企業変革を実現する人事(2)

公開日 2016/08/24

さらに増す部門人事の重要性

クライアントと接する中で、最近、部門人事の重要性について考えさせられる(企業によっては、「ビジネスパートナー」「部門総務」「部門業務」など名称役割が異なる)。弊社のサービスのひとつであるタレントマネジメントを実施するには、従来以上に従業員一人ひとりの特性を見極め、より確かな配置や育成を進めていく必要がある。そのようなタレントマネジメントができている企業の中で、部門が人事機能(育成、評価、配置等を担う:どこまで担っているかは会社により異なるが)を持ち、手厚く人材マネジメントを実施しているケースがある。こうなってきている背景には、各企業とも事業が多様化しており、かつ当該事業スピードも増しているため、より事業に近いところで人材マネジメントを行う必要が出てきているという事情がある。

一方、全社人事ができることは、従来にも増して限界があるのも理解できる。例えば、教育研修について、これまでも研修体系上にある共通研修は全社人事で担当し、職種別研修は各事業部で行っている。しかし、次世代経営者育成などやるべきことがさらに増えている中で、日々変化する事業部側の育成に全社人事が関わることはより一層困難になっているため、事業部側による、より質の高い人材マネジメントが必要となっている。

部門人事があることにより、「事業をより深く理解した上で対応できる」「従業員一人ひとりに対し、より丁寧なアプローチができる」「施策の集中化ができる」といったメリットがある。もちろんデメリットもあり、部門人事を置くことによりコストは高くなる。そのコストを上回るメリットが出せるかが、部門人事を置くかどうかの判断ポイントとなる。

こうした部門人事設置の参考になると考え、弊社グループの事例であるが、次ページより紹介させていただく。

部門人事が変革に深く関与した事例
(インテリジェンス キャリアディビジョン)


【背景と課題】

同社は人材業界のベンチャー企業としてブランドを確立し、急速に事業を拡大・発展させていたが、短期的な業績成長やKPI達成を求める効率性重視の風土により、顧客満足度が低下していた。そのような中、従業員にとって会社が、何のために(ミッション)、どこを(ビジョン)目指しているのかが見えにくくなっていた。
また、「目指すマネジャー像」について組織的に共通認識が図られていなかったほか、マネジメントレベルも可視化されず、かつバラバラの状態であった。以上の背景から、次の2つの課題を設定した。
・顧客に対し、当社同社の価値を十分に提供できていないことが、満足度低下の一因と考え、新たな方向性とサービスバリューを設定すべき
・長期的に組織力を向上させるためには、マネジメント人材を戦略的、計画的に育成する必要がある

【アプローチ】

単なる営業改革および人材育成といった限定した取り組みではなく、事業部門全体の変革と捉え、課題解決に対応するチームを新設組織(部門人事:ウェイマネジメント推進部/後の戦略人事部)として組成し、施策を実施した。


当プロジェクトで特徴的であったのは、次の3点である。

1.事業部門のビジョンと戦略的方向性、サービスバリューの再設定


事業部門の目指す姿を再度明確にする必要があったことから、まずビジョンを「日本を変える転職・採用のNo.1ブランドになる」と設定。その上で、この目指す姿を達成するために、必要なサービスバリューを議論の上、決定した。これまでのように生産性・効率性だけを高め続けるのではなく、Customer Intimacy=「顧客親密力」(顧客のために独自の価値を生み出し、選ばれる存在になること)で勝負することを決断した。

新たに設定したビジョン

図1.jpg

2.「顧客親密度」のKPI設定、およびプロ人材育成の実施


顧客からの支持「顧客親密度」を計測する仕組みがなかったことから、NPS(ネット・プロモータースコア:顧客ロイヤルティを測る指標)を顧客親密度のKPIとして設定し、営業やキャリアアドバイザーが顧客から定期的にサービスのフィードバックを受けることにした。
また、その調査分析、マーケティングも上述の新設組織で実施。例えば、顧客属性ごとのニーズや必要なサービスについて研究を行い、施策に生かす取り組みを開始した。

さらに、上記のNPSのマーケティングに基づいて、NPSを上げるための行動と指標を設定。営業で言うならば、例えば「顧客への企画・改善提案」「現場・役員接点」などの行動指標を入れ、従業員の目指す行動を明示した。
一方、「顧客親密度」を向上させるための行動レベルを「段位」として設定(資格要件に近いもの)。個々の従業員のレベルを段位で測定し、上位へ上がるための育成を実施している(「段位」は人事制度と切り離している)。

顧客親密道場のプログラム(例:リクルーティングアドバイザー)

道場プログラム.png

3.マネジメント人材の計画的育成


マネジメントに求められる力を議論の上、「リーダーシップ」「マネジメントスキル」に大きく区分し、それぞれの定義と要素を策定。従業員をそれぞれの観点から、評価し、「リーダーシップ」と「マネジメントスキル」で構成される9ブロック上で認識し、各自に適した育成(ゾーン/個人ごとの戦略的な配置・異動、集合研修、メンター制度)へ展開している。

マネジメントスキルの要素

図2-1024x495.png

この事例では、変革において「人材の意識・行動変革が最重要」との認識の下、部門人事に当該ミッションを与えている。事業を深く理解したメンバーが変革を行うことで、より実効性のある施策で、事業の収益および実務面での能力向上に直接的に寄与した事例といえよう。

以上、2回にわたり、近年企業に見られる変化と、企業変革における事例をご紹介してきた。皆様の会社での取り組み状況と対比させることにより、追加で必要な検討事項がないかを検証する材料となれば幸いである。

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