公開日 2017/05/10
執筆者:営業力強化事業本部 高城 晴美
働く環境は大きく変化しています。政策としてワークライフバランス、日本人の働き方変革への取り組みが本格的に進められています。また、契約社員や派遣社員、再雇用社員など、働く時間や働き方の異なる人が同じ職場で働く時代になりました。
複雑化する経営環境の中で、目に見えない従業員の思いや気持ちを定量・定性の両面から把握する「従業員意識調査」は、ますますその意味を深化させているといえます。 本コラムでは、従業員意識を企業が持続的な成長を実現するための源泉として、どのように捉え、活かしていくことができるかについて考えていきます。
企業の競争力の強化は、方針や戦略を実行する従業員の意識と緊密に関連しています。従業員のやる気や行動力を、企業の“戦略実行能力”として的確に把握することは、絶え間なく進化するお客さまの満足を高め、企業活動を推進する上で重要といえます。
例えば、今日、多くの企業がイノベーションを起こしたいと考えています。様々な研究から、そのためには次のような、変化に強く協働的な人や職場のあり方が必要といわれています。
●変化に対して俊敏に動くことができる
●全体視点をもち、協力・共創的に活動を行う
●環境の変化を踏まえた新しい仕組みを自ら企画立案することを好む
●自分自身の経験/専門外に対しても深く受け止め、お互いの重なりを見いだせる
●多様な考え方や個性を尊重する対話がある
●支援型/参画型のリーダーシップ
イノベーション戦略を掲げる企業の経営者は、自社は、イノベーションが起きる人やチームの状態なのかどうかを知りたいと考えるでしょう。そのとき、調査を行い、目に見えない人の意識や、チームの状態を定量・定性の両面から把握すると、職場ごとの違いや思いがけない障害が分かり、次の施策を立てる基礎データを得ることができます。
また、昨今の社会動向である女性活躍の推進や雇用延長による高齢者活用、多様な雇用形態など、働き方は多様化し、従業員の価値観もますます多様になっているといえます。
一体感のある活き活きとした職場、互いに協力し合い困難を乗り越えていけるチームにしたいと誰もが考える一方で、ギスギスし孤立化が進む職場、増える一方の業務量に疲弊した従業員、「隣は何をする人ぞ」という状態は珍しくありません。
コミュニケーションの量を増やして、士気を高めようとしても、働く価値観が多様化しており、一筋縄ではいきません。 そこで次の図のように、従業員意識をワーク-ライフ軸、変革-安定志向軸で、価値観別にタイプ分けし、各タイプのやる気要因を捉えると、多様性を活かす施策を立てることができます。
例えば、事業変革の方針が出て、従業員にも新たなチャレンジが求められている会社があるとします。「保守的ハードワーカータイプ」の人のモチベーションの低下が大きいことが分かりました。これまで与えられた仕事を必死に頑張ることにやりがいをもっていたのに、経験のない新しい仕事の創出を求められることになったことで自信を失くしてしまったのです。その時、会社としてはローテーションによる新しい経験や、研修による気づきの機会提供といった、施策を打ち、新たなやりがいを見つけてもらうことができるのです。
<価値観タイプ分け>
多様な価値観を活かすダイバーシティは、事業目標を達成する上でも、重要な取り組みです。多様性を活かす施策は、「マネジメント」「制度・しくみ」にも及びます。従業員意識の把握は、納得感の高い組織運営全体につながります。
ここまで、従業員意識を企業側がどのように活用できるかを考えてきました。併せて従業員側の意識変革に活用することが大切です。「会社が何とかしてくれるのを待つ」「ないものねだり」という意識が蔓延しては困ります。従業員意識調査をきっかけに、従業員の問題意識を高め、自ら周囲に働きかけたり、仕事の改善や問題解決に取り組む姿勢を醸成していきます。
具体的には、職場の現状や感じていることを、チームメンバーで集まり、自部門の調査データを読み取りながら、現状や問題について話し合います。何度か話し合いを重ねて、本音で話せる関係ができると、解決すべき問題や協力して取り組む機運を高めることができます。
まとめになりますが、従業員意識の背景には組織の問題があるといわれます。例えば、職場の協力体制が弱いとすれば、その背景には、組織長が目標へのベクトル合わせや役割分担を明確にしていない、もしくは人間関係への配慮や働きかけが少ないといったことがよくあります。従業員意識を調べることで、人・組織の問題の真因にたどりつくことができるのです。
従業員を戦略実行力と捉え、戦略を力強く実行できる人・組織をつくることは、お客さまの満足を高め、健全な事業推進を可能にします。そして、従業員自身の主体性を喚起し、活き活きとした職場を自ら創り出せる組織風土が醸成されていくのです。
《参考文献》
「人材開発白書 2010 他者との“かかわり”が個人を成長させる(事例研究編)」富士ゼロックス総合教育研究所
「職場の組織風土の測定-組織風土尺度12項目版(OCS-12)の信頼性と妥当性」福井里江、原谷隆史、外島裕ほか『産業衛生学雑誌2004;46:213-222』
「組織風土と革新志向性が経営革新促進行動に及ぼす影響」尾関美喜 『経営行動科学 第25巻第1号,2012,19-28』
営業力強化事業本部
高城 晴美
Harumi Takashiro
大学卒業後、学びの情報プラットフォームのマーケティング、法人営業を経験後、富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に転職。主に法人を対象とした営業力強化のコンサルティングを担当、その後、新規事業を立ち上げ、現在は、責任者として営業力強化研修の商品開発に従事。
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