公開日 2025/02/21
労働力人口の減少や個人の働き方の多様化が進む中、サービス業などを中心に、「常に人手が不足している」という声があちこちで聞かれている。現場や人事部門が日々採用業務に追われ、肝心のコア業務に十分なリソースが割けないケースは珍しくない。こうした状況を打開し、安定的な労働力を確保しながら事業を成長させている企業は、どのような取り組みを行っているのだろうか。パーソル総合研究所 フィールドHRラボのエヴァンジェリストであり、元・日本マクドナルド採用責任者としての全国規模の社員・アルバイト採用に携わってきた日比谷勉が年間の採用戦略と新たな採用方法について、経験談を交えながら解説した。
企業が年間を通じて採用を成功させるためには、まず「事業計画に沿った採用戦略になっているか」を見直すことが重要だ。たとえば、業界・店舗の繁忙期や閑散期のタイミング、売上がピークになる季節などを前提として、「いつ、どの部署に、どれだけの戦力が必要になるか」を具体的に洗い出し、そのスケジュールから逆算して採用活動を行うことである。
もう一つ必要なのが、「採用マーケットを意識する」という視点だ。人が動くタイミングは年間を通じて存在するが、そのタイミングにマッチした採用戦略になっているかを確認することが重要だ。たとえば、私の支援先の企業で「今のタイミングで採用しても全然うまくいかない」という声を聞くことがある。この場合、実際にどんな人をターゲットに採用しようとしているのかを考えると、なかなか人が動かない時期にお金をかけて採用活動を行っていることが多い。その企業は毎年同じことを繰り返している可能性が高いが、「採用マーケットを意識しているか?」を再確認することが重要だ。特に、毎年この時期に採用がうまくいかないことが多いのであれば、そもそもニーズがない時期なのではないかと考えるべきだ。
例えば、夏が繁忙期になる業界であれば、8月に向けて売上のピークをつくるため、そこに間に合うよう春先に集中的な採用を行う必要がある。日本では卒業や新入学、新入社などで人々が大きく動く時期である「春」は、企業側にとっても新商品や新サービスを打ち出すタイミングと重なりやすい。
私自身、マクドナルドの店舗責任者をしていた時期に、春のタイミングを活かしてクーポン発行したり、ディスカウントを行ったりして立ち寄りの習慣化を行い、新規客や異動で新しく来店したお客様の定着施策を行った経験がある。採用面においても、春は「人が活発に動く」時期であるため、人材を確保しやすいメリットが大きい。その流れのまま夏までにスタッフを育成できれば、繁忙期に十分なサービス提供が可能になり、売上機会を最大化できる。
したがって、年間の採用戦略を作る際には、「事業計画に基づく考え方」と「採用マーケットを意識した考え方」の二つをしっかりと押さえる必要がある。
こうして採用・育成した人材が繁忙期に力を発揮し、事業が伸びれば、その利益をスタッフに還元し、モチベーションの向上と定着につなげていく。その上で、次の春に向けて再度採用戦略を見直すサイクルを回すことで、事業をさらに成長の軌道に乗せやすくなる。
図1.年間採用戦略策定の3つのポイント
多くの企業では、8月に売上のピークを迎える業態が少なくない。特に飲食やサービス業などでは、夏休み期間中に顧客数が急増し、それに対応できる現場スタッフの配置が売上に直結する。そこで鍵となるのが、春先の採用活動と十分な育成期間の確保だ。早めに人材を確保し育成プログラムを整えることで、夏場に向けて戦力化を進めやすくなる。一方、春の採用を逃してしまうと、夏に向けた教育時間が足りず、結果として売上機会の損失につながるリスクが高まる。
春先にスタッフを集中採用するには、事業計画と連動した“全社的”なコミットメントが不可欠である。人事部門だけでなく、マーケティングや広報、オペレーションなど複数部署が足並みを揃え、「いつ」「どのメディア」で「誰に向けて」アプローチするかを明確にする必要がある。たとえば、学生や新社会人をターゲットとする際には、SNSを活用した募集告知を春休み期間に集中させると効果的だ。また、採用したスタッフを育てるための研修プログラムを整えておくことで、早期退職を防ぎながら、夏の繁忙期に実力を発揮させやすい環境を作ることができる。
春の採用を成功に導く決め手として、「体験会」を活用する方法がある。実際の現場を短時間ながらも体験することで、応募者は職場の雰囲気やスタッフの人柄を直に感じ取れる。企業側としても、応募者の動機や適性を見極める機会となり、採用後のミスマッチを大幅に減らせる利点がある。さらに、若年層であれば保護者と一緒に参加できるように配慮すれば、「初めてのアルバイト」という不安も解消しやすくなるため、入店後の定着率向上につながる。
春に実施する体験会で“この職場で働きたい”という意欲を高めたスタッフは、夏のピークで力を発揮しやすい。そこに報奨制度やスキルアップ研修を組み合わせれば、貢献度の高まったスタッフのモチベーションをさらに引き上げ、長期定着へとつなげられる。加えて、こうした採用・育成の流れを年度ごとに見直し、改善を重ねることで企業独自のノウハウが蓄積されるのも大きなメリットだ。
採用はもはや店舗だけの仕事ではない。経営課題として位置づけ、全社を挙げて戦略的に取り組む姿勢こそが、競合他社に先んじて労働力を確保し、長期的に安定した経営基盤を築くカギとなるだろう。
図2.春の採用キャンペーンを成功させる
労働力確保に関する考え方も、時代の変化に対応する必要がある。いまや「労働力=人材」だけではなく、機械(ロボットや自動化システム)も含めた上でどう最適に配置するかが重要になっている。
まず、DXの進展によりオーダーやレジ業務などが自動化され、人が担うべき役割が変わりつつある。ファミリーレストランの配膳ロボットや大手ECチェーンの二足歩行ロボットなど、機械が仕事の一部を担う事例が増え、労働力不足の解消に寄与している。
一方で、人材確保も新たなアプローチが必要だ。パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2035」において労働力不足をあげているように、直接雇用はもはや限界が見え始めており、スポットワークや副業といった柔軟な働き方のマーケットが急速に拡大している。たとえば、タイミーやシェアフル※、メルカリなど、多様な企業がこの分野に参入し、すでに1,500万人規模の市場になっている。
今後は、こうした外部人材をうまく活用しながら、オペレーションやビジネスプロセスの再設計(BPR)を進めることが求められる。令和の時代には、機械化×外部人材活用という二つの視点を取り入れ、労働力確保の戦略を根本から見直していく必要があるだろう。
図3.令和時代の“労働力”確保
近年、少子高齢化や働き方の多様化に伴い、企業が必要とするスキルや働く時間帯などが、より複雑化・細分化している。こうした背景の中、従来の採用活動だけでは補いきれない即戦力や柔軟な人材をどのように確保するかが、多くの企業にとって大きな課題となってきた。そこで注目を集めているのが、短期・スポットで働きたい人材と企業をつなぐサービス「シェアフル」の活用だ。ここでは、シェアフル導入によって得られるメリットを三つのポイントに分けて紹介する。
① 目標未達人員の一時的な補充
「今すぐ数名がほしい」という緊急の人員確保に対応できる。通常の採用活動では、応募から面接・採用まで時間とコストがかかるが、シェアフルを活用すればピンポイントで必要人数を確保しやすい。
② “体験会”としてのシェアフル活用
店舗見学や簡単な実務体験の場としてシェアフルを利用し、より幅広い候補者にアプローチできる。実際の業務を体験してもらうことで、現場の魅力を直接伝え、採用後のミスマッチを減らすことが可能だ。
③ オンボーディング強化による雇用
短期アルバイトを経て業務内容を理解してもらい、企業のビジョンや働く魅力を共有することで、そのまま長期的な戦力として採用する流れにつなげられる。スポットワークから定着への橋渡しにも有効だ。
図4.シェアフルの活用術
シェアフルの活用は、スポット的な人材ニーズへの迅速な対応だけでなく、採用後のミスマッチの解消や長期雇用へのきっかけづくりにも役立つ。厳しい労働市場の中で柔軟かつ効率的に必要な人材を集める手段として、ぜひ導入を検討してほしい。
採用がうまくいかない企業は、まず自社の採用状況と受け入れの仕組みを丁寧に見直すことで、必要な人材を集めやすくなる。さらに、シェアフルなど新しいプラットフォームを活用して、短期雇用だけで終わらせず、長期的な戦力へと結びつける戦略が重要だ。
パーソル総合研究所では、シェアフルの活用に加え、現場での実践支援のコンサルティングや研修を提供している。是非ご相談ください。
※「シェアフル」は1日単位から働けるパーソルグループが提供するスキマバイトサービスです。インストール後1分から仕事を探しはじめることができ、履歴書や職務経歴書なしで働きたい時間にすぐに働くことができます。また最短1日で給与が振り込まれるため、働いたその日にお金を受け取ることも可能なサービスです。
コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
エヴァンジェリスト
日比谷 勉
Tsutomu Hibiya
日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。
2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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