書籍「日本的ジョブ型雇用」
著/日本経済新聞出版
この『「日本的ジョブ型雇用」転換への道プロジェクト』が発足した2020年は、連日のように新聞・雑誌・Webの記事に「ジョブ型雇用」「職務等級」「職務記述書」などの言葉が躍るようになり、ジョブ型は一気にブームの様相を呈していた。
しかし、日本で語られる「ジョブ型」の姿は、論者の背景知識の有無、人材ビジネスへの誘因、論理的飛躍などによって、ほとんど一致を見ることなく極めてばらつきが大きく、誤解や誤認も多く見られた。そうした現状を見かねた人事管理の研究者やコンサルタントなどの有識者などからは、より学術的・歴史的に正しい知識を提供し、流行の熱に冷静さをとりもどそうとしているものも多く見られた。
本プロジェクトの一つの重要な役割は、そうした散らかった議論のテーブルを片付け、もう一度その原点に立ち戻って「本質的な議論の場」を設定することにあった。そのために、雇用や労使、労働法関連、あるいは企業人事や人材マネジメント、人材教育の各分野における第一人者の方々との意見交換や、実際にジョブ型人材マネジメントを導入している企業からの実践知、あるいは定量的な調査データによる考察を通じて、プロジェクトを進めていった。
ここで取り上げてきた主題は、日本型雇用の限界に触れ、企業と個人との関係性が変わる大きな地殻変動の真っ只中にある企業変革のストーリーでもある。日本の企業経営を過去にさかのぼってみると、敗戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による米国のマネジメント手法に倣いつつ、「和魂洋才」という言葉があるように、日本の環境に適応させたメンバーシップ型という独自のマネジメントスタイルを自律的に築きあげてきた経験がある。
「Japan as No.1」といわれるまでに至った日本企業を推進してきたのは、数々の偉大な経営者であるとともに、企業を支える組織や人材を高度に機能させてきた人事部である。メンバーシップ型という日本独自のマネジメントを確立して、世界に冠たる企業をつくり出したエリート集団としての人事部は、自他ともに認める重要な存在であったことは紛れもない事実であろう。
この様な歴史的経緯を背景に、ジョブ型への転換が必然となる企業における現実解とは、決して欧米型のインストールではなく、日本型で培われてきた他国には真似ができない独自の叡智を最大限に活かしながら、ジョブ型のエッセンスを巧みに取り入れて自社に根付かせていくことに尽きるであろう。
これは難しい舵取りにも見えるが、これまでの歴史的経験則からいえば決して困難なことではない。明治時代の文明開花以降、「和魂洋才」は戦後も、高度成長期も、バブル崩壊後も、IoTやDXの時代に至っても通奏低音のように根付いており、むしろ日本が得意としてきたことでもある。
今こそ、日本企業の人事部が自ら変革の機会をつくり出し、その機会によって自らを変える好機にあることを自覚し、世界に誇る新しい日本型雇用、日本型人材マネジメントの構築に挑んでいくことを願ってやまない。
本プロジェクトで得られた示唆は、本サイトに掲載された各議論を通じてご理解いただくことを意図するものであるが、具体的な核心部分までを伝えきれていないことは否めない。日経BP日本経済新聞出版より出版されている書籍、「日本的ジョブ型雇用」を手にとっていただくことで、より一層のご理解が得られるものと期待したい。
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