公開日 2022/09/28
パーソルグループでは、「はたらいて、笑おう」をグループビジョンに掲げ、「2030年に向けた価値創造ストーリー」と銘打ったコーポレート戦略を進めている。人事戦略も、この中の事業戦略と紐づけられたかたちで展開されており、現在は2020~2023年までの人事中期経営計画(人事中計)に基づいて進められているところだ。国内外合わせて134社(国内39社、海外95社)にのぼるグループ会社全体の人的資本経営に向け、パーソルグループがどのような取り組みを進めているかについて、グループ人事本部の大場 竜佳(おおば たつよし)本部長に語ってもらった。
パーソルグループの人事ポリシーは〝ADVAVCED HR SHOECASE〟。すべての社員が個人として認められ、所属する会社・組織と信頼し合い、貢献し合える関係を結び、高いエンゲージメントの下で、共に経営ビジョンの実現に向かうことを掲げている。
「ポイントは、人と組織の状態について観察し、可視化し、科学的な分析を進めること。それにより、世の中の先進的なショーケースとなっていくことを目指しています」
「社員が会社に合わせるのではなく、社員と会社が対等なパートナーシップをもって働いていくことが、これからの新しい時代の人事戦略になる」との考えから、2020年にスタートした人事中計では、『はたらく「個人」のエンゲージメント向上』『エンゲージメントを高める「リーダー」の育成』『データドリブンHR』の3領域を戦略の柱としている。
ここでのキーワードがエンゲージメントだ。
「エンゲージメントには多様な解釈が成り立ちますが、パーソルでは『パーソルではたらく個人の仕事・組織に対する貢献意欲』と定義づけ、『はたらく「個人」のエンゲージメント向上』と『エンゲージメントを高める「リーダー」の育成』を両輪にしています。また、エンゲージメントを科学していく視点から、データを活用する『データドリブンHR』の考え方も戦略の柱に加えました」
では、3つの領域において、具体的にどのような施策を進めているのか。
領域の一つめ『はたらく「個人」のエンゲージメント向上』では、「グループビジョンへの共感」「自己効力感」など、大きく5つの要素を定義し、要素全体の底上げをはかる施策を用意した。(図1)
図1.はたらく個人のエンゲージメントマップ
施策を展開するにあたっては、現状把握のためのエンゲージメントサーベイも実施。
「設問で重視している項目は5つあります。そのなかでエンゲージメント関連では、「仕事は意欲をかきたてるものである(仕事エンゲージメント)」と「所属組織に対して積極的に貢献したい(組織エンゲージメント)」の2項目です。
2021年度のサーベイの結果を見ると、前年度よりも仕事エンゲージメントで5ポイント、組織エンゲージメントで2ポイントとスコアが向上し、改善が図られました。いずれも、各社でエンゲージメント向上のための施策を展開した成果といえます」(図2)
図2.結果指標の状況
エンゲージメントサーベイでは、行動指標という新しい概念を導入したこともポイントのひとつだ。スコアの高い組織と、そうではない組織とを数多く比較し、マネジメントラインがどのような特徴的な行動をとっているのかを徹底的に洗い出して分析。そのうえで上司の4つの行動を「行動指標」として設問にし、2021年度のサーベイに組み込んだところ、「行動指標」のポイントが高い組織ほど、仕事エンゲージメント・組織エンゲージメント共に数値が高いとの結果が得られた。(図3)
図3.エンゲージメントサーベイの「行動指標」の新設について
エンゲージメントサーベイの結果を検証し、『はたらく「個人」のエンゲージメント向上』に向けて次のような4つの取り組みを行っている。
グループ全体で「キャリア自律支援制度」として、キャリアチャレンジ、ジョブトライアル、キャリア相談窓口の3つの制度を導入。能力開発に取り組めるe-learningシステムなども取り入れている。
リモートワークとエンゲージメントとの関係性を検証した結果、リモートワークを週1回以上している層は、まったくしていない層より、エンゲージメントが高い傾向にあった。リモートワークに関しては、グループ会社や事業内容でも状況が異なってくるため、これから最適な働き方を模索していく段階にある。
DI&E(Diversity, Inclusion & Equality)については、2019年度から、ドレスコードの自由化と複業制度を導入。e-learningで、国内グループ2万5000人を対象に「DI&Eリテラシー研修」も実施している。ジェンダーダイバーシティとして、女性管理職候補となる総合職女性の比率を37%にあげることが目標。そのための委員会なども立ち上げた。その他、管理職向けの「DI&Eマネジメント研修(ボストレ)」も2021年10月から実施。
パーソルの「健康」の定義は、「身体的心理的健康に留まらず、個々にとって最も適した心身のコンディションを資源として、自己成長や自己実現に取り組めている」というもの。昨年はデジタル時代に笑顔で幸せに働けることを目指した「パーソル・デジタルウェルネスプログラム」を開催した。
領域の二つめ『エンゲージメントを高める「リーダー」の育成』で取り組んでいるのは、中核タレントの育成と各現場のマネージャー育成だ。
中核タレントの育成では、リベラルアーツ×リーダーシップをテーマに、次世代経営幹部候補の育成を目指したオンラインセッション「未来志塾」を開催している。
「この先ますます予測不能な時代になっていくことを考え、リベラルアーツを日々の仕事や経営に活用していける人材をつくっていくことが目的です」
各現場のマネージャー育成では、約4か月かけて、チームの関係性と自律性を高めるプログラム研修を実施している。
「エンゲージメントを全体的に高めていくには、多様性を尊重する、一人ひとりと向き合う対話型のマネジメントが重要になります。そこで現場実践では、全員対話、チーム対話と実践、そして振り返りを行い、より良いチームとなっていけるようなプログラム構成にしています」
領域の三つめ『データドリブンHR』では、データのクリーニングを重視。グループ全体で、データをきれいな状態で活用できるようにしていくこと、データの活用や分析ができる人材の育成に取り組んでいる最中だ。育成した人材が孤立しないよう、パーソルグループ内の人事間でナレッジシェアができる人事データ活用ポータルサイトも用意している。
現在、2023年からの次期人事中計に関するディスカッションもスタート。グループの人的資本には登録型派遣スタッフや海外のローカル社員も含まれるため、グループ経営戦略との関係で、どこまで人的資本経営のスコープに入れるかは次期中計の重要論点となっている。
また次期の取り組みとして注力していきたいのが「人材版伊藤版レポート2.0」で策定した「3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル)」の中でいう「動的な人材ポートフォリオ」だ。
「次世代経営幹部の育成、それに向けた人の異動配置に積極的な取り組みをしていきたい。各事業の経営トップラインが40代後半層中心となっているため、20代・30代に経営資源を適切に配分し、次世代の経営幹部がしっかり育っていく土壌をつくりたいと考えています」
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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