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コラム

2018.01.10

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デジタル時代におけるイノベーション創発人材をどう育てるか

人事制度 組織開発

1.デジタル時代を迎え、人材・組織マネジメントも変化が求められる

IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット。「成長戦略の鍵は第4次産業革命技術の社会実装」【ⅰ】といわれるように、従来の産業構造の中で成長してきた企業においても大きな事業変革が求められている。

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その事業変革は「デジタルトランスフォーメーション」に対応するという形で行われるものである。デジタルトランスフォーメーションとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」【ⅱ】と定義され、デジタルトランスフォーメーションに伴い、人材・組織マネジメントにおいても大きな変化が求められている。第3次産業革命といわれるIT化の中では効率化、生産性向上は大きく進んだものの、あくまで従来の延長線上にあった。しかし、デジタルトランスフォーメーションではそれらを根底から覆しうる。人材・組織の変化対応として、IoT、AI等を扱う専門組織の立ち上げ、専門人材の確保、業務全般の再設計・再配置。それにも増して重要なのは、顧客の課題を捉え直し、先端ITを活用して新たな価値・サービスを生み出す「イノベーション創発人材」の確保・育成だ。適切な人材に適切な機会付与をするとともに、リテンションも考慮した人材・組織マネジメントの実現が必要となる。

本稿では、先進企業の取組事例をもとに、 デジタル時代における人材・組織マネジメント改革の必要性と解決の方向性について検討材料を提供したい。

2.企業を取り巻く内外環境

繰り返しになるが、デジタルトランスフォーメーションとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」【ⅱ】と定義される。企業にとっては「市場の変化」「企業内の変化」「競合の変化」の3つが着目される。

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「市場の変化」とは、市場ニーズの多様化、個別化が加速する中、企業側も市場ニーズに対してサービス提供が可能となることを指す。企業のWebサイトより、従来は大量生産商品であったバイクや靴をオーダーメイドで注文できるなどが好事例だ。

「企業内の変化」とは、サプライチェーンやマーケティングの高度化・自動化に代表される、ITを活用した業務再構築(BPR)だ。AIやRPAなどにより、人が担う業務内容が変化するとともに、社員自身、デジタル・ネイティブが多数派となり、働き方やコミュニケーションスタイルが変化することも考慮すべき要素となる。

「競合の変化」とは、デジタル・ディスラプターの出現、ITプラットフォームを軸にした業界・業種の越境がそれにあたる。Web上での検索機能や購買機能を入り口に、オンライン上のあらゆるデータを収集分析し、業界・業種を超えてサービス提供する会社が君臨しているのが現状である。

まとめると、「これからの主戦場はリアルデータ」【ⅰ】との言及通り、捉えるべきデータを定義・収集し、サービスに仕立て、自社の新たなビジネスモデルを構築する、そのような人材・組織を作り上げることがデジタル時代の企業に求められている。

3.企業に求められるイノベーション

「イノベーション」は時代を問わず企業にとって永遠のテーマではあるが、デジタル時代はまさにイノベーションを創発する一大転機となる。先端ITを活用することで、市場に対しても企業内部に対しても劇的な変化をもたらす可能性があるからだ。

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多くの企業はイノベーションを創発することを目的として、外部連携と内部強化に取り組んでいる。外部連携としてのオープンイノベーションや企業間アライアンス、内部強化としての専門組織立ち上げ、デザイン思考等手法の導入である。外部連携と内部強化の比重をどう設定するかは各社の戦略に依存するが、自社の事業をデジタルトランスフォーメーションする人材自体は確保・育成せざるを得ない。外部連携の成果取込みであれ、専門人材の能力活用であれ、自社の事業に落とし込み、運営するのは社員自身の活動であるからだ。

4.イノベーションを生み出すうえでの課題と打ち手

企業がイノベーションを生み出すために内部強化するうえで、3つの問題、「人材の不足」「組織文化の壁」「組織知の偏り」が挙げられる。それらに対する課題と打ち手を考えたい。

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(1)「人材の不足」とは、既存事業から逸脱し、新たなビジネスモデルを生む人材、あるいは先端ITを駆使し新しい価値をデザインする人材が不足していることを指す。これはある意味当然な話で、従来の事業をよりよく推進するための人材を確保・育成し、処遇してきたのが従来の人材マネジメントであった。これからの事業を描き、テクノロジーを扱える人材はこれから確保・育成していけばよいだろう。改めてどういう人材が自社に必要なのかを再定義することが重要である。

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上図ではイノベーション創発に求められるスキル3要素を示している。自社の事業領域・提供価値を見定め、「テクノロジー」を駆使して新たな価値を「デザイン」し、「ビジネス」モデルとして構築する人材の確保が求められる。必ずしもすべてのスキルを自社人材でまかなう必要はなく、また一人格で全スキルを網羅する必要もない。外部連携含め、自社に必要な人的リソース配分とマネジメントの仕組みを確立することが重要である。

自社にどのスキル・人的リソースを保持するか決定したうえで、その人材をどう確保・育成するかが次の課題となる。育成する人材タイプはこれまでの自社にないものかもしれないが、育成の手法は大きく従来と変わらない。IT・デザイン系研修会社などが中心になり、研修やワークショップ、ビジネスコンテストなど各種プログラムを提供することになる。経験機会を創出するために企業間連携する事例も見られ、目的に合った形で有効に活用されたい。

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(2)「組織文化の壁」とは、既存事業をよりよく推進することを求めるあまり、既存事業に直接的に貢献しない、あるいは社内競合を生みかねない新規取組に対して、権限付与・リソース供給・組織的評価がもたらされないことを意味する。確保したイノベーション創発人材を離脱させる要因にもなる。

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デジタル時代の特徴として、ビジネスアイデアのプロトタイプをIT環境上で従来に比して手軽に構築でき、市場の反応・フィードバックを得やすいところにある。そこで、デジタルの特性を生かした「組織文化の壁」の超え方としては、各社状況踏まえ「特区」を設ける事例が見られる。トップダウン型の企業においては社長直轄でのイノベーション創発組織を設置、慣性モーメントが強い企業ではJV立ち上げや関連会社出向によりイノベーション創発組織を外部化している。明確な組織化はせず、ステルス型でイノベーション創発活動し、サービス化の段階で経営に直訴するパターンもある。一概に成功パターン化は難しいが、自社にある「組織文化の壁」を認知し、抜け道を見出し、生み出されたビジネスアイデアを市場に問う機会を担保する必要がある。

(3)「組織知の偏り」とは、既存事業の推進に資する組織知は豊富であるのに対し、新しいことを成し遂げるためにどのような人材を集め、何をどういう形で業務として行わせるか、組織としての知恵、経験則が乏しいことを表す。

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やったことがないのなら、やってみて学ぶしかない。上図は、従来とは異なるスキルセットとして「ビジネス」「デザイン」スキルをもった人材を発掘・能力開発・アサインメントする、一連のプロセスを仮説検証型で進めた事例である。人材の抽出条件、能力開発内容、アサインメント先、ミッションの与え方いずれも仮説立案し、対象の社員とともに組織として学習していく、それを社員自身と組織活動にフィードバックしていくことで、従来にない「組織知」を獲得していく手法である。

特に考慮されたいのが人材の抽出条件だ。従来の「優秀・高業績人材」を抽出し、従来の延長上での新規事業企画を担わせて、果たして自社にとってのイノベーションは生まれるであろうか。既存事業の推進に長けた人材は、どうしても既存事業の枠組みから抜け出た発想、行動は難しい。既存事業とは切り離したミッション・職場環境を用意するか、はたまた既存事業からややもすれば逸脱した人材を見出し、新たなミッションを与えるか、ぜひ仮説検証型での人材開発・組織開発をお勧めしたい。

5.イノベーション創発人材を生かす組織づくり

イノベーション創発人材を確保・育成したはよいものの、継続的に自社に貢献してもらうには、イノベーション創発人材を適切に配置・処遇し、パフォーマンス発揮できる組織づくりが求められる。

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第4章で述べた特区での組織文化形成を起点として、イノベーション創発人材のパフォーマンスが発揮されるアサインメント、業務プロセス、職場環境を用意する。合わせて、当該人材のリテンションと、次なるイノベーション創発人材の育成のために、人材・組織マネジメントの仕組みを変革していく。

どのようなスキルを持った人材をどの組織でどれくらいの人数を処遇するか、従来の人材戦略・人材マネジメントとの差異を明確にする必要がある。たとえば、「テクノロジー」に長けた人材を新たに確保・処遇するのであれば、そのためのキャリアパスや評価制度を用意することに加え、自由にデバッグできる環境を用意し、市場にサービスリリースする権限を付与する必要があるであろう。

6.まとめに代えて、7つの問い

本稿では、デジタル時代におけるイノベーション創発人材をどう育てるかを主題に、人材開発・組織開発という観点での方法論と取組事例を紹介した。調査によると、すでに3割の大手企業が「デジタルビジネス推進」「イノベーション推進」組織を設立し、同取組に着手している。すでに取り組まれている企業、あるいはこれからという企業いずれにとっても考えていただきたい、イノベーション創発人材の確保・育成する上での論点を提示して、まとめとする。

・自社の目指す「デジタル」「イノベーション」とは何か。新規サービス/事業開発か、業務プロセス改革か、それ以外か
・イノベーション創発に向けて、誰(社内外)に何の役割・スキル(ビジネス、テクノロジー、デザイン)を期待するか
・人材発掘:対象人材はどこにいるか、どう選出するか
・能力開発:何をマインドセット・スキルセットするか
・活躍の場の提供:専門組織にアサインメントするか、現場で活動させるか
・イノベーション創発組織(特区)をどこに作るか。どういうルール・組織文化を形成するか
・イノベーション創発人材および組織をどう評価するか

※引用・参考
【ⅰ】「新産業構造ビジョン ⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する⽇本の未来」(産業構造審議会新産業構造部会事務局, H29.5.30)
【ⅱ】スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱
【ⅲ】「デザインの次に来るもの」(安西洋之・八重樫文,2017)
【ⅳ】IDEO:HCD Model
【ⅴ】「社内起業家を育てる5つの条件」(ハーバードビジネスレビュー,2016)


執筆者紹介

シニアマネジャー
木本 将徳

大手Sierにてシステムエンジニア、プロジェクトマネージャーを歴任の後、2011年4月より同グループの研修会社にて人材開発コンサルティングに従事。人材像定義、育成体系構築、評価者研修等各種研修企画・設計のプロジェクトに多数参画。2015年1月からは、デジタル対応が急務となる企業を対象として、IT組織戦略/人材戦略策定、人材開発/組織開発のプロジェクトに対応。2016年12月より現職(㈱パーソル総合研究所)にてシニアマネージャーとして従事。

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