組織高年齢化時代の人材マネジメント<問題提起編>

大企業に進行する組織の高年齢化

日本は世界でも類を見ない超高齢化社会に突入している。この状態をもっとも顕著に示しているのが国別平均年齢の値である。2017年時点での日本の平均年齢は約47歳。これは、WHO183ヵ国において第1位の値である。これに伴って、労働力人口の高年齢化も進行している。1000名以上の大企業に目を向けると、バブル期大量採用世代の年齢が高くなったこともあり、年齢階層別に見ると40代後半~50歳までに多くが偏在した状態となっており(図1)、今後もさらに高年齢化が進行していくことが想定されている。

(図1)大企業に進行する組織の高年齢化

図1.png
出所 : 総務省「就業構造基本調査」 2017は予測値

また生産性本部のレポートによると、今後の労働力人口の高年齢化の特徴として、第三次産業の進展や高学歴化の影響で、ホワイトカラー(「管理的職業従事者」「専門的・技術的職業従事者」「事務従事者」「販売従事者」「サービス職業従事者」)の比率が高くなる点が指摘されており、労働力人口に占めるホワイトカラーの比率は、2005年の約5割強から、10年後の2015年には約7割まで上昇している。さらに、ホワイトカラーに限定した高年齢化の状況をみると、企業の約9割が中高年偏在型となっている(図2)。

(図2)ホワイトカラーの年齢別人員構成イメージ

図2.png

出所 : 2016 経団連 ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み

高年齢化が引き起こす問題とは

組織の高年齢化は様々な問題を企業に引き起こす。ここでは4つの問題にフォーカスしたい。

A.世代継承性の低下
中高年に偏在した要員構成を 取り、総人員を一定とする政策を取った場合、中堅、若手世代がどうしても薄くなる。ベテラン世代が活躍できるうちは良いが、ベテラン世代が抜けてしまうと、事業を支える次世代の人材がいなくなってしまう。これが世代継承性低下の問題である。

人材を採用しても自社の文化、価値観を共有し、戦力として価値を発揮するまでには時間がかかる。このため、計画的な採用と育成・配置を行っていくことが何よりも重要となる。一方で中高年に偏在した組織では厳選採用した若手が育ちづらく、離職しやすくなることが指摘されている。若手にとってモデルになる社員がおらず、悩みを共有できる年齢の近い社員が周りを見渡してもいないからである。よって、中高年に要員構成が偏在する組織では、細々と採用をしても遅々として改善は進まないのである。

B.労働生産性の低下
平均年齢が高い組織においては、労働生産性が低下する傾向を示していることが少なくない。これは、平均年齢の上昇とともに人件費単価が上昇することに原因がある。もちろん、人件費単価が上昇しても社員のパフォーマンスが向上していれば問題はない。だが、イノベーションを起こせず、既存のビジネスを維持し続けるだけでは労働生産性は低下していく。筆者が有価証券報告書の情報に基づき分析をすると、平均年齢が右肩上がりとなっている企業は、労働生産性が右下下がりとなっているケースをよく目の当たりにする。

多くの企業は利益率の向上を経営課題に掲げているだろう。このことから、高年齢化に伴う労働生産性の低下は人事の枠組みを超え、経営課題そのものともいえるだろう。

C.ミスマッチ社員の増加
組織が高年齢化すると、賃金と役割のバランスが取れていない(=ミスマッチ状態にある)社員が増加する可能性が高くなる。また、マクロ視点で見た場合、ミスマッチ状態に陥っている可能性が高いのは管理職クラスの社員である。

賃金構造基本統計調査で見る限り、非管理職の人数はこの20年間減少傾向にある。一方で、課長以上の管理職クラスの人数は60万人前後であまり変わっていない(図3)。スパンオブコントロール (管理職一人あたりの統制範囲の原則)の観点で見た場合、非管理職の人数が減れば管理職クラスの人数も減るものである。それでも人数が変わっていないのは、管理職が余剰し、部下なし状態になっている課長、部長クラスの増加の可能性を意味する。それはすなわち、支払われている給与に比した職責が与えられていないことを意味するのである。実際に生産性本部の調査では、賃金と役割の不一致状態を起こしているとする社員が50代に存在するという企業が約4割あり、そういった社員が約2,3割程度社内に存在しているとの回答が上がっている。

(図3)大企業における階層別労働者数

図3.png

D.中高年社員のパフォーマンスの低下
本来、スキルの高い中高年社員は相対してパフォーマンスが高いはずである。一方で、社内の昇進昇格を重視する社員においては、昇格や賃金上昇が頭打ちとなるとモチベーションが低下する(キャリア・プラトーの問題)ことがかねてから指摘されている。実際に、社員満足度調査を行ってみても40代、50代の一定職位までにとどまっている社員においては、仕事に対する満足度が低い傾向を示す状況をよく目の当たりにする。

パフォーマンスは、簡単に公式で示すと「スキル×モチベーション=パフォーマンス」となるが、これはモチベーションが低下すると、スキルが高くてもパフォーマンスは上がらないことを意味する。実際に、モチベーションが低下した50代社員は、難しい仕事を先送りにしてやらないようになる、新たな挑戦を行わないようになることで生産性が低下することが厚生労働省の報告書でも示されている。ライン作業に従事する社員であれば、タクトタイム(工程作業)についていけさえすればモチベーションの低下は、生産性の低下にすぐには結び付かない。だが、ホワイトカラーの場合は、モチベーションの低下がパフォーマンスの低下にすぐ繋るのである。

ここまで、組織の高年齢化の現状とその問題について考察してきた。次章からは、組織の高年齢化に対する対策について具体例を交えて考えていきたい。

執筆者紹介

石橋 誉

コンサルティング事業本部 HAコンサルティング部

石橋 誉

Homare Ishibashi

国際会計事務所系コンサルティングファーム(PwC、デロイト)、シンクタンク系コンサルティングファーム(株式会社NTTデータ経営研究所)、リクルートグループを経て現在に至る。25年のキャリアにおいて、IT・業務改革コンサルティング、事業戦略コンサルティング、組織・人事コンサルティングの異分野のコンサルティングプロジェクト経験を持つ。2010年よりリクルートグループの人事サービス会社でミドル・シニア領域の新規事業立ち上げメンバーとして参画。企業の組織高年齢化、雇用延長に伴う人事課題解決に向けたプロジェクトを担当。2017年4月より株式会社パーソル総合研究所に参画。

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