ミドル・シニアのジョブ・クラフティング

公開日 2023/03/30

パーソル総合研究所では、ミドル・シニアの働き方や就業意識に関する実態の調査・研修、およびミドルからの躍進を支援しています。

ジョブ・クラフティング研究で著名な東京都立大学教授の高尾義明氏に、ミドル・シニアへのジョブ・クラフティング研究についてなどお話を伺いました。

高尾 義明 氏

東京都立大学大学院 経営学研究科 経営学専攻
東京都立大学経済経営学部 経済経営学科 教授
 高尾 義明 氏

1967年生まれ、大阪市出身。京都大学教育学部で教育社会学を専攻。同大学卒業後、神戸製鋼所に就職、アルミ・銅事業本部の経営企画セクションで4年間勤務。その後、同社を休職して京都大学大学院経済学研究科修士課程に入学。博士課程への編入試験合格を機に同社を退職し、組織論研究者への道に専念。2つの私立大学での勤務等を経て、2009年4月より現職。専門は経営組織論・組織行動論。著書に『はじめての経営組織論』(有斐閣)、『組織と自発性』(白桃書房)、『ジョブ・クラフティング』(白桃書房、共編著)などがある。

  1. ジョブ・クラフティング研究のきっかけ
  2. ジョブ・クラフティングと年齢
  3. ミドル・シニアが働かないと言われる理由
  4. 上司の自律支援が重要
  5. いま貢献できることを考える

ジョブ・クラフティング研究のきっかけ

―ジョブ・クラフティングの研究をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

高尾氏インタビュー風景

その前に、ジョブ・クラフティングのコンセプトについて少し説明しておきたいと思います。ジョブ・クラフティングとは、ひとことで言えば「働く人自身が仕事や人間関係、及びそれらへの見方について変化を加えること」です。私はよく「仕事に自分のひと匙を入れる」という例えを使って説明しています。またジョブ・クラフティングは、3種類に分類できると言われています。第一に、タスクの内容や方法を変更する「業務クラフティング」、第二に、仕事で関わっている他者との関係性を増やしたり、その質を変えたりする「関係性クラフティング」、最後に、個々のタスクや仕事全体をどのようにとらえるかを変える「認知的クラフティング」です。

質問への回答に戻りますが、ジョブ・クラフティングとは、自発的に仕事やその環境を変えようとすることであり、組織における自発性の発揮について昔から興味がありました。例えば、2005年に『組織と自発性』という研究書を出版しましたが、この本では「どのようにすれば個人は組織で自発性を発揮しうるのだろうか。また、組織はどのように個人の自発性を取り込みうるのか。」という問いを起点に、これからの組織と個人の関係のあり方について理論的に検討しました。アサインされた仕事を自分の仕事に作り変えていくジョブ・クラフティングのコンセプトには、その本を出版した後に出会ったのですが、個人と組織が交錯するという意味で『組織と自発性』で考えていたことと共通点があると感じました。そのうえで、ジョブ・クラフティングについて自分が教えているビジネススクールで話してみると、社会人のみなさんがよく似た関心を持っていることが分かり、研究と実践のクロスオーバーができそうなテーマとしてジョブ・クラフティングの研究を進めていくことにしました。

―自発性には最初から関心があったのですね。自発的な人とそうでない人がいるのは何の違いだろうかということでしょうか。

自発的に動く人もそうでない人もいて、個人差はたしかにあります。しかし、そこに注目するのではなく、自分の想いを仕事として形にしていったり、自分のアイデアを組織のものにしていったりするプロセスや、そういったことを可能にする状況に関心がありました。

―なるほど。もともと自発的な人であるかに関係なく、そうできることを研究されようとしたのですね。

ジョブ・クラフティングと年齢

―ミドル・シニアのジョブ・クラフティングについてくわしく伺う前に、ジョブ・クラフティングと年齢の関係について伺いたいと思います。年齢によってジョブ・クラフティングの実践は異なっているのでしょうか。

これまでの研究を大雑把にまとめるならば、年齢とジョブ・クラフティングを実践する程度にはあまり関係がありません。言い換えれば、年齢よりも職務の特性や役職、個人の特性などの方がジョブ・クラフティングの実践の程度を左右しているということです。もっとも、どのようなジョブ・クラフティングを行うかは年齢によって変わってくる部分があります。若手・中堅層と比較した場合にミドル・シニアの違いは2つあります。一つは加齢に伴う変化への適応としてのジョブ・クラフティングです。年齢とともに下がってくるスキルや能力をカバーしたり、これまでと別のところで強みを活かそうとしたりするジョブ・クラフティングを実践することがあります。加齢に伴う変化は普遍的なものなので、これは日本のミドル・シニアに限りません。もう一つは日本のミドル・シニアに特徴的なものです。役職定年や定年後再雇用といった形で、シニアと現役の線引きをされることが少なくありません。線引きされた後に、現役の人に遠慮して発言しないようにするといった抑制的な行動をとるのも、ジョブ・クラフティングと捉えられるという研究がなされています。

―現役の人に遠慮することもジョブ・クラフティングとしてやっているのですか。

現役の人たちから一歩引いた関係性に退くといったことも、その人自身が主体的にやっていればジョブ・クラフティングに含めることができます。

―その観点は面白いですね。エイジレスな国であれば生じないことですよね。

そうですね。日本では仕事の場に限らず、年齢の高低は重要視されることが多いですね。昔は、長幼の序が重要な規範でした。それを背景にした、いわゆる年功序列的処遇に対する反発が、近年では「働かないオジサン」へのバッシングという形で表れているのかもしれません。

ミドル・シニアが働かないと言われる理由

―ミドル・シニアは働かない、モチベーションが下がっている、パフォーマンスが落ちているという話がありますが、それについてはどう思っていらっしゃいますか。

ミドル・シニアに限らず、若手・中堅層でもそうなのですが、年代層で捉えるのは粗い見方で、本当は人それぞれなのです。活躍しているミドル・シニアもいれば、そうでなくモチベーションやパフォーマンスが低迷しているミドル・シニアもいるというのが実態です。しかし、年齢を重ねていくと、成果を出している人とそうでない人の差がますます大きくなります。その結果として、パフォーマンスが落ちているミドル・シニアが目立つのかもしれません。ミドル・シニアが働かないと言われがちなのは、年功序列的な処遇の体系が関わっています。年齢が上がるとそれに見合った水準の成果を出すことが期待されますが、処遇に見合ったパフォーマンスを出せていないミドル・シニアは、年功序列的な処遇を今後期待できない人たち、すなわち若手や非正規雇用の人たちから「働かないオジサン」とみなされることになります。

―厳しく見ていますよね。年功序列型の賃金制度では、若い頃に我慢していた分がミドル・シニアになって多く貰えるという感覚でしたが・・・。

今の若い人は、今我慢しても将来貰えると思ってないですから、余計厳しく見ているところがあると思います。そのため、ミドル・シニア全体がそういう風に見られやすい環境になっていると言えます。一方で、ミドル・シニアのモチベーションを下げてしまうような制度、例えばポストオフや定年退職などがあり、そうした節目に直面してモチベーションが下がってしまう人がいることに対するサポートやケアが充分でないことにも注目する必要があるように思っています。

上司の自律支援が重要

―サポートが充分でないとのお話がありました。そのアプローチの一つとして期待できるのがジョブ・クラフティングだと思うのですが、ミドル・シニアを対象としたジョブ・クラフティングの調査について教えていただけますか。

ミドル・シニアを対象としたジョブ・クラフティングの調査をいくつか行いました。特に興味深いのは、役職定年などにより管理職を外れるポストオフを経験した人たちに対する調査の結果です。ポストオフ直後(1年未満)の方と1年以上後の方を比較して分析しました。

ポストオフ直後の人たちについては、実はジョブ・クラフティングをやってもあまりパフォーマンスやワーク・エンゲージメントの向上に繋がりませんでした。やはりポストオフ直後は、色々な変化をその人自身が受け止めきれなかったり、周りの人もどうやって仕事をアサインするのか迷ったりするといった混乱に直面する時期だからだと思います。職場風土がジョブ・クラフティングに及ぼす影響については、ポストオフ直後の方がより大きいのです。混乱している時に、年齢に関係なく受け入れてくれるような風土があるとジョブ・クラフティングが促進されます。一方で、ポストオフを経験してからしばらく経った人たちについては、ジョブ・クラフティングがパフォーマンスやワーク・エンゲージメントに繋がっていくことが調査で分かりました。したがって、長期的に見るとジョブ・クラフティングがパフォーマンスに繋がっていくと言えます。

ポストオフ直後は変化に適応できず一時はパフォーマンスが下がったり、ジョブ・クラフティングがパフォーマンスに繋がらなかったりするかもしれませんが、年齢に関係なく受け入れるような風土があれば、ジョブ・クラフティングが促進され、長期的に見ればプラスの効果を生み出すと言えるでしょう。

今はポストオフ後もその会社で働いていく期間が長いことが少なくありません。ポストオフ直後にモチベーションが下がって、そのまま低空飛行ということにならないようにするには、とりわけ混乱しているポストオフ直後のサポートが大事で、上司がそうした混乱に直面している人たちに対して支援的な態度を示すことが、年齢包摂的な風土づくりに繋がっていくのではないかと思います。

図1. ポストオフ・トランジションにおける包摂的風土とジョブ・クラフティング
—2時点調査による検証

図1. ポストオフ・トランジションにおける包摂的風土とジョブ・クラフティング

出典:藤澤理恵・高尾義明(2022)「ポストオフ・トランジションにおける包摂的風土とジョブ・クラフティング:2時点調査による検証」経営行動科学学会第25回年次大会発表資料を改変

―ポストオフ直後のサポートが大事で、すぐに結果が出ないからといって諦めないということですね。ミドル・シニアがモチベーションやパフォーマンスを上げるためのジョブ・クラフティングにポイントはあるのでしょうか。

マネジメント側と個人側のそれぞれにポイントがあります。マネジメント側で言うと、上司が簡単に諦めないことです。ポストオフなどを経験してモチベーションが下がっている人も少なからずいますが、今は停滞しているもののそこから変わる余地や可能性があると考えることです。その人に対して関心を持ち、強みを見つけたり強みに自分で気づく機会を与えたりしながら、気長に働きかけをしていくことだと思います。個人側は、やろうと思えばジョブ・クラフティングをできるんだというマインドセットを自分の中で育てていくことです。多くのミドル・シニアはこれまで、アサインされた仕事をそのまま受け止めて、それに対して成果を出すことで評価されてきたため、アサインされた仕事を自分なりに捉え直したり、そこに何かを付け加えたりするといったジョブ・クラフティングをやれるという可能性についてあまり考えたことがないかもしれません。今後、報酬や評価といった外部の物差しに頼るだけでなく、仕事との関わりを調整しながら自分なりの働きがいを高めていくには、仕事を自分で変えていこう、変えていけるというマインドセットを少しずつ自分の中で育てていくのが大事だと思います。考え方自体に慣れるということですね。そのためには、小さなジョブ・クラフティングから始めて拡大していくとよいでしょう。

―どんな風に上司が関わるのがいいのでしょうか。

高尾氏インタビュー風景

コーチングの姿勢で関わることでしょうか。コーチングでは、コーチが答えを与えるのではなく、質問することを通じて、受け手自身による回答を引き出すことが重視されています。若い部下へのコーチングの場合には、コーチ側は答えのイメージを持ちながら質問できることも少なくありません。それに対して、ミドル・シニア、とりわけ年上の部下に質問を投げかける時には、答えのイメージを持てないこともあるでしょう。そのため、より高度なコーチング能力が求められます。

いま貢献できることを考える

―他にミドル・シニアのジョブ・クラフティングの傾向はありますか?

定年後再雇用で働き続けている60歳以上の人たちを対象にしたジョブ・クラフティングの調査をしました。さきほどのポストオフ経験者で見られたような、現役世代から距離を置こうといったジョブ・クラフティングが見られるなど、現役時代よりも一歩引いた姿勢で仕事に臨む人たちは少なくありませんでした。その一方で、現役世代にやれなかった仕事ができないか考える、仕事の意義を捉え直すといった前向きなジョブ・クラフティングをやっている人の方がワーク・エンゲージメントや個人としてのウェルビーイングが高いことがわかりました。したがって、シニアでも、前向きなジョブ・クラフティングが大事だと言えます。

また別のミドル・シニアへのインタビュー調査の研究結果では、最初にお話した「認知的クラフティング」の重要性が明らかになりました。もう少し具体的に言うと、その研究では、「適応的諦観」がキーワードとして浮かび上がってきました。多くの会社では、主力の人たちは昇進し続けることやスポットライトを浴びるような仕事を任されることを重要視してキャリアパスを思い描いていますが、大半の人たちはそうしたキャリアを最後まで歩み続けることができないことにどこかで気づきます。そこで、諦めが生じます。しかし、そのキャリアパスの諦めが、今の仕事でどれだけ力を発揮できるのかやってみようという気持ちに切り替わる。そうした現在の仕事への適応に繋がる諦めがここでいう適応的諦観です。それによって仕事のモチベーションが回復する可能性が見出されました。当たり前ですが、全員が役員や幹部になるまで昇進し続けるわけではないので、適応的諦観のような、いい意味での諦めも大事で、これもある種の「認知的クラフティング」とみなすことができます。

―ちゃんと折り合いをつけるという意味で必要ですね。そのためには何をするといいでしょうか。

貢献できることは何かを考えることですかね。これは先日、ジョブ・クラフティングを積極的に行っている大手の旅行会社にお勤めのミドル・シニアの方々にインタビューをした時に見出した共通点です。旅行が好きな人が入社していることもあり、会社に対する愛着がベースにありながら、今までと同じことをやっていては会社が期待する貢献ができないと気づいた時に、今後何をしていけば会社に貢献できるか試行錯誤を重ねたうえで、さまざまな活躍の場を見つけられていました。何をすれば会社や周りの人たちに貢献できるのかと考えてみることは、適応的諦観の「適応」に繋がっていくと思います。

―会社への愛が強い方多いですよね。役割が変わって、自分のやるべきことが変わったとしても、会社への貢献になるのであれば、それが何かを考える方向性はジョブ・クラフティングとすごく合うと今お聞きして思いました。

とくに大手企業のミドル・シニアには会社愛が強い方が多いので、会社や一緒に働いている人たちに対してどのように貢献するかを模索する中で、キャリアチェンジの見方だとか、ジョブ・クラフティングの方向性が見出せるのではないかと思います。

―最後にミドル・シニアの方へメッセージをお願いします。

少子高齢化をはじめとした社会の変化によって、ワークキャリアが長期化していることもあり、仕事との関わり方を自分で調整する必要性が高まっています。そうした調整力を高めていくためには、ジョブ・クラフティングを自ら実践しようとすること、すなわち自分で仕事や周りとの関係性について小さな変化を生み出すことを通じて、働きがいを自分で生み出そうという姿勢を持つことがカギになります。

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