公開日 2014/10/01
執筆者: 総合営業本部 執行役員 元木 幹雄
本稿は、これからも選ばれ続ける企業であるために、わが社の健康診断、従業員満足度調査についてのご紹介です。さて最初に、質問をさせてください。
みなさまの会社では「従業員満足度調査」は必要だと思いますか?
もし、ここで簡単に「必要か不必要」が判断できるようであれば、そういったみなさまには、この先の話は不要かもしれません。
「従業員満足度調査」が必要かどうかは、これらの疑問を解決しなければ、判断できないのではないでしょうか。そこで本日は、この3つの疑問に対し、私なりの考えをお話させていただきたいと思います。
さて、本題に入る前に1点、いくつかの単語についての説明と、従業員満足とお客様満足についての関係について、少しだけ触れておきたいと思います。
一般的に、お客様満足は、Customer Satisfactionを略して、CSと呼ばれています。一方、従業員満足は、Employee Satisfactionを略して、ESです。調査は英訳するとサーベイなので、従業員満足度調査はESサーベイです。
ちなみにESサーベイは「モチベーションサーベイ」「モラールサーベイ」「エンゲージメントサーベイ」と言うように、ESではなく、「やる気」とか「士気」「会社への愛着心」という名のもとに、サーベイをすることもあります。もちろん違いや強調したいポイントは異なると思いますが、ES向上は、「やる気」や「士気」「会社への愛着心」を高めることにつながっていることが前提であり、サーベイ自体は、ほぼ同じと捉えていただいても良いのではないかと思います。なお、これから「やる気」という言葉をたくさん使ってまいりますが、私が申しあげる「やる気」には、「士気」とか、「会社への愛着心」といったことも包含しているとお考えください。
そして、企業の大命題であるCSですが、そのCSを高めたいのであれば、ESを高める必要があり、ESを高めたいのであれば、サーベイが必要だと考えています。
CSとESの関係については、いろいろな調査がありますが、一例を挙げると、ジェームス・L・ヘスケット(ハーバード・ビジネス・スクール)教授の調査結果※1があります。
ESの1%向上が、CSの1%向上とイコールではありませんが、CSを高める1要因としてES向上があると言えそうですし、多くの方も経験的に実感されているのではないでしょうか。
しかし、ESはCS向上や、従業員のやる気を引き出す重要な指標でありながら、一人ひとりの内面に隠れたものなので、確認することが難しいものです。そのため、多くの企業において、ESサーベイと称したアンケートを通じて、数値に置き換え、管理しています。
それでは、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
最初にESについて考えてみたいのですが、従業員が満足感を得るとき、あるいは、やる気がでるときと言っても良いのですが、それはどんなときでしょうか?
いろいろな場面がありそうです。
私自身、若手の頃は、早く一人前になり、昇進・昇格したいと思っていましたが、それ以上に「自分自身が成長できたな、と実感できたとき」や「重要な仕事を任されたとき」にやる気がでました。最近では、住宅ローンを払い続けながら、子供にお金がかかるようになってくると、昇進・昇格というより、昇給や賞与が気になります。ただ、それ以上に「難しい仕事をやり遂げたとき」とか、「一緒に働く部下から相談されたとき、つまり頼りにされているな、と感じたとき」にやる気がでます。こうして改めて考えると、自分自身の役割や、成長とともに、やる気の要因は変化しているようです。
はじめて部下を持ったときに、失敗したことがあります。自分自身が、重要な仕事を任されたときにうれしかったことを思い出し、自分の部下にも、どんどん仕事を任せたことがあります。私がうれしかったことは、きっと部下もうれしいだろう、と勝手に考えてしまったのです。
しかし、あるとき、その部下から「仕事の負担が大きすぎる。なぜ、上司であるあなたの仕事を私に投げるのか」と、次々と仕事を投げる私に対し、部下の不満が爆発しました。私はてっきり、大変ながらも、やりがいを感じてくれているだろうと、思い込んでいたので驚きました。お恥ずかしい話ですが、そのときにはじめて、一人ひとりのやる気の要因は違うんだな、と実感したものです。
ESは、経営者やマネジャー、あるいは人事担当の方の視点で考えると、従業員が満足するのは良いとして、「やる気がない」といったことになると困ります。冒頭にも申し上げましたが、ES向上は、「やる気を高めること」に、つながっていることが重要です。
従業員のやる気の要因は、「仕事のやりがい」「職場の働きがい」「上司への信頼度」「人事運営の満足度」「組織運営の満足度」といった、いろいろな要素で構成されていると思います。そして、これらのやる気の要因は、一人ひとり異なっています。
なぜかというと、人には、それぞれ価値観があり、たとえば、プライベートを大切にしている人は、やりがいのある仕事より、定時に帰れる仕事が重要です。一方、仕事人間であれば、定時なんてものはあってないようで、休みであっても仕事のことを考えています。そういう人には、やりがいを感じられる仕事が重要です。
満足度や、人のやる気は、瞬間的に上がったり、下がったりしますが、価値観は変わりにくいと言えます。価値観の変化は、たとえば「いつも個人プレーばかりしていた社員が大失敗をして、仲間から助けてもらった体験から助けあいの精神を持つようになった」「子供が生まれ、仕事中心から子供中心の生活になった」「異動を通じて、新しい職場で働き方が変わった」といった、ある種の経験を通じて、ゆるやかに変わっていくものだと思います。同じ職場、同じ仕事、同じ上司や同じ同僚、といった周囲の環境が変わらなければ、価値観は年数を重ねても、ほとんど変わらないかもしれません。
ですからESを高めるためには、従業員一人ひとりを見て、変わりにくい価値観を前提に置き、それぞれに応じたやる気の素を提供していくことが理想的な方法です。
こうして考えてみるとESを向上させるということは、本当に難しいことだと思います。しかし、繰り返しになりますが、ES向上※2は、CS向上につながり、その結果、やがて業績へとつながります。こうなれば、業績によって得られる原資を、従業員に還元することで、更なるES向上につながる、という好循環が生まれます。もし、みなさまの会社のESが下がっているとするなら、向上させるための変化点を創るということは、大変な仕事だと思います。ただ、それに見合うだけのやりがいや、結果が期待できる仕事だと思います。
それではここから、もう少し具体的な話に進んでいきたいと思います。
調査とは、ウィキペディアで調べると「ある事象の実態や動向の究明を目的として物事を調べること」と記されています。ESサーベイであれば「ESの実態や動向の究明を目的として物事を調べること」となりそうですが、私は、調査そのものが目的化しないよう、ESサーベイの目的は「ES向上のために、従業員のやる気や士気、会社への愛着心といった心の状態や、従業員の価値観、さらには会社への期待や不満を知ること」と考えています。
それでは調査方法には、どのようなものがあるでしょうか?
大きく分けると3つあります。
1つ目は、アンケートです。定量的な尺度と自由回答欄を設けた回答用紙を準備し、回答してもらう方法です。ただ最近では、一人一台従業員がインターネット接続しているPCを所有していることが多いので、WEB上に回答画面を準備し、回答してもらうことのほうが多くなっています。
2つ目は、インタビューです。一人に対して実施する個人インタビューや、複数名を集めて実施するグループインタビューがあります。あらかじめ聞きたい質問を準備して臨み、対象者の回答から、さらに「なぜ」「何を」「いつ」「どこで」「誰が」「誰に対して」「どうしたのか」といった5W1Hの質問を中心に深堀することで、より具体的な回答を引き出します。
3つ目は、職場や行動の観察です。職場の観察では「上司が部下に対してどのように指示命令をしているのか」「部下同士でどのようなコミュニケーションがとられているのか」「昼休みなど各々、どのような過ごし方をしているのか」など、多様な観点で、文字通り職場を観察します。行動の観察では、特定の誰かの行動をきめ細かく観察することが目的です。たとえば、営業担当者に、お客様先まで同行させていただき、その行動を観察します。
それぞれの手法には、メリットとデメリットがあります。アンケートであれば多数の従業員に実施することが比較的容易である一方、具体的な意見を収集することが難しいという特徴があります。インタビューであれば、具体的な回答を収集しやすくなるのですが、多数の従業員に実施するには時間がかかります。職場や行動の観察も、場の雰囲気といった、インタビューでは得られない空気感を肌で感じることができます。しかし、インタビュー同様、短時間の観察では得られることも少ないので、ある程度の時間が必要となります。
話をESサーベイに戻すと、この3つの調査の中で、ESサーベイをはじめて実施するのであれば、まずは全従業員を対象に実施することや、ESの状態を数字で押さえることを推奨したいため、「アンケート」から実施することをお勧めします。
これは弊社のアンケートの中の設問をほんの一部抜粋したものですが、たとえば、「総合的にみて、あなたは自社に満足していますか」といった設問に対し、「5.非常にあてはまる」「4.わりとあてはまる」「3.どちらともいえない」「2.あまりあてはまらない」「1.ほとんどあてはまらない」といった回答尺度で回答してもらいます。
集計では、まずは全員の回答の平均値を出し、たとえば、当社の従業員の満足度は3.7ポイントだったというように捉えていきます。そして、平均値だけではなく、5と4の肯定的な回答をしている社員が60%、3の中間的な回答をしている社員が20%、2と1の否定的に回答をしている社員が20%といったように度数分布も確認し、ばらつきも見ていきます。
もちろん、上記の例で挙げた設問だけでは得られる情報も少ないので、もっと具体的なことまで踏み込んだ設問も用意し、それぞれの設問の平均値や度数分布、さらにはクロス集計や、統計解析を駆使し、分析をしていきます。
イメージをもう少し掴んでいただくために、富士ゼロックスの事例を少しだけ紹介しましょう。これから紹介するデータは「富士ゼロックス モラールサーベイ」と検索いただければ、富士ゼロックスのホームページ内でも紹介されていますので、ご興味あれば、検索してみてください。
富士ゼロックス※3では、1978年にアンケートによる従業員意識調査「モラールサーベイ(2015年よりESサーベイに改称)」を、富士ゼロックス単独で開始し、その後、国内の関連会社および販売会社でも実施しています。調査結果は、経営方針の策定や、組織での課題解決のための重要な情報として活用しているほか、社内イントラネットや各組織を通じて従業員にもフィードバックもしています。
調査は、「仕事のやりがい」「職場の働きがい」「上司のマネジメントへの支持」「人事制度・運営への支持」「経営・組織運営への支持」の5つの項目からなる「コア・モラール」を中心に構成され、また、経営方針の浸透・実践に関する設問や富士ゼロックスおよび関連会社の共有価値である「私たちが大切にすること」への意識に関する設問を加えた、50の設問が富士ゼロックスおよび国内関連・販売会社における共通設問となります。
この共通設問に加え、ハラスメント、ワーク・ライフ・バランスなどの制度・施策に関する設問や各社の特性に応じたオリジナル設問と、自由解答欄を設けた構成になっています。
2013年度の調査結果では、「コア・モラール」の全社平均は3.36ポイント(5.00ポイント満点)となり、前年度の3.37ポイントに対して、大きな変化はありませんでした。各項目については、「仕事のやりがい」が3.58ポイント、「職場の働きがい」が3.56ポイント、「上司のマネジメントへの支持」が3.56ポイントと、前年度に引き続き平均スコアを大きく上回る結果でした。
また、「経営・組織運営への支持」については、0.11ポイント低下の3.12ポイント、「人事制度・運営への支持」については、前年度と変わらず2.97ポイントでした。
ここまでが富士ゼロックスの事例の紹介ですが、全社平均が3.36ポイント? だから何? といった感想をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
こういった定量的な分析だけでは、わかることは限られています。そこで、アンケートの中には、自由回答欄を設け、自由に不満や、会社に期待することなどを記載いただきます。定量的な分析より、自由回答の分析は、読み込みが必要で、時間もかかり大変ですが、上記のように従業員満足度は3.36ポイントで、そして自由回答からは「多くの従業員は自分の仕事にはやりがいを感じている一方、その評価は不満を持っている様子がうかがえる」というような踏み込んだ理由まで、把握できるようになります。
それでも、アンケートでわかることはここまでです。たとえば、上記のように「評価に不満を持っている人が多そうだ」と把握できても、その原因をアンケートの分析だけで得ることは困難です。評価に不満があるということが分かれば、次に知りたいのは、その原因です。それが評価制度の問題なのか、評価者の問題なのか、そこまで踏み込んで明らかにするためには、インタビューなどを実施して、追加情報を得る必要があります。但し、先ほども述べました通り、当然、インタビューは手間がかかります。
100名の会社で、1名1時間インタビューしたら、それこそ100時間かかることになり、アンケートは全員に実施できても、インタビューは全員に実施することは現実的には難しく、一部の人だけから、深い情報が得られる一方、偏った情報しか得られない可能性があります。
もっともっと踏み込むなら、職場を観察し、一人ひとりの行動を観察することもあります。インタビューでは、無意識で行動していることについては、その行動について語ってもらうことはなかなかできません。たとえば、気持ちのよい挨拶をしている人がいて、その人が職場の雰囲気を良くしているとします。こういった行動は無意識に行っており、その人に「職場の雰囲気を良くするために心がけていることは何ですか?」と質問したところで、「気持ちのよい挨拶を心がけています」との回答はほとんどの場合、得られません。なぜなら、その人にとっては、特別の行動ではなく、いつもの行動だからです。しかし、私のような第三者が職場を観察したら、その人にとってはいつもの行動でも、特別な行動として発見できることがあります。
また、ある職場において、多くの部下が上司に不満を持っていたとします。しかし、その上司が威圧的な態度を日頃から取っていた場合、弱い立場である部下は、そういったことをインタビューにおいて質問されても、言えないことがあります。こういったケースではインタビューよりも、職場の観察が有効です。長い時間をかけて職場を観察すれば、そういった空気を感じとり、ときにはそういった場面を発見することもできます。但し、観察するという手段は、インタビューよりも、さらに手間がかかることになります。
このように調査といっても、いろいろな手段があります。手段によって得られる情報も様々です。自社の従業員規模や、時間的な制約やコスト的な制約、および、何をどこまで知りたいのか、等を総合的に考え、調査の手段を選択することが必要となります。
この問いについて、直接お話しする前に、タイトルの「わが社の健康診断、従業員満足度調査」のご紹介とした理由から、お話させてください。
健康診断については、事業者は従業員に1年以内に1回は受診させる義務があるはずです。職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成するためです。
こうした背景には、高齢化が進み、脳・心臓疾患等の成人病につながる所見を有する労働者が増加していることと、一般健康診断の結果では、労働者の3人に1人が何らかの所見を有する状況にある、と言われているからです。特に中小規模の事業者において、こうした所見者の割含が高い状況にあるようです。また、産業構造の変化や技術革新の進展等に伴う労働の態様の変化により職場生活において疲労やストレスを感じる労働者が増加しているほか、「過労死」が社会的にも大きな間題となっており、その予防のため総合的な対策を講じる必要があると言われています。
言わばES サーベイも心の健康診断のようなものです。事業者は従業員に1年に1回は受診させ、職場における労働者の心の健康を確保するとともに、やる気を引き出し、士気を高め、会社への愛着心を高めていくべきだと考えています。
こう考えるには背景があります。まず外部要因として「少子高齢化の進展と労働人口の減少により一人当たりの労働の負荷が高まっている」「従業員の価値観や働き方の多様化により、従業員一律に施策を展開しても、効果を上げられなくなっている」「グローバル化の進展に伴い、求められる知識・スキルが変化し、これまで培ってきたことが活かせなくなってきている」ことがあります。一方、内部要因として「成果主義の失敗に代表されるような人事施策によって、短期的な利益確保のためのコストカットや短期業績を意識した近視眼的な育成」があります。これらが絡み合い、従業員のやる気や士気、会社への愛着心の低下や、もっと言うと心の健康面でも、問題が顕著に表れている、と感じるからです。健康診断同様、本来はこうした問題が顕在化する前に、ESサーベイを通じて、予兆を発見し、その予防のための対策を講じる必要があるのではないでしょうか。
但し、健康診断を受診するだけで健康になれないのと同様、ESサーベイを実施するだけでは、やる気や士気、会社への愛着心の向上も、心の健康も取り戻せるわけではありません。ESサーベイの結果を丁寧に読み解き、対策を講じる必要があります。そして、当然、ESサーベイの結果や対策を各組織/職場にフィードバックすることが不可欠です。フィードバックしなければESサーベイを実施する意味はありません。もし、フィードバックしないESサーベイであれば、会社が何かしてくれるのではないかという期待感を高めるだけで、何もしなければ、失望感を生むことになります。そうなるのであれば、むしろやらないほうが良いと思います。
かつての日本企業は、給料や賞与といったお金と、昇進や昇格といったポジションで、従業員のやる気を高めていた時代がありました。高度成長期には、会社の成長に伴い、従業員一人ひとりも責任のあるポジションを与えられ、それに見合う処遇を得て、成長を実感できていました。
しかし、今日においては、お金やポジションだけでは、やる気を引き出すことは困難です。お金やポジションでやる気を引き出そうとすると、その原資を担保するために、右肩上がりの成長をし続けることが必要です。仮に今期は業績が良かったからといって、お金やポジションで報いることができたとしても、お金をもらった瞬間、昇進・昇格した瞬間は、ガッツポーズをとれても、翌期以降も、お金やポジションで報いることが継続できないと、やる気を持続させることはできません。
もちろん働く従業員にとってお金やポジションは非常に重要な要素であることは間違いありません。我々がESサーベイをいろいろなお客さまにおいて実施しても、お金やポジションに関わるスコアは、どこの会社でも満足度のスコアが低く、従業員が最も感じている不満の一つです。ですから、お金やポジションでも報いることができるよう、会社として「成長」することに最善を尽くすことが重要であることは申しあげるまでもございません。ただ、ここで申し上げたかったのは、お金やポジションだけでやる気を引き出そうと考えず、他のやる気を引き出すための方法も考えるべきだと言うことです。
富士ゼロックス以外でも、多くの会社にESサーベイのご支援をして参りましたが、事例としては、以下のようなことがありました。
ESサーベイの結果を読み解き、会社としてできることを「限られた情報と時間の中で、対策を考え、継続して取り組むこと」が重要です。もちろん従業員の気持ちを知ろうと、あれこれ調べようとする努力は必要です。しかし、あれもこれも全てを調べてから対策を検討し、展開することは、いくら時間があっても足りませんし、コストもかかりできません。まだ、ES向上に着手できていないというのであれば、まずは第一歩としてアンケートによるESサーベイから実施してみませんか。そして不十分なデータかもしれませんが、そこから結果を読み解き、できるだけ早く対策を検討し、展開することをご提案いたします。小さなことでも、改善していることを従業員に伝えることが重要です。
また、対策を考えるのは、会社だけではありません。たとえば、富士ゼロックスでは、「企業風土改革運動」の一環で、ESサーベイ結果を踏まえた対話会を各部門/職場で実施し、社員自身の意識・行動変革を進めてきました。会社が対策を考えるのではなく、各部門/職場で主体的に考えてもらうことが目的です。現時点では、まだまだ組織的な変革が弱く課題が残っています。「チャレンジする風土の更なる醸成」と「機能全体での仕事のやり方を含めた『働き方』の変革推進」が今後の強化ポイントです。
2014年度も、「ESサーベイ」結果をふまえた各組織/職場での議論・対話を継続するとともに、国内販売・関連会社においてもES向上に向けた取り組みを強化しています。
人は、納得いく目標を持ち、その達成に向けて物事を進めていくときに、信頼され、任され、責任感が持てたときに、やる気が高まるのではないかと思います。ですから、ESサーベイの結果を読み解き、会社がES向上に向けた取り組みを主導するのではなく、各組織/職場がES向上に向けた取り組みを主導してもらう、というのもES向上を推進していく上で、必要な方法です。
また、ES向上を考える際、他社事例や他社データは参考にはなりますが、背景も状況も異なるため、自社の対策は自社で考えるしかありません。もう一つ大切なことは、一朝一夕にはESは向上しない、と認識することです。粘り強く、丁寧に対策を継続していくことが不可欠です。
一度、体調を崩した人が、健康を取り戻すには、時間が必要です。メタボ検診で引っかかり、ダイエットに取り組んだことがある人も少なくないと思います。しかし、ダイエットに失敗した事例を良くご覧になると思います。ES向上も同じで、問題を認識し、このまま放置しておくと大変なことになるとわかっているにも関わらず、対策にはなんとか取り組むことができたものの、思うような成果を実感できずに、断念してしまうケースが良くあります。
ES向上の出発点として、アンケートによるESサーベイで数値にて現状を把握し、対策の展開1年後に、再度、アンケートによるESサーベイを実施することで、数値のチェックをしてみませんか。毎年、健康診断で体重や体脂肪を図るのと一緒です。ESの状態を数値で確認すれば、成果を実感できます。そして、思うように成果が上がっていなければ、さらなる対策を考え、成果が上がっていればやってきたことを継続します。
そしてもう一つ付け加えるならば、対策を決めたら迷わないことです。対策の決定時点では、本当にその手段で良かったのか、誰も保証することはできません。しかし、何もしなければ、変化は起こりません。むしろ現状は悪化します。決定したら、それで良かったと思えるよう、最善を尽くすことしかありません。その為には限られた情報と時間の中で、一生懸命に考えることが重要です。ときには失敗することもあるかもしれません。しかし、最終的に成功できれば、失敗も成功のためのプロセスとなります。
これまでの話は、ES向上であり、従業員のやる気を引き出すことをテーマに話をして参りました。こういった話をした際に、新入社員ならともかく、社会人なら、自分でやりがいなり、働きがいを見出し、自らのやる気くらいはコントロールして欲しい、という意見を頂くことがあります。
従業員が、自らのやる気を自分でコントロールしてくれればこれに越したことはありません。実際に、成果を継続的に上げている従業員は、会社や上司にやる気を与えてもらうことなく、自分で自分のやる気を奮い立たせ、ここぞというときに集中し、結果を出しています。こういう人は自らをコントロールする術を持っています。
オリンピックで活躍する選手や、ワールドカップで活躍するプロサッカー選手、大舞台で活躍する役者なども、自らやる気を奮い立たせ、ここぞというときに集中し、結果を出しています。しかし、こうした人たちが、誰かの支援なくして存在しているかというと、そうではなく、やはりコーチがいたり、メンターがいたり、スポンサーがいたりして、助けられています。同様に、自らのやる気を自分でコントロールできる従業員であっても、不満はもちろんあるし、やる気を喪失することもあると思います。その意味では、会社の助けがあっても良いのではないでしょうか。
そして何よりも、やる気を自分でコントロールできる従業員ばかりではなく、他者からやる気を与えてもらわなければ「やる気がでない」という従業員もいるという現実も否めません。こういった従業員に対しては、経営者やマネジャー、人事担当は、人のやる気を高めるためのメカニズムを知り、やる気の素をタイミング良く、提供していくことが必要だと考えます。
そのためには、数あるモチベーション理論※4を勉強することが良いのではないかと考えています。神戸大学の金井先生の著書※5である「働くみんなのモチベーション論」から、若干、私なりの補足をしながら引用させていただきますが、こんな一節がありました。
私自身、この本を読んで、自分のやる気をコントロールする術を学びました。もちろんまだまだ不十分であり、迷ったり、悩んだりすることが多々あります。しかし、最近では、本当にやる気が起きない時は、周囲の人に「いつまでに○○をやる」という宣言をして、自分を追い込む方法が、自分自身のやる気を回復させる方法ではないかと気付きました。できなければ、口だけだと言われるのを恐れ、無理やり、自分に鞭を入れる、自分がいます。これが、現在の私のモチベーション持論なのですが、これを持つことで、ほんの少しですが、自分で、自分を調整できるようになりました。
この方法は、自分のやり方であり、ときには他の方にも参考にしていただけるかもしれませんが、全ての人にこの方法が適応できるわけないことはわかっています。そこで、その他にもたくさんあるモチベーション理論を学び、人に応じた使い分けができるよう、勉強しているところです。
従業員一人ひとりを知り、一人ひとりを活かすための方法を考える。そのためにすべきことはたくさんあります。何度も繰り返すようですが、まずは最初の一歩としてはじめるなら、アンケートによるESサーベイを実施し、従業員を知ることからはじめませんか。
そして、モチベーション理論を学ぶことで、自分自身のやる気を引き出すとともに、従業員のやる気を引き出すことにチャレンジしてみませんか。
本日はモチベーション理論のご紹介までは、これ以上の時間をとることができませんでしたが、ご興味のある方は、書店で本を探してみてください。お勧めは金井先生の「働くみんなのモチベーション論」です。
経営者やマネジャー、人事担当が、従業員のことを一生懸命知ろうとし、一生懸命やる気を引き出そうと、熱い思いを持って行動に移したら、きっとその努力は伝わると思います。努力が伝われば、はじめてのアンケート調査でちょっとした不手際があっても、従業員は、その思いに応えてくれるのではないでしょうか。モチベーションの理論も本で学習しただけで、簡単に活かせるようになるかと言うと、なかなかそうはいきません。それでも、努力が伝われば、従業員も応えてくれるのではないでしょうか。ES向上に向けた取り組みも、最初はうまくできなくても、やっているうちにうまくできるようになります。
是非、ES向上のための第一歩を踏み出すことを期待しています。
富士ゼロックスのES向上のためのサーベイや取り組みについてもう少し聴きたい、ということであれば、みなさんの会社を担当している富士ゼロックスの営業にご相談ください。富士ゼロックスでは言行一致を合言葉に、自らの実践事例についてご紹介する準備をしています。
ESサーベイをやってみたい、と決心されたらインターネットや書籍に、実施方法に関する情報がたくさんあります。必要な情報を収集し、検討してみてください。推薦する図書をあげるとすれば吉田さんの著書※6である「社員満足の経営」です。大変丁寧に社員満足の本質を解説し、具体的な手法を紹介しています。
自分達だけではESサーベイをやりきれない、ということであれば、私どもパーソルラーニングにご相談ください。全力でご支援させていただきます。ESサーベイは、従業員の本音を引き出すために匿名で調査することが一般的です。その意味では、第三者機関に委託をして実施することも効果的です。
以上で、私の話を終えさせていただきたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。
※1.ジェームス・L・ヘスケット、他著(1988)「カスタマー・ロイヤリティの経営」日本経済新聞社
※2.ジェームス・L・ヘスケット、他著(1994)「サービス・プロフィット・チェーンの実践法」(ハーバード・ビジネス・レビュー)
※3.富士ゼロックス「従業員満足向上の取り組み」公式ホームページより
http://www.fujixerox.co.jp/company/public/sr2013/continue/employee.html
※4.モチベーションアップの法則ホームページより
http://www.motivation-up.com/motivation/index.html
※5.金井壽宏(2006)「働くみんなのモチベーション論」NTT出版
※6.吉田寿(2007)「社員満足の経営」日本経団連出版
総合営業本部 執行役員
元木 幹雄
Mikio Motoki
人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。
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