公開日 2024/11/18
アフター・コロナの時代に突入し、経営・事業戦略の独自性や遂行のスピードがより問われる中、人や組織にも大きな変革が求められている。そのような環境下で、より一層の重要性を増しているのが、メンバーに働きかけながら変革をリードする管理職の役割だ。精密測定機器メーカーのミツトヨでは、組織風土を改革し社員の力を底上げしていくために、従業員意識調査や多面診断などのアセスメントサーベイをマネジメント変革に活用し、管理職のマネジメント強化に取り組んでいる。「データに基づく施策立案」の考え方、「管理職の学び直し」を掲げた研修設計ポイントなどを同社の事例から紹介する。
昨今、管理職に対して組織運営のヒントとなるファクトを提供するためのひとつ武器として、従業員意識調査や多面診断などのアセスメントサーベイが見直されている。 その一方で、サーベイでのデータを施策にうまくつなげられていないことが課題となっているケースも多い。
ミツトヨも、過去何回か実施してきた社員意識調査やマネジメント多面評価の結果を人事施策立案に生かし切れていない、施策実施後の数値を追い切れていないなど、活用の仕方に課題を残していた。
一方で、自動車産業のEVへのシフト、半導体需要の増大など、大きな転換期にある世界の“ものづくり”を精密測定機器メーカーとして支えていくため、同社では組織としての変化と進化が求められていた。組織が変わるには、ファクトをベースとした社内風土の改革、社員の底力の強化が必須。とくに現場での改革の鍵を握る管理職層のマネジメント強化が必要と考えて、サーベイ結果から見えてきた課題をしっかり施策に落とし、2種類のマネジメント研修を用意して管理職の学び直しに力を入れたという。
パーソル総合研究所の社員意識調査(組織活性度サーベイ)とマネジメント多面評価(LDR-ATLAS)で見える化された管理職の課題は、ビジョンや方針の組織展開がなかなか徹底できてない、自分のメンバーに対する関心の低さやばらつきが散見される、全社最適ではなく部分最適=部門優先に偏重している、組織的にチャレンジする意識を生み出せていないなど。
「管理職に期待される役割や行動に関して認識のばらつきやズレがあるとわかり、明らかとなったマネジメントの課題を解決して、管理職には“変わる・変える”を実践する風土・社員・会社にしていくための原動力になってもらいたいと考えました。そこで実施したのが課長以上を対象としたマネジメント気づき研修と、専門職マネジャーを含む経営職以上を対象としたマネジメント変革研修の2つです」
図1.2022年「全管理職学び直し活動」の全体像
「マネジメント気づき研修」は、サーベイ結果のフィードバックを通し、自組織や自分のマネジメントにおいてどこに課題があり、どこが強みかを理解し、変えるべき点について真因をグループ討議で振り返り、最後に「自組織の変革プラン」を策定するという内容。1回あたり20名程度の研修を15回ほど実施し、トータルでは約300名が参加した。
研修終了後、受講者からは「データで問題の再確認ができ、組織の課題が明確になった」「メンバーとの認識のギャップに気づいた」「メンバーとのコミュニケーションの重要性、対話が不足していることに気がついた」「真因把握の重要性がわかった」などの声が寄せられており、自身のマネジメントを振り返るよい機会になったことがわかる。
また自分で策定した変革プランを現場で実際に実践していくなかで、「メンバーとのミーティングで前向きな対話をすることができた」「忙しいからできなかったなどのネガティブな発言が出てこなくなった」などのポジティブな変化が生まれると同時に、「関係性の質の改善につながる工夫がさらに必要」「部下が相談しやすい環境を作っていくことが必要」といった課題も見えるなど、さらなる気づきにつながったという。
図2.マネジメント気づき研修 概要
もうひとつの「マネジメント変革研修」は、気づき研修で策定した変革プランを実践してみて、そこでの活動をもとに、管理職として影響力やリーダーシップを発揮しながら改革を進めていくにはどうしたらよいかを考えてもらう研修だ。
「変革研修では、自分と相手の関係性というものをまずは学び、相手に動いてもらうためのコミュニケーションやアプローチについて学んでもらいました。またグループ討議を進め、最後に自分自身の変革プランを策定して、実行に移してもらうというのが内容です」
自分自身が変わるための取り組みプランで、圧倒的に多かった項目が「メンバーとの双方向の対話」。今までの対話がいかに不十分だったかに気づき、多くのマネジャーが対話の必要性をしっかり理解してくれたことを示す。
変革研修の終了後には「スピード感をもって変革を進めることが大事でそこを決意した。それには自分が変わることが重要だと気づいた」「他部門、他マネジャーと悩みを共有でき、アドバイスをもらえて有意義だった」「他の階層にも同じ内容を展開してほしい」といった声が多く寄せられた。
「コメントとしては前向きなものが多く、研修後の意識改革や行動変容につながっていくような良い面もたくさんあった一方で、やはり目指す方向性をしっかり示す姿勢がまだまだ弱い、根本原因の追究や組織としての全体的な課題を明確化する視点がまだ薄い、自分の考えを言語化・構造化する力を身につける必要があるといった人材育成上の課題も見えてきました」
ミツトヨでは現在、こうした点を踏まえた人材育成戦略と教育体系の見直しを図り、現管理職だけではなく、これから管理職になる若手層まで含めた全社員に対して、育成施策の強化が進められている。
事例紹介の後には対話セッションも行われた。ここからはセッションの内容を抜粋してご紹介していこう。
大きな変化は、数字がしっかり見えてくることで、自分が実践したことが数値的な変化にどうつながったか知りたいと、数値に関心を示すマネジャーが増えたことです。自分がやって来たこと、これから今後やらなければいけないことがわかりやすくなってきましたので、データでの見える化はやり続けることが非常に大事だなと思いました。また人事部のメンバーの仕事の仕方も少し変わりました。数字がもつ意味をしっかり分析して腑に落としていく。こうしたプロセスを何度も繰り返しましたので、思考が論理的になり、説明を聞く側も理解しやすくなりました。
多面評価で気づいたのは、マネジャーと部下の間のギャップです。マネジャーとしては、「自分では結構できている」つもりでいたものの、部下や周りはそう見ていなかったことが如実にわかった。本人たちはショックだったと思いますが、そこから「ではどうすればよいのか」へ導いていくことができました。組織活性度サーベイでは、上司は自分が認識している以上に部下から信頼されていることもわかりました。一方で職場の風通しはいいけれど、組織を超えた風通しはあまりよくないなど、考えていかなければならない要素も見えてきました。
マネジャーの皆さんが一番取り組みたいこととして挙げたのが部下との対話でしたし、部下の育成や部下に成長のための機会を与えていくことの大事さを実感した方が多かったことで、部下とのコミュニケーションが非常に頻繁になってきました。この点は一番の変化だと感じています。
株式会社ミツトヨ 執行役員
人事部長兼本社総務・宇都宮総務・広島総務担当
中里 典夫氏
Maiko Murata
1989年に複写機メーカー入社。ワークステーションを使った文書管理のシステムエンジニア、ネットワーク商品・ソフトウェアに関するシステム営業を経て人事を担当。その他、全社ERP刷新プロジェクトの海外担当も歴任。2020年、株式会社ミツトヨに入社。
モデレーター
パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 営業部 部長
武富 達也
Maiko Murata
総合商社化学品合成樹脂本部にて海外法人営業を担当。その後、富士ゼロックス総合教育研究所(後にパーソル総合研究所に統合)にて人材育成業界のキャリアをスタートし、大企業を中心とした法人営業担当・マネジメントに従事。組織開発、営業力強化、タレントマネジメント等の幅広い領域のプロジェクトに携わる。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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