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レポート

2019.04.10

HRリーダーズフォーラム 第10講
「労働関係法令〜『守り』と『攻め』に使える労働法知識」

労務管理 戦略人事

パーソル総合研究所は、「企業経営における戦略パートナーとしての人事」を実現するにあたってキーパーソンとなる次期リーダーの育成を本格的に支援するための学びの場として、「HRリーダーズフォーラム」を開講しました。10テーマにおよぶ人事領域の理論やプラクティスを学ぶ講義と、自社・自組織の課題への打ち手を考察するワークショップ、著名な人事変革リーダーの実体験を聴講する「人事変革ストーリー」など、さまざまな角度から人事パーソンとしての専門性とリーダーシップを高める全15回のプログラムを2019年3月まで開催していきます。


労働関係法令とは

第10講は、人事が扱う労働関係法令を、大手企業の顧問弁護士を務める第一芙蓉法律事務所弁護士の浅井隆先生から学びました。浅井先生は、慶應義塾大学院法務研究科(法科大学院)でも教壇に立たれていらっしゃいますので、実務で法律からみの業務に携わったことがない受講生にも分かりやすく説明をしてくださいました。

第10講「労働関係法令」登壇する第一芙蓉法律事務所弁護士浅井隆氏

労働関係法令とは、「労働基準法」「労働契約法」などを始めとする法律と、それに伴う政令や通達の総称。細かい通達まで把握しようとしたら大変な量になるのですが、人事パーソンにとって重要となるのは以下の3つです。

  1. 労働基準法
  2. 労働契約法
  3. 労働組合法

その中でも特に重要なのは1と2。法令遵守(コンプライアンス)の観点では、絶対に外してはいけないいわゆる「守り」の部分に該当します。法律というと、なんだか取っつきにくいイメージをお持ちの方も多いと感じますが、先生曰く、「労働基準法と労働契約法は、両方合わせても数十ページ程度。大した量ではないので、それさえ押さえておけば大丈夫!」とのこと。

労働関係法令において、「守り」と「攻め」はサッカーのフォーメーションのような相対的なバランスの話ではありません。守るべきポイントは明確に決まっており、それ以外(法令の規制の射程外)の範囲では、「攻め」の観点で創造力を働かせて自企業の従業員を活かすような人事制度を作ることができるそうです。

雇用契約や就業規則の内容は、もしかしたら受講生の皆さんが自社に入社した時から、誰も何も手を入れていないかもしれませんが、浅井先生はそのような状況を「とても勿体ない」とおっしゃいます。労働関係法令の全体感を理解することで、法令を単に遵守するだけでなく、より良い制度を設計していける人事にもなれるのですね。

第10講「労働関係法令」セッションの様子

労働関係の四重構造

労働関係法令の全体感を理解するために最も需要なのは、労働関係の四重構造(図1)を理解すること。

労働関係法の4重構造図1:労働関係の四重構造

四重構造の一番下に位置する「個別の労働契約」は、従業員が入社する際に一人一人と結ぶ契約ですね。労働契約は、個別の契約ではありますが、集団的に概ね画一であり長期にわたって続くもの。同じ仕事をするAさんとBさんの待遇に差があれば公平性が損なわれてしまうため、労働条件を統一的・公正に定めるルールとして、一つ上の階層に「就業規則」が存在するわけです。

ちなみに、日本では雇用契約だけでなく「私法」(私人間の関係を規律する法)と呼ばれる分野で「契約自由の原則」というものがあり、契約を取り交わす二者間で合意があればその合意内容に双方が拘束されます。「この条件だったら契約を結びたくないな」と思うなら、結ばなくてもいいのです。労働契約も「契約」の一つなので、労働契約を締結した、ということに「お互い合意しているよね」ということになります。ただ、労働環境の変化に応じて、条件を変更してほしいと思うこともあるでしょう。

しかし大きな企業の場合は現実的に、個々の従業員が雇用主に対して個別に交渉していくことは難しいですから、「労働者が団結して組合を結成し企業と交渉する」という動きが生まれます。これが、「労働協約」の階層。「労働協約」は従業員みんなで力を合わせて勝ち取った合意ですから、個別の労働契約よりも上位に位置するのです。

頂点に鎮座する「労働基準法等の法令」は、企業と個人に「双方の合意があれば自由に契約して良し」だけでは、強者(使用者)と弱者(労働者)の関係が契約自由の名の下にかえって「不自由」が生じてしまう可能性があるため、不公平な契約条件が発生しやすい部分に限って、国(法律)が介入(強制的規律)をしています。

企業が画一的に対応しなければならないのは、「労働基準法等の法令」の範囲のみで、それ以外の部分については、企業や業界毎の特性を鑑みて各企業の創造性を働かせることができるのです。この図で見ても分かる通り、創造性が効かせられる範囲はかなり大きいんですね。

第10講「労働関係法令」登壇する第一芙蓉法律事務所弁護士浅井隆氏

労基法が監視しているのは「時間的な拘束」が中心

第10講「労働関係法令」セッションの様子

先ほどの労働関係法令の四重構造の頂点に位置していた「労働基準法等の法令」ですが、その中身を紐解くと、規制しているのは従業員の労働時間(労働義務の量的面)にまつわるものがほとんど。では、なぜ国(法律)の介入(強制的規律)は、労働時間を重点的にケアしようとしているのでしょうか?その理由は、労働基準法等の法令が制定された歴史的な背景にありました。

イギリスから始まる産業革命時代に、「企業がたくさんの従業員を雇用する」という動きが一般的になりました。当時は「労働時間は長ければ長いほど生産性が上がる」と考えられていたため、企業と個人の自由契約を放置していると、やがて、長時間労働で健康を害する人々が溢れてしまったそうです。健康は、一度害してしまうとなかなか元に戻るまで時間がかかるため、社会不安につながっていったのだとか。国としても、治療には多大なコストがかかってしまうため、従業員の健康を守るために国が労働契約に強制的介入をすることになったのです。以来200年以上に渡り、国は「労働量の監視」を続けているのですね。

現在の法定は、1日8時間・週40時間労働が基準となっています。浅井先生は「この労働量的な規制さえしっかりと守っておけば、賃金制度の設計や休職や任意の休暇の制度設計は、企業ごとに自由で良い」とおっしゃいます。

最近は、IT系企業を中心に、枠にとらわれないユニークな人事制度が増えてきています。人事制度が「従業員の働きやすさ」を作り、採用力をあげ、企業価値を高める可能性も大いにあります。一度設計した労働条件をコロコロ変更するのは問題ですが、就業規則や雇用契約の中に、「自社らしさを活かしたルール」を作ることができるのだとか。講義の最後は、「皆様も、自社の強みを強化するための創造性が活かせる領域がないかどうか、自社の就業規則や雇用契約の内容をチェックされてみると良いと思います。」というメッセージで締めくくられました。

第10講「労働関係法令」登壇する第一芙蓉法律事務所弁護士浅井隆氏

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