見直し、独自の支援施策を2024年度から推進している。2025年1月17日(金)に行われたキャリア自律セミナーの第4回目は、同社の伴走型キャリア自律の推進について、人事戦略統括部人財開発部キャリア・マネジメント支援課の柄沢 恵里香氏にお話しいただいた。
2022年4月の事業会社制移行によって誕生したパナソニック インダストリー(以下「インダ」)は、車載CASE、情報通信インフラ、工場省人化の3つを注力する事業領域としている。
電子部品業界は世界的に今後も大きな成長が期待される分野。同社では「多様なデバイステクノロジーでより良い未来を切り拓き、豊かな社会に貢献し続ける。」というミッションのもと、「Your Committed Enabler 未来の兆しを先取り、お客様とともに社会変革をリードする。」とのビジョンを掲げ、人財資産・技術基盤・創造基盤・顧客志向の4つのバリューの総和で提供価値拡大を目指している。中でも特に人財資産は事業活動の源であり、バリューの中心に据えられている。
インダは2030年の事業目標を達成するために、強い競争力としなやかな変化対応力が必要であると考え、人財、組織、文化のあり方を再定義した。それは、その道のプロとして自己変革し続ける人財、多様な人財・知恵を生かしチーム成果を最大化する組織、挑戦することが称賛され報われる文化(ファーストペンギン・ファースト)であり、「目的・未来志向で挑戦し続ける企業風土」だ。
目的・未来志向とは、自らの領域にとどまらず、広い視野でもう一歩先を想い描くこと。挑戦とは、想いをエネルギーに大小関係なく新しい何かに挑戦をすること。「想い」がすべての起点であり、最も大切にすべきことであるとして、『想いを、動かせ。』という人財戦略コンセプトを策定した。
社員の中に想いが芽生え、その芽生えた想いが育まれ、育んだ想いが形になり、形になった想いが実る、また新たな想いの芽生えにつなげていく「想い無限サイクル」(図1)が回り続けるよう、会社は尊重する・機会を提供する・後押しをする・称賛するという4つの領域で支援、後押しをしていく。この「想い無限サイクル」を動かすエンジン部分に当たるのが、キャリア自律の取り組みと位置付けている。
図1.「想い無限サイクル」の加速
「現在、インダは人財マネジメントの変革期にあります。2022年の創業から取り組んできたさまざまな取り組みをハード面とソフト面の両輪で進めているところです」と柄沢氏。
ハード面では、基盤となる人事制度として、ジョブ型人材マネジメントへの移行を進めるための「役割・人財要件定義の策定・公表」、学びたい想いがあればいつでもどこでも学べる研修プラットフォーム「マナビバevery」、本人発意を基軸とし公募型で、異動または上位職に登用する「公募型異動・登用」などを導入。
ソフト面では、「社員のキャリア自律」と「ミドルマネジメント支援」を2本柱に、各種研修やキャリア相談などさまざまな施策の導入を進めている。(図2)今回のセミナーでは、ソフト面の取り組みの一つであり、キャリア自律施策として2024年度から始めた「Career Action Program」にフォーカスが置かれた。
図2.社員の「想い」を動かす具体的な取り組み
「Career Action Program」は、それまでパナソニック全体で年齢一律に実施されていたキャリア研修を見直し、インダ独自のプログラムとして発足させたものだ。
「人財戦略『想いを、動かせ。』に沿って、会社主導なおかつ必須とされていた従来のスタイルを変え、受講は本人発意の手挙げ制で、年齢問わず受講でき、受講時期は社員自身に決めてもらう形にしました。また受講費用も交通費も各部門の予算ではなく、本社の教育予算で行います。部門予算の制約を受けず、キャリアを考えたいという想いがあれば誰でも受講できるようにしました」
リアルでもオンラインでも受講できるこの研修。Day1研修では自身のキャリアについて考え、想いを行動に反映してこれからのキャリアと行動を考えていく内容。Day2のフォロー研修は振り返りと行動のアップデート、社内リソースを知る内容。Day3以降は、希望すれば伴走型の個別支援を受けることができる。(図3)
図3.Career Action Program(CAP)全体構成
企画のポイントは、「インダらしさの追求」「伴走型」「社内の仲間づくり」の3つだ。
一つ目の「インダらしさの追求」では、経営理念や人財戦略コンセプトとの連動性、職場が求める人財像の明確化などを考えていくにあたり、CHRO、COE統括部長、HRBP、人事課長とディスカッションを重ね、社員に向けてはCHROからの「Career Action Program」に関するメッセージを動画で発信。またオンラインでの事前説明会も実施した。
二つ目の「伴走型」については、Day1研修とDay2のフォローアップ研修に加え、その後はニーズに合わせて「社内・社外パーソナルコース」と「経済資本コース」の選択コースを選べるようにしている。「社内・社外パーソナルコース」は、社外のプロコーチによるコーチング、社内のキャリアコンサルタント有資格者による1対1のキャリア相談が受けられるというもの。「経済資本コース」は、将来のお金に対する不安を見える化し、課題解決の行動につなげる。経済資本の相談はパナソニック共済会所属の2名のファイナンシャルプランナーが担当している。選択コースまで含めると最大6カ月間の伴走が可能だ。
三つ目の「社内の仲間づくり」では、クラスを「39歳以下」「40代」「50歳以上」で分け、対話するグループは同じ職位・階層にして、受講者同士がつながりやすくしている。
初年度の2024年は、6月から3回に分けて実施し、国内従業員の2%にあたる254名が受講した。「今後のキャリアを考える必要は感じるものの、どうしたらよいかわからないため受講した」という社員が多く、社外パーソナルコース、経済資本コースに関しては、定員を超える参加希望者が集まったという。
「決して多いとはいえない受講者数ですが、本人発意で手を挙げてくれたファーストペンギンの受講者に手厚く伴走し、行動してよかったと実感してもらえることを大切にしました。インダらしさを追求することで、これまでよりも社員の共感を引き出すことができたのではないかと思います」と柄沢氏は初年度を振り返る(図4)
図4.ふりかえりと今後の課題
一方で、社員の想いと会社の目指す姿をどうつなげていくか、仲間づくりはできつつあるものの仲間との関係性をどう継続させていくかなどの課題も見えてきた。また今後に向けては、不参加層へどうアプローチしていくか、なりたい姿と組織の方向性とのアラインをどう実現させていくか、選択コースまで含めた各コースをどう進化させるかなども課題だ。
「現場の変化の実感は、まだまだというのが正直なところです。時間がかかる取り組みではありますが、目指す姿に少しでも近づけられるよう、できることを積み重ねていきたいと考えています」
ここからは質疑応答で寄せられた質問のうちのいくつかを紹介していこう。
【Q1】人財戦略やキャリア自律について、経営・人事の考えを浸透させるために取り組んでいることはあるか?
発信や対話を通じてできるだけ社員の方々に浸透するようにしています。CHROが各拠点に出向いて、その拠点の社員とフェイストゥフェイスで「想いを、動かせ。」について対話する「CHROキャラバン」も実施、事業会社化以降の訪問先は海外5カ国・国内20拠点にのぼります(2024年11月現在)。
【Q2】技術職の方も多いと思うが、技術職に特化した取り組みはあるか?
これまではマネジメント職にならないと評価や報酬が上がっていかなかったのですが、技術職を一例とする、専門性を磨き組織貢献したい社員が将来のありたい姿をイメージできるように、スペシャリストのキャリアパスを作りました。開始してまだ1年ほどですが、「専門性を磨くことで会社に貢献する人も、会社にとって必要な人たちである」というメッセージは伝わり始めているのではないかと思います。
【Q3】2023年に人事としてキャリア入社した柄沢さん。苦労したこと、意識していることは?
私自身、Day2のフォローアップ研修の登壇や、社内パーソナルコースのキャリア相談を担当しているのですが、一人ひとりの方との対話を大切にしています。まずは現場の環境を理解したいと思い、国内の30拠点中25拠点を訪問しました。現場に足を運んで、組織責任者や拠点人事の方、そして社員の方と対話をしたり、拠点の仕事の様子や工場の製造現場を見せてもらったり、現場を知ることを意識しています。体力的に大変なときもありますが、製造の現場の方々が普段どのような仕事をしているのかを知ったうえで、いろいろなことを考えていくことが大事だと思いますし、対話をすることが私自身のモチベーションになっています。
【Q4】本人発意、手挙げ式が浸透していくには時間がかかるが、「手を挙げない人」がいることも含めて、今後に向けた課題・展望は?
手を挙げない方たちにどのような行動を促すかは、これから大きな課題になっていくと思います。上司からの促し、受講者からの口コミ、拠点人事、HRBPからの啓発など、多面的なアプローチが必要ではないかと考えています。キャリア自律は、「自分でも自律を感じられることに加えて、他者から見て自律しているかどうか」という観点も大事なので、会社からの評価もセットにして考えていきたいです。
パナソニック インダストリー株式会社
人事戦略統括部人財開発部 キャリア・マネジメント支援課 課長
柄沢 恵里香氏
Erika Karasawa
大学卒業後、富士通グループにてSE、人事部門を20年間経験し、2023年5月にパナソニック インダストリー株式会社に入社。若手社員からシニア・マネージャーまで幅広い世代に対してのキャリア支援施策・マネジメント支援を担当。現在は、社員のキャリア自律施策の企画、研修講師、面談に従事。1級キャリアコンサルティング技能士。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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