採用難の時代にどのように採用改善に取り組むべきか

公開日 2017/12/06

今は厚生労働省の発表する有効求人倍率が1.55倍(2017年10月現在)とバブル期を超えた有効求人倍率が続いている。採用担当者の方は、よい採用が十分できずエージェントや応募者とのやりとりにより、勤務時間が長くなりがちで、苦労されているケースも多いだろう。経営や人事としては、この採用市場の中でどう戦っていけばいいのか頭を悩ませている方も多いだろう。では、今どのように採用状況を改善していくとよいか、一緒に見ていこう。

どこから採用改善に手を付けていくか

闇雲に手を打っても、なかなか効果が出ず採用人数が確保しきれないというのが多くの企業で感じていることだろう。より効果が高そうなところに手を打っていくためには、採用苦戦の根がどこにあるのかを見極めることが必要である。

まずは、採用に至る人数が減っていく(減らしていく)構図を見てみよう。

図1.採用数を左右する構造

図2.png

採用アプローチの中で改善を検討する領域として、多くの企業にとっては①や②の領域の精査から進めるのが良いと考える。有効求人倍率の高い採用難の時代だからこそ、目に留まる・興味を持ってもらうためのアクションよりも、応募には至っているという前提をクリアしていて、対応が自社内で進められる部分が多いと考えられるためである。この後順にどのような対応が考えうるか、一つ一つ見ていこう。

選考辞退/内定辞退への対応

辞退に関連する項目の一つは、入社意向について面接官の振る舞い・印象、もう一つは不明点・不安の大きさである。選考において、面接官は会社の代表となる。面接官の振る舞い・印象が悪く辞退される、応募者が本当に求める内容を提示できず辞退されるということはないだろうか。

不明点・不安への対応については、意外にもできていないケースが多いので補足する。面接官研修で登壇や立ち合いをさせていただく際に複数の企業で見られる傾向として、会社の魅力や待遇(賃金)等は語っているが、社内の風土や仕事自体の魅力について語れていない方が多いことが言える。このような対応では風土や仕事の魅力に対する優先順位が高い応募者には辞退される可能性が高いということだ。

その応募者の優先順位に合わないなどから他社に決まってしまうこともあるが、チャンスを自分たちでみすみす逃してしまっている可能性もある。まずは自社で面接官の振る舞い、アピールの仕方一つでも採用改善の余地はあるのではないだろうか。

応募者の見極めの改善

次に、②選考不合格にしている人に対しての精査について考えてみよう。採用要件の問題と選考(面接官の見極め不全)の両面があるだろう。採用できた人数の多寡に限らず、入社後のパフォーマンスが期待外れであることが多い場合も関係する可能性がある。単にスキルだけ、性格だけを見るのではなく、全体的にマッチしているかは再度ご確認いただきたい。

図2.会社と個人のマッチングの構図

図3.png

そして、マッチしているつもりでも、求める人材像・ハイパフォーマーの特徴・募集要項がリンクしていないということはないだろうか。そのズレが生じる構図としては、大きく3つほど考えられる。

A) 求める人材像をうまく表現できていない場合
・網羅できていない(いくつかあるのに特定パターンしか表現されていない)
・表現の抽象度が高い(イメージが求職者と貴社とで認識ズレの可能性)
・そもそも表現不足(表現したいことが記載されていない)

B) 慣例等に流されている場合
・なぜその要件なのかの説明が明確にできない(なぜ経験年数「3年」なのかなど)

C) そもそも貴社のハイパフォーマー像(またはその予備軍)が採用要件と異なる場合
・時代が変わり、求める人材像が変わっているが昔のまま採用を続けている
・違った特性のポジションなのに、他のポジションと同じ対応をしている
・超のつくスーパーマンを求める、会社の求める人材というものとは違う個人の思いで選んでいる

まずAの表現面の改善はすぐでも手をつけられることなので、すぐにでも検討してみていただきたい。採用担当・人事の方と現場との連携を密にすることで、超えられる問題もあるだろうし、人材紹介会社等との連携も有効だ。そしてB・Cは良くも悪くも採用の質も量も左右する可能性があるため丁寧に進める必要がある。ただ裏返せば、これらにうまく付き合うことが出来れば、よい人の採用がしやすくなることに加え、より求める人材増に繋がる可能性がある。

図3.条件見直しによる採用改善

図4.png

採用基準の見直しに向けては、大きくは二つのアプローチが考えられる。一つは求める人材要件を考えて、そこから要素に落とし込む方法、そしてもう一つはデータから抽出する方法である。前者も必要なアプローチだが、後者のデータドリブンのアプローチもとてもパワフルである。

ここで弊社が支援させていただいた事例をご紹介したい。ある損害保険会社様では質も量も求め続ける方針で採用をしているが、採用人数が目標に届かない事象が起こっていた。それを契機に採用要件の見直しと面接官トレーニング(研修)を合わせた対応を行った。

採用要件の見直しについては、定量的な分析を踏まえ、業績に関連性が高いと思われる要素を選びなおすこととした。結果、従来設けていた「営業経験年数」「学歴」といった重みづけを緩め、そして従来は活用していなかったアセスメント(適性検査)も取り入れて採用することとなった。結果、本取り組みの前年は未達であった採用目標数を達成した。さらに内定辞退率約60%が20%台まで抑えられたことも大きな効果であっただろう。そして、採用者のパフォーマンスにしても営業未経験でも「思っていたよりも悪くはない」「人によっては経験者よりもいい未経験者も」という声もいただいている。

図4.損保会社の事例概要

図1.png

質と量のバランスを取るのは簡単なことではない。改めて求める人材像が、貴社への貢献が期待されるのか、そしてそれが面接官に浸透しているのかも含め、見直すことの必要性を示している事例であろう。

応募数の改善に向けて

図1.採用数を左右する構造(再掲)

図2.png

最後に③④の応募に向けた取り組みについて考えてみる。

今の採用市場で求人媒体の量を増やすなど露出を増やしても十分な手ごたえとなっていない企業様は少なくないのではないだろうか。それは貴社自身の企業イメージ、業種・職種イメージの誤解があったり、求めているポジションが魅力的に映っていない可能性が考えられる。

ここで、求職者は賃金をどのように捉えているのかを見てみたい。
https://doda.jp/guide/reason/

上記は弊社のグループ企業であるパーソルキャリアが行った、転職の理由に関する調査結果である。ランキングの1位は他にやりたい仕事がある、2位は会社の将来性が不安、3位は給与に不満がある、4位は残業が多い/休日が少ない、などが続く。確かに賃金理由は無視できるほど優先度は低くはない。が、仕事の内容、会社の将来性、残業や休日の問題、キャリアアップなど、賃金以外の要素を求めている人が多い。とはいえ、「うちは中小企業だし将来性は・・・」「仕事内容はきついから・・・」などと思われる方もいらっしゃるだろう。ただそれであきらめるのは早計である。ここである企業の事例を紹介したい。

栃木県の真田ジャパン社は50名規模の中小企業である。産業廃棄物処理・一般廃棄物処理(いわゆるごみ処理)等の一般的には人気のない、いわゆる「3K(きつい、きたない、きけん)」の仕事を担う企業だ。しかし特に社員募集をしていないにも関わらず、働きたいという声が後を絶たないそうだ。採用のためにという取り組みではなかったようだが、社員満足度を上げるような取り組みを行った結果であるようだ。制服やごみ収集車のデザインを変えたり、従業員の家庭の問題等にも向き合ったりなど、従業員への様々な取組み、姿勢が一般市民にまでも伝わり、口コミで企業としての魅力がひろまった結果、このような人気になったようだ。会社の規模や業種、賃金がすべてではないということを体現している企業といえるだろう。

まとめ

様々な観点から、取り組み事例や構図を紹介してきた。採用に苦戦している理由は各社各様であり、内容によっては、採用担当だけ、人事だけで対応する話ではないかもしれない。現場、経営まで含めた取り組みが必要になる場合もあるだろう。採用難の時代だからこそ、本質的な対応が求められているのではないか。

難しいことは必要ない。背伸びをする必要もない。ただ従来のやり方、他社事例、慣習等に囚われすぎず、企業として目指す方向に向けた本質的な対応を志向し、目指す方向に向かい考えアクションしていただくきっかけになると幸いである。

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