公開日 2017/08/01
セミナー開催日:2017年6月21日(水)・6月28日(水)
法人営業においては、重要なお客さまと組織対組織での関係を構築し、長期的に信頼されるパートナーとなることが、競合会社の参入を防ぎ、安定的に収益を上げるための磐石な方法です。
現在の営業マネジメントは、SFA/CRM活用の有無に関わらず、営業“案件”の進捗管理が中心で、企業としての“顧客”全体を対象とした顧客管理をしているケースは少ないといえます。
弊社では、営業現場でアカウントマネジメントを指導してきた実践ノウハウと営業組織の変革で世界トップのミラーハイマングループの調査から情報を提供し、今後の法人営業力強化について皆様と共に考えていくセミナーを開催いたしました。
シニアコンサルタント 河村亨
1990年、機械商社を経て、富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。外部一般企業や富士ゼロックスグループに対する営業力強化を中心とした企画提案を実施。2004年よりSFA定着含む、営業成果を創出するためのシステム、制度、教育の一貫コンサルティング事業に従事。2009年より、特に「戦略実行」をテーマに、経営⇔現場、営業⇔関連部門を“つなぐ”組織変革支援コンサルティングを展開、現在に至る。
営業には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは市場を面として捉え、一定の地域を担当ごとに振り分けて活動を行うエリア型営業です。一人の営業パーソンが多数の顧客を抱え、引きのあった顧客に効率的なクロージングをかけていくというやり方が典型的です。それに対し、担当する顧客数が少なく、一件一件の顧客と長くつきあい、その満足度を高めることで自社の取引を最大化していくのがアカウント型営業です。エリア型営業では「数」を分析し管理していくことがマネジメントの基本ですが、アカウント型営業では「数」の管理はあまり意味をなしません。母数が少ないため、活動データ分析からは特徴的な傾向を掴むことができないからです。アカウント型営業では、一件の顧客に対する営業の「質」の向上が重要です。
実際の営業活動は、いずれかに二分されるわけではなく、混在するケースが多いと思います。CRM/SFAの活用シーンでかなり多く見られる問題は、組織体制や各営業担当者の顧客リストの持ち方がエリア型であるのに対して、新人等を除く実際のほとんどの担当者が、数社の重要顧客で売り上げのほとんどを占める〝実質アカウント型〟である場合です。この場合、組織としては「数」を分析し管理していくわけですが、実態と違い、そこに意味合いを見出せず混乱している企業が多いことです。そこで今回は、重要顧客に対してCRM/SFAを活用し、アカウント型営業の「質」をいかに向上するかをテーマにお話します。
その前に、アカウント型営業には二つの活動ループがあることをご存じでしょうか。一つは案件対応のループ、もう一つは関係構築のループです。アカウント型営業の質を高めるには、この二つのループをバランス良く回していかなければなりません。関係構築ループについては第二部の講演に譲り、ここでは案件対応ループ、特に案件を自ら創出していく活動に焦点を当てます。
アカウント型営業でセールスが顧客に対して行う活動は、主に三つあります。
一つ目は既存取引の継続活動、二つ目は既存部門に対して新規取引を仕掛ける活動、三つ目は新規部門を開拓する活動です。新規取引には、新しい商材やサービス拡張の提案(新規需要の創出)、他社商品から自社商品への置換などがあります。これらは既存部門とのつきあいの中で、お客様から相談をいただく場合もあれば、こちらから仕掛ける場合もあるでしょう。一番難度が高いのが、新規需要を売り手側から創出していく活動です。それには顧客の経営課題を発見し、解決するための事業提案を行うことが必要です。
こうした活動を取引部門と商材の観点から整理したものが、「企業内ホワイトエリア」です。ある部門に納めている商材Aを他の部門にも展開できるか、あるいは商材Aではなく商材Bを仕掛けられないか。そうした新規需要の可能性=ホワイトエリアが取引先の中にどれだけあるかという全体図を描くわけです。
アカウント型営業では取引の最大化を目指し、新規の案件を自ら創出していく活動をしなければなりません。そこで、私どもが提唱しているのがアカウントプランの活用です。企業によっては顧客台帳や顧客カルテという形で取り組まれているところもあるでしょう。
アカウントプラン策定のポイントを以下に示します。
アカウントプランを策定したら、仕掛け案件としてSFAに登録し、意識的にアプローチをかけていきます。引っかかりがあった案件は見込み案件化し、その詳細活動計画を策定した上で再びアプローチをかけます。こうしたサイクルを回していくことで、案件創出につなげていきます。
では、こうした活動に対してCRM/SFAをどのように活用していくか。一般的にこういったツールでは、顧客情報、部門別担当者情報、案件情報、活動情報の4つのデータベースによる管理をしていますが、どれも個別に「数」の管理をしていて上手くいっていません。我々はこれらデータベースを連動させ、リアルタイムで管理することによって、重要アカウントに対する関係性構築活動や、案件対応活動への「質」に関する示唆を得るというわけです。
ところで、ある意思決定がなされるとき、そこに関わるのはどんな人たちでしょうか。決裁権を持つ人、専門的影響力を持つ人、製品の使用者、取引に関する情報の提供者など、関係者は様々です。決裁に関しても、起案、中間決裁、最終決済とありますが、必ずしも最終決裁者がキーマンとは限りません。それよりも案件に対する影響力の大きさが重要です。成長意欲が高いか、それとも現状維持タイプなのかというその人の関与姿勢も情報価値があります。案件情報には、こうした意思決定に関わる関係者の情報が整理されていなければなりません。
関係者情報が整理されたら、案件攻略に至るまでの営業活動をシナリオ化します。たとえば、○月×日までに発注をもらうと決めたとします。そこから逆算していつまでに最終決裁者の合意を得るか、いつまでに購買部門から問い合わせが来ればいいか、といったお客様の購買プロセスの中で発生するキーイベントを日付とともに書き出していきます。それぞれのキーイベントの間をリードタイムといいますが、顧客情報、関係者情報を勘案して設定します。こうした案件攻略シナリオも、CRM/SFAで一元的に管理し、その案件の進捗が遅れているのか、進んでいるのか、何が問題かを客観的かつ効果的に管理します。
最後に、CRM/SFAを活用するとのきのポイントを“3つのC”で説明します。まずは《Contents》です。適正なメソッド(すべきこと)を明確にすることが重要です。次に《Commitment》です。実行中、仮説の検証をするために、何を振り返るか事前に合意しておくことが大切です。そして《Communication》。CRM/SFAはコミュニケーションを代替するとよく言われますが、その逆です。データをもとにface to faceで話し合うことで、コミュニケーションがより洗練されていきます。
アカウント型営業の遂行にあたって重要なのは、実行者の納得を得ることです。私どもが提案したCRM/SFA活用事例で意識調査を行ったところ、導入前に比べて部門戦略に対する納得感が増すという結果になりました。組織である以上、やらされ感を完全に拭い去ることは出来ません。ただ「意味も分からず」やらされている状態を少しでも「意味あるもの」に変えていくことは出来ます。そのためにも、上記3つのCを考慮し、活動の「質」に対して、メンバーを巻き込む(自己決定を引き出す)仕組みになっているか。その点にも留意して、CRM/SFAを活用していただきたいと思います。
エグゼクティブコンサルタント 牧満
1986年富士ゼロックス株式会社入社。教育事業部配属後、事業部独立にあたっての営業戦略立案を担当。マーケティング、経営企画部門長を歴任し、現在は様々な業種のお客さまに営業、マーケティング、事業戦略分野の戦略立案から実行までのコンサルティングを提供。東洋思想を学び人間の根幹を見つめなおすきっかけを提供している。
アカウント型営業には、案件対応のループと関係構築のループがあります。第一部では案件対応ループにおける営業管理システムの話でしたが、第二部では関係構築ループに注目して話したいと思います。
お客様との関係性を構築する。これは特に新しい考え方ではありません。関係性マーケティング、あるいはリレーションシップ・マーケティングとも呼ばれており、半ば常識化した営業戦略の一つになっているといえます。
法人営業においては、重要なお客様と組織対組織での関係を構築し、長期的に信頼されるパートナーとなることが、競合会社の参入を防ぎ、安定的に収益を上げるための盤石な方法です。しかし、関係性の構築といいますが、いったい何をもってそれができているといえるのでしょうか。関係構築といっても、実情はただ案件を追いかけているだけではないのか、というのが私どもの問題認識です。
そこで私どもは、アカウントプランに注目してみました。アカウントプランという名称でなくても、今は多くの企業で重要顧客に対する戦略計画というものをまとめられていると思います。その内容を見ると、業種・業態によって多少のバラツキはありますが、骨組みの基本は、ほぼ共通しています。アカウント状況評価→戦略立案→行動計画という3ステップをPDCAで回していくという仕組みです。これは非常に合理的であるといえます。なぜならば、診断、戦略、アクションという戦略立案のシンプルステップがきちんと踏襲されているからです。
しかし、私が疑問に感じたのは、戦略の中身です。何をいつまでに売るという提案戦略になっているのがほとんどでした。つまり、関係構築についてどこにも書かれていないのです。
さらに、アカウントプランが実際に営業の現場で活用されているのか、という問題もあります。ある企業でアカウントプランの作成を推進する部門のマネジャーが、私たちにこんなことを言いました。「日常は顕在化した案件への対応に追われており、プラン通りには活動できていない。日々変化していく市場において、中期的なアカウントプランは非現実な作文であると、現場は認識している」。つまり、アカウントプランが形骸化しているのではないかということです。
こうした現状から言えることは何か。結局、関係構築の活動というのは、案件対応のループをくるくると回し続けることで関係性を構築している気になっているのではないでしょうか。とにかく案件を追いかけていれば、上司から褒められる。業績達成へのプレッシャーがあることも、その背景要因となっています。そこで案件対応とは別に、関係構築のループを独立して立案・実行・管理していくことが重要であると考えます。
ここで、関係性というものを設定・評価する方法について紹介します。私どもは、顧客との関係性のレベルを図のような5段階で定義しています。
これを顧客の期待という観点で分けると、1、2、3が商品に対する期待、4、5が顧客の事業の成功に貢献してほしいという期待になります。人脈に関しても、1、2、3は現場に偏り、4、5は経営層にまで広がります。
ところで、顧客からの期待が商品レベルで留まっていると、どうなるでしょうか。競合会社が非常に優れた商品を発売したり、あるいはテクノロジーの進歩によって既存商品が無価値になったりしたとき、会社そのものの存在価値がなくなってしまいます。たとえば、カメラのフィルムがそうです。それまで高い利益率を上げていたビジネスモデルが、デジカメやスマホの登場によって一掃されてしまいました。
そうしたことを避けるためには、顧客との関係性のレベルを上に上げていかなければなりません。つまり、顧客の期待値を上げ、関係性を強化していく。それがアカウントプランの目的です。
今度は関係性の5段階に、顧客側の組織を対応させてみましょう。経営層やエグゼクティブマネジャーの目線が商品レベルにしか向いていないとします。たとえば、2のレベルであれば、いい商品を届けてくれればいいという認識になります。関係性の構築とは、これを4や5のレベルへと認識を変えていくことです。経営層の認識が関係性の5段階を上に登っていくほど、競合・価格・スペックの影響度が減少し、顧客とのビジネスを長期的かつ安定的な関係に持っていける可能性が高まります。
では、関係性を構築するためのアカウントプランとは、どうあるべきか。先ほど一般的なアカウントプランの戦略立案は提案戦略になっていると指摘しました。これを重要人物へのコミュニケーション戦略へと転換することがポイントです。
そのとき、関係性の5段階を使ってアカウントプランをつくっていくことを私どもは提案しています。具体的には一人一人の重要人物に対して、現在の関係性レベルを評価し、目指す関係性レベルを設定し、活動計画を立てる。戦略のシンプルステップに則って、状況評価→戦略立案→行動計画というアカウントプランニングのPDCAを回していくのです。
最後に、コミュニケーション戦略と聞いたとき、重要人物と親しくなることを考えていないでしょうか。私たちはこう考えます。親しくなることではなく、認知を変えることだと。つまり、お客様の自分たちに対する認知を変えることを狙うのがコミュニケーション戦略です。
認知を変えるのは何かというと、経験です。商品の提案しかしない営業は、お客様にそういう経験をさせていることになります。すると、「このセールスは自分が売りたいだけなんだ」という認知になる。当然、お客様の期待は商品レベルに留まります。これを変えていくにはどうするか。商談の流れの中で、いかに商品から離れてお客様の課題解決や課題形成にアプローチしていくかが鍵となります。
お客様は日々の私たちの活動を経験し、それが評価となり、私たちを○○な営業や××な組織であると認知しています。これをラベリングと言います。だからこそ、お客様へ日々の活動をする中で、関係性のレベルを上げるという意図を明確に持ち、戦略的に活動していかなければなりません。その戦略こそがアカウントプランであると考えます。
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