優秀人材の採用・育成に重要な人材の『将来価値』は測ることができるのか?

公開日 2020/04/16

「優秀な人材が欲しい」というのは、今も昔も共通する企業の悩みだろう。人材の質は企業の競争力に直結する問題であり、優秀な人材をいかに採用・育成していくかに多くの企業は心血を注いできた。しかしながら、この「優秀な人材」の意味合いが近年少しずつ変化してきているようだ。経営環境の変化が激しい現代では、過去実績のある人や現時点でハイパフォーマーである人が5年後10年後にも活躍し続ける人材とは限らないためである。そこで、注目されるのが人材の『将来価値』だが、果たして『将来価値』は測ることができるのだろうか。

そこで、本コラムでは、データを起点とした科学的なアプローチで人・組織の課題を紐解く「ピープルアナリティクス」を専門とするパーソル総合研究所のコンサルタントが、さまざまな企業事例を紹介しながら人材の『将来価値』の測り方について解説していく。

  1. 人材アセスメントで知りたいのは『現在価値』ではなく『将来価値』
  2. 人材の『将来価値』を測るひとつのヒントは「潜在的資質の把握」
  3. 潜在的資質の把握に加え、重要なのは「成果のモニタリング」

人材アセスメントで知りたいのは『現在価値』ではなく『将来価値』

我々に寄せられる相談事のひとつに「人材のアセスメント」があるが、少し前までは社内のハイパフォーマーをベンチマークし、彼らに続く人材をどう育成していくかが主眼であった。ところが最近では、社内にはベンチマークすべき人材がいないと言われるケースが増えている。変化の激しいこの時代にあって、人事や経営は「現在の市場環境や既存のビジネスモデルにおける成功パターンを分析してももはや意味がない」と考えているのだ。

これからは、変わり続けることができない企業は淘汰される。それゆえにどの企業も『変革・挑戦』を掲げ、社員一人ひとりが変革の担い手となることを求めるようになっている。だが、そういった人材をどのように見出し、引き上げていったらよいのかが明確でなく、ここに大きなギャップがある。多くの企業で導入されている人事評価は「今の役割・仕事をどれだけうまく遂行できたか」を測っている。また、社内の他の人材との相対比較で評価が決まる場合がほとんどだろう。

しかし、それで分かるのはその人材の『現在価値』にすぎない。経営が一番欲しいのは自社の未来をけん引する人材であり、5年後10年後にわたって活躍し続ける『将来価値』の高い人材なのである。『将来価値』は過去の実績や社内のハイパフォーマーとの比較だけでは測れない。そうなると、比較対象をおのずと外部に求めることになる。実際、世の中のビジネスリーダーやイノベーターと呼ばれる人たちの行動特性・思考傾向を参考に、選抜基準を設定する企業も出てきている。

また、10年後の事業の姿から未来起点で人材ポートフォリオを構築したいといった相談も増えている。つまり、社内・過去基準ではなく社外・未来基準のものさしで人材をアセスメントしたいという要望にシフトしているのだ。それが「社内の人材はベンチマークにならない」という人事の言葉に表れているのではないだろうか。

人材の『将来価値』を測るひとつのヒントは「潜在的資質の把握」

では、どうすれば人材の『将来価値』を測ることができるのか。氷山モデル(下図参照)を例にすると、通常の人事評価で測定されるのは「知識やスキル」「行動」、そしてその結果としてもたらされる「成果」が中心である。一方で、将来価値を決める上でより重要なのは、その人の「もともとの能力傾向(得意/不得意)」「志向や興味関心」「動機、価値観」といった潜在的な要素なのではないかと我々は考えている。

図.人材アセスメントの氷山モデル
図.人材アセスメントの氷山モデル_PC用 図.人材アセスメントの氷山モデル_SP用

潜在的資質と言ってしまうと元も子もないが、それらは住宅でいうと基礎部分に該当する。基礎部分の面積が小さければ大きな建物は建てられないし、基礎と建物の形状が合っていなければ非常に不安定になってしまう。つまり、氷山モデルの最下層部分の面積が大きく強固であれば、良質な経験や人材育成の投資によって能力やスキルはいくらでも積み上げていくことができる。

ある大手企業は、この基礎部分を「すべての行動の原動力」と定義し、評価の最重要項目と位置づけた。
同じだけの成果を出した社員がいたとして、それが自分軸に閉じた目的で達成されたものなのか、組織や顧客への真の価値を追求した結果なのか、その姿勢如何で最終的な評価が分かれることになる。そのためにこの企業では、これまでの上司による評価に加えて、多面評価やグループ研修、社外アセッサーによる面談を組み合わせ、多角的・客観的に社員を評価する仕組みを導入しようとしている。

また別の企業では、その人が本来持つ能力を最大限に生かすことを追求している。この企業では、ある職種でずっとローパフォーマーだった人材が異動した途端にいきいきと活躍するようになった事例に着目し、人には本来的に「向いている仕事」や「適合しやすい環境」があり、そのマッチングこそが能力開発のカギではないかと考えた。そこで、全社員に対して潜在的な能力傾向を測定するアセスメントを実施し、職種ごとにキーとなる能力項目と掛け合わせることで、各人の将来的な活躍可能性を算出するモデルを構築している。

この2社の事例に共通しているのは、人材の将来の可能性を見極めるべく、潜在的な動機や能力資質に注目している点だ。

潜在的資質の把握に加え、重要なのは「成果のモニタリング」

ここで注意したいのは、だからといって現在の成果を見なくていいということでは決してないということだ。人材の『将来価値』とは、将来のある時点で突然才能が花開くことを意図しているものではない(なかにはそういう場合もあり得るが)。

重要なのは、現在を起点に「将来にわたって」活躍し続けることであり、連続的な時間軸で見ていく必要がある。潜在的資質を測定する最大の目的は、現時点の成果がラッキーの重なりでもたらされた「一時的な結果」なのか、その人物の本来持つ力が発揮された「再現性ある結果」なのかを見極めることにある。潜在的資質は成果の創出に大きく影響すると考えられるため、個々人の持つ特徴を正しく理解し伸ばしていくことが肝心だ。 逆に言うと、潜在的資質が高くとも本人がそれを磨き高める努力を怠ったり、そもそも今の職場で能力開発の機会が与えられなかったりすれば、成果を出し続けることは難しいだろう。

これからの時代の「優秀な人材」を育成していく上で、「潜在的資質の把握」と「成果のモニタリング」による『将来価値』の予測は重要な指針になるのではないか。

※本記事は、機関誌HITO 第14号『中間管理職の受難 ~人事よ、企業成長のキーパーソンを解き放て!~』からの転載です。

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