公開日 2018/09/03
アルバイト・パートが採用できない、採用できてもすぐ辞めてしまう......。こうした悩みを抱えている人事や現場担当者の方は多いのではないでしょうか。人手不足問題が深刻化する中、アルバイト・パートの採用・育成・定着をどのように進めていけばよいのかについて、現場の人材マネジメントの課題解決を支援する専門組織『フィールドHRラボ』の責任者である日比谷勉が採用戦略における4つのポイントについて解説します。
「アルバイト、パートの応募がない!」「アルバイト、パートを採用しても、すぐに辞めてしまう」「人手不足で社員やオーナーが休めない...」このような問題に直面されている人事の方、採用担当の方は、多いのではないでしょうか。人手不足は今後、ますます深刻化していきます。当社パーソル総合研究所による『労働市場の未来推計』によれば、2030年には644万人の人手が不足するという試算が出ています。また、2020年の東京オリンピックでは、競技会場や選手村の運営ボランティア、空港や駅、観光地などにおける案内ボランティアに11万人もの人手が必要となるため、開催期間中さらに人手を確保できない可能性があります。
この深刻な人手不足に際し、パーソル総合研究所では飲食・小売・アパレル・運輸業といったサービス業の現場(フィールド)におけるアルバイト・パートの採用・育成・定着を本格的に支援すべく、現場の人材マネジメントに関するナレッジの蓄積やソリューションの開発を行う専門組織『フィールドHRラボ』を立ち上げました。『フィールドHR』とは、特に飲食・小売・アパレル・運輸をはじめとするサービス業の店舗や営業所など、現場におけるアルバイト・パートの採用・育成・定着といった人材マネジメントのことを指します。こうした現場における人材マネジメントは、正社員のように体系化されておらず、現場任せのケースが多々みられます。そこで、フィールドHRラボでは、アルバイト・パートの人材マネジメントをしっかりと体系化し、ナレッジやノウハウを蓄積・共有しながら、アルバイト・パートの採用における課題解決のサポートをしていきたいと考えています。
私自身、前職は飲食サービス業で現場の店長を経験後、人事部へ異動し、16年間アルバイト・パートの採用・育成に従事。退社する2018年までの間に合計約100万人のアルバイト・パートの採用に携わりました。そういった『現場力』を人材マネジメントに活かすフィールドHRラボの役割は、主に次の3つだと考えています。1つ目は、調査・研究によるナレッジの蓄積。パーソル総合研究所は2015年に、人材育成の第一人者である中原淳先生とともに、アルバイト・パートの人材マネジメントに関する研究を実施しています。こうしたアルバイト・パートの人材マネジメントについての研究を今後も推進していきます。2つ目は、コンサルティングです。企業の採用ご担当者の元へ伺い、具体的な相談を受け、共に解決策を考えます。3つ目は、エバンジェリスト(伝道師)という役割です。先述の通り、私は前職で運よく恵まれた環境の中、アルバイト・パート採用に関する様々な経験をさせてもらいました。その経験で培った知識・ノウハウを発信・提案することで、少しでも現場の労働環境の改善につながればと考えています。
現場におけるアルバイト・パートの人材マネジメントについて、最も重要なことは、採用から輩出までの各段階における適切な施策による人材の育成・定着です。本記事では、採用部分にフォーカスを当て、アルバイト・パートの採用戦略における4つのポイントをご紹介しましょう。
【図1】アルバイト・パートの人材マネジメントで重要な4段階を表した『フィールドHRサイクル』
1つ目のポイントは、『採用ブランディング』です。例えば、よくある採用ポスターや広告に、《急募》や《大募集》といった言葉が全面的に押し出され、店舗の悲痛の叫びにしか見えないものがあります。人手不足のために経営状態が逼迫した店舗が、《大募集》と書きたくなる気持ちは理解できます。しかし、このようなポスターを見ても、人はなかなか応募したいとは思わないでしょう。採用ポスターは、採用する側の一方的な叫びを載せるためのものではなく、求職者へメッセージを届けるためのものであるべきです。そのため、どのようなメッセージを伝えたいのかを十分検討し、そのメッセージがきちんと届くようにデザインすることが重要です。つまり、応募したいと思われるようなブランディングです。例えばロゴの使い方ひとつをとっても、きちんとルールを決めて使うことで、全店舗で統一感が生まれ、店やブランドのブランディングにつながります。また、実際に働いているアルバイトスタッフに出演してもらうことで、リアリティのある採用メッセージを発信するといった手法もあります。「この人たちのように働きたい」「自分もポスターに載りたい」と応募者やスタッフに思ってもらえるようにすることもまたブランディングにつながるのです。もちろんポスターや広告を変えれば、すべてがすぐに変わるわけではありません。ブランディングには時間がかかるため、長期的な視点を持って、会社全体で取り組んでいく必要があります。
2つ目は『採用の見える化』です。現場の採用活動においては、ノウハウが属人的であり、各店長の勘と経験に頼っていることがしばしばです。また、店長が異動する際に採用や面接のノウハウが次の店長に引き継がれず、店長が代わるたびにゼロの状態から始めているケースも少なくありません。そのため「どんな人が応募して、どんな人が退職してしまうのか」「店舗ごとに必要なスタッフは何人か」をデータ化し、勘と経験に頼らず、客観的かつ具体的な採用活動を実現させることが重要です。店舗ごとの適正人数が明確になると、採用活動のPDCAが回せるようになります。また、適正人数が、採用における店舗と本部の共通のKPIとなるため、店舗と本部の協力体制も構築できるようになるのです。
【図2】1店舗あたりの適正在籍人数=在籍目標について考え方の例
①過剰な在籍 | ・労務費が増加 ・育成費が増加 ・十分シフトに入れない不満から、退職者が増加 |
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②過少な在籍 | ・運営力/営業力の低下 ・売上減少 ・過度な業務量への不満から、退職者が増加 |
3つ目は『現場の採用力』です。現場の採用力の高さは、友人紹介による採用比率の高さに表れるといっても過言ではありません。私の知る友人紹介の比率が高い店舗では、「アルバイトが足りない」「シフトが埋まらない」と悩んで採用活動に時間をかけることはなく、サービスの強化など前向きな議論に十分な時間を割くことができています。では、どうすれば、友人紹介比率を高めることができるのでしょうか。それはまず、店舗の印象を良くすること。アルバイトスタッフが自ら友人を紹介したくなるような店舗作りが何よりも重要なのです。例えば、友人紹介に対して報酬を出すのはNGです。自分が辞める代わりに友人を紹介する『身代わり紹介』も、本当の意味での友人紹介には当てはまりません。報酬目当てでも、自分が辞めるためでもなく、「この店が良くて、ここで一緒に働きたいから紹介する」という友人紹介を目指すべきです。 また、「アルバイト不足に困っているから友人紹介を増やしたい」と言いながら、採用ポスターを1枚も店に貼っていないケースや、働いているスタッフが誰もアルバイト募集中であることを知らないといったケースがあります。現在アルバイト募集中であるいう事実を、働いているスタッフにきちんと伝えておくことは大前提といえるでしょう。
【図3】現場の採用力向上のためのステップ
4つ目のポイントは"New Challenge"です。ただのムービーではなく若年層に親和性の高いアニメーションによる採用プロモーションを行ったり、アルバイトの体験会を開催したり、私もさまざまな新しい施策に挑戦してきました。特にアルバイトの体験会は、現場の協力や取り組みに対する熱意が成功のカギとなります。アルバイトに応募してくれる人の年齢や国籍、属性、生活パターンなどは時代とともに激変しています。そのため、日々アルバイトスタッフと直接接している現場の意見や要望をしっかりと汲み取りながら、立ち止まらずに新たな挑戦に取り組み続けることが重要でしょう。
今回は深刻化する人手不足問題を背景に、現場の人材マネジメントが抱える課題解決を目指して設立した専門組織『フィールドHRラボ』の紹介と、人材マネジメントの基軸となる採用戦略のポイントについて解説しました。アルバイト・パートの採用には、まずは店舗の『現場力』が不可欠です。そのうえで、採用におけるブランディング、採用活動のPDCAを回すためのノウハウの見える化、店舗全体での採用活動、そして新たな挑戦を続けていくことが、この人手不足時代でもアルバイト・パートを採用できるカギとなるでしょう。
現場を知らなければ、現場の人材マネジメントについての改善は提案できません。それがフィールドHRの強みでもあります。現場の担当者が起点となって、アルバイト・パート不足という経営課題に取り組めば、必ず解決に結びついていくはずです。現場の力で、この国の人手不足という問題に取り組んでいただければと思います。
コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者
日比谷 勉
Tsutomu Hibiya
日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。
2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。
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