研修効果測定の実施に向けて

公開日 2010/01/07

執筆者: 総合営業本部 執行役員 元木 幹雄

インデックス

 

1.研修効果測定ニーズの高まり

2009年9月8日に弊社にて「効果測定を考える」という特設ワークショップを開催したところ22社29名に参加いただいた。
その参加理由を、事前アンケートにて質問したところ、以下のような回答を得た。
 

  • 研修の目的を達成しているかを確認したい。また、達成していない場合、どう改善すればよいのか方法を知りたい。
  • 研修によって成果が上がったことを証明する方法を知りたい。
  • 研修が実際に役に立っているか、確認したい。
  • どのような“ものさし(項目)”で研修効果測定を実施すればよいのかを知りたい。
  • 研修効果を数値化して残す方法を知りたい。
  • 受講者本人の能力向上のために気付きを促したい。
  • 業績との連動、受講生が所属する組織の変化を確認したい。
  • 研修で学んだこと、気付いたことが、どの程度、その後の行動に影響を与えているかを確認したい。
  • 人材開発担当になったばかりなので基本的なことを教えてもらいたい。

次いで、現在、効果測定に取り組んでいるかという質問では、約50%近くが「全く取り組んでいない」とのことだった。一方、取り組んでいる会社のほとんどはカークパトリックモデルでいう「レベル1」の研修直後に実施する満足度確認のためのアンケートであり、「レベル2」や「レベル3」といった研修の理解度 テストや、実践度の診断といった効果測定は2社だけだった。

最後に、研修の効果測定に取り組めていない場合、なぜ難しいのか、その理由を質問すると、以下のような回答だった。

  • 研修の効果測定に向けたアンケートの作り方がわからない。
  • アンケートでは「よかった」「役にたった」との回答があっても、本当にそうなのかを検証する方法がわからない。
  • 直後アンケートや理解度テストだけでは、研修の効果は判断できない。
  • 研修で学んだことをどのように維持し、成果をどう証明するか、具体的な方法がわからない。
  • 営業研修後、営業での数字が上がったとしても、研修の効果があったと証明できない。
  • 研修の実施を業績と連動させることを目指しているが、外部環境の影響もあり、証明することが難しい。
  • 研修後、受講生の時間を再度とることが困難である。
  • 研修担当になって間もないため、何が難しいか、現時点ではわからない。

このような問題に対し、カークパトリックモデルを用いて考えてみたい。
 

2.ドナルド・カークパトリックのレベル4

研修の効果測定を実施するに当たり、有名なモデルとしてドナルド・カークパトリックのレベル4がある。
 

  • レベル1:Reaction(受講満足度) よかった!
  • レベル2:Learning(理解度) わかった!
  • レベル3:Behavior(実践度) 実践した!
  • レベル4:Business Results(結果) 結果が出た!

このモデルに沿って効果測定の実施方法を考えると、レベル1は「研修満足度」を問うものであり、アンケートでは以下のような設問が一例として考えられる。
 

  • 研修に参加して、どのようにお感じですか?
    □たいへん満足 □満足 □どちらとも言えない □やや不満 □不満
  • 研修の内容は理解しやすかったですか?
    □とても理解しやすかった □理解しやすかった □どちらとも言えない □やや理解しにくかった □理解しにくかった
  • 研修で学んだことは、あなたの仕事の役に立ちますか?
    □とても役に立つ □役に立つ □どちらとも言えない □あまり役に立たない □役に立たない
  • 講師は適切な時間管理のもと、効果的に研修を運営していましたか?
    □強く思う □思う □どちらとも言えない □あまり思わない □思わない


これらの設問は、いかなる研修でも活用でき、研修直後に実施することから、お手軽に実施できる。
実施することの意味としては、受講生の研修満足度を確認できることはもちろん、複数の研修を実施しているのであれば、各研修の比較ができる。また、研修への満足度は高いが講師への満足度が低ければ、次回以降、講師を替えるという判断ができる。逆に、講師への満足度は高いが、研修への満足度が低いのであれば、研修内容の見直しが必要である。
研修の効果測定に全く取り組んでいないという会社は、まずは簡単に取り組めるレベル1の「研修満足度」に取り組むことを強くお勧めしたい。アンケートを実施するということで講師に適度な緊張感を与えることができ、研修の見直しの際にも、有効な示唆も得られる。
 

3.レベル2の理解度、レベル3の実践度の測定

もちろん、研修の効果測定はレベル1ではなく、レベル2やレベル3を目指したい。レベル1では満足度は確認できても、研修の狙いを達成しているかどうかは不明だからだ。研修の狙いは、知識やスキルの習得であり、職場での行動変容である。そうであれば、レベル2の理解度、レベル3の実践度を効果測定のター ゲットとしたい。
またレベル2やレベル3の効果測定に取り組むメリットは、実施そのものが、研修効果の維持・向上に繋がる。理解度や実践度を確認するということは、研修受講生の復習にも繋がり、リマインド(思い起こさせる)効果がある。基本的に、学んだことを復習し、活用しなければ忘れてしまう。その意味で、レベル2やレベル3の効果測定に取り組むことは大変意義がある。
ただし、効果測定を実施する際は、設問作成と実施の手間がかかることは避けられない。
レベル2の理解度の設問作成は、研修を担当する講師に、研修において最も理解して欲しいポイントについて、テストの作成を依頼してみよう。そして研修直後 にテストを実施し、即時に採点、フィードバックする。そして数ヵ月後に再テストし、理解したことを忘れていないか、再確認してみることがお勧めである。

レベル3の実践度の設問作成は、研修の狙いを踏まえ、研修後に期待する行動を設問化してみる。例えば、部下の指導・育成をテーマとしている研修であれば、 研修後に期待する行動は「部下の指導に積極的に取り組んでいる」ことである。そのため設問も「部下の指導に積極的に取り組んでいる」というイメージで作成していく。
回答尺度は「かなりあてはまる、わりとあてはまる、どちらともいえない、あまりあてはまらない、全くあてはまらない」といった5段階評価が良いのではないか。もちろん6段階評価という方法もある。この場合は中心が3と4になるので中心化傾向を避けることができる。あるいは「コンプライアンスを遵守している」といった設問であれば、回答のばらつきは少ないと思われYES、NOの2択ということでも良いかもしれない。回答尺度については、設問の性質によって どうすべきか考えるべきである。
診断の実施については、研修受講生に研修前と研修後の2回を実施することで効果を測定するか、研修受講生と受講生以外の社員を診断し、その比較をすることで効果を測定することが考えられる。但し、診断を通じて、研修のリマインド効果を狙うならば、研修受講生に研修前と研修後の2回診断を実施することがよいと思う。また、実践度の診断については、より客観的な診断結果を得るために、研修受講生の上司や、同僚・部下に診断依頼することも有効である。もちろんこの場合は、協力依頼や、多くの人を巻き込むため、大変手間がかかる。しかし、こうした手間をかけることで研修受講生に効果的な気づきを与えることができる。

レベル2やレベル3は、いざ、実行しようと思うと時間もかかるし、はじめての場合は、どうして良いかわからないことも多いと思われる。その意味では、内田 治、醍醐朝美(著)「実践 アンケート調査入門(日本経済新聞社2001)」、内田治(著)「すぐわかるSPSSによるアンケートの調査・集計・解析(東京図書2007)」、鎌原雅彦、大野木裕明、宮下一博、中沢潤(著)「心理学マニュアル質問紙法(北大路書房1998)」、平松陽一(著)「教育研修スタッフ必携教育研修の効果測定と評価のしかた(日興企画2006)」、堤宇一、久保田享、青山征彦(著)「はじめての教育効果測定―教育研修の質を高めるために(日科技連出版社2007)」といった書籍などを参考にされるとよいと思う。あるいは、外部の教育会社に相談してもよい。一旦、そのノウハウを吸収すれば、外部の会社に頼らず、自社内での展開もできるはずだ。是非、取り組んでみて欲しい。
 

4.研修と業績との連動について

効果測定というと、レベル4を目指し、研修実施が業績に繋がっているか検証をしたい、という相談も多い。研修も最終的には業績に繋がることが期待されるが、現実的には極めて困難だ。
業績に繋がる要因は「外部環境」「商品・サービス力」「運」など、「人材力」以外に多くのことが挙げられる。更に人材力も「研修で強化されたのか」「上司がOJTによって強化したのか」「自助努力なのか」などの多様な向上要因があり、簡単に判断できるものではない。 レベル4は業績ではなく、もう少し手前の結果を設定したい。例えば、マネジメント研修であれば、マネジメントが強化されることによって得られるであろう 「職場内のコミュニケーションが図られている」「社員のモチベーションが高まっている」「目標設定(P)、実行(D)、チェック(C)、改善(A)のサイクルが回っている」というような結果を目標として設定すべきだ。
研修と業績は「風が吹けば、桶屋が儲かる」と同様、ほとんど相関は見出せないし、因果関係を証明するには無理がある。そうではなく、研修と因果関係がありそうな結果目標を、上記のようなイメージで設定し、効果を測定してみてはどうか。あえて、このために効果測定をしなくても、従業員意識調査などを実施していれば、職場や上司に関して満足度を測定しているはずだ。研修実施前と、実施後の変化を確認することで、効果測定ができるかもしれない。
 

5.さいごに

研修の効果測定は、業績との連動を考えるあまりに、結局行き詰ってしまっていたり、レベル1の研修満足度程度であればやらなくても良いと考え、結局、何も 手をつけないでいることが多いようだ。また、レベル2、レベル3の測定は難しいし、面倒なのでレベル1で満足しているケースもある。
今、実施している研修を少しでも改善するためには、レベル1に取り組むべきだ。レベル1に取り組んでいるとすれば、研修の改善を考えるだけではなく、研修 効果の維持・向上のためにレベル2、レベル3にチャレンジすべきだ。レベル2、レベル3に取り組んでいるとすれば、研修で期待する結果目標を設定して、レベル4の測定に取り組んでみて欲しい。
組織心理学者のエドウィン・A・ロックは目標設定理論の中で、困難度は適度に高く(高すぎるのも問題、低すぎるのは論外)、明瞭(具体的)な目標が、モチ ベーション向上に繋がるといっている。研修企画担当者は、良い研修を企画・実施しようという掛け声だけではなく、例えば「満足度は5点満点で受講者平均 4.2以上、理解度は100%、実践度は3ヵ月後に5段階評価で受講者平均4.0以上を目指すぞ!」といった具合に、チャレンジングで、具体的な目標を設定しながら、取り組むことを提案したい。それが、研修の改善や、研修効果の維持・向上に繋がり、更には研修企画担当者自身のモチベーション向上に繋がると考える。
 

執筆者紹介

元木 幹雄

総合営業本部 執行役員

元木 幹雄

Mikio Motoki

人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。

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