【イベントレポート】『働き方改革』から『組織開発』へ
~現場主体で変革を推進するための3つの鍵とは?~

公開日 2019/03/11

2019年2月5日、東京ミッドタウンホール&カンファレンスにて、「『働き方改革』から『組織開発』へ~現場主体で変革を推進するための3つの鍵とは?~」が開催された。

勤務制度や残業禁止などによる労働時間の上限規制だけでは、本当に従業員の働き方を変えることは難しい。また、性急な制度導入が、組織のコンディションを悪化させる例も後を絶たない。そんな中、規制や制度とは別の角度から職場・組織に働きかける手法として注目を集める「組織開発」について、立教大学・中原淳教授を招き、その背景から具体的進め方まで幅広く議論した。

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イベントの冒頭、パーソル総合研究所ラーニング事業本部長髙橋豊は、「組織風土は職場に染み付いて継承され劣化していく。組織に根付いた風土を変えるのは大変だ。」と語った。劣化した組織風土はさらに次の世代へと継承されていく。髙橋は「本セミナーをきっかけに、残業や働き方改革の根幹を知り、自社の組織を変えていくための課題解決のヒントをご提供できたら嬉しい。」と挨拶した。

パーソル総合研究所ラーニング事業本部長髙橋豊登壇の様子

 

第1部


第1部の基調講演は「働き方改革から組織開発へ」と題し、中原淳氏が登壇。長時間労働問題の根幹とその解決方法、組織開発の要諦に至るまでを語った。中原氏は「"聞いて、聞いて、聞いて、帰る"講演は学習効果が低い。本当の学びは、"聞いて、考えて、対話して、気づく"ことで得られる。」と話す。その言葉通り、本講演は参加者同士のディスカッションを複数回はさみ、参加者一人ひとりが考え対話する時間を交えながら進められた。

中原氏が「長時間労働」の研究に着手した理由。残業は本当に個人の責任なのか?

 

立教大学 中原淳教授登壇の様子

中原氏は人材開発・組織開発の専門家である。その中原氏がなぜ「長時間労働」についての研究をはじめたのか。

そのきっかけは2つある。1つは、長時間労働発生のメカニズムを問わずに長時間労働是正のための議論が進められる中ではびこる「残業は個人の問題」であるという風潮に対して疑問を感じたこと。もう1つは、職場で残業する個人を監視するドローンの映像を見たことだという。残業は「個人の問題」によって生まれるものだと考え、企業は「残業する個人」を監視する。この2つが合わさると、個人は企業の監視を回避するため仕事を自宅に持ち帰りサービス残業をするようになる。つまり残業の実態はますます「見えない化」していく。

しかし、既存の研究や書籍は、これに答えようとしているようには見えない。むしろ「残業を削減する仕事術」を喧伝するばかりである。中原氏は、こうした現状を憂い、残業の「見えない化」が進んでいくことに危機感を感じ、パーソル総合研究所と共同で長時間労働に関する研究に着手することにした。

パーソル総合研究所が中原淳氏との共同研究「希望の残業学」で実施した2万人規模のアンケート調査の結果、長時間労働を引き起こす原因は「職場:個人=3:1」の割合で職場のほうが大きいことがわかった。つまり、長時間労働の問題は、個人より職場に多くの課題があるのだ。「長時間労働を是正するためには、残業を個人ではなく組織の問題と捉え、職場ぐるみで組織開発に取り組むことが重要だ。」と中原氏は話す。

残業のメカニズムとデメリット

調査から見えてきたのは、「集中、感染、遺伝、麻痺」という残業の4つのメカニズムだ。ひとつずつ見ていこう。

残業は「集中」する

まず、残業は一部の優秀な部下や上司に仕事が「集中」することで生まれる。仕事をすればするほど個人のスキルや能力は伸びていくが、ジョブ・アサインが一部に偏れば、育成効果も偏っていく。こうして職場内の能力格差が大きくなっていき、できる人にますます仕事が集中する。職場の上長が誰に優先して仕事を振っているかについての調査結果を見ると、60.4%が「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている」と答えた。できるかどうかわからない部下に仕事を任せるマネジメントはリスクを伴うのでどうしても上述したような状況が生まれてしまう。そのリスクを負わず、能力が高い優秀な部下に仕事を集中させることで職場内の能力格差が激しくなっているとしたら、これは長時間労働を助長するひとつの要因といえるだろう。

残業は「感染」する

「感染」とは、職場の同調圧力によって残業習慣が強化され、維持されることをいう。周りが働いているから帰りにくい、休憩時間を惜しんで作業を進める雰囲気がある、始業時間より前に出社することが奨励されているなど、職場に帰りにくい空気が蔓延していると長時間労働は常態化していく。また、「多元的無知」というメカニズムも感染を強化させる一因だ。これは、みんな本心では帰りたいと思っているが、他のメンバーはそれを受け入れないだろうという予想をし、誰も望まない「残業する」という同調行動が起こるというメカニズムだ。さらに、上司の働き方やマネジメントにも感染を強化させる要因がある。「若年層ほど帰りにくさを感じている」という調査結果にもあるように、上司の残業が多い職場において感染の度合いは強くなる。また、自分の仕事が終わっても帰らない、指示や判断基準がコロコロ変わる、マイクロマネジメント。これらのマネジメントを行う上司はさらに感染を強化させる。

残業は「遺伝」する

上司の働き方が世代や組織を超えて部下やメンバーに受け継がれることを「遺伝」と呼ぶ。調査では上司が若い頃に残業を経験していると、部下も残業時間が長くなる傾向にあることがわかった。また、長時間労働を経験した上司は所属する組織が変わっても部下に多くの残業をさせる傾向にある。このようにして、残業体質は世代や組織をまたいで受け継がれていく。

残業は「麻痺」する

「麻痺」とは、長時間労働によって健康被害や離職リスクが高まっているにもかかわらず幸福感を感じるという、心と体がちぐはぐな状態のことを指す。我を忘れて仕事に打ち込む、いわゆる「フロー」の状態に陥ると、仕事に対する自己効力感を感じるようになり幸福感につながるというメカニズムだ。短期的にはこのような時期があっても良いかもしれない。しかし中長期的に見てみると、残業が60時間以上になった場合、ストレス・病気などの健康リスク・休職リスクが高まっている。知識をインプットする読書の時間が確保できず、フィードバック・内省・職場外学習の機会も奪われる。これは学びなおしの観点からみても危険である。リンダ・グラットンが著書『LIFE SHIFT』の中で「人生100年時代」という言葉を使ったが、これからは長時間労働ならぬ「長期間労働」の時代だ。人生100年時代、何も学びなおさずに完走することは難しいのではないだろうか。「麻痺」の状態が続くと、人生100年時代を完走する働き方ができなくなるおそれがある。

これら4つのメカニズムにより発生する長時間労働の慣行は2つの大きな課題をはらむ。短時間勤務を希望する人や外国人など、多様な働き方を望む人々を排除し、人手不足問題をさらに深刻化させるという経営的課題と、健康リスクを高め、人生100年時代に対応する持続可能な働き方を担保できないという個人的課題だ。

立教大学 中原淳教授登壇の様子

現場主体で「働き方改革」を推進する3つの施策

ここからは、長時間労働是正のための3つの施策についてお伝えする。

まず1つ目が、勤務時間の境界をきっちりと作り出し残業を意識させるハード面の施策、2つ目が、上司のマネジメントスキル向上施策、そして最も本質的な3つ目の解決方法は、組織開発により残業を生み出す職場を改善することだ。これらの3つの施策について具体的に見ていこう。

施策① 時間の境界をつくりだす

まず、「働く時間」と「働かない時間」の境界をつくりだし残業時間を意識させるハード面の施策についてである。具体的には、出退勤管理や強制的なオフィス消灯、PCシャットダウンなどがある。これらの施策実施のポイントは「経営がコミットすること」「やるなら1回でやること」の2点だ。ハード面の施策を実施すると約1ヵ月後に最も効果の実感がなくなる「谷」の時期がくる。だが少しずつ施策が組織に定着してくるにつれて効果実感も高まってくるので、この谷は乗り越えたいところだ。また、施策導入後、23.2%が施策の抜け道を探すようになる。施策の形骸化を防ぐためには、繰り返しのメッセージングと、施策がちゃんと実施されているか日常的に確認していくことも重要だ。

施策② マネジメントスキルを向上させる

2つ目の施策は、マネジャーのマネジメントスキルを向上させることである。残業が少なく、パフォーマンスが高い「希望のマネジメント」を行うためにはどのようなことが必要なのだろうか。残念ながらマネジメントに魔法の杖はない。マネジャーは、自身が行っているマネジメントに対して様々な角度からフィードバックを受け、自分が周囲からどう見られているかを確認しマネジメント能力を上げていく努力を続ける必要がある。調査によると、上司のマネジメントについて、「上司が自分で思っているより、部下は良いマネジメントではないと思っている」という結果が見られた。上司へのフィードバックはいわば成長の鏡だ。83.7%のメンバーが「職場に無駄がある」と回答しており、そのうち「上司は(職場の無駄を)どれも理解していない」と答えた人が28.3%にものぼることからも、上司へのフィードバックの大切さがうかがえる。

施策③ 残業を生み出す職場の組織開発

3つ目の施策は、長時間労働是正の根幹となる「長時間労働を生み出す職場の組織開発」である。そもそも「組織開発」とは何か。組織開発とは、組織の課題を見える化し、対話を通して従業員自ら解決していくことである。その過程を経て、自分たちの組織を自分たちでスムーズに動くようにWORKさせていく。

組織開発には3つのステップがある。まずは組織課題の「見える化」。組織の表面に現れている問題事象は氷山の一角に過ぎない。その氷山の下に隠れている本質的な課題をまず見える化することが組織開発の一丁目一番地である。次にその課題の解決方法や対策を関係者全員による「対話」を通して検討する。これらを通して、自分たちの「組織の未来」をつくっていく。この3ステップこそが「組織開発」である。

立教大学 中原淳教授登壇の様子

まとめに代えて

講演の最後、中原氏は「組織サーベイの結果で出るデータや数字そのもので現場を変えることはできない。"対話"を通してデータに意味づけすることで現場は変わる。現場を変えるのは"対話"である。」と「対話」の重要性を強調して締めくくった。

立教大学 中原淳教授登壇の様子

 

第2部


第2部では、パーソル総合研究所フェローの岩崎真也も参加し、これらの調査をもとに中原氏監修の上、パーソル総合研究所が開発した組織開発のためのソリューション「OD-ATLAS」の開発背景と導入イメージについて、対談が行われた。

パーソル総合研究所フェローの岩崎真也と中原教授との対談の様子

OD-ATLASについて

多くの企業で組織診断サーベイが行われているが、「やりっぱなし」で現場の変革に活用されていないケースが散見されている。OD-ATLASは「職場のメンバーが自分たちの手で組織開発ができるようになる」ということをコンセプトに、職場診断サーベイとサーベイ結果を職場の改革で使いこなすための職場長向け研修の2つで構成されている。職場診断サーベイは、約30,000人を対象とした大規模かつ複数回の検証調査をエビデンスに開発され、合計98問・約20分程度の回答時間で実施できる。「見やすく、理解しやすく、現場で使いやすい」ように、直感的でわかりやすいビジュアルになっている。

パーソル総合研究所フェロー岩崎真也登壇の様子

中原氏の談によれば、「現場を変えていくのは現場」である。メンバーが自分たちの手で「働き方改革」や「組織開発」を推進していくための武器として、是非活用いただきたい。


立教大学 中原淳教授登壇の様子

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組織開発サーベイ&ワークショップ

職場メンバーが自分たちの手で「組織開発」を推進するために
組織開発サーベイ&ワークショップ "OD-ATLAS"

"OD-ATLAS"は、職場において、対話を通じて問題を解決し、組織の未来を創造していく「組織開発」の取り組みを実現するためのトータルソリューションです。「組織診断サーベイ」「職場長向け研修」「ワークショップ進行ツール」などの提供とあわせて、職場における主体的な組織開発を支援いたします。

登壇者のプロフィール

立教大学 経営学部 教授

中原 淳 氏

東京大学卒業、大阪大学大学院、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。専門分野は人材開発論・組織開発論。単著(専門書)に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)、人材開発研究大全(東京大学出版会)。一般書に『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』など、その他共編著多数。

パーソル総合研究所 フェロー

岩崎 真也

大手アパレル小売業を経て、1997年テンプスタッフ株式会社(現・パーソルテンプスタッフ)入社。2007年テンプスタッフラーニング株式会社 代表取締役社長に就任。様々な分野の専門家とのCo-Creationにより、今までにない新しい人材開発プログラムを開発するとともに、数多くの顧客企業の人材育成・組織開発をプロデュース。2017年よりパーソル総合研究所 取締役執行役員ラーニング事業本部長に就任。
2018年11月、組織開発コンサルタント・研修講師として独立し、現職。

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