これからの
幸せなはたらき方
を探求する
はたらく人の
幸福学プロジェクト
パーソル総合研究所 ×テクノロジーの進化や人生100年時代を見据え、就業者のライフスタイルやはたらき方は多様化しています。また、SDGsなど企業には自社の利益追求だけではなく、社会や従業員一人ひとりのwell-being(より良い状態)を実現する経営姿勢が強く求められています。これら不可逆的な変化の先にある、これからの「はたらき方」とはどのようなものなのでしょうか。また、組織は多様な個人とどのように向き合っていく必要があるでしょうか。これからの幸せな「はたらき方」の探求とは、はたらく一人ひとりと組織との「新たな関係」の探求でもあると考えています。
本プロジェクトでは、「幸福学(幸福経営学)」を提唱されている慶應義塾大学の前野隆司教授との共同研究として、国内の就業者(20代~60代)に対して質的調査と大規模なアンケート調査を実施し、「はたらく人の幸せ」に着目した新たな経営指標を開発しました。また、大規模調査から見えてきた「はたらく人の幸せ」の実態や経営への効果、マネジメント介入への実践的な観点について提案します。
詳しい調査資料は/
こちらからダウンロード
いただけます
公開日:2020/07/15
研究背景・コンセプト
「はたらく人の幸せ」については、医学や公衆衛生学、脳科学や応用心理学といった学術分野を横断して関心が高まっており、国際的にもwell-being study(幸福学)における重要なテーマとなっています。このような背景から、本研究を意義あるものとするため、以下をプロジェクトの方針としています。
01
就業者側と雇用者側それぞれの価値を最大化し、統合を試みる概念として「はたらく人の幸せ」に着目し、計測手法を開発する。また、組織における効用を明らかにし、「はたらく人の幸せ」を高めるための実践的な打ち手を提示する。
02
「はたらく人の幸せ」について、先人の経験に基づいた議論だけに偏らず、先行する学際的な知見を援用し、定性調査・大規模なアンケート調査、実証研究などを通じて多角的に分析を行う。
03
本研究では、幸福感(得点)が高い人が「幸せ」で、低い人が「不幸せ」という解釈にとどまらず、「幸せ」と「不幸せ」をそれぞれ独立した概念として、2軸により「はたらく人の心の状態」を捉えることとする。
はたらく上で、人はどのような ことに
ことに
「幸せ」や「不幸せ」を
感じるのか?
本研究では、はたらく場面における幸せと不幸せをそれぞれ独立した概念と仮定し、「はたらく人の幸せ因子(7因子)」「はたらく人の不幸せ因子(7因子)」を同定。これらを計測する診断ツールを開発しました。開発した診断ツールは、「はたらくことを通じた幸せ/不幸せの実感」を高い確度で予測できるものであり、個人や組織にとって望ましい状態(well-being)を追求する際に重要な介入の観点になると考えます。
はたらく人の幸せの7因子
はたらく人の不幸せの7因子
※因子名の円をクリックすると定義がご覧いただけます
「はたらく人の幸せ因子」 「はたらく人の不幸せ因子」 の詳細
の詳細
と診断ツールについては、
添付資料を参照ください。
はたらく幸せ/
はたらく不幸せをもたらす
7つの因子の詳細

前野教授
かつてトルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭で、『幸せな家庭は似ているが、不幸せな家庭にはそれぞれの不幸がある』と述べ、幸せと不幸せは対向概念ではないことを示唆しました。『職場も同様なのではないか。幸せな職場の条件と不幸せな職場の条件は単に表裏なのではなく、別々のものとして存在しているのではないか』。このような仮説の下で行ったのが本調査です。結果はご覧の通り。幸せでないことが不幸せなのではなく、幸せの条件を満たし、かつ不幸せの条件を満たさない職場が幸せな職場だったのです。はたらき方のために極めて重要な新発見と自負しています。
人は、はたらくことを 通じて
通じて
どの程度、
幸せ/不幸せを感じているか?
では、はたらく人(国内の就業者)は、はたらくことを通じてどの程度、幸せ/不幸せを感じているのでしょうか。下図は、「私は、はたらくことを通じて、幸せ/不幸せを感じている」という設問の回答結果です。44.0%の人がはたらく幸せを、20.2%の人がはたらく不幸せを感じています。(2020年2月調査時点)
はたらく幸せ実感
はたらく不幸せ実感
では、はたらくことを通じて
幸せ/不幸せを感じている人には
どのような特徴があるのでしょうか?
「はたらくことを通じて
幸せを感じることは大事だ」
と思っている人
は、
はたらくことを通じて幸せを感じている
幸せ重視度と、 はたらく幸せ/不幸せ実感の関係
数値は相関係数
「はたらくことを通じて幸せを感じることは大事だ」と考えている人ほど、はたらく幸せを実感できている人が多いことが確認されました。はたらくことを通じて自らの仕事の中に幸せを見出そうとする前向きな姿勢は、はたらく幸せを実感するための重要なマインドセットだといえるでしょう。
※「はたらく幸せ/不幸せ実感」の数値は、はたらく幸せ/不幸せ実感の 各5設問(1~7Pt)の平均得点(以下同様)
「自由業(フリーランス)」
「自営業」の人
は、
はたらく幸せ実感が高く、
「正社員」の人
は低い傾向
雇用形態別にみた、 はたらく幸せ/不幸せ実感
はたらく幸せ実感TOP3
自由業
フリーランス
自営業
専門家
医師・弁護士・
会計士等
はたらく不幸せ実感TOP3
正社員
公務員・
団体職員
契約・
派遣社員
雇用形態別に、はたらく幸せ実感とはたらく不幸せ実感について集計を行ったところ、最もはたらく幸せ実感が高かったのは「自由業(フリーランス)」であり、次いで「自営業」、医師や士業の「専門家」となりました。一方、企業に勤める「正社員」は、はたらく幸せ実感が全体平均よりも低く、はたらく不幸せ実感が最も高い傾向が見られました。

前野教授
「社長になりたい」と思わない人は社長になれないように、「幸せにはたらきたい」と思わない人は幸せにははたらいていないという興味深い結果が得られました。幸福学研究者として、声を大にしてお伝えしたいです。幸せな人は、創造性が高く、生産性が高く、欠勤率が低く、離職率が低く、健康で長寿だということが研究結果として知られています。つまり、幸せにはたらくべきなのです。職種により幸せ実感の平均値が異なりますが、そんなことはまったく気にしなくてよいのです。あなた自身が「幸せにはたらく」と決意することが、幸せで豊かなワーク&ライフにつながります。幸せにはたらきましょう。
従業員のはたらく幸せ実感は、
組織にとってどのような
効果があるのか?
従業員がはたらくことを通じて幸せを感じることは、経営にとって福利厚生や健康促進の観点以外にどのような効果が期待できるのでしょうか。はたらく人の幸せ/不幸せ実感とパフォーマンス等との関係を確認しました。
はたらく幸せ実感が
高い人ほど、
高い人ほど、
個人・組織の
パフォーマンスが高い
パフォーマンスが高い
パフォーマンスへの影響
(偏差値 ※)
(偏差値 ※)
はたらく幸せを実感している従業員ほど、個人のパフォーマンスが高く、所属組織のパフォーマンスも高い傾向が確認されました。反対に、はたらく不幸せを実感している従業員ほど、個人パフォーマンス、組織パフォーマンスともに低下しています。
※数値は、調査対象者平均を50とした偏差値
はたらく幸せ実感は、
個人・組織のパフォーマンスを高め、
企業業績に影響を与える(仮説検証)
「はたらく幸せ実感が、個人パフォーマンス、組織パフォーマンス、さらには企業業績にもプラスの影響を与える」との因果モデルを検証したところ、適合度の高い有意なモデルであることが分かりました。従業員が幸せにはたらいていることは、個人の域を超え、組織や企業業績にまで影響することが示唆されたのです。
はたらく幸せ実感が高いほど
継続就業意向は高まり、
転職意向は低下
継続就業意向/転職意向への影響
従業員のリテンション課題として、継続就業意向や転職意向と、はたらく幸せ実感の関係を確認しました。結果、はたらく幸せを感じている人ほど、自組織において継続してはたらきたいとの意向が強く、転職意向は低いことが確認されました。従業員のリテンションを考える際、従業員がはたらく幸せを感じられているかどうかに着目することは肝要であるといえるでしょう。
はたらく幸せ実感が高いほど、
「はたらき続けたい年齢」
が上昇し、
イヤイヤはたらく期間が短い
はたらき続けたい年齢/ はたらき続けなくてはいけない年齢への影響
今後、人がはたらき続ける期間はより長くなると想定されます。そこで、「その年齢までは、はたらき続けなければいけない」と考える年齢と、自発的に「この年齢まで、はたらきたい」と思う年齢とのギャップを確認しました。結果、はたらく幸せを感じている人ほど「イヤイヤはたらく期間(非自発的就業期間)」が短いことが確認されました。

前野教授
分析では、幸せな社員は個人のパフォーマンスが高く、それが組織のパフォーマンスや売上につながっていく傾向を示すことができました。今後、本プロジェクトにおいて多くの企業・事業体で実証研究を進めていくことによって、幸せと企業業績の定量的な関係がさらに明確になっていくでしょう。ただし、人は企業のためにはたらくのではありません。 一度限りの人生で、悔いなく社会に貢献し、充実するためにはたらくのです。仕事を通じて幸せを感じ、自らのやりがいのために長くはたらきたいと思う幸せな人がさらに増えていくことを切に願います。
どのような組織マネジメントが
はたらく人を幸せ/不幸せ
にするのか?
組織は、従業員のはたらく幸せ実感を高めるために、どのような取り組みができるのでしょうか。はたらく幸せ/不幸せ実感に影響を与えるマネジメント要因について、組織マネジメント、上司の職場マネジメントの2つの観点から分析しました。